前回記事で取り上げた新潟県赤倉温泉「滝の湯」を出た私は、もう一軒お風呂をハシゴしたくなったので、温泉街をうろうろと歩いていたところ、「源泉かけ流し露天風呂 ご入浴できます」と書かれた看板を見つけたので、その看板を出している「赤倉ホテル」を訪ねることにしました。行き当たりばったりで訪ねるお風呂では、果たしてどんなお湯に出逢えるのでしょうか。
「赤倉ホテル」は温泉街の中でも有数の規模を誇る老舗ホテルであり、また午前中の早い時間帯から日帰り入浴を受け入れてくれる貴重な施設でもあります。
立派な玄関でスリッパに履き替え、フロントで日帰り入浴したい旨を伝えて料金を支払いますと、フロントの方は領収書を切ってくれました。これが入館証の代わりになるんだとか。
館内には3つの大きな浴室の他、宿泊者専用の家族風呂(2室)や期間限定の混浴露天風呂「風雪の湯」があるのですが、日帰り入浴の場合は3つの大きな浴室を利用することになります。3つもあるとどこから入るか迷ってしまいますが、まずはフロントの方が奨めてくださった「有縁の湯」へ向かうことにしました。
骨董品や美術品などが陳列された広い廊下を進み、緩やかな階段を上がってゆくと、やがて別棟へと導かれます。
この別棟には期間限定の露天風呂や宿泊客専用の家族風呂などがあるのですが・・・
日帰り入浴客の私が利用できるのは「有縁の湯」。まるで舞台を思わせる立派な構えに驚き、きっと素晴らしいお風呂なんだろうなという期待を抱くと同時に、或る予感も頭をよぎりました。その予感とは後程・・・。
広く綺麗で快適に使える脱衣室を抜けた先が、とても大きくて明るく開放的な「有縁の湯」大浴場。非日常的な空間で寛ぎを得ることこそ温泉旅館の醍醐味ですから、なるほどフロントの方が奨めてくださったのも理解できます。
男湯の場合、右手壁側にシャワー10基が1列に並んでいます。そして窓側にはとても大きな主浴槽が据えられ、お湯が湛えられています。主浴槽の湯口は横幅の広い滝のような形状をしており、室内に音を轟かせながら絶え間なくお湯を落としていました。この他、浴場内にはサウナやジャグジー槽(おそらく真湯)なども設けられています。
脱衣室の脇には露天風呂(岩風呂)もあり、こちらも大きく、ゆったり寛げる造りになっています。雪対策なのか完全に屋根掛けされているため頭上の開放感に乏しく、また周囲は他の宿の建物であるため、景色も正直なところ風情や眺望性に欠けます。でも妙高の爽やかな風が流れてきますので、お湯で火照った体をクールダウンしながら快適に湯浴みすることができるでしょう。
さて脱衣室に掲示されていた「有縁の湯」の湯使いに関する表示です。これによれば「源泉循環式掛け流し」とのこと。ん? 循環しながら掛け流しとはこれ如何に? その下には、加水・加熱は一切行っていないが、清潔を保つため濾過しているとの説明がありますから、不純物を除去するため循環濾過装置を使いつつ、手を加えていない新鮮源泉も投入していますよ、ということなのでしょうか。当記事の中盤(浴場へ入る時点)で私は「或る予感」を覚えたと申し上げましたが、それはお風呂の温泉を循環させているのではないか、という懸念でした。そしてその不安は的中していました。理由は様々ですが、大きな浴場ではお湯を循環させていることが多いので、立派な構えを目にした瞬間、経験則に基づき私はそのような予感を覚えたのでした。実際にこちらのお風呂へ入ってみますと、内湯・露天ともに湯加減は実に良い塩梅で入りやすいのですが、前回記事の「滝の湯」に比べると湯の花が少なく、お湯の特徴も全体的に薄くなっていて、赤倉温泉のお湯が持つ個性が弱まっているように感じられました。私のようなマニアは湯の花が多かったり、匂いや味に癖があったり、湯加減の調整が難しかったりする温泉にこそ魅力を感じるのですが、一般的には湯の花など体にまとわりついてくる物がなく、匂いや味や色なども少ない(弱い)タイプのお湯の方が好まれるのでしょう。しかも広く明るくて綺麗なのですから、一般的なお客さんにはまさに相応しいお風呂なのです。
でも私はちょっと変わった(偏屈な)客・・・。たしかに良いお風呂だと思うのですが、お湯に関しては物足りなさを感じてしまいます。そこで、私は早々にこの「有縁の湯」を出て、別の浴室へ向かうことにしました。
次回記事へつづく・・・
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