温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

温泉関連書籍 おすすめの2冊

2023年09月13日 | その他
久しぶりに温泉に関連する書籍を取り上げます。

温泉に関する情報をネットから入手することが主流になって久しいものですが、とはいえ今でも書籍は重要な情報源です。
玉石混淆のネット情報と違い、情報が整理されている、わかりやすくまとめられて編集されている、そして編集者など複数の人の目がフィルターになっている、など多くのメリットがあり、そして何より著者の思いが文面から伝わってくるので、その思いにつられて記事で紹介されている場所へ行ってみたくなるのが大きな魅力です。
今回は直近1年の間に刊行された温泉関連書籍の中から、私が特にレコメンドしたい2冊を取り上げます。


温泉百名山
 著:飯出敏夫
 2022年10月
 集英社インターナショナル



刊行から1年が経とうとするタイミングで紹介するのはちょっと遅いように思いますが、でも秋の登山シーズンを控えた今だからこそあえてご紹介させていただきます。
登山を趣味とする方の中には日本百名山の制覇を目指す方も多いかと思いますが、根っからのへそ曲がりである私は、登る山を決める際に敢えて日本百名山を避けたくなってしまいます。天邪鬼な性格もさることながら、深田久弥の『日本百名山』も読まず妄信的に百名山を有難がって目指す世間の風潮に納得がいかないのです。山の好みは人それぞれなのですから、登山家一人一人に自分なりの名山があっても良いのではないかと私は常々考えているのですが、とはいえ、恥ずかしながらそこまで多くの山を登っているわけでもないので、多くの山の中から一定の基準を以て選り好むという崇高なこともできません。
そんな中で昨年10月に刊行された飯出敏夫さんの『温泉百名山』は、温泉と登山の両方を好む私にとって我が意を得たりと言わんばかりの著作であり、ページをめくる手が止まらなくなるほど大変興味深い内容でした。

日本の山と温泉は切っても切れない関係にある、と言いたいところですが、山があるからと言って決して温泉が湧いている訳ではなく、温泉の有無は火山活動や地質などいろんな条件によって左右されてしまいます。奥羽山脈や北アルプスのように温泉資源が豊富な山域もあれば、日高山脈や南アルプスのように、温泉資源が決して多くない山域もあるので、私のように「下山後は必ず温泉マニアとしても納得できる温泉に入りたい」と考えると、目指す山域に偏りが生まれ、結果的に日本百名山とは無関係な山行になるわけです。

そんな中、この『温泉百名山』は温泉と登山の達人である飯出敏夫さんが、「品格」「歴史」「個性」という深田久弥の百名山選定基準を援用しながら、麓や山腹に名湯が湧く名山を日本全国から100座選び、しかもご自身が選んだ100座全ての頂上をご自身で登って、その記録を一冊にまとめ上げたもの。しかも著者は悪性リンパ腫や膝関節症などの病に幾度も侵されながら、病気を乗り越えて自分の足で山の頂に立っているのですから、只々驚くしかありません。単に名山名湯を選定しているだけでなく、山と温泉を愛する飯出氏の生き様に感銘を受ける一冊です。仕事で疲れて週末ダラダラと過ごしてしまう私は、その精力的な動きに「すげぇ!」と尊崇の念を抱くと共に感銘を受けるばかりでした。

今回の著書では深田久弥『日本百名山』と同じく、一座一座の山や温泉についてそれほど文章量が多いわけではないのですが、簡にして要を得るというべきか、的確で無駄のない筆致なので、著者が実際に現地で感じたであろう景色や空気、そしてお湯の感触が如実に伝わってきます。また実際にその山を登ったことがある方なら、ご自身の山行や下山後に疲れを癒した温泉の気持ち良さを追体験できるでしょう。余計な表現が削ぎ落されているからこそ、想像を膨らませ、記憶を蘇らせることができるのかと思います。
このため、登山と温泉のガイド本として活用するのはもとより、新たな切り口による山選びの指南書として、あるいは紀行文や風土記のような読み物として捉えると、より面白みや有用性が感じられるのではないかと思います。日本には様々な百名山がありますが、この温泉百名山もアウトドアを趣味とする方々にとってのひとつのメルクマール的な存在として末永く在り続けていくことを、著者のファンの一人として願っています。

ちなみに現在、著者は早くも第二段として『続・温泉百名山』の選定に取り掛かっていらっしゃいます。この続編では登山初心者や高齢者でも登れるような山とその麓の温泉を中心に選定してゆく予定とのことで、具体的には今作であまり取り上げられなかった九州方面の山や、それほど高いとは言えないような箱根方面の山など、明らかに今作とは異なるターゲットを既に登っていらっしゃいます。詳しくはインスタをご覧ください。
https://www.instagram.com/oncolle_iiyu/


ほぼ本邦初紹介!世界の絶景温泉
 著:鈴木浩大
 2023年6月
 みらいパブリッシング



拙ブログで以前ご紹介した鈴木浩大さんの著書『湯けむり台湾紀行』(まどか出版、2007年・現在絶版)は、私が台湾の温泉に深くはまってゆく契機となった名著であり、「台湾にはマニア心をくすぐる蠱惑的な温泉がこんなにあるのか」と感心しながら、私が台湾を旅行する際には文字通りバイブル代わりとしてこの本を常に携行していました。数えきれないほど読み返してきたので、今ではページの隅がヨレヨレになり、製本がバラバラになってしまいそうな状態になっているほどです。

卓越した調査力と探査力、そして行動力を兼ね備えた旅の達人である鈴木さんが、今度は世界を舞台にして、これまたマニアックな温泉本を世に出してくださいました。その名も『ほぼ本邦初紹介!世界の絶景温泉』。「ほぼ」という副詞をタイトルに含める謙虚さに著者のジェントルな人柄が表れているような気もしますが、それはさておき、ビジュアルガイドシリーズというシリーズ名が示す通り、温泉マニアだったら間違いなく惹きつけられるグラビアが多く、著作の中で紹介されている温泉の全てに行きたくなって体が疼いてしまうこと必至。しかも「ほぼ本邦初紹介」の文言に偽りなく、著書の中で紹介されている温泉の多くは、日本語のウエブサイトではほとんど取り上げられていません。どうしてこんな温泉があるという情報を得たのだろうか・・・不思議で仕方ありません。私にとっては正に神の領域です。
著者が実際に入浴して紹介している温泉は、南北アメリカ、極東アジア、東南アジア、南アジア、中東、小アジア、欧州、アフリカというように新旧の大陸を股に掛けており、しかも単に取り上げるだけでなく、「析出物」「景観」「噴泉・気泡湯」「濁り湯」「変わり種」という温泉マニア視点で章立てされている点が読み物として面白いところ。分かる人にはわかる分類方法ですね。

私はたまに「海外にも温泉ってあるんですか」「日本こそ温泉大国ですよね」という質問を受けます。井の中の蛙大海を知らずと言ってしまうと語弊がありますが、日本のみならず、地球上の各地で星の数ほどの温泉がそこここで湧出しており、それぞれの地域にそれぞれの温泉文化が息づいています。日本の場合は毎日湯船に入る習慣が高度経済成長期以降に根付き、そこに古くからある温泉文化が混ざり、団体旅行ブームなども相俟って、温泉と庶民が非常に密接に結びつくようになったわけですが、文化や生活、そして観光や資本に組み込まれてしまった温泉が多い日本と比べ、海外の温泉はワイルドで手付かずのものが多くあり、それゆえ景観面でも泉質面でも良好な状態が保たれており、大地の恵みをダイレクトに受けられるという意味では、むしろ日本より海外の方が良い場合も多々あるように思っています。もちろん日本には素晴らしい温泉が余多あり、その中には大変ワイルドで到達困難な野湯などもあって、RPGをプレイするかのように野湯や地元民向け温泉浴場を訪ね歩く強者もいらっしゃるわけですが。でも海外旅行の醍醐味のひとつであるカルチャーギャップを体験したり、日本にない風土や景色に抱かれたりしながらワイルドな温泉を入浴するとその感動もひとしおであり、日本の温泉では決して味わえない強烈な想い出が残るのです。

拙ブログを以前からご覧くださっている方はお気づきかと思いますが、私もまさにそうした魅力を求めて海外の温泉へ出かけており、世界各地の温泉に魅了され続けてきました。そんな私にとって鈴木さんの新刊は目の前に応現した新たなバイブル。コロナ禍で海外旅行が一時的に難しくなり、その問題が去った後も円安という現実的問題が立ちはだかって、なかなか海外には行きにくい状況ですが、今回の著書を読んで、やっぱり海外に出かけなきゃ、という思いを新たにしたのでした。ということで、台湾に続いてこれからも私は鈴木さんが通った轍を追いかけてゆくのでしょう。

ちなみに鈴木さんはブログも執筆なさっています。
ぜひご覧になってください。
ブログ「世界の絶景温泉」


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コメント (4)
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