温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

舘山寺温泉 旅館ふじや(後編 お風呂)

2023年09月04日 | 静岡県
前回記事の続編です。


さてお腹を満たした後はお風呂に入りましょう。お宿には2つの浴室があり、右の浴室には紺の、左の浴室には紅の暖簾が掛けられているのですが、特に男女で分けているわけではなく、女将さん曰く空いていればどちらを使っても構わないとのことでしたので、両方入ってみることにしました。まずは右側のお風呂から。


お宿のお風呂とはいえ、家庭のそれと同じかやや大きい程度で、かなりコンパクトなつくりです。でもこのコンパクトさが実は重要なのかもしれない、と後で気づくのでした。どういう意味なのかは後述します。
なお(話が前後しますが)更衣室にはエアコンが設置されているので、夏の湯上がりのクールダウンも、冬のヒートショック対策も問題ないかと思います。


洗い場にはシャワー2つあるので、夫婦や家族での利用も大丈夫。


湯船は1人ならゆとりがあり、詰めれば2人も入れそうな大きさです。

特筆すべきは湯船に張られたお湯の色です。黄金色を帯びて底が見えないほど濁っており、しかも金気の匂いが漂っているのです。
前回記事で申し上げましたように、舘山寺温泉では各施設が同じ源泉を分け合って引いており、他の旅館や施設で入れるお湯は無色透明でほぼ無味無臭(もしくは薄く塩味)であることが多いのです。拙ブログで記事にする予定はありませんが、実際に私が当地で数カ所の他施設を利用しお風呂に入ったところ、一部を除いてどこも無色透明無味無臭のお湯でした。このため、事情を知らない人が舘山寺温泉に入ると、無色透明無味無臭の特徴が少ない温泉なのだな、と勘違いしてしまうでしょう。でも実際にはこんな色を帯びた濁り湯であり、しかも金気を含んで非常に塩辛いのです。


湯口には専用の水栓あり、開けると温泉を含む熱いお湯が出てきます。「温泉を含む」という回りくどい表現をしたのは理由があって、こちらのお宿では供給される熱くない源泉に熱い沸かし湯(白湯)を足すことで、循環消毒しない放流式の湯使いを実現させているのです。舘山寺温泉で放流式の湯使いを実践している施設は極めて珍しいのではないでしょうか(もしかしたらここだけ?)。

毎分66.6L/minしか湧出しない源泉を20軒近い各施設で分け合っているのですから、どうしても供給量が少なく、しかも湧出温度が30℃未満ですので加温する必要もあります。この源泉を放流式にして且つあまり薄めない状態で湯船へ注ぐため、湯船を小さくし、且つ加温した白湯を混ぜることで、湯加減とお湯のクオリティの両立を図っているものと推測します。つまりお風呂が小さいのは必然なのかもしれませんね。

私が湯船に入るとお湯が勢いよくザバーっと音を轟かせて溢れ出し、洗い場が洪水状態になってしまいました。なんと贅沢な湯あみでしょう。お湯は塩辛くて苦汁味があり、金気味もかなり強く、湯面からは金気臭と磯の香り、肥料臭、そしてほのかに焦げたような匂いが漂ってきます。もしかしたらアブラ臭も含まれていたかもしれません。私個人の感覚で匂いを表現しますと、津軽平野に湧出する化石海水性の温泉の匂いに金気を混ぜたよう感じ、といったところでしょうか。湯船のお湯は赤みを帯びた黄土色に濁り、その透明度は50〜60センチでしょうか。湯中では食塩的なツルスベの滑らか浴感と土類泉的な引っかかる感触が混在して肌に伝わってきます。塩辛いお湯ですのでパワフルに温まり、湯上がりには汗がなかなか止まりませんでした。

なお湯使いに関しては、ネット上の口コミに書かれている「源泉掛け流し」という表現を、こちらのお宿の女将が懸命に訂正しようとしており、その姿勢が実に誠実だと僭越ながら感心しました。たしかに源泉掛け流しではなく、貯め湯式と放流式の併用です。掛け流しと言えば、絶え間なく惜しみなく源泉のお湯が注がれ使い捨てられており、一旦貯めたり加温した白湯を足すことも無いわけですから、厳密に言えばこちらのお宿の湯使いを掛け流しと表現するのは無理があるのかもしれません。でも掛け流しについての明確な定義が定まっていない現状で、いくらなんでも…と閉口したくなるような湯使いをしている施設ですら「掛け流し」を標榜していることも多々ありますので、舘山寺温泉で最も源泉に近い状態のお湯に入れるこちらのお宿のお湯を掛け流しと評価したくなるお客さんの気持ちもよくわかります。


こちらは紅色の暖簾が下がっている左側のお風呂です。右側のお風呂とは窓の位置が違うだけで、あまり相違点はありません。敢えて相違点を挙げるならば、赤い暖簾が下がっているこちらの浴室の脱衣室が若干広いような気がします。


当然ながら湯口から出てくるお湯も同じ。


湯船もほぼ同じサイズだったかと思います。右側も左側も浴室には特に相違点が無いので、敢えて両方に入らなくても、どちらか片方に入れば十分でしょう。

なお、舘山寺温泉の日帰り入浴施設「華咲の湯」には循環かけ流し併用の露天風呂があって、そこでは黄土色を帯びたお湯に入ることができますが、貯め湯式とはいえ循環されていないかけ流しのお湯に入れるのは、おそらくこのお宿だけかと思います(他にあったらごめんなさい)。


余談ですが、宿泊中にちょっと気になったのがこの館内の避難経路図。2つあるお風呂は元々男性用と女性用で使い分けていたようですが、上述のように現在はそのような使い方をしていません。このためこの図では「男」「女」の文字を消しているのですが、なぜか「性」の字を残しているため「 性浴室」という表記になっており、捉えようによっては変な意味になってしまいそうで、思わず笑ってしまいました。決して吉原や堀之内のお風呂という意味ではありません。

なおこちらのお宿では立ち寄り入浴を受け入れていません。宿泊のみです。ネットで予約しようとすると2人利用からのプランが表示されますが、お宿に直接連絡すれば、1人客の場合でも割増料金で宿泊が可能です(実際に私もそのような料金で宿泊しました)。


ちなみに、これが舘山寺温泉の源泉施設。温泉街からちょっと離れた丘の上にあり、畑に囲まれた観光とは無縁の場所です。舘山寺温泉ではこれまで何度も源泉を掘っては枯れ掘っては枯れ、を繰り返してきたので、この源泉もいつまで維持できることやら。


舘山寺7号
ナトリウム・カルシウム-塩化物強塩温泉 29.0℃ pH7.8 66.6L/min(動力揚湯) 溶存物質22.62g/kg 成分総計22.65g/kg
Na+:5590mg(61.73mval%), Mg++:131.7mg, Ca++:2751mg(34.85mval%), Fe++:5.3mg,
Cl-:13920mg(99.78mval%), Br-:17.1mg, I-:0.6mg, HS-:0.3mg, HCO3-:38.7mg,
H2SiO3:20.9mg, HBO2:47.4mg,

静岡県浜松市西区舘山寺町2268
053-487-0204
ホームページ

宿泊のみ(日帰り入浴なし)

私の好み:★★★
コメント
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