前回取り上げた共同浴場「きくの湯」で至極上質なお湯を堪能した私は、同温泉で旅館のお風呂にも入ってみたくなり、温泉街の無料駐車場から近い場所に位置する「四浦屋旅館」を訪ねてみることにしました。玄関の正面に架かる橋を渡たる途中で、川沿いに建つ風格のある建物を左から右へ見渡すと、本館の下流側には湯屋が棟続きになっていました。これからあのお風呂へと向かうのですね。
帳場で入浴をお願いしますと快く受け入れてくださいました。しかも料金は200円。立派な旅館なのに、わずか100円玉2枚で入浴できちゃうんですよ。なんて素晴らしいことなんでしょう!
帳場から廊下を右に進んだ突き当りが浴室です。
浴室棟は2階層が吹き抜けのようになっており、2階部分に脱衣室が設けられていて、階下の浴室が見下ろせるようになっています。
脱衣室は年季が入っているものの、隅々までよく清掃されているためかなり快適。しかも余計な物が置かれていないので、圧迫感無く使用できました。ビニル床の真ん中に籠が並べられている棚が置かれています。
階段を下って浴室へ。室内には石材が多用されており、床には碁盤の目のような溝が彫られています。階段の横には長方形の浴槽がひとつ据えられており、足を伸ばして入ったら6~7人は同時入浴できそうなサイズです。また槽の3分の1ほどは脱衣室の直下に潜り込んでいます。
洗い場にはシャワー付き混合水栓が2基取り付けられていました。水栓から出てくるお湯はおそらく真湯かと思われます(源泉だったりして)。
浴槽に張られているお湯は無色澄明。ちょうど良い湯加減でした。槽内は側面がエメラルドグリーンの石タイル、底は鉄平石のような石板敷きです。浴槽縁に用いられている石材はとても滑りやすいので、この上を歩いたりしないほうが良いでしょう。
湯口からはしっかりとした湯量が投入されており、浴槽の奥からふんだんにオーバーフローしていました。館内表示によれば完全掛け流しの湯使い。以前は硫黄を含む温泉だったそうですが、現在では温泉に含まれる硫黄の量が減ってしまい、泉質名から硫黄の文字が抜けた「アルカリ性単純温泉」となっています。お湯を口にしてみますと、甘みとともにアルカリ性単純泉らしい微収斂が感じられました。匂いは特に無かったように記憶しています。共同浴場「きくの湯」のようなタマゴ感はありませんでしたが、お湯の鮮度感はとても良好で、入浴中はツルスベの気持ち良い浴感が楽しめ、湯上りもさっぱり爽快でした。
浴室の壁の高い位置に掲示されているプレートには泉質名として「アルカリ性単純硫黄泉」と記されていますが、上述のように現在はアルカリ性単純温泉です。源泉を掘り直したら現在のような泉質になったそうですが、かつての硫黄泉時代のお湯にも入ってみたかったものです。またこのプレートに書かれている温泉の適応症として列挙されている症状には昭和の面影が色濃く残っていました。たとえば梅毒・脊髄癆・気管支カタルなど、現在の適応症ではお目にかかれないようなワードがいくつか確認できますし、「慢性金属中毒症(水銀又は鉛中毒症)」が明記されている点は当地らしい特徴なのかもしれません。
湯上りに温泉街を軽く散歩。
当地には水俣市によって昨年「鶴の屋」というレストランとショップを兼ねた観光施設がオープンし、その周辺は趣きのある街並みに整えられていました。瓦屋根と漆喰風の壁によって落ち着いた和テイストの「鶴の屋」は、鉄道ファンにはおなじみの水戸岡鋭治氏がデザインを手がけたんだそうです。
湯出川が刻む狭い谷の両岸で、甍を争うように民家や旅館が軒を連ねている湯の鶴温泉。メインストリートは川沿いに一本あるだけですので、川には道路の対岸に建てられている旅館等へ渡るための橋がたくさん架けられています。橋も朱色に塗られたものや、中央部が太鼓橋状に膨らんでいるものなど、それぞれが意匠を凝らしており、橋を一つ一つ観察するもの一興です。
川沿いは旅館や民家がひしめき合っていますが、そこからちょっと谷を上がると長閑な棚田が斜面に広がっており、訪問日にはちょうど水が張られていました。清らかな温泉の湯上りに、伝統的な日本の山村らしい景色を眺めていたら、体も心もほこほこになりましたよ。
四浦屋本店源泉
アルカリ性単純温泉 55.0℃ pH8.73 90.8L/min(掘削動力揚湯・155m) 溶存物質792.8mg/kg 成分総計792.8mg/kg
Na+:234.8mg(97.79mval%),
Cl-:27.7mg(7.89mval%), HS-:1.1mg(0.30mval%), SO4--:269.7mg(56.88mval%), HCO3-:164.9mg(27.33mval%), CO3--:15.0mg(5.06mval%),
H2SiO3:60.7mg,
肥薩おれんじ鉄道・水俣駅より水俣市コミュニティバス「みなくるバス」の頭石・招川内行(おれんじバス)で「湯の鶴温泉センター前」バス停下車
熊本県水俣市湯出1434 地図
0966-68-0004
日帰り入浴時間問合せ 第2・4木曜定休
200円
ドライヤーあり、石鹸あり
私の好み:★★