「疑っている。目つきを見ればわかる。ばれてはいないが・・・ばれているのかも知れん。いや。おそらく知っている。知った上で黙って見ている」
私は苛々してダッシュボードを叩いた。「猫が鼠を弄ぶような真似は止せ、ポルフィーリィが! いつだって・・・今回だってそうだ。今回だって。出張の話をあいつにしたら『お一人ですか』と聞き返しやがる。『お一人ですか』『馬鹿野郎、当たり前だ。誰と行くんだ』って言い返したら、『いえ、大学の方と』って答えやがった。『お一人ですか』だぞ。『お一人ですか』なんて、そんなことを今まで口走ったことはないんだ。『大学の方』って何だ。狐が。ばれてしまっている。いや、安心しろ。お前のことは知らない。お前の存在はあいつも知らないはずだ。だが何かに勘付いている」
「ばれたら」
雪音は濡れたまつ毛を立てて海を見つめる。怒っているように見える。
「ばれたら、博史君が可哀想よ」
「お前の知ったことじゃない」
「どうしてそういうこと言うの」
「つまり、お前の家族じゃないからだ」
この一言は雪音をひどく傷つけたように見えた。彼女は唇を震わせながら、私の捲り上げた袖の上を掴んだ。
「そんな言い方ひどい」
(つづく)
私は苛々してダッシュボードを叩いた。「猫が鼠を弄ぶような真似は止せ、ポルフィーリィが! いつだって・・・今回だってそうだ。今回だって。出張の話をあいつにしたら『お一人ですか』と聞き返しやがる。『お一人ですか』『馬鹿野郎、当たり前だ。誰と行くんだ』って言い返したら、『いえ、大学の方と』って答えやがった。『お一人ですか』だぞ。『お一人ですか』なんて、そんなことを今まで口走ったことはないんだ。『大学の方』って何だ。狐が。ばれてしまっている。いや、安心しろ。お前のことは知らない。お前の存在はあいつも知らないはずだ。だが何かに勘付いている」
「ばれたら」
雪音は濡れたまつ毛を立てて海を見つめる。怒っているように見える。
「ばれたら、博史君が可哀想よ」
「お前の知ったことじゃない」
「どうしてそういうこと言うの」
「つまり、お前の家族じゃないからだ」
この一言は雪音をひどく傷つけたように見えた。彼女は唇を震わせながら、私の捲り上げた袖の上を掴んだ。
「そんな言い方ひどい」
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