「私だって聞き知ってましたよ。何も知らずにしゃべっているつもりはないんです。彼はまあ、そういうところは非道かった。奥さんもさぞご苦労なされたことでしょう。逆上したときの彼は別人のようだった。子供のようなですな、幼稚な嗜虐行為を平気で採った。すべて、自分の行動に対し無責任だからできるんです。非常に無責任極まりない行為です。なぜだと思われます。奥さん、なぜそんな無責任な真似ができたと思われます。ここが肝心なところです。驚きですが、まったく驚きですが、これも個人主義なんです。Individualism。個人主義。わかりますかな。個人主義者は、結局のところ自由に逃げ込むんです。他人に義務を押し付けない分、いざというときは自分の自由を拡大解釈し、他人に責任を感じずに行動を起こせるんですよ」
おい酔っ払ってるぞ、という声がどこからか小さく聞こえた。失笑も同時に漏れ聞こえた。だがそれらはみな、直後の「いい加減にしてください!」という悲鳴のような美咲の声で掻き消された。
室内は一瞬間、野ざらしのように雨音だけに包まれた。
(つづく)
おい酔っ払ってるぞ、という声がどこからか小さく聞こえた。失笑も同時に漏れ聞こえた。だがそれらはみな、直後の「いい加減にしてください!」という悲鳴のような美咲の声で掻き消された。
室内は一瞬間、野ざらしのように雨音だけに包まれた。
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