た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

無計画な死をめぐる冒険 61

2007年01月07日 | 連続物語
 「私だって聞き知ってましたよ。何も知らずにしゃべっているつもりはないんです。彼はまあ、そういうところは非道かった。奥さんもさぞご苦労なされたことでしょう。逆上したときの彼は別人のようだった。子供のようなですな、幼稚な嗜虐行為を平気で採った。すべて、自分の行動に対し無責任だからできるんです。非常に無責任極まりない行為です。なぜだと思われます。奥さん、なぜそんな無責任な真似ができたと思われます。ここが肝心なところです。驚きですが、まったく驚きですが、これも個人主義なんです。Individualism。個人主義。わかりますかな。個人主義者は、結局のところ自由に逃げ込むんです。他人に義務を押し付けない分、いざというときは自分の自由を拡大解釈し、他人に責任を感じずに行動を起こせるんですよ」
 おい酔っ払ってるぞ、という声がどこからか小さく聞こえた。失笑も同時に漏れ聞こえた。だがそれらはみな、直後の「いい加減にしてください!」という悲鳴のような美咲の声で掻き消された。
 室内は一瞬間、野ざらしのように雨音だけに包まれた。

(つづく)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 無計画な死をめぐる冒険 62 | トップ | 無計画な死をめぐる冒険 60 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

連続物語」カテゴリの最新記事