映画少年Yが、ゴダールの「映画史」のビデオを携え訪
ねてきた。
私に貸すためのものらしい。
映画は、全体で十何時間のもので、とても全部は見ら
れるものではないし全部見る自信もない。
持ってきたのはその2時間分くらいのもので、これだっ
たら大丈夫だ。
そこで話は、自然と各自の映画史についてということに
なった。
「出だしは娯楽映画オンリーだったね」(私)
「たとえばどういうのですか?」(Y)
「ブルースリーものとかかなり好きだったし、ロッキー
ですら映画館で見て恥ずかしながら感動したもの」(私)
「えっ、本当ですか」(Y)
「当時は、完全に一般映画ファンで、話題作といわれ
るものは一通り見た気がする」(私)
「そんな時代があったんですか?」(Y)
「あったんですね、これが。<燃えよドラゴン>なんて
三ヶ所で見たくらいだもの」(私)
「というと?」(Y)
「まず始めが試写室、この時はまだ公開する前で所謂
プロ相手の試写会で、確か淀川さんなんかもいた記憶
がある、どういうわけかもぐりこんで見たんだけどそ
の時の衝撃といったら、会う人会う人にその凄さを喧
伝しまくったよ。そして二度目がこれまた変なところ
だったんだよね」(私)
「どこですか?」(Y)
「フィリピン」(私)
「フィリピン?」(Y)
「しかもミンダナオ島のカガヤンというところ」(私)
「カガヤン?」(Y)
「正式にはカガヤンデオロか、兎に角当時ミンダナオ
島に行く日本人なんかいないときだから、かなりレアー
なケースだと思うよ、そこで<燃えよドラゴン>を観
賞、今でもたまに、あれは本当だったのかと思うくら
い」(私)
「幻なんじゃないですか?」(Y)
「そうかもね、そして三度目が田舎で、つまり当地で
ということだね」(私)
「なんでまた」(Y)
「帰省したときにやっていて、家族で見に行ったんだ
よね、盛んに面白いからと勧めたのは私だけど」(私)
「よほど好きだったんですね」(Y)
「余程好きだったんだよね」(私)
「そうそう、面白いところでこんなものを見たという
のは、もう一つあるよ」(私)
「えっ、なんですか?」(Y)
「スターウォーズ」(私)
「それをどこで?」(Y)
「ちょっと考えられないようなところだよ」(私)
「なに勿体つけてるんですか」(Y)
「勿体付けたくなるようなところなんだよね、これが」
(私)
「だから、どこですか?」(Y)
「パリで」(私)
「パリ?」(Y)
「勿体付けたくなるだろう?」(私)
「確かに、しかしパリでスターウォーズなんて見ます
かね普通」(Y)
「まあ普通は見ないでしょ、観光客は」(私)
「観光客じゃあなかったんですか?」(Y)
「観光客は観光客なんだけど、長期滞在一人旅という
やつだったから、時間が兎に角いっぱいあるのよ」(私)
「美術館とか色々あるでしょ」(Y)
「確かに見所は一杯あるけど、2週間もすれば一通り
済んじゃって、さてどこかないかなという状態になる
よ、なんせ一ヶ月の滞在だから」(私)
「それで、映画で暇つぶしということですか」(Y)
「まあそういうこと」(私)
つづく