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紅蓮(ぐれん)のポケット

子どもの本の作家・三輪裕子のふつうの毎日
2015年夏。三宅島で農業を始め、東京と行ったり、来たりの生活になる

「信念 一万日連続登山への挑戦」 吉田智彦・著 (山と渓谷社刊)

2012-04-14 14:15:24 | 13・本・映画・演劇・音楽など
すごいなあというのが、本を読んだ最初の感想。
1万日連続登山を目指した東浦奈良男も、それを追って、本に書こうと思った吉田智彦も。

この本は、ともさんと呼んでいる、友人のライター「吉田智彦」が、東浦奈良男の足跡を追った本である。
在職中も山登りを続けていた東浦奈良男は、定年退職を迎えてから、本格的に1万日連続登山を目指す。
9738日まで続けたところで、極度の衰弱により断念。半年後に、86才で他界した。

1万日というと、27年以上の歳月だ。

それを目標に、毎日自宅近くの山で鍛錬し、富士山には、368回登った。
彼の人生は、ほとんど山を登るだけで終わったといってもいい。

私は山登りが20代の頃からずっと好きだったので、行きたい時に、登りたい山に登れる健康の維持が、今現在の最大の課題だ。それすらも、5年前に病気をしてから、あやうくなっている。
一番好きな登山だけど(スキーでの登山も含めて)、月に1回か2回登りたいなあと強く思う時があるくらいだ。

ところが、行きたいと思ったか思わなかったかはわからないが、信念を持って登り続ける。
二十数年にわたって、毎日。
そこにはどれほどの強い意志力があるのかと想像するだけでも、驚いてしまう。
体調が悪い日もあるだろうし、たまには、ゆっくり朝寝して、日がな1日のんびり過ごして、読書などで時間を費やしたいことだってあるだろう。

でも、そういう欲望はうち捨てて、毎日登る。登り続けると決めたから。
それも質素な、失礼だけど粗末だといっていい服装と装備で。

しかし、連続登山によって、自分の存在価値を、家族が、世の中の人が認めてくれる。

実際に、東浦さんは、1997年には「オペル冒険大賞チャレンジ賞」という賞を受賞する。
けれど、それだけのことで、人はそんな大変なことを毎日続けることはできるとは思えない。
なぜ、こんな大変なことを続けるのか。それをつきとめるために、ともさんは東浦奈良男によりそい、日々の記録として残している四十数冊の登山日記と向き合う。
そして、この本を書いた。

最後の文章に、ともさんの東浦さんへの優しいまなざしが凝縮されているような気がする。

「今ごろは、お父さんとお母さん、そして初めて会う兄姉に、抱えきれないほどの土産話を聞かせていることだろう。
長い長い、男の勝手と優しさに満ちた壮大な叙情詩を。」

東浦さんは、こんな風に書いてもらえて、幸せな人だ。