どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム13 『萩の儀礼』

2013-01-18 15:16:06 | ポエム

                
      白ハギ

 

 

萩が咲いたと祖母が言った
野良の帰り道に気づいたのだという
お寺の山裾にわんさと咲いとったぞ
祖父を亡くして話しかける人がいないから
縁側でケン玉をしていたぼくに声をかけたのだろうか
明日はジイさんにお萩でも作ってやろうかのう
お前も好きじゃったろう
だけど祖母はいつでも死んだ祖父のことが第一なんだ


畑の隅に季節ごとの花を咲かせるのが祖母の自慢だ
春には牡丹が大輪を並べ道行く人を振り返らせる
早春の水仙やサフランも嫌いではないようだが
春秋の彼岸と盆に備える花の頃が生き生きとして見える
ジイさんは今年の花に何点付けてくれるかのう
海軍の帽子をかぶった若い頃の写真にぞっこんなのだ
寝る時も暗い長押に視線を向けて
きっとニンマリしているに違いない


ほれ牡丹餅ができたぞ
餡子をたっぷりまぶした大物が皿に盛られている
さっきクリームパン食ったから後にする
ゲーム機をいじりながら返事をすると
祖母はがっかりした顔をした
毎年小豆を作って萩の餅や牡丹餅を作るのは
死んだジイちゃんのためなのだから
そうそうぼくが喜んで見せなくてもいいだろうに


ぼくが高校生になった年に祖母が逝った
冬の明けがた眠りの続きのように向こうへ行ったのだ
夜中に苦しむこともなく迎えの舟に乗ったのだろう
精進が出来ているから大往生だったんだと人は言った
坊さんも祖母が儀礼を怠ることのない奇特な人だったと褒めた
盂蘭盆会のときも彼岸会のときも
ご先祖様を祀る心が伝わってきたと頭を垂れた
お経が長かったのは祖母へのサービスだったのだろうか


会社の暦を見ながらふと想い出す
祖父亡き後ぼくを親代わりに育ててくれた祖母は
ぼくを一番大切に思ってくれていたに違いない
海軍帽の写真にぞっこんだったかもしれないが
凛々しかった祖父のように育てと期待していた節もある
だから祖母と祖父のためにお萩でも備えてやりたい
駅前の和菓子屋の「おはぎ」の幟に足を止め
萩の儀礼のために買い求める個数を思案するのだ


  


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4 コメント

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美しき秩序 (知恵熱おやじ)
2013-01-19 15:03:17
命のつながりに秘められた美しい秩序を、萩の儀礼で見せていただきました。



すでに去った人に萩の花とおはぎを捧げる人も、いつか捧げられる人になり人生が美しく完結する・・・
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評言にしびれました (窪庭忠男)
2013-01-20 17:35:27
饒舌とも云える作品にすがすがしい評言をいただき、図らずも命のつながりという秩序を教えていただきました。

今の世と対比する意図など毛頭ありませんが、かつて普通にあった祭祀などには、思いがけない美しさが秘められているような気がいたします。
ありがとうございました。
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古き良き時代 (くりたえいじ)
2013-01-22 13:22:48
なんて美しいお話でしょうか !
今は亡き夫(少年の祖父)と、その老妻(祖母)との間柄が、しっとりと伝わってくるような逸話。

その祖父母へ孫の思慕が仄かに伝わっているところが泣かせます。
それもお萩にまつわる思い出などを中心に置いて。

そんな逸話が遠い昔の日本の家庭にあったような気にさせられました。
古き良き時代だったような気にも。
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昭和は遠くなりにけり、ですかね。 (窪庭忠男)
2013-01-23 00:21:19
もう追憶の世界にしか存在しないのでしょうか。
寂しいかぎりです。
形は違えど、どの国にも、どの民族にも、日常を小休止させて過去を今にする行事があり、暗黙のうちに生きることの素晴らしさを感受してきたように思います。

「日本を取り戻す・・・・」ためには、強い経済だけでなく、何かを敬うこころへの回帰が必要なのではないでしょうか。
おっと、また余計なことを言っちゃったかな?
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