タム・ソーヤたちは多摩川の堤防に寝そべって明け方まで天の川や夏の星座を見続けた。
背後が北で多摩川の方向が南なので月明りが残っているうちから天の川がはっきりと見えた。
「ミルキー・ウェイか、多摩川の上は街の明かりが届かないからきれいに見えたよね」
ビルがうっとりとした表情で言った。
「まさか、こんなことになるとは思いもしなかったよ」
タム・ソーヤが自慢げに応じた。
「ぼく、一度も見たことなかったからベガやアルタイルを目に焼き付けておくよ」
ジミーもビルと同じように感激していた。
明け方月明りがなくなるころ、天の川は多摩川をまたいではるかに雄大な天空の川を作っていた。
消防署や警察署はタム・ソーヤの言葉を信じて星座観察を許してくれた。
午前中にでもひとっ走りしてお礼を言おうという気になっていた。
しかし多摩段丘の亀裂の浅いところまで来ると、突然タム・ソーヤが崖を飛び降りようと言い出した。
「ターザンは木のつるを使って飛び移るが、俺たちは何にも掴まらずに飛び降りるんだ。こっちのほうが勇気があるんだぞ。俺はミス・ターザンだ」
どこかで見たことがあるのか、あああ~と叫びながら川べりの土砂の上に着地した。
「僕は正統派のターザンだ」
ビルは下で見上げるタム・ソーヤの近くへ見事に着地した。
ジミーが躊躇していると、後ろからハックが声で脅かす。
「ほら、アブが狙ってるぞ」
蜂やアブが大嫌いなジミーはよろめくように飛び降りる。
そうやって全員が繰り返し飛び降りているうちに、土砂の中から青いかけらが出てきた。
「おおーっ、ルリ色の石tじゃないのか」
ハックが拾い上げた。
チェ、これ波にもまれて摩耗したプラスチックじゃないか。海岸じゃないのになぜこんなところで・・」
「きっと津波か高潮で下流の海岸から運ばれてきたんだよ」
ビルが説明する。
「おお、じゃ石でも運ばれてきた可能性はあるな」
タム・ソーヤが嬉しそうに相槌を打つ。
しかし、みんなでいくら探してもルリ色どころか青っぽい石すら出てこなかった。
「ビルの言う通りもっと下流へ行けばルリ色の石があるかもしれない。よし、いったん下流のほうへ行ってみよう」
みんなリーダーの言うことには逆らえない。
「ま、どうせ暇なんだから行ってみようか」
4人は土手の上をゾロゾロと動き出した。
「もう2キロぐらい歩いたけど海岸はまだか」
ビルが困ったような声で「この辺りは何年か前の台風の時、川岸の家が何軒も流された場所です」とタム・ソーヤに説明した。
「ああ、あの時の川岸か。怖かったよな」
おしゃべりしながらさらに4キロほど歩いていくと、とつぜん川のほうから陽気な声をかけられた。
「お~い、君たちどこへ行くんだ? 2時間ばかり僕のお手伝いをしてくれないか」
ええーっと思ったが、中華そばをごちそうになった手前すぐさま断るわけにはいかない。
「いいですけど、僕たちはルリ色の石を探しに行くところなんです。お兄さんは何でも知っているから、ルリ色の石のことを知っていたら教えてください」
「ハハハ、君には負けるよ。後で詳しく話してごらん」
タム・ソーヤたちは大学生の指示にしたがって多摩川の堤防を駆け下りた。
〈つづく〉
ターザン遊びも楽しそうです。
ルリ色の石探しも本格化しそうですね。
いつも主人公に付き合っていただきありがとうございます。
タム・ソーヤの思い付きから始まったルリ色の石探しも今度は下流へ向けて迷走しています。
もうすぐ食料も尽きるのでエンデイングが近いと思います。
早くもテーマのルリ色の石が見つかりました。
明確な目的を持つことになった冒険は、ルリ色の石を探して下流へ向かいますが、この先に何が待ち受けているのか?楽しみです。