堤防の下で待っていた大学生のお兄さんが、「この前はありがとう」とタム・ソーヤたちを迎えた。
「実は君たちに採取してもらったウグイやオイカワは最近外来魚の餌食になって数を減らしているんだ。大分前からここはタマゾン川と呼ばれていて、熱帯魚のグッピーやブラックバスが定着している。下流域の川崎市近くで<おさかなポスト>を運営する方の発表ではペットショップで買い求めた珍しい熱帯魚を設置した生け簀に入れていくケースが増えているそうだ。
ところが中には勝手に川へ捨てる人も多いので多摩川に外来魚が住み着いてしまった。一時は死の川と呼ばれていたが下水処理施設が整備されて水質がよくなったのと生活排水の温度が高くなったことから冬場でも熱帯魚が住みつき繁殖までできる環境になった。
ぼくは在来魚の生息を守る立場から、君たちに手伝ってもらって確認しているわけなんだ。君たちもタカハヤやスゴモロコを一緒に守ってくれないか」
タム・ソーヤはお兄さんの説明にうなずいて自分も多摩川の守り手になった顔つきになっている。ハックやビル・ジミーもすっかりその気になっていた。
タム・ソーヤは運動靴もズボンもシャツも脱ぎ捨てパンツ一一丁で用水路に入っていった。
お兄さんが持っていた大型の網を借りて岸辺をまさぐり繁茂する草の下まで掬い上げた。
と、何やら見たことのない魚が網に入っている。「えっ、何これ・・」
さっそくお兄さんが近寄ってきて覗き込み「いや、これは大変だ。もしかしたらグラスフィッシュかもしれない。下流だけでなくこの辺で捨てる不届き者がいるらしい。この前と同じようにバケツに入れて飛び出さないようにしてくれないか」
みんなが高度経済成長に浮かれたころ飼い始めた高級ペットの熱帯魚をバブルがはじけて飼いきれなくなって不法投棄する。
「この分では注目され始めたレッドテールキャットフィッシュだっているかもしれない。夏場の今頃は水温が27度にもなるから熱帯魚には住みやすいんだ」
2時間ほどで三匹の外来魚を捕獲した。
「君たちどうもありがとう。この外来魚は僕が後で連絡して業者に引き取ってもらうよ。もちろん<おさかなポスト>の人にも連絡しておくから安心してね。‥そうだ、さっきルリ色の石とか言っていたがそれってどういうものなの?」
改めて聞かれるとタム・ソーヤもうまく説明できない。「アインシュタインが宇宙の原型を封じ込めた隕石だと予言したらしい」というと、「相対性理論のアインシュタインが隕石について述べた文献は僕も知らないなあ。隕石は地球の大気に突入するとみな焼け焦げて真っ黒な鉄ようなものが残るが確かに比重が重くて地球には存在しない物質が多いらしい。もし、ルリ色の隕石があったら大発見だね」
大学生はニコニコしながらタム・ソーヤを励ました。「みんなに幸運が訪れることを祈ってるよ」
大学生とはそのあたりで別れてさらに下流を目指すことにした。
〈つづく〉
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