母が飛んだ
夕暮れの空へ飛んだ
団地の花壇には苺のような千日紅
ついばむ鳥が嘴から突っ込んだ
娘は電気もつけずに泣いた
頼りの父は半年前にツガイの相手を変えた
今どこのねぐらに籠っているのやら
見捨てた団地の窓をテレビは写すだろうか
娘は泣き疲れたまま眠り込んだ
目ざめると闇のなかで囁く声がした
おまえは一人ぼっちになった
もう世の中とつながる手立てを失った
学校を追われ友だちも遠ざかる
3DKの部屋もやがて明け渡しを迫られる
おまえの約束の地は寒ざむとした施設
それが嫌なら男が提供する一夜の宿めぐり
青むらさきの朝が明けていく
娘は体をぶるぶるっと震わせた
一人ぼっちだというのなら独りでいい
世の中とつながれないなら繋がらなくていい
娘は代わりに言葉を友だちにした
街をさまよい吐き捨てた恨みが跳ね返るとき
それでも言葉はやさしく音色を奏でる
母が啄んだ千日紅の滴りさえ受けとめて
夜よ二度と来るな
強そうに見えても闇の重みは心を押しつぶす
朝も再びめぐってこなくていい
ことばが夢の中で逃げまどうのなら・・・・
(2016/11/27より再掲)
千日紅
(ウェブ画像)より
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