むかしの詩集とフォト日記（１９） 「落人」

　　　　　奥へ



　　　　　「落人」



　　笛の音は沢を縫い

　　流れにのって

　　けものの眠りをいやした



　　どこから踏み分けて来たのか

　　岩陰に身を寄せる主従五人

　　いまだ夜気のきびしいなか

　　思いのたけをこめて息をつかう



　　月はなく

　　山峡の空に星だけがぬれて光る



　　優勝劣敗は生きものの掟

　　ふりかえる心は水に流さなければならない



　　笛を捨て

　　恨みを捨て

　　ひたすら生きていこう



　　語り合う主従に

　　カジカの声がふりかかる



　　春は川をさかのぼっている

　　討手が来るまえに

　　けものになって

　　そっと難をさけるのだ





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