タム・ソーヤたちはお兄さんの手伝いをした後ひたすら多磨川の土手を歩いていた。
すると広い河原の一角に臨時キャンプ場という看板がかかっているのを発見した。
「おおっ、どこの区か知らないけど夏休みの子供たちのためにキャンプ場を開いてくれたらしい。ラッキー、俺たちもここで一泊しよう」
タム・ソーヤが管理責任者らしいおじさんに近づき「すみません、4人ですけど今夜ここを使わせていただけますか」
「事前申し込みの許可証は?」
「あ、お母さんがリュックに入れてくれたんですけどどこへ行ったかな・・」
タム・ソーヤは必死に探すふりをした。
「許可証がないとここは使えないよ」
「そんな、殺生な・・このキャンプ場に泊れないと僕たち野宿ですよ」
「君、殺生なんて言葉どこで覚えたの? おじさんを脅しているみたいだな」
「いえ、僕の家の電話は〇〇ばんです。電話して確かめてもらってもいいです」
「そうしたいところだが、ここに電話器までは設置してないからな。‥市役所にも確認したいが係の人はもう帰っちゃったろうし、弱ったなあ」
「このキャンプ場は旅行に行けない人たちにも夏休み気分を味合わせてあげようという優しい気持ちから開いてくれたんでしょう。僕たちそれをあてにしてここへ来たんです。おじさん、お願いします」
「う~ん、しょうがない。ちょうど一組キャンセルも出たことだし、右端のテーブルを使ってもいいよ」
「ありがとうございます」
「明日、家と市役所に電話してみるからね」
「は~い」
タム・ソーヤたちは一束100円で薪を買い、水は給水タンクから飯盒に分けてもらって吊り具にかけ湯を沸かした。
この夜はインスタントラーメンと魚肉ソーセージで食パンムシャムシャよりは豪華版の食事となった。
翌朝、早々に荷物をまとめてキャンプ場を後にした。
何百メートルか歩いたところでタム・ソーヤたちは自転車に乗ったおまわりさんに呼び止められた。
「君は田村一郎くんだね。むさし野北警察署に君たちと連絡が取れないから心配しているとお母さんが相談に来たらしい。‥今日にも連絡がなければ捜索願を出してくれと言われて慌てていたようだ。‥幸い君たちの姿は多摩川堤防の上だけで見られていたから接触した大学生やキャンプ場の管理人に聞いてすぐ把握できた。ぼくからも見つかったむね無線連絡するから、君たちも公衆電話のところまですぐ引き返してそれぞれの家族へ電話しなさい」
うながされて今回はルリ色の石を探すのは無理だと判断した。
一週間分の食料も尽きたし、持ってきたマッチや燃料もほぼ使い切った。
家に帰る潮時だと感じたタム・ソーヤは街角にあった公衆電話から家に電話した。
「もし、もし、お母さん? 一郎だよ。心配させてごめんね。僕の部屋でみんなと夏休みの宿題をやっていたんだけど、ペーパー上の回答ではない項目があって多摩川でそれを実行したんだ。
うん、一つは星座の発見、もう一つは虫や魚などの観察なんだ。
お母さんも、僕が小学生のころよく言ってたよね。百聞は一見に如かず・・お母さんの言うことよくわかったよ。
あ、そう? おまわりさんがそんなこと言ってた? たしかにルリ色の石を探して多摩川の下流まで行くつもりだったけど、それはまたの機会にする。
えっ、ルリ色の石ならうちにあるって? お母さんが持ってるの? むかしお父さんと中国旅行をしたとき、宝石商からラピスラズリ〈ルリ色〉の原石を買ったんだって? いずれ専門家に磨いてもらってネックレスやブローチにしてやるからとお父さんが原石を抱えて帰ったのか。
そいえば、その原石を僕も見たかもしれない。
アインシュタインの伝記にあった話とごっちゃにしたのかな。
だとすると、まさか?
一郎はメーテルリンクの「青い鳥」の話を思い出していた。
公衆電話の順番を待っているハックやビルやジミーを見ながら頭をポリポリと掻いた。
〈おわり〉
有難うございます。
タム・ソーヤたちは夏休みの宿題を早めに終わらせました。
優等生ですね。
長い夏休みは毎日が暑くて最後は飽き飽きしながらいざ8月が終わりそうになると焦ったものです。
子供たちの行動にお付き合いいただきありがとうございました。
なるほど、メーテルリンクの「青い鳥」の「本当の幸せは身近なところにある」が結論でしたか。
ほのぼのとした楽しい小冒険談をありがとうございました。
タム・ソーヤらしいおっちょこちょいな結末になってしまいました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
でも関西の話ではなく、やはり「多摩川」とかが出てくるのでホっ🍀
くぼにわさまは、トム・ソーヤが好きだったんだな🌈✨✨と分かりました🐻
主人公が若いと文章も若く元気(躍動感が出るもの)ですね⤴✨
『トム・ソーヤーの冒険』は面白くて大好きでした。
だじゃれのような名づけから始まった短い物語でしたが失敗続きにもかかわらず、タム・ソーヤの機転で話が進展したようです。
トムも機知にとんだ少年でしたからその資質を踏襲しました。
主人公が若いと文章も若く元気(躍動感が出るもの)・・本人は気が付きませんでしたが、さすがの慧眼だと思いました。