梅が香にのっと日の出る山路哉
今日の名句は厳しい冬を旅の中で過ごした芭蕉が春を感じた瞬間の喜びを表した作品である。
山吹の句の「ほろほろ」もそうだがこの句の「のっと」の俗っぽい表現は芭蕉の真骨頂である。
平明さを心掛ける軽ろみがいっそう梅の香りを引き立てている。
山吹の句の場合は「滝の音」が聴覚を強調していたが、今回は「梅の香」が嗅覚を刺激する。
山並みの上から「のっと」〈ぬっと=突然〉日が出るのだから朝日をさしている。
梅花と日の出、誇張していえば五感総動員の表現であり旅だったのだろう。
地方の門人に頼る場合はいいが、寒空のもと堂宇の軒先に宿を借りたり、たまには野宿といったこともあるだろうからヌクヌクとした路銀豊富な旅とは一線を画す。
芭蕉のモットーは
不易流行〈時流に流されず本質を見極める〉
古人の跡を求めず、古人の求めたる所を求むべし〈古人の真似をするのではなく歌枕など古人の行った場所を尋ねる〉
松のことは松に習え、竹のことは竹に習え〈観察や写生に重きを置く〉
江戸時代の華美な娯楽や洒落本、浮世絵なども庶民に愛された文化ではあるが、一方で芭蕉のようにストイックな人生観を貫き通した文人もいた。
多様な文化が受け継がれる日本は素晴らしいと思いませんか。
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