自薦ポエム115 『苧環の自慢ばなし』

　苧環の花

　　（季節の花３００）より

 

苧環って知ってるかい

つまりおいらのことなんだがね　　

知らねえだろうなあ

名前が読めるだけでも大したもんさ

 

苧環の語源までわかれば優等生だ

夜空のなかの１等星というところかな

ちかごろ天の川は見えないね

そうそう織姫さんと無関係じゃないんだ

 

苧環はオダマキ　機織りで使う糸巻きのことさ

繊維をくるくる巻き取って糸にする

昔はよく縁側で婆さんが回してたじゃないか

その苧環から名づけられた花の名だよ

 

どうだいオダマキってぴったりの名だろう

端正な姿が男前だってもてはやされたこともある

ちょいとイナセな江戸の若衆みたいだなんて

町娘に噂されたこともあったんだがね

 

そうかい今の若者にはピンと来ないかい

なるほど小型の宇宙探査機に似ているってか

よくは知らんがカグヤとかハヤブサとか

アンテナ開いた格好がたしかにそれらしく見える

 

色もディープな青だから藍染のイメージでさ

覗いた白が肌着の襟にそっくりじゃないか

今風なことばをまねてみたが結局のところ

歌舞伎役者にしたいとの一言が忘れられないのさ

 

あれまあ気づいてみれば世話はない

苧環の自慢話になってしまったね

おいらの古くさい思い出話より

夜空をめぐる宇宙探査機に思いを寄せたほうがいい

 

おやすみ　おやすみ

初夏の過ごしやすい夜だもの

ちょっぴり夢見がちな時間を手元に置いて

いっしょに楽しもうじゃないか

　　

（2018/08/29より再掲）