どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム100 『諸葛菜におもう』

2015-08-11 00:39:44 | ポエム

 

     諸葛菜

    (城跡ほっつき歩記)より

 

 

あなたがザーサイの素だなんて 

いったい誰が信じようか

三国志のなかに登場する

諸葛孔明を救った人頭菜だなどと

教えられなかったなら誰が気づくだろう

 

むかし船乗りはビタミン不足に悩まされた

諸葛孔明は大軍を率いて遠征したはいいが

兵士の野菜不足に悩まされた

後方からの補給などできるはずもなく

自給のすべもまったく見当たらなかった

 

オオアラセイトウよ よくぞ出現してくれました

葉も茎も 人の頭ほどある大きな根のかたまりも

この野草は余すところなく食料になる

教えてくれた無欲の百姓とともに

そなたは諸葛孔明の救世主になった

 

感謝の意を込めて広く世に広めたことから

ひとはその野草を諸葛菜と名づけた

短期間で成長し 生でも煮ても重宝至極

根を乾燥させて塩漬けにすれば

ザーサイの歯ごたえとなって悦びを呼び覚ます

 

ああ 戦というものは何と甘美に誘惑するのだ

生きるか死ぬかの瀬戸際に現れた野草を

英雄のように讃え迎える下地は潜在している

それは悲惨がうすれ悲嘆に変質したあとの眩暈

だから悲惨をそのまま語り継がなければならないのだ

 

茨城1号を知る者は何人いるだろう

あの水っぽく馬鹿でかいサツマイモのことだ

飢えた人びとの腹をなんとか満たそうと作り出された

水増しされた幻想の食いもの

満たされなかった人生の数々が湯の中で溶け出す

 

芽を出させたあとの床芋を食べたことがありますか

さつま芋の蔓を摘んで佃煮にした経験はありますか

イナゴや蚕をタンパク源と意識したことがありますか

高粱や粟の飯に手を合わせて感謝したことがありますか

その思い出を悲惨のまま語ることができますか

 

武器を取れば 武器が応える

血を流せば 血で贖うことになる

このような愚かさは あの敗戦で学んだろうに

何千万の意思を踏みにじって なぜ逆行するのか

理由があるなら 腹からの覚悟で語ってほしい

 

大荒政党(オオアラセイトウ)の名は不本意ですか

それともムラサキハナナがお気に入りですか

いえいえ 今からでも三国志を学び

諸葛菜に至った奥深い歴史を研究し

素朴なザーサイの味を噛みしめたらいいのです

 

 

* 中国原産のアブラナ科植物「諸葛菜」にはいろいろの呼び名があります。

  オオアラセイトウ(大紫羅欄花)、ムラサキハナナ(紫花菜)のほか、花の外観から花大根と間違われることが多いそうです。

  一方、わが国で消費されるザーサイの原料は、諸葛菜の根(人頭菜)が素になったとの伝承がありますが、現在はザーツァイ(搾菜)が主流です。

 

 


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2 コメント

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揺れるこころ (塚越和夫)
2015-08-11 09:38:59
こんにちは。

よくあちこちで見かけるショカツサイですが、野外撮影は案外むつかしいことが多いです。
花期はおおむね3月中旬頃から5月の連休明け頃までのようですが、この時期には生憎と風の吹く日がつづきます。
このため元来ひょろ長くのっぺりとした体型のショカツサイは、いつも春風に煽られてふらりふらりと揺れ動いております。
かくしてシャツースピードを上げると被写界深度が浅くなり...ピンボケで立体感を欠くような始末となります。

風の静まる日没前が自然な発色が得られて狙い時なのですが、シーズンになるといつも失念しております(^_^;)

いつもご紹介を賜りお礼申し上げます。
ショカツサイを食料とするような時代の再来は断じて許せませんね。
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ポエム100作目の幸運 (tadaox)
2015-08-12 00:42:37
塚越さん、いつもお世話になっています。
写真は、色々と難しいのでしょうね。
朝か、昼か、夕暮れか、被写体によって撮る時間帯を変えたり、晴れの日、曇りの日、雨の日によって写り方を想像しながらレンズを向けるのでしょうか。

その上、風の加減もあるのですね。
プロの方は、絞りを計算したり、シャッター速度を変えたり、おお~大変。
デジカメ一辺倒のズボラ男にとっては、カメラを自在に操る方は尊敬の対象です。

今回ポエム100作目に「諸葛菜」に出会えた幸運を、心から感謝申し上げます。
ありがとうございました。
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