星空
(ウェブ無料画像)より
夜空を眺めることが少なくなって
ぼくの夢はまとまりがなくなった
もともと夢なんてまとまりがないもの
そういって揶揄するならすればいい
ある夜ぼくは吉行淳之介の本を読んだ
『月と星は天の穴』を探し当てたのだ
世界を動かすほどの力はないが
文章が醸し出す滋味の滴りを受け取った
ふたりの女と交際して
それぞれの魅力を文章にする
女たちにはそれぞれに男がいて
作家との逢瀬に執着しているわけではない
物語の主人公と小説家は付かず離れず
たがいに様子をうかがって関係を楽しむ
女たちとの付き合いも付かず離れず
だから女たちも深刻にはならない
「星があんなに沢山」
女の言葉に主人公は夜空を見上げる
「あんなに綺麗に光っているのに・・・・」
あいまいな関係を悔いているようにも聞こえる
「あんなものは天の穴ぼこだよ」
主人公に言わせた言葉がそのままタイトルになる
「月はもっと大きな穴ぼこだ」とも
男にとって女は穴ぼこだとでも言いたいのか
ぼくは吉行淳之介の本を読んだあと
久しぶりにきれぎれの夢を見た
レッカー移動された自動車を
いまだに取りに行っていない苦しい夢だ
目が覚めて「ああ、夢か」とほっとする一方
そのような作品を書きかけていたことを思い出す
歓迎されそうにない文章にひとり執着する自分
女すら登場しない荒涼たる小説だというのに・・・・
わかったことが一つある
『月と星は天の穴』はただ関係を描いただけなのだ
それに意味があるかないか問うても意味はない
作家は女たちよりも文章を愛しているのだから
たまには外に出て星空を見ようよ
夜も更けた天空の星を見上げたら
阿片にかじりつく充血した目の小説家よりも
よほど天の奥深くを覗けると思うのだ
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