カタバミ
〈ウェブ画像〉より
六月は家庭に何かが起こる月
エミちゃんは父さんに子犬を捨てられた
マンションのクローゼットに隠しておいたのに
父さんの出勤前に見つかってしまった
母さんには内緒にするように頼んでおいた
ちょっとの間だけよと見逃してもらったが
シロがクンクン鳴いたので
父さんが気づいてしまったのだ
ここでは犬も猫も飼えない
契約違反をしたらお家から出ていくしかないよ
だから捨てるとは言わなかったが
シロを入れたダンボール箱ごと車に積み込んだ
母さんのとりなしも無駄だった
エミちゃんは泣きながら公園に走った
お父さんのバカ マンションなんて大嫌い
道端の小石を拾って思いきり投げた
石は意志を持ったようにまっすぐ飛んだ
虞れが叫びとともにゴム紐のように伸びた
草むらにはムラサキシジミ蝶がひそんでいる
エミちゃんの心は後悔で引き裂かれた
一年前に公園でシジミ蝶に追いかけられた
カタバミから飛び立った蝶が礫のように迫ってきた
あの時以来エミちゃんは蝶と目を合わせられない
今はお父さんに石を投げたようで飛び立つ蝶が怖い
虞れが伸びきったところからパチンと戻ってくる
飼えないとわかっているのに拾ってきた自分が悪い
お父さんだって困っていたに違いない
シロにもシジミ蝶にもわたしは悪い子だった
六月は今年も何かを運んできた
生きものにとって厄介な季節なのだろうか
それでもみんな運命を受け入れている
シロもどこがで優しい飼い主にめぐりあっているはずだ
〈2018/05/13より再掲〉
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