かわたれどき
十二月半ばに転勤の辞令が出た。
翌日から皇居をはさんで反対側の郵便局へ出勤することになった。通勤時間は以前より短くなった。
職種が変わった際の規定に従い、二週間ほど局内での職場研修が行なわれることになった。課長が講師になって、保険業務の基礎的な知識を教えられた。
その間に、送別会と歓迎会が相次いで催された。
片や居酒屋チェーン店、他方も寿司屋の二階と似たり寄ったりの会場だったが、拍手で迎えられた保険課の二次会で、初めてクラブというものに付き合わされた。
その日がちょうどクリスマスイブに当たっていたからだろうか、店内は混みあっていた。
吉村は経験したことのない嬌声を聞いて、落ち着かない表情であたりを見回した。職場環境が変わったことを、実感した瞬間だった。
そうした喧騒のなか奥まったテーブル席の一郭で、保険課の主と呼ばれている唐崎が若いホステスをからかって笑い声を上げていた。
背は低いが、小太りの体を仕立ての好い背広で上手に包んでいる。体型の縮尺どおり、首が太く、頭は取り巻きの誰よりも大きい。
濃い眉と皮膚の浅黒さから、唐崎の出身地はどこかの漁師町なのではないかと勝手に推理した。
「やあやあ、待ってた、待ってた」
だみ声を張り上げて吉村を向かいの席に招いた。
「今日はどうもすみません。なんだか、いろいろとお世話になりまして・・・・」
吉村は身を縮めるようにして唐崎に挨拶をした。
課全体の歓迎会では姿を見かけなかったが、はやばやとこんなところに来ていたのかと、保険課の枠を超えた行動の奔放さに驚きを感じていた。
「いやあ、すまんかったね。ちょっとお客の接待があったもので、出られんかったのよ」
口ぶりは丁重だが、あまり重みは感じられない。ホステスにあらたなビールを開けさせ、取り巻きの三人と吉村のグラスに注がせた。
「それじゃあ、わが社の大型新人に乾杯!」
「メリークリスマス」
ホステスが決まり文句で唱和した。
「おいおい、今日はクリスマスより大事な歓迎会なんだ。それをいうなら、メリーヨシムラだな」
ホステスがもう一度「メリーヨシムラ!」とグラスを挙げなおした。
さすがに三人の取り巻きは口ごもっていた。照れ笑いを浮かべてグラスだけを高々と掲げた。
吉村は困惑して目を伏せた。何を以ってここに呼ばれたのかと、唐崎の意図を測りかねていた。
「実はね、キミを引っぱったのは唐崎さんなんだよ」
吉村より一回り年上とおもわれる取り巻きの一人が、裏事情を漏らした。
唐崎軍団の副将と目されているらしく、他の二人よりは格が上のような振る舞いをしていた。
「唐崎さんは課長なんかより力があるからね。・・・・そんな人に目を掛けられたのは幸運だよ」
男は吉村に唐崎の偉さを囁き続ける。
説明によれば、保険課に属しながらも、一般の外務員には難しい法人を対象にしているのだという。
彼らは保険課事務室の横にこじんまりとした別室を与えられ、少数精鋭で都心の企業相手に営業活動を展開しているらしかった。
「まあ、よせ。混乱するわ」
唐崎が割って入った。今回の転勤に功績があったことだけ伝われば、この日の目的は達せられたのだろう。
保険のいろはも知らないまま転勤してきた吉村に、それ以上の解説は蛇足といううものだった。日が経てばいずれありがたみが分かるだろうと、余裕を見せる唐崎の態度におもわれた。
唐崎の強力な推薦があって吉村の希望は適った。そのことはよく分かった。将棋大会で蜂谷を負かしたとのニュースが、唐崎の気まぐれな介入の呼び水になったということも分かった。
もっとも、気まぐれと感じたのは吉村の印象であって、唐崎にすれば筋の通った理由があったのだろう。日が経つにつれ、吉村にも蜂谷と唐崎の因縁がわかってきたのだが・・・・。
「課長はちゃんと教えとるか。わしと一緒にやってた頃は、契約が取れなくてしょっちゅう泣きついてきたもんや。馬鹿にしとったら、いつの間にか偉くなっちまってな」
ハハハと豪快に笑い飛ばした。「・・・・今夜はパーッとやってくれ。研修中でもかまわんから、わしらの事務室に遊びにきたらええ」
あながちはったりとは思えぬものが、唐崎と課長の関係から推理することができた。
慣れない酒と緊張で、吉村はめずらしく疲れを感じていた。
片言の日本語しか話せない中国人のホステスに代わったのを機に、吉村はもてなしの礼を言って腰を上げた。腰を上げてから、ほの暗い明かりに浮かぶ女性の横顔にしばし視線をとどめた。
唐崎が止めなかったのは、ちょうど頃合いと判断したからだろう。恥もかかず恥をかかせもしなかったことで、吉村はほっと胸を撫で下ろした。
高円寺に帰り着くと、それでも十二時を大きく回っていた。
吉村は駅からアパートまでの道のりを、ふらリふらりと歩いていた。
高円寺純情商店街のアーチをくぐってから八分あまり、途中、跳ねたばかりの飲み屋があちらこちらで後片付けをしていた。
扉を全開にして床を洗い流す店、椅子がすべて逆さになってカウンターに載せられているスナック、客がこぼした酒や食い物を掻きだすさまは、じわじわと温度を下げていくイブの夜の冷気とあいまって吉村の身を震わせた。
(ちっとも楽しくなかったな・・・・)
唐崎には申し訳ないが、気ばかり遣って疲れてしまったのだ。
ビールのあとに飲んだ妙なカクテルが効いていた。つまみの乾き物が未消化のまま胃に滞留しているようだ。いっそ吐いてしまえば楽なのだろうが、これも試練なのだろうと我慢してきた。
それでも、期待してくれる人間がいることは心強かった。
大型新人と持ち上げられたのには参ったが、保険課の風土に溶け込んで努力すれば、自分がおもっている以上の力を発揮できるかもしれないと、先に夢をつなぐことができた。
帰り際に唐崎の横に坐った中国人女性の顔が目に浮かんだ。おそらく二十歳前後だろう、質素なコットン地の長袖シャツに、黒のパンタロンを穿いていた。きらきらと照明をはじくピンクのサンダルだけがホステスで、ほかは学業を終わって駆けつけた留学生のような雰囲気を漂わせていた。
一瞥しただけなのに、目に鮮やかに焼きついている。
すらっとしたスタイルもさることながら、日本人には無い毅然とした表情が印象深かった。
固い表情のなかに、羽化に向けて脱皮しつつあるような華やぎも感じられた。シャツからこぼれた手首の柔らかい肌が、見てはいけないもののように透き通っていた。
意に反して逃げ出した・・・・。吉村はそうおもった。
本当はその場に居たかったのに、そそくさと席を立ってしまった自分の心理を反芻していた。
その場に留まると息苦しくなりそうな不安。抱え込んだ未整理の問題で手一杯なのに、彼の心に落ちてきた羽虫がさらに波紋を広げようとしていた。
いつの間にか商店街を抜け、街灯もまばらな路地に出ていた。そこを少し先まで行って、右に曲がるとアパートの外階段が見える。
吐き気はどうやら治まっていた。手すりに摑まって二階に上り、ドアを開けると懐かしい空気が流れ出てきた。手探りで壁のスイッチをオンにすると、一呼吸置いて天井の蛍光灯が点いた。
このところ肌合いの違う空気に曝されて疲労が溜まっている。慣れるまでの辛抱だと分かっているが、自分の体臭を含んだ部屋の温もりに包まれたことで、逆に不安な気持ちが膨らんだ。
吉村は急に渇きを覚えた。ガス台にかけてあった薬缶を手にとって、直接湯冷ましを飲んだ。
口から溢れた水が、顎をつたって首筋に流れ込んだ。
ハッと脳裏をかすめたのは、バイク事故を起こしたときの映像だった。
ハンドルを飛び越えた瞬間から、道路に叩きつけられるまでの出来事が、鮮やかな映像となって記憶されている。
雨粒、駒、四角い顔。そして地面・・・・。
一転いまは薄暗い六畳間にたたずんでいる自分を意識する。
転勤にともなう予測のつかない状況は、あとしばらく続くだろう。
唐崎はあの後どんな時間を過ごしているのか。無口な中国人ホステスを相手に、冗談でも仕掛けているのだろうか。
美しくも不安げな顔。おそらく弱い立場の女性だろう。
吉村の感覚に従えば、かつかつの生活を送りながら、日本語を学んでいるのだとおもう。
宙を飛ぶ自分。留学生の顔。・・・・交互にフラッシュバックする映像が再び彼を苦しめた。
電気を消し、布団にもぐりこんだが、なかなか寝付かれなかった。
朝方まで寝返りを繰り返し、やっとまどろんだようだ。
八代の実家の二階で、ごそごそと起き上がる祖母の気配を感じていた。
「おうおう、かわたれどきの空は美しかねえ。・・・・ほれ、むらさき色に明けていきよる」
暁の眠りの底で少年が聴いた心地よいひびきが、すべての不安を覆い隠してくれた。
職場研修が十日目を過ぎたころ、吉村は課長の許しを得て実際に外回りをやってみることにした。
支給された鞄の中には、契約に必要な書類一式が入っている。
客に自筆で書いてもらう保険契約申込書、初回の掛け金をもらった際の領収証兼手控え、相手に渡す約款など、最低必要限度のアイテムはそろえてあった。
事務室を抜け出して周辺を歩いて回る。
郵便局のまわり百メートル程度の範囲なのに、訪問先を吟味しながら眺めてみると、実に多様な建物があることに気付かされるのだった。
吉村は考えた末に、忙しそうな店舗を避けてマンションに狙いを絞った。
郵便局からは間にガソリンスタンドを挟んで斜向かいに位置する建物だ。築五年ほどの中層マンションで、吉村の目に親しみやすい印象を伝えてきた。
エレベーターを降りて、通路を端まで歩く。確かめるまでもなく、各戸のドアの上には電気のメーターが並んで設置されていた。
吉村は課長から教えられたとおり、くるくると回るメーターの針をみて不在か在宅かを判断した。なるほど経験者のアドバイスは的確だった。吉村は二、三軒後戻りしたりして最も勢いよく回っている家のチャイムを押した。
一呼吸あって、ひげの男が顔を覗かせた。どこかで見たことのある人のような気がした。
「あれ? まさか漫画家の・・・・」
思わず口にしていた。目の前の男は、吉村が想いうかべた人物よりも相当若かったのだ。
「どなたかお尋ねですか」
ひげの男が怪訝そうに訊き返した。
「いやあ、漫画家の加藤芳郎さんに似ているもので」
「だって、僕とでは時代が違うでしょう。それに表札を見れば気が付くはずですが・・・・」
男は呆れたように吉村を見上げた。
「すみません。大変失礼しました」
吉村は頭を下げて退散しようとした。ドアを閉めながら顔を赤らめていた。
「ちょっと、ちょっと。ところでオタク何しに来たの?」
スリッパのまま三和土に降りてきて、吉村を引き止めた。ひげの男の目に笑いがにじんでいた。
「実はぼく簡易保険の研修中で、きょう初めて勧誘に出たんです。表札も見ないですみませんでした」
「ということは、特にうちに用事があってきたんじゃないのね?」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「いや、そんなことはいいですよ。それより、うちは何軒目なの?」
「一軒目です」
「へえ、なんで選んだのかな」
「はあ、正直言うと電気のメーターが一番勢いよく回ってたもので、なんとなく引き寄せられて・・・・」
吉村の返答を聞いて、ひげの男は今度は声を出して笑った。
「それだったら勧誘しないといけないんじゃないの」
「それはそうですけど・・・・」
「まあ、上がって説明してごらんよ」
成り行きで男の仕事場に招き入れられた。
壁際にぴったりと寄せられた机の上に、パソコンとファックス付き電話機が置かれていた。その横には、ライティングテーブルが灯りを点けたまま並んでいた。
「設計とかやられているのですか」
「いや、ぼくはイラストレーターです。さっき漫画家とか言われて、一瞬びっくりしたんですよ」
反対側のソファーを勧められて、ひげの男と対面した。自信のない手つきで研修中に与えられたパンフレットを数種類引っ張り出した。
「どれがお奨めなの?」
「ええと・・・・」
吉村は、初めて客の立場におもいを馳せた。相手の年齢や職業も大いに関係してくることを考え合わせた。
「長い間の保障を考えるなら終身保険というものがありますが、貯蓄性を重視するなら十年満期の養老保険があります」
習ったばかりの商品特性をしゃべった。万が一の死亡保障や入院給付金を約束されながら、満期時には積み立て総額よりも多い受取り金がもらえる魅力的な商品だと説明した。
「キミなら、どれを選ぶ?」
「はあ、若いうちなら断然こちらですね」
吉村は養老保険のパンフレットを指差した。
「じゃあ、これにしよう」
ひげの男はこともなげに言った。
吉村は面食らっていた。次に何をしたらいいのか、なかなか思いつかなかった。
「僕はここに名前を書けばいいの?」
鞄から取り出した申込書を、ふたりの協力で埋めていった。ひげの男は、市丸辰夫と名前を記入した。
裏面の告知欄まで書き終わって、肝心の保険金額を決めていないことに気付いた。吉村はおそるおそる、最高限度が一千万円であることを告げた。
「それだと月々の掛け金はいくらぐらいなの?」
「特約を付けて八万円ぐらいです」
料金表の年齢欄をたどって、金額を読み上げた。
「貯金するつもりでやっておくか。入院保障とかつくんだよね」
「はい、二年過ぎると一日一万五千円もらえます」
「病気をするつもりは無いけど、サラリーマンと違って社会保障のない世界だからね」
案外、市丸にとっても好い巡り会わせだったのかと、自分の幸運に半信半疑だった状況が好転したのを感じた。
申込書に市丸の印鑑を押してもらい、初回金を預かった。研修で習い覚えた預り証の書き方をなんとか思い出して、領収書にもなる書類を手渡すことができた。
「ありがとうございました。これから戻って、間違いが無いかどうか調べてもらいます。もう一度お礼に伺いますが、よろしいでしょうか」
六時ぐらいまでは在宅だと市丸が応じてくれた。七時過ぎに出版社との打ち合わせがあるので、神田まで出かけるとのことだった。
郵便局に戻って課長に報告すると、信じがたいという表情で契約申込書を受け取った。
「へえ、研修中に成約かい。しかも一千万円・・・・」
あわてて内務事務の職員に契約内容を調べさせた。
全国ネットのコンピューターだから、名前と生年月日で既契約の状況がすぐに分かる。市丸辰夫という名の契約は無く、まったくの初登録だった。
「こんなに近くなのに、うちの外務員は誰も行ってないのか」
呆れたように嘆いて見せたが、実のところ吉村のまぐれに笑うしかないという顔をしていた。
ひとしきり内務職員からチェックを受け、約束どおり市丸のマンションに取って返した。
課長から大きなバスタオルの箱を持たされ、いまになって込み上げてきた歓びの表情とともにそれを届けたのだった。
思いがけない転勤の経緯といい、この日の幸運といい、吉村は自分の人生がツキまくっていると感じていた。
こうしたときは後が怖いとものと承知している。よくよく気をつけなければと、わが身を引きしめた。
夕方、唐崎が現れて吉村を祝福してくれた。
「ほら、わしの言ったとおり大型新人だろう。いきなり満額なんて、できるもんじゃないぜ」
我がことのように吹聴した。
喜びもあったが、心配が上回った。保険課の職員は唐崎だけではないのだ。内心どう思うものか、日々集金に追われる者の立場に立ってみれば容易に想像が付くことだった。
局内での研修を終えて、集金見習いにまわされた。
現在の担当者とともに、契約者の職場や住まいを訪問するのだ。
集配課時代と大きく異なるのは、お客様の都合で集金日が決められていることである。
毎月二十日の人もいれば、月末を希望する者もいる。
厳密にいえば、一日から三十一日まで、集金の無い日はほとんどないのである。便宜的に集金日を集約して、契約専任の日を設ける努力はしている。
しかし集金先での積み増し契約を得意とする職員もいて、なかなか一筋縄では治まらない。訪問時刻まで勘案しての駆け引きは、見習いに付いてみて初めて知る客商売の難しさだった。
三ヶ月ほどで担務替えがあり、成績によって集金担当から契約専担者に抜擢されることがある。当然その逆のケースもあり、日々気を抜くことなどできないのである。
月ごとに契約保険料の集計表が配られる。トップとビリでは十倍近い差が出ることもあった。
見習いとして付いて回る集金区は、日替わりで変えられた。地理的な学習もあったが、担当者のセールストークを覚えさせる意味もあった。
帰局すると、課長から当日の様子をそれとなく訊かれる。吉村がどんなことを学んだか、ひいては先生役の担当者がきわどい募集をしていないかどうか、そんなことまでサグリを入れてきた。
そしてダメ押しのことばは決まっていた。
「集金カードだけは、絶対に失くさないように。紛失したら、監察が入るよ。夜中になろうと見付かるまで探さなくちゃならないからね」
郵便局員にとって、監察という組織ほど怖いものはない。
集配課に在籍していた頃、何度彼らの噂を聞いたことか。速達に携わっていた芹沢が現金抜き取りで捕まったのも、監察の用意周到な網にかかったからだった。
(あの人、いまごろ何をやっているのだろう)
ふとした弾みで思い出すことがある。ちょうどいまがその時だった。
監察は怖い。集金カードはもっと怖い。直接手に持つものだけに、課長の注意が肌身に食い入ってくる。
吉村は保険課の外務員が、決して楽な商売ではないことを思い知らされた。
だが、みずから希望してきた以上この高いハードルを越えなければならない。集金区で苦労しながら、募集成績をあげて頭角を現さなくてはならない。
あらためて母の凄さをおもった。
八代の民間生命保険会社で、営業所一、二の成績を続ける母の努力が、ほんの少し分かった気がした。
(オレには、おふくろのDNAが受け継がれている・・・・)
気分が沈んでくると、そうおもった。
「秋には、久美と絶対に結婚する」
口に出して自分を鼓舞した。
もともと、そのために決意した転属だった。幸運に恵まれて、この保険課に転勤となった。
警戒すべきところもあるが、唐崎は案外好人物なのかも知れない。
過大評価とはおもうが、とにかく自分に好意を持ってくれている。それだけでも、他の職員よりは恵まれているのだ。
吉村は一喜一憂しながら、しだいに保険課外務員のタフさを身につけていった。
保険課に移って半年が過ぎたころ、課長を通して<職域センター>行きを打診された。法人専門の募集チームに誘われたのだ。
いうまでもなく、唐崎の差し金だった。
「やっと集金ができる程度の実力ですよ。法人契約なんて、ぼくにできっこないっスよ」
一応辞退した。
「別に、いきなり契約を取ってこいと言ってる訳ではないでしょう。唐崎君について、今からノウハウを教えてもらったらどうだというのです」
「・・・・考えてみます」
「鉄は熱いうちに打てと言ってたよ」
唐崎の意見だろう。
その一言で、吉村のこころが動いた。格言にめっぽう弱い男だった。
(第十四話)
(2007/04/20より再掲)
ビギナーズラックというか、灯台下暗しというか、主人公に幸運が舞い込んだようです。
おどおどした勧誘ぶりにお客さんの方が乗り気になっちゃって手ぶらで帰すわけにはいかなくなったんですね。
これも一種の感情移入でしょうか。
嬉しいコメントありがとうございます。
会社勤めをされた方は同じような経験をされていたんでしょうね。
特に営業畑は苦労も多い代わりに成果を上げた時の喜びは格別だったでしょう。
取材も一種の営業ですから、うまく話が聞けたときは「やった!」じゃないですか。
しかし細やかな描写が上手いですね。
私みたいな大雑把な人間には驚くばかりです。
これからの展開が楽しみです。