今回のテーマは阿久悠さんの作詞家生活を様々な交遊仲間からの取材や、旅行で訪れ詩の生まれた現場を紹介しながら、その人物の生き方や時代性を浮かび上がらせる構成になっています。淡路島に生まれ野球をこよなく愛した少年が、同い年の天才歌手「美空ひばり」に引きつけられながらも、新しい日本の歌謡曲の方向性をめざし一途に生み出していった名曲の数々が紹介され、とても読み応えのあるものになっています。特にその代表曲の詞のいくつかには、同時代を創造してきた漫画・劇画家たちがコラボレーションし華を添えています。
歌詞は曲があってはじめて完成するものと思っていますが、ここに並べられた歌詞たちはそれだけで詩としての独立感を持っているように思えます。ある意味では曲作りをも意識した構成力を感じさせます。戸倉俊一や三木たかしといった優れた作曲家に恵まれた作詞家人生だったように思いますが、逆にそういう作曲家が作る歌のイメージも方向付ける力のある歌詞だったように思います。
[阿久悠作詞憲法十五条]というものがあるらしく、その中に「個人的なささやかな出来事を描きながら、同時に社会へのメッセージにすることは不可能か?」と書かれています。現代アーティストの歌に通じる普遍性を持っていたのだということを改めて感じました。