車内風景:JR神戸線・住吉→甲子園
江嵜企画代表・Ken
神戸と大阪の間を東西に海岸線に近いところから順番に阪神、JR神戸線、阪急が、お互いとの線路の間隔がせいぜい2キロ前後と狭い間を縫うように、100年近い前から鎬をけずっている。
阪神と阪急が二年前統合したから正確にはJRと私鉄との競合といえる。私鉄がJRと比べて伝統的に料金は高かった。そこへJRが「昼得」という「隠し玉」を武器に使いははじめたことも影響したか、客が私鉄からJRへ流れ、最近、JRの混み具合がとみにひどい。
ところで、神戸の住吉界隈の住人は住む場所によって最寄り駅が微妙に違う。微妙に違うということでは、客筋も違う。JR神戸線は阪神沿線でもないし、だからといって阪急沿線の住人とも微妙に違う。
混み具合が激しくなったJRも、午後1時前後の時間帯に各駅停車に乗ると、街中とはとても思えないほどのんびりした光景にしばしば出くわす。
先日、JR住吉駅から芦屋で新快速に乗り換えるつもりで「各停」に乗った。目の前にこれは絵になると思う情景が目に飛び込んできた。
本来なら芦屋で下りるところを、この日は時間的余裕があり、甲子園までスケッチ出来る時間が取れて幸いだった。
狸寝入りかもしれないが、よく観察するとマスクの二人は仮眠している風に見えた。となりの老紳士はまんじりともせずに新聞を読んでいた。その右隣の学生風の青年は本である。
住吉駅の次は摂津本山である。距離にしてせいぜい2キロだからアッと言う間に着く。「被写体」が一駅で降りられると極めて苦しい。老紳士と青年は芦屋で降りたので4人いれてスケッチが出来た。
マスクの二人は、芦屋、西宮も目を閉じたままだった。ところが、「次は甲子園口,次は甲子園口でございます」という女性の車掌のアナウンスの声が聞こえたのか、さっと席を立って降りた。動作がすこぶる敏捷だった。どうやら二人とも寝たふりをしていた
のかもしれない。
甲子園口駅から乗ってきた若い女性を描き込んでペンを置いた。自宅で彩色してスケッチを仕上げた。(了)