goo blog サービス終了のお知らせ 

伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

悪い夏

2025-03-21 23:53:29 | 小説
 船岡市役所生活福祉課に勤務する26歳のケースワーカー佐々木守は、受給停止に励むようにとの課長の指示を受けて担当の受給者を回るが、受給者を詰問しても抵抗を受けて辞退届を取れない日々を送っていた。そんなある日、同僚で遣り手の宮田有子から、7年先輩の高野洋司が担当の受給者林野愛美を脅して生活保護費のキックバックを受け肉体関係も結んでいるという情報を受け…という展開の小説。
 働けるのに働かずに生活保護を受けている不正受給者が跋扈しており、国民の税金が無駄に使われているという安倍政権以来政権とメディア、ネット民が流布し強調している見方・価値観に基づいた、同情すべき生活保護受給者も、誠実に真摯に困窮者を助けようと精励している職員もまったく登場しない(最も困窮の度合いが高く生活保護を受けられずに自殺する古川佳澄でさえ困窮していないときでも万引きをする常習犯と描かれ共感を得にくくされています)作品です。作者の価値観なのか、そういったメディアやネトウヨが流布した生活保護への偏見に迎合しているのかはわかりませんが、私には志の低さが感じられ読後感の悪い作品でした。


染井為人 角川書店 2017年9月29日発行
横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国が嫌いで

2025-03-20 18:06:28 | 小説
 満員の地下鉄で勤務先のソウルの金融会社への通勤を続けて3年のケナが、大学の同期生で新聞記者になるべく挑戦中の恋人ジミョンと別れてオーストラリアに渡航し、さまざまなバイトをしさまざまな出会いを経て変わっていくという小説。映画「ケナは韓国が嫌いで」の原作。
 韓国の競争社会になじめないなら、韓国にこだわることなく生きやすい場所で好きに生きるという選択肢があるよというテーマですが、それを、弘益大学(芸術系では韓国有数の私学)卒業生で大手の金融会社に勤務していた、つまりトップエリートではないもののそこそこ競争の勝者と見える設定の主人公で、渡航後もソウルに戻ってきたり、他の男とデキた後にもジミョンともよりを戻してみたりという逡巡し揺れ動く展開で、そんなに固い意志で潔癖にやらなくてもいいよという描き方をした、(底辺層やフェミニストではなく)中間層をターゲットにした緩い読み物にしたところがヒットにつながったものかと思いました。
 作者は、元新聞記者の男性、つまりこの作品の中ではジミョンの立場に位置します。そこが作品中のケナの設定、心情、言動にどのように影響しているかは、興味深いところです。


張康明 訳:吉良佳奈江
ころから 2020年1月11日発行(原書は2015年)
 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サーペントの凱旋 となりのナースエイド

2025-02-28 23:58:05 | 小説
 前作「となりのナースエイド」から引き続きジャーナリストの姉の死の真相を追い、姉の死に関係するとみた全身多発性悪性新生物症候群:シムネスの謎とその治療方法と見込む万能免疫細胞:火神細胞を駆使した新治療方法オームスのオペレーションにいそしむナースエイド兼外科医桜庭澪と、前作で外科医師免許を剥奪され海外にわたり3年経った天才外科医竜崎大河が、シムネスの謎に迫る続編。
 医療技術の発展への夢と、巨大な利権が絡むビジネス、医師の使命と責任感、生き様が錯綜する大きな物語です。その大きさ故に、しかしあるかも知れない謀略と偶然・奇跡への予感・懸念も併せ、理念と夢の方に思いが寄せられます。


知念実希人 角川書店 2024年12月2日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

となりのナースエイド

2025-02-28 23:57:00 | 小説
 あらゆる臓器に同時多発的に悪性腫瘍が生じるという奇病に罹患した新聞記者の姉の新聞記者としての活動を続けたいという希望を満たすことができなかったことの無力感、トラウマから、医療行為ができなくなり、元外科医であることを隠して看護助手として勤務している桜庭澪が、勤務先の星嶺大学医学部附属病院のエース外科医竜崎大河と、患者の気持ちへの配慮をめぐって対立したことを契機に竜崎と絡むようになり、姉の死の真相を探り始めるという医療ミステリー小説。
 技術的合理性を追求する竜崎と患者に寄り添うことを目指す桜庭を登場させ、超絶技巧とヒューマニズムを描き、医療とは何か、手術はどうあるべきかなどを考えさせています。
 私には、ブラックジャックとタイガーマスクを合わせたようなテイストに思えました。


知念実希人 角川文庫 2023年11月25日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

早稲女、女、男

2025-02-28 00:40:04 | 小説
 脚本・演出担当の長津田啓士が脚本を書けないため一度も公演したことがない演劇サークル「早稲田チャリングクロス」のメンバー早乙女香夏子の中高時代からの親友で同じ女性専用マンションに住む立教大学の立石三千子、長津田に思いを寄せるサークルのマドンナで日本女子大学の本田麻衣子、香夏子と同居する妹の学習院大学生早乙女習子、香夏子が内定した大手出版社永和出版の営業部のマドンナで慶応大学出身の慶野亜依子、香夏子と卒業旅行のメキシコ行きで一緒になった青山学院大学の青島みなみ、そして早稲田大学→永和出版の早乙女香夏子が語り手の6つの短編連作、なんですが、結局どれもが早乙女香夏子と長津田、あるいは永和出版の先輩の早稲田大学出身者吉沢洋一のことを語っている上、ふつうなら語り手が変わると人物評価が大きく変わる、別の面が見えるのですが、そうでもなく、早乙女香夏子のエピソードが続いているという作品です。
 各大学の特色というか先入観というかが、それぞれの大学の学生・卒業生という設定の者から語られ、そうだなと思う面がありそういう趣向なのですが、男はこう女はこうという議論と似て、もっともらしい故にうさんくさくも、また乗りたくない気分でもあります。
 全体テーマは早乙女香夏子の不器用さ、愚直さ、居場所のなさというところですが、まぁ、なるようにしかならないし、開き直るしかないよねという話かなぁと思います。


柚木麻子 祥伝社 2012年7月30日発行
「Feel Love」連載
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

君のクイズ

2025-02-12 23:49:23 | 小説
 賞金1000万円の生放送クイズ「Q-1グランプリ」のファイナルで対戦した本庄絆が、最終問で問題文が1文字も読まれないうちに正解したことに疑問を持った三島玲央が、本庄が過去に出場したクイズ大会の資料を集め、それを検討しながら番組の録画を再生し、推理をして行く展開のミステリー小説。
 クイズの1問1問を再現しながら、そのときの解答に至る思考プロセスと回答者の人生経験を語る構成・構想は、いかにも「ぼくと1ルピーの神様」を思い起こさせ、好みの問題でしょうけど、同じような趣向であれば先に読んだ(って18年前ですが)「ぼくと1ルピーの神様」のときの方が新鮮味もあり、明るさもあってよかったように、私は思いました。
 終盤、ひねりを入れるなどしてミステリーらしくしているところで印象が変わりますが、そちらのテイストが好きな人には評価されるのでしょうけれど、私はちょっと馴染めませんでした。最初の段階で「ぼくと1ルピーの神様」との対比にこだわってしまったためかと思いますが。


小川哲 朝日新聞出版 2022年10月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ふたりの窓の外

2025-02-11 01:56:57 | 小説
 広い人脈でのコネによる細切れの頼まれ仕事を器用にこなして生活する売れない芸能人塔野壮平こと鳴宮庄吾が不仲だった父の葬儀の日、恋人だった渋井正則が交通事故で死んだ葬儀の席で渋井が大学の後輩と二股をかけ続けていたことを知らされ当の相手から詰られていたたまれなくなって抜け出してきたふつうの事務職藤間紗奈と、火葬場の喫煙室で出会い、渋井が予約していた1泊2日のキャンセルできない温泉旅行に同行することになって…という設定で始まる恋愛小説。
 4つのパートを鳴宮視点と藤間視点で交互に展開し、距離を置いた2人の心理を相互に観察する読み物になっています。すれ違いではなく、相対しつつの焦らしというか、あるいは気長さ、ゆっくりした時間の流れへの志向を味わう作品というべきかも知れません。


深沢仁 東京創元社 2024年11月29日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

地図と拳

2025-02-02 22:48:13 | 小説
 1899年から1955年にかけての中国東北部の架空の邑→都市・李家鎮→仙桃城を舞台に、さまざまな人・グループ・部隊・軍・国がさまざまな思惑で交錯する様子を描いた群像劇。
 時期が飛び飛びでいろいろな人が新登場して視点も変わるので、流し読みでは理解しにくいし、大部(600ページ余り)を読み通しても充実感よりも疲労感が先に立ちました。
 冒頭ではスパイ行為のために潜入した軍人高木の通訳として登場したひ弱な学生だったがそのまま住み着いて頭角を現す細川、細川に見出されて満鉄のために調査に従事するようになった須野と寡婦となった高木の妻の間の子須野明男が全体を通して軸となり、そのまわりで多数の人が失意のうちに斃れ去って行くという構造です。中盤から比較的重用された中国人丞琳(作者はインタビューで戦う女性を描きたかったとも言っているようですが)も、初期には昏い輝きがあるものの後半では輝きを失いいまひとつに感じます。
 共産党の細胞/キャップだったが特高に捉えられて仲間を売り、徴兵されて自分は人を殺すまい殺されるくらいなら撃たれて死ぬと思い定めていたにもかかわらず死の恐怖に敵を撃ち殺し、志と心を折られ続ける中川が、作者にとっては捨て石のひとつくらいの位置づけなんでしょうけど、実に哀しい。中川の「転向」をではなく、それを強いる権力、そのような権力がのさばる社会と時代をこそ許してはならないと思う。


小川哲 集英社 2022年6月30日発行

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サンセット・サンライズ

2025-01-31 01:02:38 | 小説
 趣味の釣を満喫するためコロナ禍でのテレワーク導入を機に宮城県のひなびた町宇田濱の築9年未入居家具・家電完備の空き家家賃月8万円也に移住した従業員3万人の大企業シンバルの資産管理課課長代理36歳の西尾晋作が、家主の宇田濱町役場勤務で空き家対策を担当する39歳の関野百香と絡んでゆく小説。
 映画を先に観て、原作を読みましたが、原作では、映画の盛り上がったシーンの健ちゃんの芋煮会も、熊も、乱闘もなし。淡々と落ちついて進行し、しかしラストは映画ではモヤモヤしたところが原作では一般読者の期待にあっさりと応えています。原作の方がすんなり入りますが、ストーリーの起伏に乏しく地味な感じ。映画はだいぶ盛ったかなという感じです。
 映画では家賃6万円にしていたのは、都内在住以外の人が観ることを考えると家賃8万円で安いとは感じてもらえないというところでしょうか。


楡周平 講談社文庫 2024年10月16日発行(単行本は2022年1月)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

六人の嘘つきな大学生

2025-01-29 00:47:12 | 小説
 人気新興IT企業の新人採用で5000人以上の応募者から勝ち残った6人が、最終選考のグループディスカッションの場にそれぞれの秘密を暴露する謎の封筒が置かれていることに困惑し戦々恐々としながら進めた選考と、その8年後に真相を解明しようとする試みを描いたミステリー小説。
 映画を先に観てその原作を読んだのですが、映画で描かれなかった終盤の存在が、映画を観て「犯人」と「真相」を知っていてもなお、読ませてくれると思いました。映画では、浜辺美波のイメージを守ることが優先されたのか後ろ暗さや悪い感情を見せなかった嶌衣織にも陰の部分が見られてむしろ人間味を感じましたし、何よりも就活や大企業、人事部について相対化するというかそんな大したものじゃないという描きぶりが爽快に思えます。
 総じて映画はわかりやすくまたミステリーとしての見せ方はうまくできていたと思いますが、原作の方が深みというか考えどころが多々あるなと思いました。


浅倉秋成 角川文庫 2023年6月25日発行(単行本は2021年3月)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする