伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

アディクション・スタディーズ 薬物依存症を捉えなおす13章

2020-10-31 15:32:23 | 自然科学・工学系
 国立精神・神経医療研究センター病院薬物依存症センターセンター長である編者が、医師として依存症治療に従事してきた経験から、厳罰一辺倒の日本の薬物政策に疑問を呈し、依存症治療や回復施設の現状、非犯罪化に進みまた道を模索する諸外国の動向などを紹介し、依存症者を孤立させずに回復への道を選択させ回復できるような社会環境を整えることの必要性を論じた本。

 人はなぜ薬物依存症になるのかについて、編者は、薬物使用による快感や刺激(それはむしろ飽きられてしまいやすい)よりも、苦痛が一時的に緩和されることに動機があり、虐待やいじめなどの心的外傷経験を持つ者が侵入的回想により自己がコントロールできない苦痛を生じ突発的な自殺衝動や暴力の爆発といった破壊的衝動が高まるなどした際に、安心して他人に頼れず、「人は裏切るが薬は裏切らない」などという考えを持ち、侵入的回想から意識をそらせ一時的な衝動を回避すべく(それによる依存症、その後の離脱症状の苦痛、周囲の失望等を予期・認識しながらも)コントロールでき自分で説明できる苦痛である薬物使用に走るといったことではないかと述べています(12~25ページ)。この疑問は、まだ解明されていないわけですが、世間で流布されているような快楽を求めて薬物を使用し続けているような薬物使用者イメージを疑ってみることは有益だろうと思います。
 薬物依存症を治療する立場からすれば、依存性や健康への悪影響の点からは禁止されている薬物と大差ないアルコールやタバコには他国よりも寛容でありながら依存性や健康への影響が相対的に低いものでも禁止されるや厳罰が叫ばれる日本社会の状況は、不合理に思えるでしょう。その大仰なまでの威嚇によって初回使用は相当程度阻止されても、刑務所により長くより多数回入るほど再犯リスクが高まり重症度が進む(4ページ。なお、91~101ページの記述はより抑制的)という、依存症予防の効果はあっても治療の効果に乏しい(治療には妨げになっている)実情には、もっと注意が向けられるべきでしょう。
 どちらかといえば、臨床経験に基づきながらもやや理念的にも見える編者の論考よりも、生活困窮者の多い地域での診療、ホームレスへの医療支援の経験から、酒や薬を止めさせることにこだわるよりも目の前の患者の苦痛の原因、症状の緩和をまずしなければならない(酒を止めなければ治療しないなどと言っていられないしそんなことを言っていたら患者が医者の所へ来なくなって病気が悪化する、患者との信頼関係が作れない)し、現実にはむしろ健康不安が減り生活が安定すると酒やタバコの量が減ることが多い、医者は止めさせることにこだわるべきではないし、こだわっていられないという内科医の意見(第11章、184~200ページ)に共感しました。


松本俊彦編 日本評論社 2020年7月25日発行
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ハリネズミは月を見上げる

2020-10-29 22:23:13 | 小説
 不器用で思いをうまく説明できない高校2年生の御蔵鈴美が、痴漢に抗議して逆ギレされて脅されていたのを助けられたのをきっかけに、思ったことをはっきりと言い大人に対しても引かない菊池比呂と話すようになり、2人暮らしの母との関係、幼なじみのイケメン基茅陽介のドロップアウト、ヒロの姉のパワハラ被害等を通じて、成長し、比呂との交友を深めていく青春小説。
 女子高生の思いや生きぐるしさ、大人との間合いといったものがテーマに見えますが、後半、比呂の7歳年上の姉愛衣のパワハラ被害をめぐり、建設会社の企画(デザイン)担当で仕事に悩む愛衣と建築士の父の関係がほとんど描かれないことで、そこがボケていく感じがしました。
 1~4が鈴美の視点からの語りで、それで最後まで行くと思っていたら、5と6は比呂の視点での語りになり、この後は交互とかになるのかと思ったら、7以降は、9の前半と10の途中に比呂の回想が入る以外は鈴美の視点での語りに戻ります。連載小説だし、書いてて気が変わったのかなという印象です。


あさのあつこ 新潮社 2020年8月20日発行
「小説新潮」連載
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密やかな結晶

2020-10-28 23:41:53 | 小説
 様々なものが次第に「消滅」し、「消滅」したものは、存在し人々に知覚はされるものの人々の生活や意識の中で「意味」を失い、人々はそれまで生活上重要な意味を持っていたものが「消滅」してもそのものがない状態に速やかに順応して新たな生活に移行して、かつてそのものが存在したことを思い出さなくなるという「島」に住む「わたし」が、「消滅」したものへの記憶を失わなかった「母」や「R氏」ら異端の存在に親近感を持ち支援したりしながら、「消滅」や「消滅」したものが記憶に残ることを許さない「秘密警察」の「記憶狩り」等の横暴な振る舞いなどに翻弄されつつ過ごす様を描いた小説。
 「消滅」や「記憶狩り」に順応できない、記憶を失わない者、権力・「秘密警察」に対するレジスタンスの側にいる者に対し、記憶が消えないことについて「どうにかしてわたしたちと同じように、あなたの心を薄めてゆくことができたら、そんな所へ隠れる必要もなくなるんですもの」と残念そうに言う「わたし」の言葉(159ページ)の希望のなさが、私には衝撃的でもあり、やるせなく思えました。
 私の目には、権力者に都合の悪い記録や記憶を抹殺し抑圧する社会、権利や自由が次第に制約され、大多数の人々がその抑圧を意識さえできないままに従って行き、闘う者や従順になりきれない者が弾圧され拘禁・殺害される社会を描写しているものとしか見えません(本の帯には「現代の消滅・空無化願望」なんて書いているようですが)。まるっきり現在の日本の政治社会を描いているものと、もうすでにパロディとか皮肉っているレベルではなく感じてしまったのですが、この作品が安倍・菅政権下ではなく、遙か昔の細川政権時代に書かれていることに、作者の想像力を感じました。


小川洋子 講談社 1994年1月25日発行
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精神医学エッセンス[第2版補正版]

2020-10-26 00:02:24 | 自然科学・工学系
 精神医学の教科書。
 大学の教養課程で使用する教科書という感じで、様々なことをひととおり、簡潔に説明しています。説明が簡潔なのが、一見さらっと読めそうな印象も与えつつ、しかし門外漢には、概念が必ずしも理解できていない(いかにも専門用語ということでない言葉でも、ここで使っている意味は必ずしも世間で理解されている意味でもなさそうだったりして)ために、かえって文章が頭の中を滑り通り抜けていく感じで、読んでも自分のものにできていない感じが強く残りました。特に前の方で35ページを割いて書かれている精神医学の歴史は、必ずしもよくわからない概念と名前の羅列で、1人で読み続けるのはなかなか辛い印象です。
 ページ横の注の大部分は人名ですが、文学作品の引用も所々あり、門外漢を少しホッとさせてくれるのですが、著者の好みで引用しているのでしょう。今ひとつ、なぜここでこれが引用されているのかわからないものも多く、専門の概念以上に首をひねってしまうこともあります。やっぱり、読み流すのに気になって落ち着かない…
 Ⅱ(54ページ~)の「いろいろな症状」、さらにⅢ(85ページ~)の「いろいろな病気」あたりからが、一般読者が想定する精神医学の教科書らしいところで、精神疾患の分類や捉え方の最近の変化、検査と治療の概要が読み取れ、勉強になりました(先述の通り、私がどこまで理解できたかは怪しいところですが)。
 「わが国で年間2万数千人の自殺があり、その大半(70~80%)が何かしらの精神障害に関わる」(121ページ)という記述に、ハッとし、考えさせられました。自殺のそんなにも多くが精神障害に起因するのか、貧しさや虐待で追いつめられての自殺はどう位置づけられるのか、その場合でもその苦しみに精神を病むということなのか、他方で自殺をすることは異常だという判断評価がそのような推測評価につながっているのではないか…
 末尾(175~177ページ)にフランス語のレジュメが付いていますが、これが何なのか、何のためなのか、私には説明を見つけることができませんでした…おまえは大学で第2外国語はフランス語選択だったんだから訳してみろって? 勘弁してくださいm(_ _)m


濱田秀伯 弘文堂 2020年8月30日発行(初版は2005年7月)
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宇宙でいちばんあかるい屋根

2020-10-25 00:15:00 | 小説
 3軒隣に住む5歳年上の大学生の幼なじみ浅倉亨くんに秘めた恋心を抱き続ける中学生大石つばめが、亨との間合いに悩みたじろぎつつ浅倉家と亨を襲う不幸な事件に関わり、母親の素行に悩みグレていく同級生の元彼笹川くんや友人の鈴子と奥野っち、そして出て行った顔も覚えていない書家の実の母、パパと再婚した優しいママ/継母に囲まれながら、週2日通う書道教室の屋上で出会った「星ばあ」との不思議な交流を続け、成長していくファンタジー小説。
 冒頭で「ぜったい断言できる。星ばあはおよそ、ばあさんとしてきらわれる資質をすべてかねそなえていた」(7ページ)といきなり紹介される憎々しげで意地悪く意地汚く振る舞う「星ばあ」が、どこか星の王子さまのように、実はピュアで儚げに見えてしまう展開が巧みに思えます。
 しかし、「何十種類ものクラゲ」を展示している水槽がある水族館(76ページ)って、どこにあるのだろう。行ってみたい。


野中ともそ ポプラ社 2003年11月20日発行
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償いの流儀

2020-10-24 00:39:35 | 小説
 周囲にはデイトレーダーと称している訓練で鍛え上げた体を持つ何か裏社会に通じる仕事をしていたことが示唆される独り身の女性西澤奈美が、近所のタバコ屋の70代のおばちゃんが振り込め詐欺でなけなしの250万円を詐取されたことに憤り、振り込め詐欺グループを告発したことから復讐を受け立ち向かうという展開のサスペンス・バイオレンス小説。
 私の好みからは、主人公を無頼で、本人がプロ意識を持ち警戒心を高めている設定にしては「?」部分も強く、謎の作り方、落とし方も含め、ちょっと違和感がありました。
 末尾にはただ書き下ろし小説だというだけで、何かの続編という説明もないのですが、これが何かの続編ではなく、この主人公が登場する初めての作品だとすれば、主人公をめぐる経緯・設定の説明が、あまりに不親切な感じがして、読み終えてから調べたら、「ノワールをまとう女」(2019年、江戸川乱歩賞受賞作)の続編のようです。知らない私が悪いんでしょうね。


神護かずみ 講談社 2020年8月24日発行
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バスを待つ男

2020-10-22 23:53:45 | 小説
 警視庁を定年退職し、再雇用先の東京都交通安全協会も退職して、趣味もなく暇を持て余した元刑事の「私」が、妻に勧められて都内のバス乗り放題の東京都シルバーパスを購入して手当たり次第気の向くままにバスに乗り続けることにし、それが趣味になって日帰りのバス小旅行を繰り返すうちいくつかの謎に行き当たり、それを妻に話すと妻が推理して謎を解くというミステリー。
 元刑事が解けない謎を妻が推理して見せ、その推理を元刑事が語って知人からはその元刑事が謎解きの天才に見えるという、コナンと眠りの小五郎みたいな掛け合わせに、東京の街の情景や歴史のうんちくをちりばめ、そこで読ませる小説です。謎にするネタは軽く浮かれたものから重い事件がらみまで多岐にわたります。前半は軽めのタッチで、それで貫くかと思ったら後半は重いものも混じり、やっぱりミステリーはネタ探しに苦しむよねと、そっちで共感してしまいました。私も、ミステリーを書いてみようと思って、謎にするネタ、トリックの考案で苦しみましたし。


西村健 実業之日本社文庫 2020年4月15日発行(単行本は2017年2月)
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子どもの心の声を聴く 子どもアドボカシー入門

2020-10-21 22:44:37 | 人文・社会科学系
 子どもの人生と生活のさまざまな場面、特に処遇等を決定する場面で、子どもの気持ちと意見を聞き出し、代弁・助言する者あるいはそれを供給・保障するシステムの必要性を説く本。
 外国と日本の子どもが遭遇する事例や制度等を通じて、子どもの声を聴きだし代弁する仕組みが必要だということを述べ続けていて、そのことだけはわかるのですが、それ以上に具体的に著者がどのようなシステムを想定し作り出そうとしているのかが今ひとつ見えません。諸外国の制度の説明も、いろいろな制度が作られていること自体は紹介されているのですが、今ひとつ掘り下げられていない感があります。
 著者は、それこそあらゆる分野、局面での必要性を論じているのですが、では誰(どのような属性の者:弁護士か、ソーシャルワーカーか、臨床心理士か)がそれを担うのか、どこに窓口を置くべきなのか、その規模は…といった提言がまったくありません。著者が2009年から2010年にかけてイギリスで研究した世界で最も先進的な「独立系アドボケイト」(4ページ)も「後で詳しく」述べられているところでも、スタッフ26名とされています(58ページ:ちょっとそこも精密に書かれている感じではないので、別の団体だったりするのかも知れませんが)。日本での具体的なシステムの構築を構想するのであれば、諸外国のシステムをより具体的に紹介し、日本で実現するとすればどのような規模でやるべきなのかを論じるべきでしょうし、昨今、児童相談所への弁護士の常駐が検討され始めていることとどうリンクさせていくのか等にも言及していくことが有益に思えます。どのような場を対象とするのかも、その構想する規模に応じて絞り込んでいった方がいいでしょう。
 そういう実現に向けた現実的な構想や提言が見られないというところが残念に思えました。


堀正嗣 岩波ブックレット 2020年9月4日発行
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最新派遣業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第5版]

2020-10-19 00:02:17 | 実用書・ビジネス書
 労働者派遣の仕組み、法制度と最近の改正、派遣会社の業務と注意点などを専ら派遣会社側の視点で説明した本。
 タイトルにある「カラクリ」という言葉から、内部告発的な、あるいは業界の暗部・恥部等の実態についての記述を期待すると、まったく期待はずれに終わります。派遣会社の実務については、基本的に型どおりの建前が説明されていて、ところどころ法を守らない悪質な業者もいる(それでまっとうな派遣会社も一緒くたにされて迷惑だ)ということが抽象的に示唆される程度です。
 労働者派遣が「労働者供給」とは違うもののように説明し、「誤解する人も少なくない」などと書いています(20~21ページ)。派遣業界の人はそう思いたいのでしょうけれども、職業安定法第4条第7項は、労働者供給を「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」と定義しており、性質から見れば労働者派遣は「労働者供給」そのものです。性質上は「労働者供給」そのものなんですが、労働者派遣は派遣法ができたときに適法とされているから、職業安定法第4条第7項が定義において派遣法の労働者派遣に該当するものは含まないとして、職業安定法にいう「労働者供給」からは除外しているというだけです。それをそもそも違うもののようにいうことは誤りで、それこそ誤解を招く表現だと思います。
 著者は、派遣労働者を「非正規労働者」と呼ぶことを非難し、「不当な差別のにおいを感じます」とまで述べています(186ページ)。派遣労働者は、無期契約でない限り、どれだけ更新を繰り返して長期間働いていたとしても、短く区切られた契約期間が来たときにはいつでも何の理由もなくても雇止めができる、法的には絶望的に不安定な雇用形態です。期間を決めずに雇われたアルバイトよりも不安定な雇用です。「非正規」という言葉がなくなれば、不安定な雇用形態が改善されるわけではありません。「非正規」という言葉を使わないようにすることは、派遣労働者が非正規労働者の中でもとりわけ不安定な、弱い立場にあることを、一つも改善しないままにそこから目を背けさせるだけです。「セクハラ」という言葉で名付けられた故に被害女性が声を上げることができたことを見てもわかるように、「非正規」という言葉を使わせまいとすることは派遣労働者が不安定な雇用の実態を直視して声を上げることを抑え込むものです。
 そういった派遣会社側の思惑・利害と、基本的に建前・きれいごとに終わっているとは言え派遣会社の業務や派遣先・派遣労働者への対応に際して派遣会社が考えていることを知ることができるという点では役に立つかなぁと思いました。


土岐優美 秀和システム 2020年8月6日発行
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ファーストラヴ

2020-10-18 18:56:48 | 小説
 父親を刺殺したとして逮捕されたアナウンサー志望の女子大生聖山環菜について出版社の依頼でノンフィクションを書こうとしている臨床心理士の真壁由紀が、環菜との交流と確執、大学での知人であり義弟でもある環菜の弁護人庵野迦葉との過去と現在を行き来しながら環菜の裁判に臨むという小説。
 幼少期からの性的なトラウマを抱えて、父親との関係、周囲の男との安易でもあり自傷的でもある関係とそれをある場面では他罰的にある場面では相手をかばい自虐的に捉え揺れ動く環菜を、ある種類似のトラウマを持つ由紀が分析し、カウンセリングし、自覚させて行くという展開が読みどころです。
 朝井リョウの解説が「特に男性の読者の中には、『このシチュエーションでこれほどの精神的ストレスが生まれ得るものなのか』『その振る舞いをもってして、同意や好意の表明ではないと言うのか』と、狐につままれるような気持ちになる人もいるかも知れない」(356ページ)と書いているように一般化した挙げ句に男にはわからないという読み方をするのが適切かは、私にはわからないけれど。
 人助けに興味ないという迦葉に対して我聞が「人助けしたいやつはたいてい同情できる人間しか助けたがらない。助けたくない人間まで助けなきゃいけないのが医者と弁護士だ。だから迦葉ぐらい引いてる人間の方が向いてる」という場面(205ページ)。わかるような気もしないではないですが、弁護士ってボランティアじゃなくて自営業者でして、同情できる人間の依頼しか受けなかったら商売にならない/生活できないからイヤでも同情できない人の事件もやらざるを得ません。そういう実情からすれば、少しでも共感力や熱意のあるところから始めた方がいいんじゃないかと思うんですが…
 オチは、大岡昇平の「事件」を意識しているかなという印象もありますが、そういう目で見てしまうと「事件」の方が圧倒的に重みがあるので比較しない方がいいでしょうね。


島本理生 文春文庫 2020年2月10日(単行本は2018年5月)
別册文藝春秋連載 直木賞
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