国立精神・神経医療研究センター病院薬物依存症センターセンター長である編者が、医師として依存症治療に従事してきた経験から、厳罰一辺倒の日本の薬物政策に疑問を呈し、依存症治療や回復施設の現状、非犯罪化に進みまた道を模索する諸外国の動向などを紹介し、依存症者を孤立させずに回復への道を選択させ回復できるような社会環境を整えることの必要性を論じた本。
人はなぜ薬物依存症になるのかについて、編者は、薬物使用による快感や刺激(それはむしろ飽きられてしまいやすい)よりも、苦痛が一時的に緩和されることに動機があり、虐待やいじめなどの心的外傷経験を持つ者が侵入的回想により自己がコントロールできない苦痛を生じ突発的な自殺衝動や暴力の爆発といった破壊的衝動が高まるなどした際に、安心して他人に頼れず、「人は裏切るが薬は裏切らない」などという考えを持ち、侵入的回想から意識をそらせ一時的な衝動を回避すべく(それによる依存症、その後の離脱症状の苦痛、周囲の失望等を予期・認識しながらも)コントロールでき自分で説明できる苦痛である薬物使用に走るといったことではないかと述べています(12~25ページ)。この疑問は、まだ解明されていないわけですが、世間で流布されているような快楽を求めて薬物を使用し続けているような薬物使用者イメージを疑ってみることは有益だろうと思います。
薬物依存症を治療する立場からすれば、依存性や健康への悪影響の点からは禁止されている薬物と大差ないアルコールやタバコには他国よりも寛容でありながら依存性や健康への影響が相対的に低いものでも禁止されるや厳罰が叫ばれる日本社会の状況は、不合理に思えるでしょう。その大仰なまでの威嚇によって初回使用は相当程度阻止されても、刑務所により長くより多数回入るほど再犯リスクが高まり重症度が進む(4ページ。なお、91~101ページの記述はより抑制的)という、依存症予防の効果はあっても治療の効果に乏しい(治療には妨げになっている)実情には、もっと注意が向けられるべきでしょう。
どちらかといえば、臨床経験に基づきながらもやや理念的にも見える編者の論考よりも、生活困窮者の多い地域での診療、ホームレスへの医療支援の経験から、酒や薬を止めさせることにこだわるよりも目の前の患者の苦痛の原因、症状の緩和をまずしなければならない(酒を止めなければ治療しないなどと言っていられないしそんなことを言っていたら患者が医者の所へ来なくなって病気が悪化する、患者との信頼関係が作れない)し、現実にはむしろ健康不安が減り生活が安定すると酒やタバコの量が減ることが多い、医者は止めさせることにこだわるべきではないし、こだわっていられないという内科医の意見(第11章、184~200ページ)に共感しました。
松本俊彦編 日本評論社 2020年7月25日発行
人はなぜ薬物依存症になるのかについて、編者は、薬物使用による快感や刺激(それはむしろ飽きられてしまいやすい)よりも、苦痛が一時的に緩和されることに動機があり、虐待やいじめなどの心的外傷経験を持つ者が侵入的回想により自己がコントロールできない苦痛を生じ突発的な自殺衝動や暴力の爆発といった破壊的衝動が高まるなどした際に、安心して他人に頼れず、「人は裏切るが薬は裏切らない」などという考えを持ち、侵入的回想から意識をそらせ一時的な衝動を回避すべく(それによる依存症、その後の離脱症状の苦痛、周囲の失望等を予期・認識しながらも)コントロールでき自分で説明できる苦痛である薬物使用に走るといったことではないかと述べています(12~25ページ)。この疑問は、まだ解明されていないわけですが、世間で流布されているような快楽を求めて薬物を使用し続けているような薬物使用者イメージを疑ってみることは有益だろうと思います。
薬物依存症を治療する立場からすれば、依存性や健康への悪影響の点からは禁止されている薬物と大差ないアルコールやタバコには他国よりも寛容でありながら依存性や健康への影響が相対的に低いものでも禁止されるや厳罰が叫ばれる日本社会の状況は、不合理に思えるでしょう。その大仰なまでの威嚇によって初回使用は相当程度阻止されても、刑務所により長くより多数回入るほど再犯リスクが高まり重症度が進む(4ページ。なお、91~101ページの記述はより抑制的)という、依存症予防の効果はあっても治療の効果に乏しい(治療には妨げになっている)実情には、もっと注意が向けられるべきでしょう。
どちらかといえば、臨床経験に基づきながらもやや理念的にも見える編者の論考よりも、生活困窮者の多い地域での診療、ホームレスへの医療支援の経験から、酒や薬を止めさせることにこだわるよりも目の前の患者の苦痛の原因、症状の緩和をまずしなければならない(酒を止めなければ治療しないなどと言っていられないしそんなことを言っていたら患者が医者の所へ来なくなって病気が悪化する、患者との信頼関係が作れない)し、現実にはむしろ健康不安が減り生活が安定すると酒やタバコの量が減ることが多い、医者は止めさせることにこだわるべきではないし、こだわっていられないという内科医の意見(第11章、184~200ページ)に共感しました。
松本俊彦編 日本評論社 2020年7月25日発行