伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

サマーレスキュー

2024-09-15 17:08:59 | 小説
 バーチャルワールドを参加者が自由に建設拡大できるコンピュータゲーム「ランドクラフト」に祖父の導きで小学4年生までハマっていたが、ゲームを離れ今では母の勧めでTOEIC受験に励む中学2年生の千香が、幼なじみの巧己から、「ランドクラフト」の伝説の「ログレスの財宝」の謎解きに取り組んでいた探求好きの幼なじみ祥一が失踪したと聞かされ、巧己とともに祥一の家のパソコンで「ランドクラフト」の世界に入り…というバーチャルゲーム小説。
 ゲーム中の登場人物(キャラ)にアーサー王の伝説(アーサー王と円卓の騎士たち)を引いているのが中高年を狙っているのかも知れませんが、中身はまるっきりゲーム小説で、ゲーム好きでないとたぶん読み進めるのがしんどい(読みづらさはないけど読み進める意欲が維持しにくい)気がします。
 初出が「別冊文藝春秋」とあるのを見て、えっ「別冊文藝春秋」ってそういう若者向けのものだっけと調べてみたら、いつのまにか(2015年から)電子小説誌になっていたんですね。むしろそっちに驚き。


二宮敦人 文藝春秋 2024年7月30日発行
「別冊文藝春秋」連載

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スウィンダラーハウス

2024-09-14 21:33:49 | 小説
 脱出口が見当たらない「研修室」に閉じ込められ、ディスプレイ越しに特殊詐欺のマニュアルや名簿を示して指示する道化の看守に追い立てられながら特殊詐欺の掛け子をし始めた、闇バイト応募者3名と闇バイトリクルーター1名、保険の飛び込み営業で入ってしまった1名、食品配達に来て眠らされて送り込まれた1名の計6名と、特殊詐欺の検挙に熱意を示す警察官の攻防を描いた小説。
 軽めのタッチと後半のひねり、黒幕の犯行の動機の切なさで読ませる作品です。
 私は、消費者側の弁護士(詐欺被害では被害者側の弁護士)でもあり、特殊詐欺の特に幹部にはまったく共感するところはなくただ極めて悪質な犯罪者としか思えませんが、何ごとも多角的な視点は大切ですので、こういう作品もあっていいかなとも思いました。他方で、現実的にはほぼあり得ない幻想で特殊詐欺犯への評価をあいまいにするようなことをしていいのかという思いもあります。
 また、全共闘世代でも就職氷河期世代でもなく今どきの若者でもない30代半ばの作者が、全共闘世代やそれより上の高齢者と若者の世代間対立を煽るような作品を書いていることにも、私は違和感というか不快感を覚えました。


根本聡一郎 祥伝社 2024年6月30日発行

 
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箱男

2024-09-13 20:15:29 | 小説
 覗き窓を開けた段ボール箱を被り街中に佇み/座り込み、外界を覗き見つつ箱の中でそれを記録する「箱男」の語りと描写を通じて、見ることと見られること、書くことと書かれることを論じ描いた小説。
 箱男として、元カメラマンのぼく、A、B、偽箱男=偽医者=C、ぼくの父と多数の存在(あと箱を被っていない覗き者としてD少年)を登場させ、他にも断片的な記述・情報・写真等を挿入することで、視点や立場の相対化を図り、主体と客体、現実と主観・妄想、見る側と見られる側、書く側と書かれる側を想起・体感するような作品となっていて、それがどこか観念的でまた不思議な印象を与えているように思いました。
 学生のときに、まさしく箱入りの装丁の単行本で読んだきりでしたが、映画を見たのを機会に文庫本で再読しました。前に読んだときの記憶はもうまったくないのですが、当時は観念的で難しい小説のように感じたものが、今回はより読みやすく思えたのは、文庫本だからか、一応再読だからか、年をとったからか…


安部公房 新潮文庫 1982年10月25日発行(単行本は1973年3月)
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法律事務所のサイバーセキュリティQ&A

2024-09-12 21:45:41 | 実用書・ビジネス書
 日弁連が定めた弁護士情報セキュリティ規程の施行に合わせて、中小法律事務所がどのような対策をすべきかを解説した本。
 メールのセキュリティの項目(第3章)について、インターネットのメールはさまざまなサーバーを(ランダムに)経由するので途中で誰に見られるかわからないとか言われて業務にメールを安易に使うなとか、全部暗号化しろとか言われるのかと戦々恐々として読みましたが、基本は誤送信や間違った(他の事件の)添付ファイルを送ってしまうという人為ミスと受信メールからのマルウェア感染ということでした。そもそもメールは誰に読まれるかわからないということまでは、まだ気にしなくてよさそうでホッとしました。ファイルをなんでもパスワード保護して送って来る人が時々いて、まぁその時はいいのですが、時間が経って開こうとしたら、当然その頃にそのパスワードなんて覚えているはずもなくて開けずに往生し、頭にきます。パスワード保護や暗号化が標準となる日ができるだけ来ないことを希望しているのですが。
 多要素認証をいろいろな場面で勧めていますが、例えば現在裁判所が弁論準備期日等のWeb会議やファイル送信に利用しているTeams(マイクロソフト)は、サインインに基本スマホへのコード送信による多要素認証を強制していて、しかも前回のサインインから24時間経つと再度多要素認証なしには入れなくなっています。セキュリティは高くなったのでしょうけれど、端的に言って面倒ですし、スマホが手許にないとWeb会議にも入れない(例えばスマホを自宅に置き忘れたら裁判期日に参加できない)ことになります。スマホに支配されてる感が強く、私はとってもいやな気持ちになります。
 パソコン内のファイルが勝手に暗号化されて使えなくなるとか持ち出されるとかいうランサムウェアの感染は、さすがにそれは困ると思いますが、その感染経路の多くがリモートワーク用に通信のセキュリティと匿名性を高めるために導入したVPN(Virtual Private Network)機器の脆弱性(セキュリティホール)だ(127~129ページ)というのは笑えます。
 セキュリティのためにあれをしろこれをしろというので、せっかくの利便性が失われ、挙げ句の果てにそれがかえってセキュリティを減じるハメになることさえあるというのはどうしたものかと思います。
 最終的には、サイバー攻撃を受けたら素人にはどうしようもないので業者に頼もう、その費用は弁護士賠償責任保険にサイバー保険が自動セットされているからそれを使おうということなので、まぁそのときはそのときということになるのでしょうけど。


八雲法律事務所編著 中央経済社 2024年7月10日発行
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常磐団地の魔人

2024-09-11 21:16:10 | 小説
 1990年代に建てられ、3階の窓から落ちた小さな子どもが無事帰還した、風に飛ばされたはずの帽子がドアノブに掛かっていたなどの都市伝説がある常磐団地の3号棟に住む、1年生と2年生を小児喘息故に特別支援学級で過ごし3年生になって通常クラスに編入した気の小さな今野蓮が、同級生と連みながら、高学年の悪ガキグループに憧れ、球技をする子どもを目の敵にする管理人と戦うなどする日々を描いた小説。
 冒頭のいじめや孤立などを怖れる蓮の様子から予想されるのとは違い、けんかはするけれど基本明るいこどもたちの昔風のテイストの読み物です。古い団地の光景と合わせて、子どもたちを描きながらむしろ中高年受けするノスタルジー小説とみるべきかも知れません。


佐藤厚志 新潮社 2024年7月30日発行
河北新報連載
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あの子はなぜ荒れるのか 発達障害・アタッチメントとトラウマインフォームドケア

2024-09-10 23:04:47 | 実用書・ビジネス書
 幼稚園から中学生の「荒れた」子どもの様子とそれに対応した教師の13事例を紹介して解説し、著者らの考える子どもの荒れの原因と支援の課題を語る本。
 この本の大部分を占める事例報告が読みどころで、これを読んでいると、周囲の者の迷惑を顧みず逸脱する子ども1人に寄り添い理解しその荒れを治め成長につなげるのに教師がどれほどの献身的な努力を要するのかがよくわかり、その大変さに感心するとともに溜息が出ます。教師のみならず、医療現場や介護現場など、人と向き合う仕事には、そういう人との付き合いが付きもので、苦労は避けられないものとみられます。弁護士の仕事も、ある意味同じ面がありますが…
 紹介されているのは当然に成功例だけで、その陰には、同じくらいとかあるいはもっと苦労を重ねながらうまく行かず徒労感ばかりが残るケースが山積なのでしょうね。
 事例に引き続き著者による「解説」がありそこで教師の実践が賞賛され、あるいはなお足りないと問題点が指摘されています。こういった記述を見て、良心的な教師はもっと頑張らないとと思うのでしょう。そういった教師たちの姿は美しいかも知れませんが、教師の個人的な献身・自己犠牲を求める風潮は教師らに過労死への道を歩ませることにもなると思います。
 分類・研究することが、科学的で効率的な対応につながるということなのでしょうけれども、報告を読んだだけとみられる著者が、荒れる子どもたちやその親などを発達障害だろうなどと決めつけて行く「解説」に、私は不快感を持ちました。「隣のひとが消しゴムを忘れているから、貸してあげてね」と担任からいわれて自分の消しゴムを定規で半分に切って渡したというのをASD(自閉スペクトラム症)の特性が顕著にみられる(154ページ)って。食べ物をシェアするならふつう半分にして渡すでしょう。その子はそれと同じ感覚で自分のものを分けてあげたんじゃないでしょうか。私にはこの著者の言い草の方が異常に見えました。


楠凡之、丹野清彦 高文研 2024年7月10日発行

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もっと調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス2

2024-09-09 23:43:30 | 実用書・ビジネス書
 国会図書館でレファレンス業務を担当していた著者が、調査業務の経験とコツをメールマガジンに連載していた記事を取りまとめた本。「調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス」の続編。
 前著出版直後に国会図書館(NDL)のデジタルコレクションが大幅に拡充されたことを受けて、主としてこの「デジコレ」を活用した調査方法を説明しています。その他も、著者の経験によるところのため国会図書館の人文リンク集など、国会図書館関係のツールが重用されます。
 そして、ネットでの調査に重点を置いているとはいえ、この本で考えている調査は、調べたいことが書かれている文献をいかに探すかということが中心なので、探した結果その文献は図書館で閲覧するか書店(古書店等)で購入するということが想定されています。その意味でネット調査で最後まで終わらせたいニーズにはあまり応えていないと思います。
 この本の第12講(158ページ~)では、あくまでも研究・執筆参考用と断り(159ページ)、セクハラで聞いてくるユーザーがいる(173ページ)のでそういうやつは自分で探せという意味を込めてということですが、風俗本(成人向け図書)の探し方を熱を入れて書いています。そこが読みどころかも…


小林昌樹 皓星社 2024年6月29日発行
「調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス」は2023年3月18日の記事で紹介しています。
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尿もれ・頻尿・夜間頻尿 尿トラブルの治し方

2024-09-08 22:33:22 | 実用書・ビジネス書
 泌尿器科医の著者が、尿もれ・頻尿・夜間頻尿といった尿トラブルについて予防改善のためのトレーニングや生活習慣などの対策等を解説した本。
 尿トラブル対策には、加齢や生活習慣によって衰えた骨盤底筋(尿道と肛門(女性の場合膣も)を締める筋肉)のトレーニングが大切というのですが、排便時の強いいきみが骨盤底筋を衰えさせる一因になる(126ページ)というのにビックリ。筋肉を使うのはいいかと思ったのですが、考えてみたら肛門を無理にでも開けようとするのですから締める筋肉にはダメージになるのですね。それで締める方の筋肉も鍛えられるというわけにはいかないと。
 男性ホルモンのテストステロンの減少が頻尿や夜間頻尿につながる(134ページ)とのこと。私はたぶんテストステロン多めの人生を送ってきた(ひげ濃いし、髪の毛少ないし、薬指長い)と思うのですが、近年は相当な頻尿・夜間頻尿の傾向があります。もうだいぶテストステロンの分泌は減ったのでしょうね。


伊勢呂哲也 学研 2024年7月16日発行
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夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく Another Stories

2024-09-07 22:24:21 | 小説
 「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」の登場人物が主人公丹羽茜とはの別の視点から当時(茜と青磁が高校2年生)を語る4編と、5年後(茜と青磁が大学4年生)を描いた3編からなる番外編短編集。
 美術部の1年生望月遠子の陸上部の羽鳥彼方への思いは、「だから私は、明日のきみを描く」で1冊書いているので、ちょっと今さら感があり、5年後の妹玲奈の話が可愛くていい感じですが当時の玲奈の話もあればよかったかなと思います。
 番外編は、本編を何冊か書いてから書くものだと思うのですが、本編が映画化される(2023年9月公開)ことになって慌てて書いたという事情のようです(あとがき:214ページ)。「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」のスピンオフ作品とされていた「だから私は、明日のきみを描く」と「まだ見ぬ春も、君のとなりで笑っていたい」も巻末広告でシリーズ第2弾!!とシリーズ第3弾!!と紹介されています。売りたい出版社の意向と読みたい読者のニーズが一致すればそれでいいんでしょうけど。


汐見夏衛 スターツ出版文庫 2023年7月28日発行
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まだ見ぬ春も、君のとなりで笑っていたい

2024-09-06 23:35:52 | 小説
 「だから私は、明日のきみを描く」で羽鳥彼方にフラれ、望月遠子と仲直りしつつも2人の姿を見ると嫉妬してしまう失意の広瀬遥が、誰もいないはずの小さな砂地「桜の広場」で声を上げて泣いていたところに桜の木から降ってきた声を失った天使のような青年芹澤天音に惹かれ…という青春恋愛小説。
 話せない男と進学校で落ちこぼれ気味の女という設定ではありますが、美男美女(第一印象が天使みたい、なんて綺麗なんだろうという男と人形のように可愛い女)という設定でもあり、やはりイケメンに限る、かとも思ってしまいます。
 この作品のテーマは、一言で言えば「Chenge」「Yes , We Can」だと思います。まるでバラク・オバマの選挙キャンペーンのように。それだけに、それぞれに背負ったものは重くても、わりと明るく読める印象です。


汐見夏衛 スターツ出版 2019年2月25日発行
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