伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

青春とは、

2021-08-28 22:02:16 | 小説
 昭和33年生まれで現在は東京に住むスポーツジムのインストラクターの乾明子が、シェアハウスの自分の部屋を掃除していて見つけた昔のものを見て滋賀県の公立高校時代の想い出にふけるという設定の短編連作。
 現在の方は、話がカタツムリもビックリなほど進まず、この現在の設定は何のためにあったのかと思いました。
 海原雄山もかくやと思わせる(作者、これ美味しんぼからイメージしたんでしょうね)厳しいというか身勝手な父親の支配下にあったという点はさておき、作者の1学年下で大阪の公立高校で過ごした私には、関西弁の感覚、当時の流行や世相が、実に懐かしくハマります。まぁ、秋吉久美子への憧れはともかく、明子が犬井くんから「ふつうの女の子が正しいと思うことを妥協しないでやってきたらここまで来ただけなんや」(46ページ)といって渡された本が、私には「20歳の原点」かなぁと思えたところが「わが愛わが革命」(重信房子)というのが、わずか1学年ながらに世代の違いを感じてしまいました。もっとも、出版時期は「20歳の原点」の方が古いのですが…


姫野カオルコ 文藝春秋 2020年11月20日発行
「オール讀物」連載
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光まで5分

2021-08-26 23:17:07 | 小説
 生まれ故郷の北海道東部に母をおいて15の歳に飛び出し那覇に流れてきて路地裏の「竜宮城」で春をひさぐ38歳のツキヨが、客に紹介されて訪れた元バー「暗い日曜日」で隠遁している闇歯医者「万次郎」と薄幸の青年ヒロキのところに転がり込み、訳ありの2人の生きようを眺める小説。
 その住む世界から抜け出せない宿命感というよりは、本気で抜け出したいと思いもがくわけでもない安住感の方が勝っているような、そういうあたりが基調になっていると思いますが、無駄に暴力的な場面がなじめませんでした。無駄に性的な描写の方が多かったですが、こちらは雑誌連載のサービスなんでしょう。


桜木紫乃 光文社 2018年12月20日発行
「小説宝石」連載
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人生後半をもっと愉しむフランス仕込みの暮らし術

2021-08-25 20:49:38 | エッセイ
 20代後半から40代前半の20年をフランスで暮らしその後20年近く東京(神楽坂)に住む著者の生活、ファッション、料理などについてのエッセイ。
 基本的には好きなように生きましょうという、著者の話のどこまでが「フランス仕込み」でどこまでが著者の個性というか好み・信条なのかはわかりませんが、捨てなくていい、「終活」なんぞしているヒマがあるなら今を愉しもうという提案で始まるのが、ホッとします。
 流行を追わず、モードは芸術なんだから観るものと弁え、自分が着るものは自分に似合う自分が気に入ったものを長く着続けようというのも、ファッションに無頓着で楽なスタイルが一番(単にものぐさなだけ)の私は、ホッとします。
 5分間クッキングのブイヤベース(106~109ページ)とか、バゲット(いわゆるフランスパン)に板チョコを挟んだだけのバゲット・オ・ショコラ(134~137ページ)が、とてもおいしそうに紹介されているのを見ると、やってみたくなります。
 基本は著者が自慢話や好きなことを書いている本なのですが、どこかホッとしたりやってみたくなったり、好感度の高い本でした。


吉村葉子 家の光協会 2016年6月1日発行
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鳥がぼくらは祈り、

2021-08-23 00:16:26 | 小説
 中学生のときからつるんでいる熊谷在住の高校2年生のぼく、父親が自殺して1人住まいで映画を撮るといってカメラを回し続ける高島、漫才コンビでデビューするという池井と山吉の4人組の過ごす日常に池井を襲ったできごとからの展開を加えた小説。
 一貫して「ぼく」と記述される「ぼく」は当初語り手であったのですが、いつのまにか「ぼく」の語りで他の3人の内心や過去の記憶が記述され、さらには「ぼく」がいない場面で他の3人が「俺」を主語に語るようになっていきます。山吉が高島が撮ったビデオ映像を見ながら「自分から抜け出して、自分ではない他人の肉体を通していつも見ている経験している世界を覗くことに好奇心が働いた。自分が自分から抜け出せないことがかえって苛立たしく感じられるほどだった」(96ページ)と思うところに象徴されるような人物間・友人間の境界の超越、幽体離脱のような実験が、テーマなのかと感じられます。同時に、過去の自分、さらには未来の自分との思いを重ね、時空を超えた想念の行き来を試みているのかなとも思えます。
 「鳥がぼくらは祈り、」という日本語のルールを無視したタイトル、まぁ「モーニング娘。」とかいうネーミング以来、コマーシャリズムでは何を見ても驚かなくなりましたが、にも表れているように、独自の文体が、否応なく目に付きます。句点や改行がいかにも不自然に唐突になされていて、作者としては意図的であり推敲しているのでしょうけれども、文章の構成やつながりをろくに推敲することもなく、口述筆記で書かれたような、ただ息継ぎで句点を打ったり改行をしているような文章が何よりも気になり、作品としてのストーリーや展開など二の次に思えて、短い作品なのに読み続けるのが苦しく思えました。
 話法というか語りのスタイルや文体についての実験小説という感があり、そちら方面の関心を持てればいいのでしょうけれども。


島口大樹 講談社 2021年7月7日発行
群像新人文学賞受賞作
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Phantom

2021-08-22 00:19:08 | 小説
 外資系の食品会社の千葉工場で経理畑の事務職として働く32歳の華美が出費を切り詰めて配当中心の長期株式投資での財テクに励む様子と、同僚のセフレの直幸が出費をケチって無駄に時間を使うより現在の楽しみを優先すべきと言う様子、さらには直幸がカルト集団にはまっていく様子を描いて、お金を貯めることの意味、使うことの意味などを考える小説。
 小説自体は、後半、オウム真理教めいたカルト集団が中心になっていって、お話としては展開させて盛り上げてるんでしょうけど、いかにも借り物っぽくて急速に興味を失いました。むしろ、1985年生まれ30台半ばの作者が、オウム真理教のみならず連合赤軍事件とかにこだわりを示すのはなぜということに興味を惹かれてしまいます。
 38歳のサーファー女優というのが、繰り返し話題になるのですが、これは作者の深キョン推しなんでしょうか。この作品が初出の「文學界」に掲載された翌月に、適応障害での活動休止が発表されたのは、作者とともに悲しむべきなのでしょう。


羽田圭介 文藝春秋 2021年7月15日発売
「文學界」2021年5月号
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風よ僕らの前髪を

2021-08-21 22:26:44 | 小説
 現役を退いた元弁護士立原恭吾が早朝犬を散歩中に立ち寄った公園で絞殺され、妻の高子から、大学在学中に司法試験に合格した養子の志史を疑っている、志史を調べて欲しいと依頼された恭吾の甥で一時期探偵事務所の手伝いをしていた若林悠紀が、志史のアリバイを調べ周辺と過去を調査するうちに…という推理小説。
 語り手の若林悠紀のトラウマがやや消化不良のままに残されているのは、世の中謎はきれいにわかるもんじゃないよということなのか、続編のために残したのか、本筋の謎解きよりそちらが気になりました。
 同業者として、弁護士の描かれ方に着目してしまうのですが、やはり弁護士は人格的にはよくは描かれず、世間ではそういう印象なのかなと感じてしまいます。


弥生小夜子 東京創元社 2021年5月14日発行
鮎川哲也賞優秀賞(佳作)受賞作
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植物のいのち からだを守り、子孫につなぐ驚きのしくみ

2021-08-19 21:53:24 | 自然科学・工学系
 植物が自らの命を長らえ、繁殖する様子と仕組みについて解説した本。
 植物が他者との交配によって多様性のある子孫(種)を作る仕組みとして、1つの花の中のおしべとめしべが熟する時期が違う(雌雄異熟:そのためめしべは別の花の花粉を受粉し、おしべの花粉は別の花のめしべに付く)、自家受粉の場合はめしべに付いた花粉は花粉管を伸ばせない(自家不和合性)などがあるそうです(132~138ページ)。花の構造を見ると、自家受粉の方がふつうに起こりそうですが、そういうことがあるのですね。
 もちろん、すべての植物で、他者との交配が支配的というわけではなくて、花がしおれるときに自家受精する仕組みになっている植物(他者との交配ができないときには自家受精して種を作るという仕組み)や、最初から自家受精する仕組みの花、単為生殖や無性生殖をする植物も多数あると説明されています(143~167ページ)。人間が食料として栽培するものでは、接ぎ木や球根栽培などの無性生殖が利用されることが多いのだそうです。要するに他者と交配するとせっかく品種改良で人間にとって都合のいい性質を揃えているのに、それと違うものができてしまうからです。チューリップを種から栽培すると栽培に時間がかかる上に自家不和合性があるので自家受粉できず花の色や形等がバラバラになってしまうので、種ではなく球根から栽培する、イチゴを種(イチゴの表面にあるつぶつぶが「果実」で、種はその中にあるそうです)で育てるとやはり味が違うものになってしまうので、匍匐茎(ランナー)と呼ばれる茎を採ってそれを植えて育てるなどが紹介されています(162~167ページ)。
 近年の私の好物のキウイフルーツについて、雌雄異株で(129ページ、140~141ページ:そうすると、商品としては同じ味を出し続けるのは何か工夫がいるのでしょうね)、タンパク質を分解するアクチニジンとシュウ酸カルシウムの針状の結晶によって虫等にたべられることを防いでいる(だからたくさん食べると舌がチクチクするって。私はそういう思いをした覚えがないのですが・・・舌が鈍感?)(107~109ページ)ことが説明されています。興味深いところです。
 進化論がらみの話を書いている本の多くで見られるのですが、植物が自分の意思でそうしているとかそういう戦略を持っているという類いの表現が多く見られます。「果実をつくる植物たちは、『動物に果実を食べてほしい』と思っているはずです。そのために、おいしい果実を準備するのです」(58ページ)、「いろいろな性質を持った子どもをつくるために、オスとメスに性が分かれた多くの植物は、自分のメシベに他の株に咲く花の花粉をつけようとします」(131ページ)などなど。子どもが生まれるに際しての突然変異で様々な性質の子どもが併存する中で、生存と繁殖に有利な性質を持った者が次世代で多く子孫を残し、結局、現在そういう形質の者が生き残り繁栄しているというのが進化論の説明のはずで、生物個々の意思やましてや集団的意思のようなものによって左右される話じゃないと思うのですが。


田中修 中公新書 2021年5月25日発行
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移民の世界史

2021-08-18 01:36:52 | 人文・社会科学系
 人の移動をテーマとしていくつかのトピックを論じた本。
 「移民の世界史」というタイトルから、移民や難民の歴史を体系的に学習できる本と思い込んで読み始めました(東京書籍に教科書出版社のイメージがダブったこともあります)が、体系的・網羅的にはなっておらず、著者の好みでエピソードをつまみ食い的に並べたという印象です。それはそれで思いもかけないテーマにも出会えていいという面もありますが。
 「世界の島の約80%は東京、ジャカルタ、ピトケアン島を結ぶ三角形のなかにおさまっている」(36ページ)という言葉(他の文献の引用ですが…)が、実は一番印象に残ったかも。移民のエピソードではありませんが。
 移民・難民のテーマと並べてリタイアメント移住や観光旅行の章を置き、気候変動による移動・台風被害による避難を紹介しています。そういうものも人の移動としてテーマにするのなら原発事故による避難や核実験による居住禁止なんかもテーマに挙げればいいと思うのですが、そこにはまったく目が向かないようです。


原題:Migration : The Movement of Humankind from Prehistory to the Present
ロビン・コーエン 訳:小巻靖子
東京書籍 2020年5月22日発行(原書は2019年)
 
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法解釈の方法論 その諸相と展望

2021-08-16 23:56:23 | 人文・社会科学系
 法解釈について、各分野の学者が自己の専門分野での過去の論争を紹介したり最高裁判例等が取っていると見られる手法や態度を分析するなどした論文を並べた本。2018年の民商法雑誌の特集に掲載された論文6本(法学全般・法哲学、民法、行政法、商法、知的財産法、国際司法)に追加して経済法(実際は独占禁止法)、刑事訴訟法、民事訴訟法、労働法、租税法、刑法、憲法の分野での論文を掲載しています。
 それぞれの法分野での法解釈の手法の違いが読めるという趣向かと思いましたが、それぞれの法分野での論争の歴史の違いと、それ以上に執筆者の思考と力の入れ方ないし分析の程度により、かなり向いている方向も読みやすさ・読み甲斐もバラバラに思えます。
 論争史が長い民法は、ほぼ学説論争史に尽き、誰が何を言ったの紹介で終わっていて、裁判所の解釈の分析や学説の論争が裁判にどう影響したかには届いておらずそこは読めません。逆に法解釈論争が熟していない刑事訴訟法は、法解釈論争を客観的に解説しようという姿勢が見られず著者自身の主張を正当化し対立する学者への批判に終始していて、法学者の内部ではそれに興味を持てるのかも知れませんが部外者の目にはコップの中の論争を一般向けに出版されてもという戸惑いを感じます。これらは、かなり学者さんの業界内向けのもので、業界外の人が読むのはかなりつらいかと思います。
 多くの論文では、法解釈の手法・学説は、文理解釈か政策判断・目的的解釈かというような対立軸で論じられているように見えますが、文理解釈が強く要請される租税法(租税法律主義)、刑法(罪刑法定主義)の分野では、文理解釈から離れられるか自体がポイントになって最高裁判例が分析され、労働法では労働法の独自性(民法等の市民法法理との乖離)を示すかあくまでも(同じことを)市民法の法理によって導けるかがポイントとされて最高裁判例が分析されています。そういう学説対立よりも判例分析に重点が置かれた論文が、学者でない私には読みでがありました。最高裁判例の行政事件での解釈手法を、文理解釈、それが妥当でないときに趣旨目的解釈、それでも妥当な結論を導けないときに上位法適合的解釈、最後の手段として立法過程史解釈が取られている(87~88ページ)として判例分析をする行政法の論文が、意外にも、私には最も興味深く読めました。
 まぁ、そのあたりの評価は、私が弁護士だからで、法哲学や法社会学が好きな人はもちろん別の評価をするのでしょうけど。


山本敬三、中川丈久編 有斐閣 2021年3月25日発行
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眠れないほど面白い『枕草子』 みやびな宮廷生活と驚くべき「闇」

2021-08-14 22:48:06 | 人文・社会科学系
 予備校講師による枕草子の解説・学習のお勧め本。
 著者が選んだ段を、「超現代語訳」、解説、原文、現代語訳を並べ、最後に登場する言葉や風習などの「ワンポイントレッスン」を置く構成で解説しています。くだけた「超現代語訳」が、売りというかアイキャッチなのでしょうけれども、その点では、その昔「桃尻語訳枕草子」(橋本治)というもっとぶっ飛んだ本が出ているので、新鮮さを感じられませんでした。枕草子でいうと、「はしたなきもの」…といったらあんまりでしょうか。「超現代語訳」を最初に置きながら、原文の後にもう一度現代語訳を配しているのは、くどいようにも見えますが、あくまでも冒頭の「超現代語訳」はつかみで、その段に興味を持ってもらうだけのものと位置づけ、原文と現代語訳を読んで欲しいというのが目的なんでしょうね。原文を読んだ後、やっぱりその次に現代語訳があるのを続けて読もうとわりと素直に思えました。その点、枕草子自体を読ませようという予備校講師の術中にはまった感じです。
 タイトルの「眠れないほど面白い」はさすがに無理な印象です。シリーズタイトルだから仕方ないのでしょうけれども。サブタイトルも「みやびな宮廷生活」の方はいいですが、「驚くべき『闇』」はどこに?という感じがします。
 137段、山吹の花びらに「言はで思ふぞ」と書かせ給へるってどうやって書くのと思う。極細筆?墨はちゃんと乗るのかとか、気になります。
 私はなぜか、枕草子というと3段の「舎人の顔のきぬもあらはれ、まことに黒きに、白きものいきつかぬ所は、雪のむらむら消え残りたるここちしていと見苦しく」が印象に残っているのですが、そこは選ばれていませんでした。数少ない知っている段の解説がないとちょっと寂しい。


岡本梨奈 三笠書房(王様文庫) 2021年2月20日発行
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