伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

養老先生と虫 役立たずでいいじゃない

2024-08-28 22:04:34 | エッセイ
 解剖学者の著者が、ライフワークとして続けている昆虫採集、特に「ゾウムシ」の採集とそれをめぐる蘊蓄、ラオスでの採集経験などを綴ったエッセイ。
 虫をめぐる話がもちろん中心なんですが、その中で触れられるちょっとした着想、例えば「日本語は色に関する語彙が豊富な言語だったが、今では単純になってしまった。自然と縁が遠くなってきたからであろう」「かって美しい自然を見ていたから、日本人は色彩の美に対する感受性が高かったのだと信じる」(27~28ページ)とかに感心します。
 自分の経験では想像できない、アシナガバチに刺されて景色が白黒になったとか、天井の電気の傘の模様が虫に見えたとか、眼鏡が灰皿に見えたとか(154~158ページ)も、興味深く思えました。


養老孟司 ヤマケイ文庫 2023年8月25日発行(単行本は2015年7月)
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ハマれないまま、生きてます こどもとおとなのあいだ

2024-08-20 22:42:45 | エッセイ
 「こども」と「おとな」のイメージや期待されるありようからこぼれたはざまのような存在(3ページ)と自己規定する子どもであることにも、大人になることにも、大人であることにもただただ絶望している(11ページ)、不登校で16歳の誕生日に自殺未遂した(22~27ページ)著者が10代の読者に向けて自分が感じてきたことしてきたことを語る本。
 自殺未遂の直後に、仕事から帰ってきて発見した母が泣きながら「お願いだから死なないで」というのに母を泣かせたことに自分のパワーを感じてしまった(105~107ページ)とか、幼稚園時にジュリーの色気(エロさ)を好きになりそのことに恥ずかしさ・後ろめたさを感じていた(75~81ページ)とかを挙げ、そういったことも含めて自分を否定するのではなく神に包み隠さずに話して安らぎを得た(149~151ページ)と語っています。さまざまなことで傷つき卑下している子どもが自分を否定しないで生きて行こうと思い直す機会となるものが多くあることはいいことだと思います。ただ著者の場合はということではありますが、また宗教の問題点も強調してはいるのですが、フェミニズムとキリスト教に救いを求める帰結は、10代の読者にどのように受け止められるのでしょうか。


栗田隆子 創元社 2024年5月20日発行
シリーズ「あいだで考える」
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母ではなくて、親になる

2024-08-17 21:24:29 | エッセイ
 経済力も生活能力も低い「町の本屋さん」で働く書店員と結婚した作家が妊活の上37歳で子どもを産み、赤ちゃんが1歳になるまでを書き綴った子育てエッセイ。
 世間でありがちな決めつけを嫌う著者の夫婦像、親子像を読むべき作品で、それはそれで読む価値を感じるのですが、私は、その端々に滲む作家としての著者の愚痴の方に興味を持ってしまいました。芥川賞に5回落選し、もう1回候補になると最多候補作家タイになる(141ページ)という話の中で、「メリットを期待して候補にしてもらったのは自分だ」(143ページ)って。芥川賞の選考過程は非公表ですが、候補になるかどうかは作家が決められるのか、作家の意向が反映するのか、謎だし、興味深いところです。このエッセイを書いている時期に「美しい距離」という自著を出版したら驚くほど売れなくて(202ページ)と嘆いています。「美しい距離」、いい作品だと思い、私はベタ褒めしたんですけど(2018年3月21日の記事)。まぁ、図書館で借りて読むので売上には貢献していない私が賞賛しても効果はないか…


山崎ナオコーラ 河出文庫 2020年3月20日発行(単行本は2017年6月)
Web河出連載

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この三日月の夜に

2024-08-11 21:28:51 | エッセイ
 おかっぱ黒髪の日本人モデルとしてパリで見出されてトップモデルとして活躍した山口小夜子(2007年没)の生前の書籍や雑誌への寄稿、インタビューなどを切り貼りして構成した言葉集。
 美容・メイク関係の章(76~87ページ)だけ具体的/実用的?な文章が続いていますが、それ以外は短めの印象重視の切り出しでテーマとの関連もあいまいなものが多く、流し読みながら気になるフレーズを探すような本かなと思いました。
 「服の主張をまず聞いてみる」(115ページ)、「自分を一瞬『無』にして『どう着てほしいの?』って服に聞くと、フッと服が言うのね。『もっと手を広げて袖を見せてほしい』とか」(123ページ)、「私は地球上にあるものなら何でも着られるとおもう。光でも木でも飛行機でも壁でもビルでもテレビでも電気でも黒板でも何でも着れるという自信がある」(121ページ)などの発言が私の目を惹きました。その道を究めたというかそれを生業にしている人の見方、感覚にはやはり独特のものがあるのだなと思いました。


山口小夜子 講談社 2024年6月25日発行
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ココロブルーに効く話 精神科医が出会った30のストーリー

2024-07-20 22:06:34 | エッセイ
 精神科医で産業医の著者が診療や相談で出会った事例を紹介し感想等を述べた本。
 統合失調症と診断された妻が失踪し海で溺死体として発見された夫が8歳の娘に妻/母の死亡やその原因を伝えることができずに長らく思い悩む様子(47~55ページ)や、過敏性腸症候群を抱えた受験生に寄り添う幼なじみ(71~80ページ)など、ほろりとくるエピソードが味わい深く思えました。
 また、急に話せなくなり歩けなくなった認知症患者を救急外来の医師は認知症のせいだと判断したが、不審に思った著者が診ると話せないのは顎関節脱臼を起こしていたため、歩けなくなったのは下痢が続いて体内のカリウムが排出されすぎたことによると推測される低カリウム血症とわかったというエピソード(137~143ページ)には、先入観の怖さ、医師という専門家でもそういう事態に陥るという怖さを実感しました。


小山文彦 金剛出版 2024年4月15日発行
「ヨミドクター」連載
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ホントのコイズミさん NARRATIVE

2024-05-17 23:04:27 | エッセイ
 ポッドキャスト番組「ホントのコイズミさん」から脚本家(宮藤官九郎)、ポッドキャスター、書店経営者、哲学者をゲストに迎えた回を出版した本。
 1冊目のYOUTHと2冊目のWANDERINGは、基本的に書店・出版関係者を中心にしていましたが、3冊目のNARRATIVEは特にそういう方向性ではなくおもしろければいいという選択のように見えます。ポッドキャスターなんて共食いみたいなチョイスもありますし。
 小泉今日子が、エゴサーチを平気でする(26ページ)とか、小泉放談で「エゴサめっちゃするよ」と書いてると指摘されてドラマのオンエア中に2チャンネル見てて下手とかすごい言われてて(72ページ)とかいうのが、打たれ強さなのか今は乗り越えたよということなのかわかりませんが、ちょっと感心します。「今57歳ですけど、すごくいろんなことが頭に入ってきて勉強ができるようになって、確実に昨日より今日の私のほうが何か進化しているような気がしている」(149ページ)とか「57歳の私が若いと言われることは、わりと嬉しいよ。だけど、私は君たちよりもっとじつは楽しいこと知ってるよ」(152ページ)とかも。


小泉今日子編著 303BOOKS 2024年2月4日発行
YOUTHは2024年4月18日の記事で、WANDERINGは2024年4月19日の記事で紹介
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絲的ココロエ 「気の持ちよう」では治せない

2024-04-25 21:23:59 | エッセイ
 双極性障害(現在は双極症と呼ぶらしい)に罹患し、主治医からASD(自閉症スペクトラム)の特徴を強く持っていると言われている著者が、症状が悪化したり緩和されているときの心理や病状・生活のこと、周囲の人との関係などについて綴ったエッセイ。
 冒頭の2文が「大事なことを初めに記しておきたい。双極性障害でも、うつ病でも、一番問題となるのは『判断に支障をきたすこと』だと思う」(11ページ)というのが印象的でした。罹患の事実も発症の経緯も執筆の動機とかの説明もなく、いきなり入るのは、作家の企みなのか。専門雑誌の連載でそのあたりはもう本文の前に紹介されているということなのかも知れませんが。
 大人になりたいと思っていたので今大人になってよかったと思っている、神様や魔女があらわれて「若い頃に戻してあげる」と言われたとしてもまっぴらごめんだ、おばちゃんはプレッシャーが少ない、おばちゃんは完璧を目指す必要がなく自分に対しても他人に対しても受容できることが増えてくる、これも新たに得た自由だと思う(106ページ)という意見にはしみじみそうだよねぇと思う。そして50歳にもなればさまざまな病気や体質と上手に付き合っている人々はたくさんいる、その中で双極性障害の再発が出ないようにコントロールすることは特別でも何でもないし苦労しているとも思えない(107ぺーじ)というのも、強がりというか自分に言い聞かせているという面もあるかも知れませんが、実感だと思う。心身の不調との付き合い方というか慣れということはあり、特別だという意識や被害意識・悲壮感を持ち続けていてもそれで状況がよくなるものでもないですし。
 病気のことだけじゃなくて、他人との付き合い方も含めて、いろいろ気づきのある本でした。


絲山秋子 日本評論社 2019年3月10日発行
「こころの科学」連載
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ホントのコイズミさん WANDERING

2024-04-19 21:40:56 | エッセイ
 ポッドキャスト番組「ホントのコイズミさん」の中から吉本ばなな、書店経営者/書店紹介者、写真家、トラベルカルチャーマガジン編集者をゲストにした回を出版した本。
 WANDERINGのテーマで旅や移動についてゲストに質問していますが、旅の質問より「1日の中で好きな時間と、その理由を教えてください」という質問が意外に味わいがあるように思えました。
 「時間旅行ができるなら、どの時代に行って何をしたいですか?」という質問に対するホストの小泉今日子の答えで、「昭和40年代に戻って自分を教育し直したい」(157ページ)というのが意外。予想外に平凡でネガティブなんだ。吉本ばななの「過去に行って、グズグズしてた時期の自分にアドバイスします。もう少し勉強したり、旅をしたり、バイトしたりしろと」(37ページ)に影響されたのかも知れませんが。
 113~121ページに「オールドレンズ」で撮影した厚木の風景写真が掲載されています。レンズを変えるとレトロな写真ができるんだ(実際にはレンズの違いだけじゃなくて写真家のさまざまな技術が駆使されているんでしょうけど)と感心しました。


小泉今日子編著 303BOOKS 2023年7月7日発行
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ホントのコイズミさん YOUTH

2024-04-18 21:38:19 | エッセイ
 ポッドキャスト番組「ホントのコイズミさん」からユニークな本屋さん3軒の店主をゲストにした回、作家江國香織をゲストにした回を出版した本。
 本への愛と80年代への郷愁みたいなところが、私にはハマる本でした。
 通しテーマ「YOUTH」に合わせてゲストに子どもの頃/青春時代について質問しています。初めて読んだ本が「エルマーのぼうけん」(松浦弥太郎、36ページ)とか、小学生時代に思いをはせてしまいます。
 最初に紹介されている目黒川沿いにさりげなくたたずむ本屋さんCOW BOOKS(7ページ)。そう言われると行ってみたくなり、破産の債権者集会で中目黒のビジネスコートに行った帰りに寄ってみましたが、営業時間は12時からということで閉まってました (^^;)


 本自体とは別に、まぁ本を読んで思うところでもあるのですが、小泉今日子は、いつのまにこんなにカッコいい人(歌手とか俳優という枠ではなくて)になったのだろうという感慨を持ちます。歌手としての、若いときの小泉今日子は、私の一番強い印象は、民営化されたJR東日本が、自動改札を導入したとき、「もっともっと」とか「もっと便利に」みたいなことをアピールするCMに出ていたことで、あからさまな人員削減(改札の駅員の人減らし)と、副次的にはキセル防止のため、いずれにせよJR東日本側の利益だけで、利用客にはただ改札前での渋滞ができて不便・不快なだけなのに、尊大な大企業(こういう広告を作る代理店も含めて)が金に飽かせて行う無理なイメージ操作に使われ消費されるアイドルというもの(東京電力のために原発PRの漫画書かされている漫画家なんかと同列のイメージ)でした。若いときにこうだったから、ではなく、人は変わるし変われるということを、素直に感じ見つめていきたく思います。


小泉今日子編著 303BOOKS 2022年12月5日発行
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九十歳のラブレター

2024-02-04 22:56:00 | エッセイ
 90歳を前に同い年の妻が就寝中に死亡したのを受けて、失意の著者が人生の節々での妻との思い出を綴ったエッセイ。
 1930年生まれの著者(私とはちょうど30歳違い)の世代を反映して、転職・転勤を繰り返す著者に、教師を辞めて夫唱婦随でついて行く専業主婦となる妻の選択を、ひいてはそれをさせた自分の人生を正当化しているくだりと価値観には、世代の違いを感じますが、妻に感謝し讃える言葉を若い頃から衒いなく伝えていた様子、仲睦まじい様子は、微笑ましく羨ましくも感じます。
 妻を終始「あなた」と呼びながら、しかし妻に話しかけるのではなくやはり第三者に説明する文体は、妻のことを中心に語るのならば弔辞のように思えますが、内容は2人の想い出なので妻に語っているようでもあり、少し不思議なニュアンスのある読み物でした。


加藤秀俊 新潮文庫 2024年1月1日発行(単行本は2021年6月)
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