花粉耐性がなく防護服暮らしを強いられるが周囲の花粉を消滅させる特異体質の「対抗花粉体質者」と対抗花粉体質者を保護管理する「公共改善機構」、防護服で歩行する対抗花粉体質者を介助するサポーター、対抗花粉体質者と公共改善機構を嫌悪する環境保護団体などが存在する世界を描くSF的青春小説。
一種のSFで、その原因が全く説明もされないのですが、その空想的な部分が、周囲の花粉を消滅させ、それで花粉症患者は楽になるというレベルの特殊能力で、設定自体がしょぼい。このしょぼい設定に、「公共改善機構」などという大仰な組織を登場/君臨させているのは、役所/行政機構への皮肉なりパロディなのかと思いますが、徹底して環境保護団体を敵視/危険視/戯画化/揶揄している姿勢が作者のスタンスをより表しているように見え、体制内のぼやけた世界観の中での最後は話者/主人公の藤呼遠夜の隣人の対抗花粉体質者花園晴子への身の回り数メートルの世界の思いに集約されてしまう物語だと思います。
裏表紙の「世界を敵に回してもハルコを守りたい」に惹かれて読んでしまったのですが、SFにするならせめてもう少し大きな物語を構築して欲しかったなと思いました。「世界を敵に回しても」は、仕事がら気になってしまうフレーズです。弁護士にとっては、「世界を敵に回しても」は、理念的にはいざとなれば背負わねばならないスローガンですが、その場合述語は「守らなければならない」か「のために闘わなければならない」で、義務的な悲壮感に満ちたイメージです。「守りたい」という心情でこの言葉が使えるならば、幸せなのですけれども…
秋田禎信 新潮文庫 2016年7月1日発行
一種のSFで、その原因が全く説明もされないのですが、その空想的な部分が、周囲の花粉を消滅させ、それで花粉症患者は楽になるというレベルの特殊能力で、設定自体がしょぼい。このしょぼい設定に、「公共改善機構」などという大仰な組織を登場/君臨させているのは、役所/行政機構への皮肉なりパロディなのかと思いますが、徹底して環境保護団体を敵視/危険視/戯画化/揶揄している姿勢が作者のスタンスをより表しているように見え、体制内のぼやけた世界観の中での最後は話者/主人公の藤呼遠夜の隣人の対抗花粉体質者花園晴子への身の回り数メートルの世界の思いに集約されてしまう物語だと思います。
裏表紙の「世界を敵に回してもハルコを守りたい」に惹かれて読んでしまったのですが、SFにするならせめてもう少し大きな物語を構築して欲しかったなと思いました。「世界を敵に回しても」は、仕事がら気になってしまうフレーズです。弁護士にとっては、「世界を敵に回しても」は、理念的にはいざとなれば背負わねばならないスローガンですが、その場合述語は「守らなければならない」か「のために闘わなければならない」で、義務的な悲壮感に満ちたイメージです。「守りたい」という心情でこの言葉が使えるならば、幸せなのですけれども…
秋田禎信 新潮文庫 2016年7月1日発行