伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

助手が予知できると、探偵が忙しい 依頼人の隠しごと

2024-08-31 22:27:05 | 小説
 所沢駅付近のビルの3階に事務所を構える通常の調査仕事に興味を示さない風変わりな探偵貝瀬歩が、危機を救ったことから事務所でバイトすることになった予知を視てしまう高校1年生の桐野柚葉の予知に助けられながら事件を解決して行くというミステリー小説。
 1巻の設定・パターンを踏襲しつつ、2巻では、いずれもくせのあるというか裏のある依頼人が、隠しごとをしながら貝瀬を利用しようとするという共通項のある話を3話並べています。縛りがあるというか、テーマから連想していくのがむしろやりやすいという面もあるのかも知れませんが、こういう話を速やかに作れる(1巻も2巻も文庫書き下ろしで、1巻発行から2巻発行まで5か月)のって才能を感じさせます。


秋木真 文春文庫 2024年7月10日発行
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助手が予知できると、探偵が忙しい

2024-08-30 22:35:30 | 小説
 通常の調査仕事には興味を持てず、他の探偵事務所が引き受けない依頼ばかり受けているヒマな探偵貝瀬歩の事務所に訪れた、時々突然映像が見えそれが現実になる「予知」をする高校1年生桐野柚葉が、自分が2日後にナイフで腹を刺されるというのに貝瀬が対応し、その後柚葉が貝瀬の事務所でバイトをして、依頼人の話を聞いて予知をし…という探偵小説。
 予知という設定自体は、荒唐無稽ではありますが、毎度毎度事件の現場に本人が巻き込まれているという「遠山の金さん」(ってもう古すぎてわからない人が大半か)よりは、依頼者の話を聞いて毎度頭が痛くなり予知をしてしまう方が現実的に思えてしまうとも言えます。また自分が、ではなく他人(助手)が予知の映像を見る、探偵はそれを他人の言葉を介して説明を受けて理解し評価するというワンクッションを置くことで、予知というオカルト的な素材/道具を用いつつ、なんとなくうまく作品に取り込めているように感じます。


秋木真 文春文庫 2024年2月10日発行
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その扉をたたく音

2024-08-29 22:45:32 | 小説
 大学を卒業して7年間無職で親から毎月20万円の仕送りを受けてすねをかじってぶらぶらし音楽で身を立てる見通しもないままギターを弾いている29歳の宮路が、老人ホームの余興でギターを弾き本人は「今を生きる魂の叫びを歌った渾身の歌」を届けたつもりがまったく受けずに間を持て余したところで、入所者からせがまれて老人ホームのスタッフの25歳の青年渡部が吹いたサックスに魅せられ、もう一度聞きたいと老人ホームに通ううちに、老人たちから頼まれごとをし、面倒がりながら応じてゆくうちに老人たちとの交流が生まれて行くというほのぼの系小説。
 病気や認知症など厳しい先行きを見据えながら、憎まれ口を利きつつ、明るく逞しく/ふてぶてしく過ごす老人たちの様子が読みどころかと思います。


瀬尾まいこ 集英社文庫 2023年11月25日発行(単行本は2021年2月)
「小説すばる」連載
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養老先生と虫 役立たずでいいじゃない

2024-08-28 22:04:34 | エッセイ
 解剖学者の著者が、ライフワークとして続けている昆虫採集、特に「ゾウムシ」の採集とそれをめぐる蘊蓄、ラオスでの採集経験などを綴ったエッセイ。
 虫をめぐる話がもちろん中心なんですが、その中で触れられるちょっとした着想、例えば「日本語は色に関する語彙が豊富な言語だったが、今では単純になってしまった。自然と縁が遠くなってきたからであろう」「かって美しい自然を見ていたから、日本人は色彩の美に対する感受性が高かったのだと信じる」(27~28ページ)とかに感心します。
 自分の経験では想像できない、アシナガバチに刺されて景色が白黒になったとか、天井の電気の傘の模様が虫に見えたとか、眼鏡が灰皿に見えたとか(154~158ページ)も、興味深く思えました。


養老孟司 ヤマケイ文庫 2023年8月25日発行(単行本は2015年7月)
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人生がラクになる脳の練習

2024-08-27 23:52:24 | 自然科学・工学系
 脳内科医の著者が提唱する、脳の場所ごとに「思考系」「感情系」「伝達系」「理解系」「運動系」「聴覚系」「視覚系」「記憶系」の8つの「脳番地」があり、それぞれ右脳と左脳で役割分担があって、人によりその発達度(得手不得手)が違うが、それらの脳の機能を使うことで訓練できるということを論じた本。
 著者の言う脳番地については今ひとつ納得できるような納得できないような気分ですが、リアルの会議では伝わるその場の空気や相手の動きや表情がオンラインの会議ではそぎ落とされ人の感情を受け取る脳の働きが弱まる(4ページ)とか、空を見るよりネットで確認しないと天気が予想できなくなっている(200~201ページ)とか、なるほどなぁと思いました。最近は、「雨雲レーダー」でこれから先6時間雨が降らないとされていても、どうも雲行きが怪しい感じがして洗濯物取り込んで出たら案の定雨が降ったということも多いですし。
 満員電車で座っている人たちの顔つきやしぐさで次の駅で降りそうな人を判別することを訓練として勧めています(174~176ページ)。私の経験上は、中には、こちらが観察していることを察してあえて降りそうなしぐさをして降りないという強者もいますけどね。


加藤俊徳 日経ビジネス人文庫 2023年2月1日発行(単行本は2016年11月)

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もう一度、泳ぐ。

2024-08-26 22:58:28 | ノンフィクション
 高校生で自由形とバタフライの日本記録を出していた水泳界のホープだった著者が白血病に罹患して復帰後、発病前の自己記録の更新には至らないもののトップクラスの泳ぎをして東京オリンピックに出場し、バタフライでパリオリンピックの日本代表の切符をつかむまでの日常生活やトレーニング、試合の様子と心情を綴った雑誌不定期連載をとりまとめた本。
 私が子どもの頃、白血病というのは典型的な不治の病で、難病もの・悲恋ものの多くが白血病の設定でしたので、白血病に罹患すればほどなくして死ぬ、助からないものという認識が抜きがたくあります。その白血病に罹患しながら生還しただけでなく、その後もトップアスリートとしてやっていける著者の姿は、白血病は治る(治りうる)んだという希望を与え、認識を改める必要を感じさせます。白血病患者に出血は禁忌で、怪我などしないように気をつけていなければという意識の私には、ピアスの穴を開ける(68ページ)など驚きですが、時代が変わったのですね。


池江璃花子 文藝春秋 2024年7月10日発行
「Sports Graphic Number」連載
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不動産オーナー・管理会社のための事故物件対応ハンドブック

2024-08-25 20:25:26 | 実用書・ビジネス書
 事故物件を扱う不動産会社社長が税理士と不動産鑑定士に声がけして事故物件取引の実情等を解説した本。
 第3章で著者の不動産会社が扱った事例の紹介があり、読みどころと言えるのですが、せっかく実事例を紹介するならもう少し経過と対応、特に困ったことの記載が欲しい感じがしますし、なんといっても自社買取の事案で自社が遺族等からいくら(相場の何掛け)で買い取ったのかがまったく書かれていない(買い取った後自社がどれくらいで売却できたのかは書かれているものがありますが)のが残念です。はじめにで「事故物件を安く買い叩くビジネスですよね」と言われて誇りを傷つけられたと言っているのですから、それを払拭するためにも書いて欲しかったなと思います(やっぱり、商売上、書きたくないんでしょうけど)。
 第4章の不動産鑑定士の記載も、第5章の税理士の記載も、一般的な説明とあとは公表されている裁判例からの説明で、それはそれで勉強になりますが、これもせっかくなら自分が取り扱った鑑定や税務申告事例の紹介が欲しかったところです。
 基本的に不動産業者と不動産所有者・家主のための本ですが、第6章での特殊清掃業者の選択等は、借主とその遺族側にも参考になります。
 なお、不動産仲介業者が事故物件についてどこまで告知すべきかを定めた「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(国交省、2021年)について、宅建業者に行ったアンケートで「知らなかった」という回答が44.6%(106~107ページ)って…


花原浩二、木下勇人、井上幹康 日本法令 2024年3月1日発行
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ハマれないまま、生きてます こどもとおとなのあいだ

2024-08-20 22:42:45 | エッセイ
 「こども」と「おとな」のイメージや期待されるありようからこぼれたはざまのような存在(3ページ)と自己規定する子どもであることにも、大人になることにも、大人であることにもただただ絶望している(11ページ)、不登校で16歳の誕生日に自殺未遂した(22~27ページ)著者が10代の読者に向けて自分が感じてきたことしてきたことを語る本。
 自殺未遂の直後に、仕事から帰ってきて発見した母が泣きながら「お願いだから死なないで」というのに母を泣かせたことに自分のパワーを感じてしまった(105~107ページ)とか、幼稚園時にジュリーの色気(エロさ)を好きになりそのことに恥ずかしさ・後ろめたさを感じていた(75~81ページ)とかを挙げ、そういったことも含めて自分を否定するのではなく神に包み隠さずに話して安らぎを得た(149~151ページ)と語っています。さまざまなことで傷つき卑下している子どもが自分を否定しないで生きて行こうと思い直す機会となるものが多くあることはいいことだと思います。ただ著者の場合はということではありますが、また宗教の問題点も強調してはいるのですが、フェミニズムとキリスト教に救いを求める帰結は、10代の読者にどのように受け止められるのでしょうか。


栗田隆子 創元社 2024年5月20日発行
シリーズ「あいだで考える」
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spring

2024-08-19 23:47:48 | 小説
 天才バレエダンサーにしてバレエ振付師の萬春(よろずはる)の創作と成長と苦悶と成功を、ドイツの名門バレエ学校で同期生となった深津純、子どもの頃からサードプレイスを提供しカルチャー面で影響を与えていた叔父の稔、音の取り方が天才的だが基本からはみ出してしまいバレエダンサーから作曲家になる滝澤七瀬、そして春(HAL)本人の視点で語る小説。
 主要登場人物の属性とテーマからして、バレエ版「蜜蜂と遠雷」という印象があります(「蜜蜂と遠雷」は2019年1月19日の記事で紹介しています)。「蜜蜂と遠雷」はコンクールという舞台設定が読者に展開を予期させ期待と緊張感を持たせていたこと、本作では「蜜蜂と遠雷」での明石に当たる人物が設定されていないことをどう評価するかで、読者にとっての「蜜蜂と遠雷」よりいい悪いが決まりそうに思えます。
 バレエ作品の説明が続く場面で、バレエの動きと音楽についての素養がない私には、作品の語りがイメージできず、特にラストのクライマックスでそういう状態になるのはちょっと辛いものがありました。
 左ページ左下にバレエダンサーのパラパラ漫画がついているのは、ご愛敬というのか、バレエの知識面で行き詰まった読者用のサービスなのでしょうか。


恩田陸 筑摩書房 2024年4月4日発行
PR誌「ちくま」連載
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10分からはじめる「本質を考える」レッスン 親子で哲学対話

2024-08-18 20:17:51 | 人文・社会科学系
 哲学者である著者が、小学校高学年の娘と寝る前の10分間ベッドに寝転んですることにした哲学対話を紹介し、哲学対話を実践する意義と手法について述べた本。
 紹介されている対話の例を読むと、小学生が飾らない言葉で本質を突いた発言をしているのが微笑ましく、他方父親の方はそれを小難しくまとめようとしているのが苦々しく思えました。自分もまた子どもにこういう感じで対応していた(しかし自分自身は子どもによくわかるようにかみ砕いたつもりでいた)のかもと。
 対象が哲学でなくても、子どもと語り合う親密な時間というのは、著者もしみじみというように「宝物のような時間」(183ページなど)だと思います。私も、娘が小学生だった頃、寝る前の約1時間(10分では足りなくて)物語の読み聞かせ(寝かしつけ)をしていましたが、その頃の思いと考えが私のサイトの「女の子が楽しく読める読書ガイド」になって残っています(近年は更新していませんが)。著者の立場からは哲学を広め浸透させるための実践かも知れませんが、親子の大切な時間と関係を作る手段の1つとして読んでおいたらいいなと思います。


苫野一徳 大和書房 2024年5月30日発行
「教職研修」連載
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