ヨーロッパとアメリカで産業別労働組合が誕生し発展した歴史と日本で企業別労働組合や年功序列賃金が生まれた歴史を説明し、日本でも産業別労働組合を創るべきことを論じた本。
欧米ではさまざまな「職務」に就く労働者の賃金はその熟練度が同等であればどの企業においても職務ごとに基本的に同じ賃金(「職務給」と呼ばれる)が適用され、企業横断的な産業別労働組合が経営側と労働条件を交渉し決定していく仕組みが基本的に確立されています。これに対して、日本では、かつては企業横断的な労働市場があり「渡り職工」と呼ばれる労働者が争議で中心的な役割を果たしていたが、これを嫌った経営側がうち続く大争議での勝利(労働組合側の敗北)を契機に工場委員会と企業内技能養成を進めて労働者を子飼い職工化し年功賃金で企業内に囲い込むという政策を進め、労働市場と労働運動が分断され、企業別労働組合が一般化し産業別労働組合が成長しなかったとされています。
この本では、日本の労働組合(企業別労働組合)は本当の労働組合ではなかった、これからでも本当の労働組合を創るべきだと主張します。では、そのための戦略はということになりますが、現在の企業別組合が産業別労働組合に成長するということはあり得ないので、企業別組合はそのままで、非正社員、職種が限定されている非年功型正社員、昇給があってもすぐ頭打ちになる弱年功型正社員らの「非年功型労働者」=下層労働者が戦闘的な集団行動で産業別労働組合として成果を勝ち得た関生(全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部)を見習って立ち上がれというのです。立て飢えたる労働者(失うもののない労働者)、関生を見よ/関生に続けというは、アジテーションとしてはいいでしょうし、実現できればいいなとは思います。しかし、巨大企業のセメント会社とゼネコンに挟まれた中小企業が多数を占める生コンの産業構造やストライキが功を奏しやすい労働内容と労働市場等の条件がなくてもそのような闘いができるのか、そして激しい刑事弾圧を受け続ける関生の姿を見てこれに続けと名乗りを上げられるものか、道はあまりに険しいと思わざるを得ません。
産業別労働組合化の主張は、欧米型の職務給への転換を志向するものですが、果たして日本でこれから職務給への転換がなされた場合に、きちんと最初から生活できるような高賃金とできる(職務給では最初から高賃金でその後の昇給はない)でしょうか。日本ではむしろ日経連が職務給を主唱して拡がらなかった経緯があります。労働側の力量が十分でない状態で、十二分な警戒心を浸透させた上でなく職務給への転換をいうことが、経営側にいいように利用されて単に昇給のない低賃金化へと絡め取られないように十分に注意する必要があると思います。
木下武男 岩波新書 2021年3月19日発行
欧米ではさまざまな「職務」に就く労働者の賃金はその熟練度が同等であればどの企業においても職務ごとに基本的に同じ賃金(「職務給」と呼ばれる)が適用され、企業横断的な産業別労働組合が経営側と労働条件を交渉し決定していく仕組みが基本的に確立されています。これに対して、日本では、かつては企業横断的な労働市場があり「渡り職工」と呼ばれる労働者が争議で中心的な役割を果たしていたが、これを嫌った経営側がうち続く大争議での勝利(労働組合側の敗北)を契機に工場委員会と企業内技能養成を進めて労働者を子飼い職工化し年功賃金で企業内に囲い込むという政策を進め、労働市場と労働運動が分断され、企業別労働組合が一般化し産業別労働組合が成長しなかったとされています。
この本では、日本の労働組合(企業別労働組合)は本当の労働組合ではなかった、これからでも本当の労働組合を創るべきだと主張します。では、そのための戦略はということになりますが、現在の企業別組合が産業別労働組合に成長するということはあり得ないので、企業別組合はそのままで、非正社員、職種が限定されている非年功型正社員、昇給があってもすぐ頭打ちになる弱年功型正社員らの「非年功型労働者」=下層労働者が戦闘的な集団行動で産業別労働組合として成果を勝ち得た関生(全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部)を見習って立ち上がれというのです。立て飢えたる労働者(失うもののない労働者)、関生を見よ/関生に続けというは、アジテーションとしてはいいでしょうし、実現できればいいなとは思います。しかし、巨大企業のセメント会社とゼネコンに挟まれた中小企業が多数を占める生コンの産業構造やストライキが功を奏しやすい労働内容と労働市場等の条件がなくてもそのような闘いができるのか、そして激しい刑事弾圧を受け続ける関生の姿を見てこれに続けと名乗りを上げられるものか、道はあまりに険しいと思わざるを得ません。
産業別労働組合化の主張は、欧米型の職務給への転換を志向するものですが、果たして日本でこれから職務給への転換がなされた場合に、きちんと最初から生活できるような高賃金とできる(職務給では最初から高賃金でその後の昇給はない)でしょうか。日本ではむしろ日経連が職務給を主唱して拡がらなかった経緯があります。労働側の力量が十分でない状態で、十二分な警戒心を浸透させた上でなく職務給への転換をいうことが、経営側にいいように利用されて単に昇給のない低賃金化へと絡め取られないように十分に注意する必要があると思います。
木下武男 岩波新書 2021年3月19日発行