伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

よくわかる民事裁判[第2版補訂]

2008-09-29 23:52:03 | 実用書・ビジネス書
 ケーススタディ付きの民事訴訟法解説書。
 2004年に借地の明け渡し請求訴訟を起こされた伯父の日記を2030年に甥の弁護士が発見し、伯父の日記に弁護士が解説するというスタイル(プロローグ参照)で、素人の目から見た裁判の様子と専門家によるその解説を並べて読ませます。
 そのスタイル自体は読みやすく目の付け所はいいと思います。しかし、著者が民事訴訟法学者で、解説内容は、はじめの方はそれなりに一般向けに気を遣った様子も見えますが、いかにも学者さんが書く教科書的な文章です。まえがきには、例によって法学部以外の人もと書いていますが、たぶん法学部の3年生以上でないと手が出ないでしょうね。
 それから著者が学者なのだから素直に学者が解説するというスタイルをとればいいのに、弁護士を装って書かれると、かなり違和感があります。弁護士であれば当然知っている裁判実務の実情について、あちこちで「ようです」とか「といいます」とか自信なさげに書いてますし、裁判実務ではほとんど問題にならないことでも学者の関心がある部分は民訴法の概念むき出しで長々と論じてますし。


山本和彦 有斐閣選書 2008年8月5日発行 (初版は1999年)
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H.I.V.E. 悪のエリート養成機関

2008-09-26 23:20:37 | 物語・ファンタジー・SF
 理解力と記憶力が桁違いに優れた13歳の少年オットー・マルペンスが、火山島の地下に隠された悪のエリート養成学校「H.I.V.E」に連れてこられ、そこで知り合った友人とともに脱走を試み、危機に陥るSFアクション小説。
 集められた子どもたちは様々な才能を持ち、もちろん教師は超人的。魔法は登場しないものの、近未来テクノロジーが具体的説明や緻密なディテールなく登場するので、建前は科学(SF)だけど魔法を使うといわれるのとあまり変わらない感じです。設定、キャラの造形、登場するテクノロジーとも、感覚的には漫画的。軽めの展開好みの方向けの読み物です。
 私たちの世代ではサブタイトルの「悪のエリート養成機関」なんていわれると「タイガーマスク」の虎の穴をイメージしてしまうんですが、そこはより現代的というか未来的で、悲惨なしごきとかは出てきません。
 この組織「H.I.V.E.」の目的も、ここでいう「悪」の目標というか理想像も、読んでいて今ひとつスッキリわかりません。影の支配者「ナンバーワン」も人物像が全然見えないし。ほとんどの謎が続編(未訳)に引き継がれていて消化不良です。
 いろいろな作品が引用されていますが、ナルニア国物語が出てきたときのオットーの台詞が「だいたいおれはプリンは嫌いだしね」(265頁)とされているのは考えさせられます。もちろん、作者はイギリス人ですから、この本でも原文はターキッシュ・ディライト(Turkish Delight)のはずです(原書は確認してませんけど)。ナルニア国ものがたりで、日本の子どもにはターキッシュ・ディライトなんてわかるまいと、似ても似つかぬ「プリン」に訳してしまった瀬田貞二訳の呪縛がここまで来るかね・・・。


原題:H.I.V.E.: Higher Institute of Villainous Education
マーク・ウォールデン 訳:三辺律子
ほるぷ出版 2008年6月20日発行 (原書は2006年)
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夜に目醒めよ

2008-09-24 22:51:55 | 小説
 在日コリアンのアウトローとクラブのママ、女性実業家たちが敵との抗争・陰謀に絡み巻き込まれながらサスペンス仕立てに進行する社会派/恋愛小説。
 前半は破天荒なアウトローの鉄治と学英を中心にヤクザ小説+鉄治の愛人のニューハーフのママ「タマゴ」のお色気路線で話が進行しますが、後半になるとより知能犯的な陰謀+女性実業家知美と学英の恋愛物になります。作者としては後半で話を拡げたのでしょうが、むしろ前半の小気味よいテンポとか鉄治と学英のコンビの破天荒な爽快感が後半で失われてかえって展開がちまちまと小粒になっているような感じがします。アウトローと意外にしたたかな女性実業家のプライドを賭けた恋愛勝負というのも悪くはないですが。
 仕事がら、終盤の展開の大前提となっている会社の破産と交代した代表者の負債の話がどうも気になって仕方ありません。会社の代表者は、ふつう会社が借金するときに個人保証するから代表者も負債を負うのであって、その個人保証は代表者が替わっても当然には引き継がれません。替わった代表者が借金の保証をすることに同意して(普通は保証の書類に署名押印して)初めて新しい代表者も負債を負うわけです。そして株を譲り受けても、その会社が破産したって株が紙くずになるだけで、株主が会社の借金を負うわけじゃありません。だから学英が社長になったからといって知らない間に学英自身が会社の借金を背負うことになるはずがありません。そのあたりの設定に無理があることも、終盤の展開がいまいちだなと思ってしまった原因かも。


梁石日 毎日新聞社 2008年3月30日発行
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カゼヲキル2 激走、カゼヲキル3 疾走

2008-09-23 22:37:58 | 小説
 元マラソン選手の作者が書いた無名の中学生がライバルや怪我と闘いながらマラソンで頂点を目指していく陸上小説。3巻で完結。
 1巻で全日本ジュニアの強化委員の目にとまって大抜擢され全日本ジュニアの合宿に招聘され国際大会にいきなり出場したがレース中に骨折して失意の日々を送り最後に再起を誓った中学生の山根美岬が、2巻、3巻では抜擢してくれた監督の指導の下で高校・実業団と進み、ライバル青井恭子への敵意と新たな仲間ジェーンや日本陸上界の星福川や合宿で知り合った先輩橋本らとの交遊を重ねながら、5000m、10000m、駅伝、ハーフマラソンで華々しい闘いをし、マラソンでロンドンオリンピックに臨むまでを描いています。
 2回の骨折以外は山根美岬の行く手を阻む者はありません。ライバル青井恭子は前半徹底的に悪者にされ、終盤は逆に悲劇のヒロイン的になり、作品中でかなり重要な位置づけなのに、青井恭子との対決の場面はあまりないのが、なんか肩すかしの感じ。そのあたり小説としてはもっといろいろあってもよさそうな感じがしますが、作者が陸上エリート街道まっしぐらだったので挫折した側のことは書きにくいかもとか、中学生から実業団、マラソンの頂点までをこの程度の分量で収めたらあちこち寄り道してられないよねとかの事情でしょう、読み物としてみると淡泊な感じがします。
 それにしても、1巻で骨折からの再起と夜間の海で背後からつける車という思わせぶりなラストで「続く」にしておいて、2巻はいきなりそのことを忘れたようにすでに復帰してさらに中学最後の全国大会で5位になってしまっていてその後から始まるというのはあんまり。私は、こういう読者無視のつくりってとても嫌いです。
 それから2巻からずっと登場する元マラソン選手のTV解説者「牧田明子」というのが、どう見ても作者自身なんですが、これが明るくて理解があって性格がよくてと美化されすぎてるのがちょっとしらけます。


増田明美 講談社
2巻 2008年4月21日発行
3巻 2008年7月30日発行

1巻は2007年9月23日の記事で紹介しています
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美術検定公式テキスト 西洋・日本美術史の基本

2008-09-21 21:22:20 | 人文・社会科学系
 美術史の教科書。前半が西洋美術、後半が日本美術についての歴史をかなりコンパクトに記述しています。
 各時代の美術の特色を軽くまとめてあとは画家等の名前の羅列で、それぞれの画家等の作品はよくて1つか2つ、多くの者は名前だけで作品のタイトルも図版もなしです。列挙されている画家等の共通点もまた違いも今ひとつ実感できません。どちらかというと美術用語と概念の学習という感じです。絵は好きな方なんですが、やはり眠たくなりました。
 歴史を述べる中で、絵画マーケットの拡大について触れた箇所があり、それを述べるのなら各時代のマーケットの状況と変遷に触れてくれたらきっと美術史的に面白いと思いましたが、触れているのは西洋画での16~17世紀のオランダでの富裕な市民による絵画マーケットの拡大(48頁)と日本画での室町時代後期の町衆による絵画マーケットの拡大(174頁)による狩野派の繁栄だけです。17世紀オランダ絵画の隆盛が昨今人気のフェルメールやレンブラントを始め現在日本で有名でなくても数々のすばらしい絵を生み出したことは事実ですが、マーケットの拡大という商業主義的な印象は、むしろ同時代のフランドル(ベルギー)で活躍したルーベンスの工房の絵画量産体制の方が当てはまるように思えます。そういう点も取り扱うのなら体系的に書いてくれるといいと思うのですが。


美術検定実行委員会編 美術出版社 2008年8月15日発行
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ミラート年代記 1 古の民シリリム

2008-09-20 00:12:43 | 物語・ファンタジー・SF
 闇の力と結託した兄ウィカンデルに滅ぼされた穏健王トアルントと古の民シリリムの血を引く王妃ヴァーニアの間に生まれた忘れ形見の双子トウィクスとエルギルが、太古の森に匿われて育てられた少年時代を経て、過去と自分の素性を知り、冒険の旅を続けながら仲間を得、成長し、力をつけながらウィカンデルの居城にたどり着き闇の支配を終わらせるまでを描いたファンタジー。3部作の第1巻ですが、「続く」の体裁ではなく完結しています。
 主人公の双子は、実は1人の体の中に2人の魂・人格が共存しています。そしてシリリムは透視・予知、さらには時間を操る(相手を若返らせたり老いさせたり、生き返らせたり・・・)等の不思議な力を持ち、双子はこの力を受け継いでいます。
 この「双子」の王子が、大部分をウィカンデルが支配し、また別の異形の敵が襲い、猛獣や本来は人間を襲わないのに闇の支配により凶暴化した怪物たちが襲い来る中を冒険の旅を続け、師や仲間を得、武器を得、不思議な力に習熟しながら適地に迫っていくというアドベンチャー系のファンタジーの典型的なストーリーをたどっていきます。そういう意味ではなんかどこかで見たような気もしますが、舞台・生き物等の設定がきちんと書き込まれていて飽きません。
 登場人物に型破りのスケール感・存在感がある人がいないのがちょっと物足りない感じがしますが、主人公自身が性格の違う2人の共存という設定のためその争いと和解・協力という経過の方に目が行きますので、そう気になりません。
 ファンタジー好きには、また新たな良質の読み物が登場したと評価できるでしょう。


原題:Die Chroniken von Mirad : Das gespiegelte Herz
ラルフ・イーザウ 訳:酒寄進一
あすなろ書房 2008年7月15日発行 (原作は2005年)
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マリッジ:インポッシブル

2008-09-19 19:43:58 | 小説
 テレビ番組制作会社勤務のグルメ番組担当のディレクター引田輝子29歳が、結婚を決意して合コン、見合い、そして結婚相手紹介サービスへと走り、試行錯誤というか失敗を重ねるというストーリーの小説。
 結婚相手紹介サービスの描写がいかにもえぐくて寒い。なんせ章タイトルで「地獄の門」と呼んでるくらいですし。まぁ主人公は結婚相手紹介サービスからは這々の体で退散するけど、美女と野獣カップルもできたりしてるから、作者はこの種の業者の方にも気を遣っているようではありますが。
 最後はこういうストーリーにはいかにもありがちな、青い鳥はすぐ足元にいたパターンで終わっています。
 仕事で忙しい独身女性の姿をドタバタさせて大仰な表現と軽口でやや滑りがちに語った小説です。語り口のクセに好みが別れるかなという気がしました。


藤谷治 祥伝社 2008年7月30日発行
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秘密の島のニム

2008-09-14 00:37:49 | 物語・ファンタジー・SF
 海洋生物学者の父ジャックと2人で無人島に住む少女ニムが、ジャックがプランクトンの採集に出て遭難して帰りつくまでの間の冒険の日々を描いた物語。
 2008年に映画化され、日本では「幸せの1ページ」というタイトルで公開されました。
 ニムは、父親の観測や畑仕事も手伝い、父親の留守中は1人でその仕事を淡々とこなします。さらに父親に教えられたことばかりでなく、冒険小説作家アレックス・ローバーから依頼されると、ヤシの実のいかだが造れるか実験したり試行錯誤して報告するなど、思考し科学する力も持ち合わせています。アレックス・ローバーから島の様子を教えて欲しいと依頼されると、それまで登ったことのない火山にも登るなど勇気もあります。
 ニムは、アシカのセルキーやウミイグアナのフレッド、グンカンドリのガリレオ、ウミガメのチカなどとも仲良しで、一緒に泳いだり滝を滑り台にしたりして遊びます。このあたりの元気で楽しい様子も、いい感じです。
 ニムは1人で観光船会社トロッポ・ツーリストを追い払いますし、アレックス・ローバーにも「だいじょうぶです。助けが必要なわけじゃありません。」(121頁)と答えているし、アレックス・ローバーが島にたどり着いたときも海に沈みかけているのを助けるなど大人と対等に活躍したり自立心も見せています。
 しかし、他方、ニムは、父親のジャックが留守中とはいえ、精神的にはジャックの庇護下にありますし、ジャックの留守が長引くとアレックス(アレキサンドラ)・ローバーがニムの島までやって来ます。トロッポ・ツーリストを追い払うのにはアレックス・ローバーのアドヴァイスを受けていますし、嵐の時の対処も父親からの指示に従っています。そのあたり、自立・自立心の度合いがそれほど強くも描かれていません。
 かなりしっかりしてるけど普通の少女の範囲、そういう位置取りが感じられます。そのあたり、読みやすいともファンタジーなんだからもう少し上を行かせてもとも言えます。
 それにしても、無人島の物語も、現代ではソーラーパネルとパラボラアンテナで、パソコンが使えて電子メールと携帯電話でやりとりするというあたり、時の流れを感じます。


原題:Nim’s Island
ウェンディー・オルー 訳:田中亜希子
あすなろ書房 2008年7月20日発行 (原書は1999年)
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サーズビイ君奮闘す

2008-09-13 21:01:26 | 小説
 知識経験がないのにいきなり法廷に立たされた新人弁護士が、クセの強い裁判官たち、わがままな依頼者たちに翻弄されながら事件をこなしていく法廷物コメディ。
 原作が1955年の出版で当時のイギリスの独特の弁護士制度・風習を前提にしているので、普通には違和感のあるところが多々あります(法廷には弁護士も法服を着てカツラをかぶるとか、法廷弁護士は事務弁護士の紹介なく依頼者と直接会えないとか、もちろん法律・規則の内容も今の日本とはかなり違うし・・・)。
 しかしそれを置いても、強権的な裁判官やわがままな依頼者の前に立たされた弁護士という設定は、弁護士であれば誰しも経験のあるところですし、それをどうやり過ごしていくかという課題は共通のものがあります。そういう観点で見ると同業者としては笑えないところもありますが、他人事として読む限り面白く読めます。全くの新人にここまで押し付けられることは、たぶんないと思いますが、ここまで知識経験なくいきなり法廷に立たされたら、「弁護士のせいで負ける」ということが現実味を帯びますね。繰り返しいいますが、現実にはこういうことはたぶんないと思いますが(ないと信じたいですが・・・)。
 表紙には「ミステリ」と書いていますし、解説にもそう書いてあるんですが、謎解き的なものはまったくありません。私にはどう見てもミステリーには分類できません。


原題:Brothers in law
ヘンリー・セシル 訳:澄木柚
論創社 2008年5月25日発行 (原作は1955年)
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天国はまだ遠く

2008-09-08 21:56:31 | 小説
 営業成績が伸びず職場に居づらく感じて自殺を決意した保険会社営業担当の23歳千鶴が自殺を図るが失敗し、寂れた集落の民宿の男田村との交流で心を癒され少しずつ歩み始める傷心自殺未遂回復パターンの小説。
 2004年の作品ですが、映画化を機に読んでみました。
 千鶴は、単に仕事がうまく行かないことから、職場の人間関係も自分から気詰まりに感じていき、ささいなことに次々落ち込んでいって、自殺を決意します。率直に言って、こんなことで自殺してたら命がいくつあっても足りないし、笑い飛ばすか開き直ってたくましく生きるのが成長ってもんじゃないかと思います。そして、北の日本海の暗いイメージを求めて丹後半島に行って寂れた集落の民宿に行って自殺を図ります。この「北」「日本海」というのもいかにものステレオタイプのイメージで、千鶴の思考の安直さが示されています。
 作者はあえてそういう設定をし、最果ての駅の意外なにぎやかさ、睡眠薬を飲んで2日後の爽快な目覚めで、千鶴の思い込みを戯画化し、もう死ねないと悟らせます。そう行けばもう立ち直るしかないのですが、そこからをカメのような歩みで千鶴の心の変化を描いていきます。
 千鶴の思いを突き放さず、千鶴と田村の関係も千鶴の立ち直りも進みそうで進まず、ラブコメになりかけてはそうもならずといった調子で、ホワンとした眼差しで話が進み、締めくくられます。千鶴のようなタイプの主人公に温かな視線を送りたい読者には、ほどほどの温かさのハートウォーミングストーリーというところでしょう。


瀬尾まいこ 新潮文庫 2006年11月1日 (単行本は2004年)
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