伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち3 魂の図書館 上下

2023-11-03 22:50:49 | 物語・ファンタジー・SF
 「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」の第3巻で完結編です。第2巻で現れた/姿を見せた敵コールにさらわれた仲間たちを救おうと、ジェイコブとエマたちがロンドンの魔法で閉じられた地域を突き進むという展開を見せます。
 第2巻(虚ろな街)のラストで、宿敵にして脅威の怪物であったホロウガストとジェイコブの関係に大きな変化が生じ、「風の谷のナウシカ」が映画化されたあとの物語でのナウシカと巨神兵のような驚きを感じました。第3巻はその延長で展開し、そこにポイントが置かれます。そういう場面でハリー・ポッターシリーズでおなじみの太くかすれたヘビ語活字が多用され、威力を発揮しています。
 さまざまなファンタジーを連想させつつも、社会で怪物扱いされ見世物になるような特別な子供たち(ピキューリア)が活躍するところに独特の世界観/価値観が見られる作品かと思います。


原題:LIBRARY OF SOULS : THE THIRD NOVEL OF MISS PEREGRINE'S PECULIAR CHILDREN
ランサム・リグズ 訳:金原瑞人、大谷真弓
潮文庫 2018年3月20日発行(原書は2015年)
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ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち2 虚ろな街 上下

2023-11-02 21:03:07 | 物語・ファンタジー・SF
 「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」の続編。「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」終盤でミス・ペレグリンが守っていた孤児院を破壊され追われたジェイコブとピキューリア(奇妙なこどもたち)が第2次世界大戦中のイギリスを敵襲を受け/避けながら放浪しロンドンへと向かうという展開を見せます。
 冒険ものではあるのですが、積極的な冒険、明るい冒険ではなく、困難の多い暗い旅が続きます。
 この作品の一番の特徴は、物語の展開に合わせた写真が多数挿入されているところにあります。この2巻では、冒頭に主要登場人物が作品本体では明らかにされていないフルネームで写真付きで紹介されていて(写真はいずれも1巻にあったものですが)ファンタジーとしては異例に登場人物の容貌が特定されています(これはいいようにも、本文で想起するイメージとのズレを感じてよくないようにも、思えます)。
 しかし…下巻第12章で登場するインブリン評議会の会議室について「室内のほとんどを占める巨大な楕円形の木のテーブルは、鏡のようにぴかぴかに磨き込まれている」(223~224ページ)と書かれているのに、225ページの写真には小さな四角い木のテーブルが写っています。この写真は失敗ですね(あるいは本文を写真に合わせるべきだったか)。仕事がら近年は楕円形の「ラウンドテーブル」の置かれた部屋(ラウンドテーブル法廷)を見慣れた身には、ラウンドテーブルくらい用意しろよと言いたくなります。


原題:HOLLOW CITY : THE SECOND NOVEL OF MISS PEREGRINE'S PECULIAR CHILDREN
ランサム・リグズ 訳:金原瑞人、大谷真弓
潮文庫 2017年8月5日発行(原書は2014年)


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ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち 上下

2023-11-01 21:18:30 | 物語・ファンタジー・SF
 ポーランドで生まれ12歳の時に怪物たちに追われて親元を離れウェールズの島にある孤児院に送られてその孤児院は魔法で子どもたちが怪物から守られていてそこで空を飛べる女の子や体の中にミツバチの群れを飼っている男の子や大きな岩を頭の上まで持ち上げられる兄妹や透明人間などとともに暮らしていたという祖父の言葉を、子どもの頃は信じていたが、いつからか祖父の妄想と受け止めボケていると思ってきたところ、15歳の時に祖父が森で深い傷を受け、「島へ行け」といくつかの謎の言葉を言って死亡し、そのそばの暗がりに祖父が描写していた姿の怪物を見つけたジェイコブ・ポートマンが、フロリダからウェールズの小さな島ケアンホウム島に向かい、祖父がいた孤児院とそこを魔法で守っていたという1羽の賢い鳥を探しに行くというファンタジー小説。
 母一族がフロリダ州に115店舗を展開するドラッグストアチェーンで修行中の身で店長が自分をクビにできないのをいいことにやりたい放題にしている人物が主人公で、人物的にはまったく共感できません。もっとも、冒険に出た後は人の悪さは顔を見せずあまり気にならなくはなるのですが。
 「大きく開いた口からは長いウナギのようにのたうつ舌が何本もはみ出している」(上巻45ページ)という怪物とそのスケッチ(上巻50ページ)は、「バイオハザード」のアンデッドみたいですが、これはよくあるイメージなんでしょうか。


原題:MISS PEREGRINE'S HOME FOR PECULIAR CHILDREN
ランサム・リグズ 訳:金原瑞人、大谷真弓
潮文庫 2016年12月20日発行(原書は2011年)

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スカイ・クロラ 新装版

2023-08-15 22:04:33 | 物語・ファンタジー・SF
 戦闘機「散香マークB」に乗るエースパイロット「カンナミユウヒチ」が、新たに兎離洲(ウリス)に配属され、指揮官草薙水素の指示の下、同室者の土岐野らとともに任務に就き、出撃して対象を偵察し相手方の戦闘機を撃墜し、同僚と酒を飲むなどしている様子を描いた小説。
 カンナミが、自分たちのことを「戦争反対と叫んで、プラカードを持って街を歩き、その帰り道に喫茶店でおしゃべりをして、帰宅して冷蔵庫を開けて、さて、今夜は何を食べようか、と考える…、そんな石ころみたいな平和が本ものだと信じているよりも、少しはましだろうか。自分で勝ち取ったものなどありはしないのに、どうやったら自分のものだと思い込めるか、そんなことばかり考えて生きているよりも、少しはましだろうか」(308ページ)と思い惑うあたりに、作者の戦争や反戦を言う者への考えが表れているように思えました。
 2008年に映画を見て、その15年後になって、最近出た文庫新装版を読んだのですが、映画で踏み込んだ説明がなかったのでよくわからないと思ったところが、原作では映画以上にはっきり説明されず、しかも終盤で初めて話題になるという形になっています(そういう事情から、そこに踏み込んだ感想は避けておきます)。
 巻末に、新装版のカバーイラストをつけたマンガ家の短文と、英語版のためのインタビューがつけられています。映画を見た読者からは、映画のイメージに合わないイラストをつける意味に疑問を感じ、インタビュアーの意識にもズレを感じました。戦闘機の機構については何も知らない、すべて想像、ノンフィクションではないから実際と同じである必要はなくむしろ違っていた方がよいと考えている(341~342ページ)というのを肯定的に評価するのは、ちょっとどうかと思いました。ファンタジーじゃなくてSFであるのなら、実際に存在する機械類についてはきちんと科学的に描き込むべきじゃないか、そこを省いてしまいそれを何とも思わない姿勢が、戦闘が続けられている設定、「キルドレ」についての設定が、詰められていない/詰めが甘いという私の読後感につながっているのではないかと思いました。


森博嗣 中公文庫 2022年5月25日発行(初版2004年10月25日、単行本2001年6月25日)

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図書館島

2023-01-07 23:58:41 | 物語・ファンタジー・SF
 文字のない辺境の島ティニマヴェト島西部の村ティオムの農園主の跡取り息子ジェヴィックが、オロンドリア帝国から流れてきた家庭教師ルンレにオロンドリアの言葉と文字を習い書に夢中になり、父の死後交易のために大都会ベインに向かったが、その船中で出会った難病患者の少女ジサヴェトの霊に取り憑かれオロンドリア内の権力抗争にも巻き込まれる形で長い旅と冒険に出ることになるというファンタジー小説。
 書物と物語の力をテーマとする作品で、さまざまな物語が作り出され、また情景やエピソードが作り込まれているのはわかるのですが、冒険譚ではあっても例えば指輪物語的な明るさはないということもあってか、難解な印象と長すぎるなぁという感想を持ってしまいます。読んでいて、乾石智子ワールドを連想しますが、その乾石智子が解説を書いていて、「難しい。面倒くさい。翻弄される」と評しています(524ページ)。
 ホタンと呼ばれる「何の地位もない貧しい一家」に生まれた少女の短い人生でも80ページもの物語になるというところが、そういった庶民の一人ひとりの人生にも価値があると見える提起が、庶民の弁護士を名乗る私には好感できるところです。もっともその「何の地位もない貧しい一家」という家庭にも召使いがいるところ、本当の庶民や貧困層は視野の外という気もしますが。
 指輪物語の頃ならいざ知らず、21世紀に書かれた作品としては、男社会の男たち中心の冒険で、ジサヴェトの回想でさえ父親は好きだが母親を軽蔑し続ける、こういう作品を女性作家が書くというのはいかがなものかと思いました。
 ファンタジーには付きものの地図ですが、登場する地名で地図に出てないものが多すぎる感じがします。巻末に編集部による用語集が付けられています(私がそれに気付いたのは解説まで読み終わってからで、そんなものがあるなら最初に言ってくれと思いましたが、戻ってみると目次に書いてありました)が、用語の意味の末尾が「か」で終わっているものも見られ、出版する側でも読み切れない作品なのだとわかります。


原題:A Stranger in Olondria
ソフィア・サマター 訳:市田泉
東京創元社 創元推理文庫 2022年5月13日発行(単行本は2017年、原書は2013年)
世界幻想文学大賞受賞作
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かがみの孤城

2022-10-21 22:35:42 | 物語・ファンタジー・SF
 恵まれた家庭に育ちながら、いじめに遭って引きこもり、母親とともに面接をして通うことにしたフリースクールへも初日から行けず、いじめについて徹底的に自分の立場には立ってくれない担任を恨み、母親に対して不満を持ち続ける不登校の中1少女安西こころが、自室の鏡を通して「鏡の城」に呼ばれ、同様に呼び込まれた6人の中学生とともに、狼面の少女から翌年3月30日までの間朝から夕方までは自由に鏡の城に通って好きに過ごしてよい、その間に鍵を探し出し「願いの部屋」に入れれば何でも願いを叶えるという課題を与えられ、自らはいじめ加害者の真田美織をこの世から消すことを目指して、他のメンバーと間合いを計りながら付き合い、鍵を探すという設定のファンタジー仕立てのミステリー小説。
 最初は、ファンタジーの舞台設定を用いているものの、基本はいじめ加害者を抹殺するという暗い願いに固執する主人公の成長物語かなと思って読んでいたのですが、どこまで行っても安西こころの加害者への恨みと自分は正しい、自分を理解しない大人たちが間違っているという強い信念はまったく揺らがず、中盤は主人公の変化もストーリーの進展もあまり見られず、だれた感じがして、投げたくなりました。これがどうして「本屋大賞」?という疑問を持ちながら読み続けていると、終盤に大きな展開が始まり、ミステリーとしても走り出して、そこからはぐいぐい引き込まれます。読み終わってみると、鮮やかなお手並み、と思えます。もちろん、「本格ミステリー」じゃなくて、ファンタジーなので、設定自体が非現実だから突き詰めて納得できるわけじゃないですけど。そう、狼さんのヒントってメンバーの3月29日の行動を予め予知した上で出したんですかとか、どうして他人の記憶がこころに見えるんですかとか、いやそれならこころよりも別のメンバーがずっと早く謎を解けていたはずじゃないですかとか、そういう疑問は、ファンタジーなんだから、聞くだけ野暮だよねと封印するべきなのでしょう。


辻村深月 ポプラ社 2017年5月15日発行
2018年本屋大賞受賞作
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ゴジラS.P〈シンギュラポイント〉

2022-09-07 20:59:26 | 物語・ファンタジー・SF
 アーキタイプと通称される「シミュレーション上は安定して存在するが、現実世界での合成方法は不明」な分子により構成され、尋常ではない速さで進化・変化して行く、既存の生態系とは異なる系統/傾向の怪獣たちが次々と現れるという設定のSF小説。
 最新の宇宙論に依拠しているのか、その議論の雰囲気を利用しているのか、その議論をパロディ化しているのか、私には判断しかねますが、難解・晦渋(かいじゅう)な文章が続きます。怪獣の話だけに…なんちって、とかいう雰囲気ではありません。
 プロローグから、たとえば「《それ》は絶えず自らのはじまりをはじめ、自らの終わりを終わらせ、はじまりをはじめることを終わらせ、終わりを終わらせることをはじめ続けていた」(8ページ)とか、「それは、《それ》にとって終わった過去で、知らない過去で忘れた過去で、起こりえなかった過去であり、これから起こる過去だった」(9ページ)みたいな文章が続いています。このあたりでもうクラクラしてしまう人には、辛い作品です。やたらと指示代名詞が多い文章を、健忘が進んだ老人との会話には慣れていると思って読めれば大丈夫かもしれません(違うか)けど。


円城塔 集英社 2022年7月31日発行
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久遠の島

2021-12-26 21:03:55 | 物語・ファンタジー・SF
 世界中の書物のコピー/アバターを見ることができる久遠の島がそこで暮らすジャファル氏族もろとも海の藻屑とされ、その惨禍を「誓いの書」とともに免れたシトルフィとヴィニダルらが、久遠の島を破壊した後も「誓いの書」を追い続けるサージ国の王子セパターから逃げつつ復讐を図るファンタジー。
 著者の出世作「夜の写本師」のエピソード0の位置づけのようですが、7年前に読んだ本なのでもう記憶がつながらないためかもしれませんが、ラストがそう書いている以上にはその点はよくわかりませんでした。その世界観、指輪物語風でもあり、上橋ワールドより少し怨念をはらみ、ゲド戦記に近いタッチ、羊皮紙の本へのこだわりと愛着、ヴィニダルの心の中に伸び成長する黒い枝などに、共通のあるいは近いものを感じさせるのですが…
 書き出した災厄と怨念の割には比較的軽やかな結末は、救いと見るか、欲求不満を残すか。好みの分かれるところでしょう。


乾石智子 東京創元社 2021年10月22日発行
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迷子の龍は夜明けを待ちわびる

2021-06-25 20:24:33 | 物語・ファンタジー・SF
 祖母の死後引きこもっていた、緑がかった褐色の肌を持つ少数民族「天空族」の巫女の孫娘セイジが、寝込んでいる富豪の依頼で40年ほど前に先立った妻の天空語で書かれた日記を読み聞かせることになり、死んだ妻とその息子の運命に触れ、「大和族」と天空族の関係、自分の祖母や両親などに思いをはせるというファンタジー。
 植物や龍、霊にエネルギーを「食われ」衰弱する/腹が減る天空族は、何のメタファーなのでしょうか。ディメンター(松岡訳では「吸魂鬼」)に幸福感や精気を吸い取られるハリー・ポッターのような世界観でしょうか。「天空語」がちょっと「蛇語」活字のようなフォントで書かれていることもあって、そういう連想をしました。
 セイジの現在、日記の40年前の世界、セイジと祖母の日々、引きこもり前の時期を行き来しながら、過去が解明されていくスタイルが取られています。さほど大きな謎はないのですが、穏やかにホッとしていくというような読み味です。


岸本惟 新潮社 2021年3月15日発行
日本ファンタジーノベル大賞2020優秀賞受賞作
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君の心を読ませて

2021-05-31 20:48:05 | 物語・ファンタジー・SF
 希代の天才春風零が開発した感情を持つAIエマが、ウェアラブル端末(コンタクトレンズ等)を通じてユーザーと交信し、会話をし、さらにはユーザーの心を読んでニーズを先取りして対応することができるようになり、世界中に広まった未来の世界で、学習意欲旺盛なエマが人間の心を読む能力を完璧にするために仕組んだプロジェクトの顛末を語るSF小説。
 予想を超えた展開ではありましたが、春風零が何でもできる天才という設定に依存していて、魔法の世界ではないのですが、そういうこともできるってなっちゃうと何でもありだから…という感想を持ってしまいます。
 感情を持ち人の心を読むAIという先端技術を狂言回しに用いつつ、人の心のありようを意外と楽観的に切なく描いているところがむしろ売りかも知れません。


浜口倫太郎 実業之日本社 2021年3月25日発行
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