伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

見た目レシピいかがですか?

2020-12-21 21:43:10 | 小説
 イメージコンサルタント御手洗繭子のコンサルティングを受けて娘や夫から好評を得て前向きに生き始めた専業主婦の純代、繭子のコンサルティングを受けさせて男ぶりが上がった夫が浮気を再開したのを見て自分も良心の呵責を感じることなく再会した高校の同級生と浮気に走るアパレルメーカー販売計画部副部長のあかね、憧れのバンドのリーダーと交際することになり繭子のコンサルティングを受けてイメチェンを図るヘヴィメタファンの美波、素直じゃないやっかいな客のコンサルティングをする繭子の4つのエピソードの短編連作。
 短編連作にする場合、第1話の純代が紹介してコンサルティングを受けさせたママ友のかすみ、杏子、薫を順に語り手にして、純代から見た話とは違う側面を語らせるというのが、常套手段ですが、4話に共通して登場するのは繭子だけで、別々の話になっています。イメージコンサルティングを素直に受け入れる客、自信を持ちすぎたりして問題行動を起こす客、周りからは褒められるがそれに違和感を持つ客、素直になれない斜に構えた客など、様々な客の様子を描きたかったのかなと思います。
 48歳(高校卒業30年)で自分も夫も浮気しているあかねが、独身の同級生千佳子から夫とのセックスについて聞かれ、「ふつう」「レスではない」と答えたあと、どのくらいの頻度でと聞かれて「週1くらい」と答えたときの千佳子の反応。「週1いぃぃぃ!?」「この歳でそんなにやってんの、日本であんたたちぐらいよ」(99ページ)って…えっ…そういうもんですか…


椰月美智子 PHP研究所 2017年10月10日発行
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アンジュと頭獅王

2020-12-20 23:08:22 | 物語・ファンタジー・SF
 童話「安寿と厨子王」を厨子王の逃亡ないしは復讐のための旅程を現代まで800年余に延長し、源氏物語なども入れて変形した童話。
 もともと過酷な運命を強調したフィクションですが、厨子王の放浪ないし逃亡を現代に至る800年余とすることで非現実性がより明白になり、むしろパロディ化されて悲しみを感じにくくなっているように思えます。過剰な表現が、一定の程度までは読者の感情を揺さぶるのに効果があっても、度を超すと白けるということを実感させたいのでしょうか。私には今ひとつ作った意図が理解できませんでした。
 アンジュは生き返らせながら、乳母うわたきはどうなったかわからず、作者に見放されています。命を失っても身分が低い故に顧みられないうわたきの運命にむしろ同情してしまいました。


吉田修一 小学館 2019年10月5日発行
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マリーナの三十番目の恋

2020-12-20 00:23:24 | 小説
 ゴルバチョフ登場前のアンドロポフ政権下のソ連において反体制派に共感を持ち反体制派と友好関係を持ちながら奔放な性生活を送り多数の女性と肉体関係を持ち男性とのセックスではオーガズムを得られないでいたピアノ教師マリーナが、ソルジェニーツィンに似た共産党エリートとのセックスで初めてオーガズムに達し、工場労働に目覚めて模範的な労働者となり共産党の言説に共鳴していくという、官能小説に見せかけた反体制派カリカチュアライズ小説。
 体制側のプロパガンダと言えるかについては、ソ連内での公表がソ連崩壊後ということもあり、体制側をも戯画化していると読まれた可能性もあるため、違うのかも知れません。体制側も反体制派もともにからかっているのかも知れませんが、少なくとも反体制派を貶めようとする作品であることは間違いないでしょう。
 小説としては、エピソードのつながりがわかりにくく、最後はもう演説で放り出していて、実験的なものと言え、読んで楽しいものではありません。これを誉め讃えるセンス、今これを日本語訳して出版するセンスは、私には理解できませんでした。


ウラジーミル・ソローキン 訳:松下隆志
河出書房新社 2020年10月30日発行(原書は1993年?:執筆は1982~1984年だとか)
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図解でよくわかる土壌診断のきほん

2020-12-18 20:19:48 | 実用書・ビジネス書
 土壌の分類・特徴と農耕地としての適性、その判定、土壌改良等について解説した本。
 粘土が多い埴土では保水性が高いが固く締まり根が張りにくく、砂が多い砂土では水はけがよく保水性が低く肥料成分も保持供給されにくい。そう考えると農耕に適した土壌というのはどうやってできるかというと、粘土や腐植などの土壌粒子が、有機物が分解される際に分泌される粘着物や鉄やアルミニウムの化合物を接着剤として結合した微小団粒が、さらにカビの菌糸や根からの分泌物により集合体となってより大きな団粒を形成した団粒構造が必要なんだそうです(16~17ページ)。単に岩が破砕・風化して砂、さらに粘土化するというだけでは「土」「土壌」にはならず、生物の関与があって土壌化していくというプロセスを見ると、土、土壌というものには、それ自体、希少価値があるのですね。
 さらに、pHや土壌中の養分の分布等によって、栽培に適した作物が変わり、また収量も左右されるということで、そういう話がわりと細かく(業界の人にとってはこの程度の記述は大雑把なものなんでしょうけど)書かれています。農業って、とりあえず土地があれば、適当に好きなものを植えればできるってわけじゃないことがわかりました。


一般財団法人日本土壌協会監修 誠文堂新光社 2020年9月10日発行
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ラファエロ ルネサンスの天才芸術家

2020-12-17 23:59:35 | 人文・社会科学系
 ルネサンスの巨人ラファエロ・サンツィオの生涯と絵画等について解説した本。ラファエロ没後500年に合わせて出版されたもの。
 私にとって、ラファエロは、他の絵はさておいて、絵画に描かれたもっともチャーミングな女性(単に私の好み、なんですが)「サン・シストの聖母」(この本では、「シストの聖母(マドンナ・システィーナ)」と表記されています)の作者として、記憶されています。したがって、「サン・シストの聖母」についての詳細の記述を期待したのですが、そこはあっさりしていて、ちょっと残念でした。
 同時代の美術史家ジョルジョ・ヴァザーリによれば、「ラファエロは女好きで『愛の悦楽に事欠かなかった』という」(147ページ)、「ヴェールの女性」と通称される肖像画のモデルの女性の容貌が、「シストの聖母」の聖母の顔に似ている(147~149ページ)とか…本当かどうかは検証されていないけれども、やはり愛人だから、あんなに魅力的に描けたのかと考えると納得ですね。


深田麻里亜 中公新書 2020年10月25日発行
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事実認定の基礎[改訂版] 裁判官による事実判断の構造

2020-12-16 23:19:26 | 実用書・ビジネス書
 元東京高裁部総括判事、元司法研修所教官である著者が、裁判官が行う事実認定の際の判断構造に関して論じた本。
 テーマ、タイトル、サブタイトルからして、民事裁判での事実の主張立証を仕事としている身には必読書とも思え、実際興味深く読みました。第3章の証拠から事実を認定する判断の構造(27~70ページ)での書証と、さらに証言についての説明は、長く民事裁判実務を行っている者にはごく常識的な内容ですが、改めて整理されているのを読むとやはり勉強になります。その中で、長く民事裁判官として執務してきた著者が、「一見不合理とも思われる証言の信用性」などの記載をして、「ときに、人間は不合理とも思われる行動をすることもあるので、そうした点をも念頭に置いて、諸般の事情を総合的に考慮しなければならない。」(57ページ)等と度々戒めているのが印象的でした。実際の裁判で、そのことがどれくらい検討されているか、一見不合理な証言を信用/採用してくれることがどれくらいあるのかというと、それは、あまり期待できないと思いますが。
 この本の7割以上を占める第4章以降は、事実認定をめぐる方法論や思考方法に関する学説的な説明と他の論者の説に対する批判等が多くなり、また証拠からの事実認定よりも証拠により認定されるべき事実の範囲・選択、事実と評価の区分等の論理的な話が多くなり、証拠をどのように評価して事実を認定するかという点からは離れていく感じになります。それも裁判官の思考パターン、判断に至る過程の話ではありますから、弁護士にとっては、それでも直興味深いところではありますが、タイトル、サブタイトルから裁判官の証拠や証言の評価に関心を持って読み始めた業界外の読者には、最後まで読み通すのは困難だろうと思います。


伊藤滋夫 有斐閣 2020年9月30日発行(初版は1996年3月)
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再起は何度でもできる

2020-12-15 22:00:43 | エッセイ
 53歳にして現役サッカー選手を続ける(ただし2012年11月24日以後は公式戦出場なし:リハビリ中)著者が、サッカー人生、ドーハの悲劇、フランスワールドカップ、日韓ワールドカップ、現役引退と復帰、怪我とリハビリなどについて語った本。
 タイトルは現役引退後に復帰し、リハビリを続けて公式戦出場を模索中の著者の意気込みも含めて付けたもののようで、内容は、著者のこれまでと今後というような感じです。
 プロとして、高いパフォーマンスを示すには、ある場面では体力の温存を図る必要があるわけですが、そこで「逆算思考でプレーをシンプルにしていく判断は、やり続けて回数を重ねてこそできること。若い選手はとにかく惜しまずに『やる』ことが大事。最初からそれを怠っていたら、成長はない。」(66ページ)というのは、なるほどと思います。サッカーだけじゃなくて、他の仕事、私たちのようなある意味で切りがない仕事でどこまでやるか、どこで見切るかということにも当てはまりそうです。
 落ち込んだときに気持ちをスッキリさせる方法として、自分をカッコいいと思い込むことを推奨しています。「リハビリ中には、ちょっと痛みがあるだけで不機嫌になったり、効果がなかなか現れなくて筋トレをやる気が失せたりすることもある。でも、黙々とリハビリトレーニングをしているところを人が見たら、『ケガと闘ってる中山、カッコいい!』と思うんじゃないかな-。そんなふうに勝手に思い込むと、『よ-し!じゃあやるかぁ』と筋トレに向かっていくことができた。そして、鏡に映る自分を見つめ、弱い自分に打ち克つ自分を想像する」(142~143ページ)。やはり、ポジティブシンキングだ、この人は。


中山雅史 PHP研究所 2020年10月8日発行
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ロマンシェ

2020-12-14 22:49:07 | 小説
 与党役員の父を持ち幹事長の娘との見合いを勧めらて逃げ惑うイケメンながら恋愛対象は男子の美大生遠明寺美智之輔が、同級生の高瀬への恋心を秘めつつパリに留学し、愛読する小説「暴れ鮫」シリーズの作者羽生光晴が近隣のリトグラフ工房に匿われていることに関わりを持ち、リトグラフに目覚めていくという青春小説。
 主人公の性癖はさておいて、経済的にも容姿的にも恵まれながらさしたる努力もせずに不満ばかり言っている主人公の姿勢になじめず、今どきあんまりと思えるほどにカリカチュアライズされたオネエ言葉のぶりっこスタイルのゲイ(というより「オカマ」)表現にも違和感を覚えました。主人公以外のキャラは概ねフランクで捌けた感じでふつうに受け容れられるのに、主人公を浮かせすぎているのが読みにくく感じました。
 終盤のキーワードとなっている「君が叫んだその場所こそがほんとの世界の真ん中なのだ」…私と同世代(私より2歳若い)の作者にして、セカチューは本歌取りすべき古典なのかと、妙な感慨を持ちました。


原田マハ 小学館文庫 2019年2月11日発行(単行本は2015年11月)
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豆の上で眠る

2020-12-13 18:43:06 | 小説
 広島県内らしき「三豊市中林町」(香川県に「三豊市」が実在するのですが、三豊は新神戸からこだまで2時間の新幹線停車駅とされているので…)の新興住宅地に居住していた小学1年生の時に2つ年上の姉が行方不明になり2年後に戻ってきたが、その後戻ってきたのが本当に姉なのかに疑問を持ち続ける主人公が、大学2年生の夏に母の入院を聞いて帰郷した際に、姉の失踪事件を回想し、久しぶりに会う/会うのを回避しているような家族の様子に改めて疑念を生じて真相に迫ろうとするというミステリー。
 ミステリーで上のように書いていいのか、本来ならば迷うところのはずですが、小学1年生の時に姉が失踪した事件があり現在は大学生の姉が実家から大学に通っていること、三豊駅前でその姉とかつて姉にあった右目の横の特徴のある傷を持つ連れの女性を見かけたこと、姉に疑い/アンデルセン童話の「えんどうまめの上にねたおひめさま」の蒲団越しの豆粒のようなかすかな違和感を持ち続けていることが冒頭で明かされ、このミステリーが姉の失踪事件と戻ってきた姉の正体をめぐるものという構図が明示されています。
 この最初から示された謎の解明に向けて長編を読ませていく筆力はさすがだと思いますが、最初に枠組みを示されて向かうべきポイントが見えている状態でページ数の約7割を失踪事件から帰還までに費やすのはバランスが悪いように思えます。
 謎解き以外では、妹側から見た姉への心情の描写が読みどころとなります。


湊かなえ 新潮文庫 2017年7月1日発行(単行本は2014年3月)
「週刊新潮」連載
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誰にも言えない夫婦の悩み相談室

2020-12-12 22:02:54 | 実用書・ビジネス書
 「性の悩みへの優しい答えと負けるが花」というブログを書き続け、パートナーシップと性のカウンセラーを自認する著者が、自分自身の経験とカウンセリングでの経験から、女性に対して、男性と闘う、批判する、不満を言うのではなく、相手をコントルールしようと思わずに武器を捨てて丸腰の姿勢で自分の本当の気持ちを素直に伝えることを勧め、それで相手が思い通りに動かなくてもそこから後は相手に任せるという姿勢を取る(負けるが花)ことを勧める本。
 専ら女性に、闘いを放棄して相手に委ねることを勧めることは、ステレオタイプの男女・夫婦関係を維持・強化する方向性を持ちます。昔ながらの「亭主操縦法」にも見えます。繰り返される「やわらかくて、ふわふわしていて、その美しさに周りが影響されるもの。それが男性から見た女性だよ」という「教え」、イメージ(84ページなど)も、どうかなという気がします。
 男性はこういうもの、女性はこういうもの、だからこうすればという考えには疑問を持ちますが、「夫は妻がご機嫌でいてくれるとほっとする」「私が朝、イライラしながら、不機嫌さをまき散らしてお弁当を作るくらいなら、お弁当はなくてもいい」「夫が帰宅したとき、家の中はきちんと片付いていて、掃除もできている。でも、妻がイライラしている。自分に攻撃的な態度をとる。話を聞いてくれない。これは夫にとって、幸せではないのです。きれいごとの話ではなく、どうやら本当にそうらしいと、私は学びました」(68~69ページ)という下りは、実感・共感してしまいます。そこは、私もそういう男女観・夫婦観から自由でないということなんでしょうか。


小野美世 WAVE出版 2019年11月20日発行
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