伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

おじさんとおばさん

2012-01-31 23:33:10 | 小説
 小学校の担任教師の息子が政治家になるというのでかき集められたパーティーで45年ぶりに再会した小学校の同級生の男女6人が、同窓会の開催準備のために連絡を取り合ううちに好悪の遷ろう感情を抱きながら逢瀬・会合を重ねていく中壮年ノスタルジー恋愛小説。
 小学生の頃の思い・感情と、その後の変貌への評価と妄想、様々な経験と現在の自己の境遇を通しての価値観の変化などを受けて、小学生の頃の同級生への評価と感情が変わった様子、さらにはそれがまたちょっとした言動で反転・変遷していく様子が、軽妙で、しかし近い年齢のおじさんの目にはリアリティが感じられるタッチで描かれているところが読みどころです。うん、わかる、わかるけど、そういうかなぁ、でもそうかも・・・そんな感じで読める作品です。


平安寿子 朝日新聞出版 2010年4月30日発行
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スリープ

2012-01-31 22:10:07 | 物語・ファンタジー・SF
 科学番組の人気中学生レポーター羽鳥亜里沙が、密かに人工冬眠技術を研究している未来科学研究所に取材に訪れ、この研究所が実はすでに将来医療技術が発達したときに蘇生させる期待の下にセレブの死体の冷凍保存を実施しているという秘密を知り、その後ブラウン管から姿を消したという設定でのSF小説。
 亜里沙に対して憧れを持ち続けていた同僚レポーターの戸松鋭二が30年後に中学生のまま固定された亜里沙を研究所で蘇らせるという展開で、最初は純愛ドラマとしてある種感動的に進みますが、これが次第にオタクというかストーカーというかおぞましく暗転して行くところが読みどころとなっています。その、あれあれっという進行が売りだとは思うのですが、44歳の戸松君よりさらに年上のおじさんのノスタルジーなんですが、私は戸松君の純愛を信じたかったなぁと思ってしまいます。


乾くるみ 角川春樹事務所 2010年7月8日発行
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ポルノ雑誌の昭和史

2012-01-31 20:57:38 | ノンフィクション
 主として自販機本、ビニール本を採りあげてポルノ雑誌の栄枯盛衰をレポートした本。
 自販機本はつまみを売る自販機を流用していたために、厚手の紙で作って64ページ分の厚さが必要で、それ以上薄いと2冊一緒に出てしまうからという理由で必ずB5判64ページだった(80ページ)って、なるほど。
 雑誌倫理研究会という自主規制団体があって、ポルノの自主規制をしていたけど、その中には「教育者、宗教家、警察関係者等のスキャンダルは扱わない」というのがあったとか(21~22ページ)。そういう条項飲むのって情けない。今ではそういう人たちの下半身スキャンダルって全然珍しくもないですし。
 自販機本を作っていた著者の話で、素人女性を騙して裸にしていた(箱根の山の中でスタッフと大げんかして、一人で歩いて帰るような元気の良いモデルなんかいるわけがない:62ページ)とか、モデルが引退した後にも古いポジをひっくり返して流用して写真集とかが出版されたり(163ページ)とか、ある種自慢げに書かれてるけど、ずいぶん阿漕な話。自分も若い頃にはお世話になったことを考えると複雑な気持ちになるけど。


川本耕次 ちくま新書 2011年10月10日発行
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労働法入門

2012-01-31 19:43:21 | 実用書・ビジネス書
 労働法についての入門書。
 労働法の成り立ちから現在の様々な分野の問題までをヨーロッパ・アメリカとの比較も織り交ぜながら論じていて、労働法を全体的に把握・理解しやすくなっています。
 他方において、冒頭でフランス・ドイツと日本、そしてアメリカでの労働観の違いを論じ、欧米に比べて異様に強い就業規則の効力や使用者の人事権等を、さらには労働時間規制が弱く事実上無制限の長時間労働が黙認されていることまでも、解雇権濫用法理によって解雇が著しく困難となり長期雇用が前提とされていることと結びつけて説明されていることから、日本の労働者が置かれている状況について雇用維持のためには仕方がないとか、文化的・伝統的なものと諦める方向で読まれかねないリスクを抱えています。著者はそういう読まれ方は不本意だと思うのですが。
 比較法的な観点が所々入っているので、使用者の人事裁量の広範さとともに、差別の禁止や労働者の人権保障の弱さが日本の労働法の特色であることを痛感させられます。
 著者の問題意識として長時間労働を強いられ過労死・過労自殺に追い込まれる(正規)労働者と、働きたくてもまともな条件で働けない非正規労働者等の格差が挙げられています。しかし、長時間労働の法的規制を論じる段では「ヨーロッパのように労働時間に法的な歯止めを設定することが法的に緊急の課題といえよう」としつつ、法的な規制をすると解雇回避が困難になるともいい(145ページ)、派遣法については「もしかしたらそのとき、労働法のパンドラの匣が開かれたのかもしれない」(169ページ)とまでいいながら「問題があるから禁止するという方向が今日の複雑な状況のなかで有効に機能するかについては、もうすこし慎重に考えなければならない」(179ページ)と歯切れが悪い。最終的な提言も個人(契約重視:アメリカ的)と国家(労働条件の法規制強化:ヨーロッパ的)と集団(労働者代表)の適切な組み合わせという折衷的というか玉虫色のもので、わかるような気もするけどそれで変革の動きにつながるのか、何となく現状維持に傾くんじゃないの?という気がしてしまいます。


水町勇一郎 岩波新書 2011年9月21日発行
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大岡裁きの法律学

2012-01-01 00:22:17 | 人文・社会科学系
 伝承されている大岡政談、大岡裁きの事案について、事実であるかはさておき、これが庶民の心を打つものとして伝承されていること自体から裁判官として望ましいあり方とした上で、現在の法制度の下でこのような事案について同様の結論が導けるかを論じた本。
 著者は、現在の法律自体がすでに江戸時代と異なり、大岡裁きをしなければ弱者が救われないような不合理なものではなく大岡裁きの心を取り込んでいると論じ、制度上裁判だけでは無理なものも行政上の制度も含めれば同様の結論を導けるという方向で紹介しています。確かに法制度としてはそれなりに合理的なものとなってきているとは思いますが、大岡裁きに見られる事実認定部分での工夫は裁判官の個性・資質・思想に委ねられるところですし、そこでどの程度どういう方向に情が示されるかは制度として保証されているわけでもありません。その部分で、安易に現在の司法は十分と読まれかねないところにやや危うさを感じます。
 また、制度としてみても「五貫裁き」「一文惜しみ」の八五郎が毎日一文ずつ支払う科料を徳力屋が受け取ってそれを奉行所に毎日納めよという命令を現行法で出すのは無理だと思います。
 「腎臓売れ」に象徴される過酷な取立で有名になった商工ローン「日栄」(現ロプロ:自らは会社更生法適用で過払い金債務を免れた上で貸金業継続中)を「N社」などとぼかしているのも違和感を持ちました(子会社の保証会社「日本信用保証」は実名で出しているのに:138ページ)。
 全体として、読み物としてはおもしろいと思いますが。


岸本雄次郎 日本評論社 2011年6月20日発行
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