中3で競技かるた(百人一首)の最年少クイーンとなり執筆当時8連覇中(現在10連覇中)の著者が、百人一首での記憶とその切り替え、集中力、メンタルコントロールなどについて説明した本。
百人一首で記憶力や集中力を高めることがほかの領域でも役に立つということを、タイトルや見返しで謳い、著者も時々言及しています。事実としてそういうことはあるでしょうけど、それはある種付け足しというか結果論の領域で、読者層を拡げる目的でそういう言及をしているのでしょうけど、純粋に競技かるたクイーンの苦労話、ノウハウ、打ち明け話として読んだ方が適切でしょうし楽しめると思います。
百人一首を全首暗記、下の句(取り札)→上の句(決まり字まで)、上の句(決まり字)→下の句の完全暗記は当然として、試合では札の配置の暗記とそれが競技の進行に応じて変わっていく過程で記憶を切り替えていくことが重要というあたりまでは、想定できましたが、1日に何試合もするので1試合が終わるとその試合で覚えた配置をすべて記憶から消去しないといけなくてそれが難しく特に大差で勝つと敵陣に多数の札が残った状態でその場を離れるのでその残像がなかなか消えないとか、上級者ならではの悩みがあるようです。上級者になると読手の発する音の先を聴き分けるという能力があり、たとえば1字決まりの「寂しさに」も普通の人は「さ」の音を聴いて札を取りに行くが、名人戦やクイーン戦では「s」が発せられた途端に札が飛んでいる、次に来る音によって「s」の聴こえ方が微妙に違うそうです(72~73ページ)。2字決まりの「憂かりける」と「恨みわび」も「う」が発せられた時点で「う」から「か」に続く時と「ら」に続く時で聴こえ方がほんのわずかに違い「か」に続く時の方が「ら」に続く時よりも「ちょっと尖ったように」感じられる(73ページ)、さらには読手が発音する前でも「あ」や「お」から始まる歌だと、読手が息を吸って次の歌を詠もうとする瞬間「空気が丸くなったように感じる」とか(73ページ)。何事もプロ、達人の技には、常人からは計り知れないものがあります。
相手に自陣の札を抜かれた時やお手つきをした時、同時に札に触れた時(セイム:選手同士で話し合ってどちらが先か決めるそうです)に自分の意見が通らなかった時など、それによる差自体よりも動揺してペースを崩すことが問題で、そういったときの気持ちの切替の重要性が繰り返し語られています。むべなるかなですが、15才でクイーンの座についた著者がそういうことを習得していく姿には感心しました。
楠木早紀 PHP新書 2013年1月7日発行
百人一首で記憶力や集中力を高めることがほかの領域でも役に立つということを、タイトルや見返しで謳い、著者も時々言及しています。事実としてそういうことはあるでしょうけど、それはある種付け足しというか結果論の領域で、読者層を拡げる目的でそういう言及をしているのでしょうけど、純粋に競技かるたクイーンの苦労話、ノウハウ、打ち明け話として読んだ方が適切でしょうし楽しめると思います。
百人一首を全首暗記、下の句(取り札)→上の句(決まり字まで)、上の句(決まり字)→下の句の完全暗記は当然として、試合では札の配置の暗記とそれが競技の進行に応じて変わっていく過程で記憶を切り替えていくことが重要というあたりまでは、想定できましたが、1日に何試合もするので1試合が終わるとその試合で覚えた配置をすべて記憶から消去しないといけなくてそれが難しく特に大差で勝つと敵陣に多数の札が残った状態でその場を離れるのでその残像がなかなか消えないとか、上級者ならではの悩みがあるようです。上級者になると読手の発する音の先を聴き分けるという能力があり、たとえば1字決まりの「寂しさに」も普通の人は「さ」の音を聴いて札を取りに行くが、名人戦やクイーン戦では「s」が発せられた途端に札が飛んでいる、次に来る音によって「s」の聴こえ方が微妙に違うそうです(72~73ページ)。2字決まりの「憂かりける」と「恨みわび」も「う」が発せられた時点で「う」から「か」に続く時と「ら」に続く時で聴こえ方がほんのわずかに違い「か」に続く時の方が「ら」に続く時よりも「ちょっと尖ったように」感じられる(73ページ)、さらには読手が発音する前でも「あ」や「お」から始まる歌だと、読手が息を吸って次の歌を詠もうとする瞬間「空気が丸くなったように感じる」とか(73ページ)。何事もプロ、達人の技には、常人からは計り知れないものがあります。
相手に自陣の札を抜かれた時やお手つきをした時、同時に札に触れた時(セイム:選手同士で話し合ってどちらが先か決めるそうです)に自分の意見が通らなかった時など、それによる差自体よりも動揺してペースを崩すことが問題で、そういったときの気持ちの切替の重要性が繰り返し語られています。むべなるかなですが、15才でクイーンの座についた著者がそういうことを習得していく姿には感心しました。
楠木早紀 PHP新書 2013年1月7日発行