伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

住宅が傾かない地盤・基礎のつくりかた 設計者なら知っておきたい診断・補強技術

2024-10-28 22:31:33 | 実用書・ビジネス書
 住宅の建築時の地盤調査、不同沈下発生時の修復工法、自然災害による不同沈下・液状化・浸水に対する減災・修復などについて解説した本。
 個人住宅の建築と修復についての建築会社での経験に基づいて、行政の基準よりも、できるだけ簡易にでき、またきめ細かさや経験を生かした手法が紹介されており、勉強になる(といっても自分が活かす場面はないでしょうね)というか興味を惹かれました。
 調査等で同行した実務専門家のつぶやき集:木の背丈がそろってないところは地滑りしているかもとか、根元の曲がり(あて)がある木の斜面は目に見えない速度で地滑りしているとか、新規に造成された住宅団地の端は眺望がよいから好まれるが地震時に大きく被災するのはほぼすべて端の宅地であるなど(58~60ページ)や、業界で今まで言われてきたことが熊本地震被災地でいかに当てはまらなかったかの一覧表(194ページ)が、とても興味深く思えました。


高橋洋 学芸出版社 2024年9月5日発行
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老いをみつめる脳科学

2024-10-27 21:24:37 | 自然科学・工学系
 脳、神経の老化を研究してきた著者の研究史の形で脳の老化について解説した本。
 最初の方のやさしめの語り口や紹介されているさまざまなエピソードから読みやすいかと思ったのですが、第3章から第10章にかけて、私が成人後とみに苦手になった生化学系のカタカナ・アルファベットの化学物質とゲノム関係の見慣れぬ/馴染めない用語が飛び交う専門的記述が続き、苦しみました。
 「おわりに」で、2021年に出した講談社ブルーバックス『寿命遺伝子:なぜ老いるのか 何が長寿を導くのか』が「一般向けとしては少し難しいと思われたかもしれない」と述べています(312ページ)。その本は読んでいませんけど、この本がブルーバックスより易しいというのでしょうか。わたしが知らないうちにブルーバックスはそんなにも難しい本になっているのでしょうか。
 脳科学領域の本で高齢者には希望を与えてくれる脳の神経の再生(増殖)に関する最近の話題については、第9章で触れられていますが、著者の立場は慎重というか懐疑的なニュアンスです。いくつになってもまだ伸びしろがある、というわけにはいかないんでしょうか。


森望 メディカル・サイエンス・インターナショナル 2023年12月6日発行
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病気の壁

2024-10-23 22:24:50 | 実用書・ビジネス書
 健康診断は受けない方がいい、基準値なんて気にするな、病気になったらなったときに考えるでいいじゃないか、自分なりの病気についての考えを持って対処していこうと勧める本。
 「自分がテキトーにフワフワ生きていると、他者に対しても細かいことが気にならずに許せるし、鷹揚になるものです。どうでもいいやと思えば、こわいものはなくなります。何でもやりっぱなしでいいやと思えば、見返りを期待する苦しみから逃れられます。イライラしない、ハラハラしない、オドオドしない。これこそが究極の健康法。」(248ページ)というのがまとめで、至言です。
 基準値など気にしないというのも、医師である著者自身が血圧が高い方が頭がはっきりするので200~220でも放置していた、医者から血管年齢90歳と言われてまずいと思って降圧剤で140まで下げたが体調が悪くなり、今は170あたりでコントロールしている(24~26ページ)という実体験付きだと説得力があるというか、自分も気にしなくていいかと気が楽になります。
 もっとも、そういうことをいいながら、自分の領域のうつについては、「うつは『気のもちよう』で治る病ではないと認識し、医学的な治療を求めることが大切だということは忘れてはいけません」(112ページ)というのは、専門家としての立場上ということか、営業なのか…


和田秀樹 興陽館 2023年7月15日発行
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一度読んだら絶対に忘れない文章術の教科書

2024-10-21 22:08:49 | 実用書・ビジネス書
 「自分で問いをつくって、その問いに答える」というフォーマットを使うと、相手に伝わる、論理的な文章が誰でもすぐに書けるようになる(4ページ)というコンセプト・方法論による文章術の本。
 文章の目的の設定・決定と、相手(想定読者)の関心の把握・想定を、大きな問いを作るという形で執り行い、その問いを分解・具体化してそれに答えることで相手の関心に答えつつ文章が展開できるというふうに考えれば、合理的な手法と言えるでしょう。
 そこに乗せるために「すべての文章には必ず問いがある」(29ページ)、新聞も「最近、世の中でどんな出来事が起きているか?そして、それはなぜ起こってしまったのか?」という問いに対して答えているだけ(27ページ)とかいうのは、ちょっと無理してるかなという気がしますが。


辻孝宗 SBクリエイティブ 2024年9月6日発行

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ペッパーズ・ゴースト

2024-10-20 19:46:44 | 小説
 唾液や飛沫を受けるとその人が翌日に見る光景が脳裏に浮かぶ「先行上映」を見ることがあるという不思議な能力を持つ中学の国語教師檀千郷が、受け持ちの生徒の「先行上映」や態度から気にかけて行くうちにトラブルに巻き込まれていく様子と、5年前にSNS上で猫の虐待の実況をしたアカウント「猫ゴロシ」の支援者たちをその際に被害を受けた猫の飼い主から宝くじ当選金10億円の提供を受けて襲撃して回っている「ロシアンブル」「アメショー」の2人組の様子を絡ませながら展開した小説。
 ややシニカルにではありますが人の善意や素朴な正義感を信じた暖かさを感じさせます。しかし、檀の超能力が前提とされていることやロシアンブルらと布藤鞠子の小説の関係がうまく説明されないことなどから、いまひとつしっくりこないところがあります。


伊坂幸太郎 朝日新聞出版 2021年10月30日発行
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精神障害の労災認定 しくみと判断事例

2024-10-19 22:15:23 | 実用書・ビジネス書
 精神障害(うつ、適応障害等)の労災認定について認定基準の考え方と裁決例等を説明し、判断をするにあたっての感覚(相場感)をつかむ(2ページ)ことを推奨する本。
 第1編の設例を用いた説明はわかりやすく、第2編の多数の裁決例の紹介が売りの本だと思います。ただし弁護士の関心からいうと、第2編の裁決例の事実認定とそこからの判断のロジックはもう少し深掘りして欲しいと思います。
 特に労災の原因と主張される具体的できごとが単体では心理的負荷が「強」と評価できないときに複数の「中」を全体的に評価して「強」と認定する場合の考え方は、81~82ページで説明されていますが、そのような評価がなされた裁決例(124~125ページ、180~181ページ、201~202ページ)でそう評価した具体的な根拠やロジックの説明がないのが残念です。207~211ページの2つの裁決例で説明を加えようとしていますが「統一的な判断基準を読み取ることはなかなか難しい」(211ページ)と書いているように、説明が難しいのでしょうけれども。ただ、元労働基準監督官で現在弁護士の著者が説明困難だとすると、ふつうの弁護士にはとてもわからないということになってしまいます。


中野公義 日本法令 2024年8月20日発行
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カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本

2024-10-18 21:34:05 | 実用書・ビジネス書
 会社・役所やその従業員へのカスハラ(カスタマーハラスメント)、ハードクレームに対する対応を解説した本。
 クレームを言ってきた者への初期対応としての部分謝罪のフレーズ(80~85ページ、246ページ)、切り返しフレーズ(2~5ページ、106~146ページ)等、悪質なクレーマーなどへの現場対応に役立つ情報が書かれていてたいへん参考になります。
 他方、この本の主なテーマである、従業員を孤立させない、組織で守るという点に関して、現場が迷わない、表現をあいまいにしないマニュアルを作成し周知徹底させることの必要性が繰り返し書かれて強調されているのですが、マニュアル対応の入り口となる「ハードクレームの定義」についてさえ、どう定義すれば従業員が迷わないあいまいでない表現かの記載例の紹介がありません(カスハラについては、厚労省の定義をベースにした定義例が紹介されていますが:206~209ページ)。業種や組織のポリシーでさまざまになるのは当然ですが、これくらい具体的にという水準や定義をする際のテクニックを見るためにも例示は必要だろうと思います。そこは、商売として有料でアドバイスしますということなんでしょうか。


津田卓也 あさ出版 2024年6月18日発行
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これだけは知っておきたい 糖質制限食のエビデンス

2024-10-17 21:29:45 | 実用書・ビジネス書
 糖質制限食のメリットとデメリットを比較的大規模な研究や各種研究のメタ解析の結果に基づいて解説した本。
 糖質制限食(炭水化物摂取量の制限)は体重減少(ダイエット)の点では、3か月とか6か月で相当な(劇的な)効果があるが、その後リバウンドが大きく12か月では効果が失われたり、長期間にわたり継続できる人が少ないこと、糖質制限食で便秘、頭痛、口臭、筋痙攣などが有意に増えること、過度な糖質制限は長期的には癌や心血管疾患のリスクを高め死亡リスクを上昇させることが指摘されています。
 糖質制限で死亡リスクが上昇する原因については、わかっていませんが、著者は、糖質制限食で穀物や果物の摂取を減らすことで食物繊維の摂取量が減ること、肉は好きに食べてよいということで動物性たんぱくや脂質の摂取量が増えてコレステロールや飽和脂肪酸が増加することのリスクを指摘しています(68~69ページ)。
 糖質制限には長期的にはリスクがあることを認識した上で、現状より糖質を控えるという程度の緩やかな対応で、加糖飲料(ソフトドリンク)はやめ食物繊維の多い食事を心がけ、タンパク質・脂質の質の改善(赤身肉から白身肉・魚へ、加工肉も止める、動物性から植物性へ)、野菜を積極的に食べるという生活を著者は推奨しています。う~ん、それくらいならなんとかできるかも…


辻本哲郎 中外医学社 2023年4月25日発行
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復活の歩み リンカーン弁護士 上下

2024-10-16 23:22:08 | 小説
 冤罪で仮釈放のない終身刑を受け14年間収監されていたホルヘ・オチョアの無実を証明して釈放させた敏腕弁護士マイクル・ハラーのもとに刑務所から依頼を希望する手紙が殺到していたところ、ロス市警を退職しハラーを手伝っていたハリー・ボッシュが、保安官の元夫を銃殺したとして起訴され不抗争の答弁をして11年の刑に服しているルシンダ・サンズからの手紙を目にとめ、ハラーがルシンダの弁護をして人身保護請求を申し立てるというリーガル・サスペンス。「リンカーン弁護士」シリーズ第7作。
 高級スーツを身にまとい、着手金2万5000ドルだとかを要求するハラーの姿は、私のような庶民の弁護士とは違う世界の住人とも見えますが、本作でハラーが受刑者の無罪を勝ち取りその「復活の歩み」を見ることに達成感・生きがいを見出し(上巻10ページ、185~186ページ、下巻315ページ等)、人生観を変えて行く(下巻322ページ)展開は感動的です。だからといって、自分が再び刑事弁護の世界に戻りたいとは思いませんが。
 警察官・検察官の不正・醜さに対する作者の強い憤りが随所に感じられます。ここまでの設定をしていいのかという感じもしますが、折しも日本でも袴田事件の再審を機に証拠の捏造までした警察による冤罪とあくまでそれを隠蔽しようとした検察の醜さが広く知られ、こういう作品を読むのにタイムリーと感じます。
 もともとハラーが敏腕弁護士という設定なので、逆転また逆転でハラハラするというタイプの作品ではありませんが、判事もまたリベラルな設定だと、正義が実現されることを確信して安心して読めるのはいいけれども、リーガル・サスペンスがそれでいいのかという思いも持ちます。


原題:RESURRECTION WALK
マイクル・コナリー 訳:古沢嘉通
講談社文庫 2024年9月13日発行(原書は2023年)
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アメリカ連邦最高裁判所

2024-10-15 23:44:59 | 人文・社会科学系
 30年近くニューヨーク・タイムズで連邦最高裁担当の記者だった著者によるアメリカ連邦最高裁判所の概説書。
 最初に「本書は、連邦最高裁判所の歴史を語ることを第一の目的とはしていない。読者に連邦最高裁判所が今日どのように機能しているのかを理解してもらうことが、本書の目的である」(3ページ)と述べているのですが、歴史的な話が多く、長らく独立した庁舎もなく、最高裁判事から別のキャリアへと転身した者も多かったなど、連邦最高裁がその権威を確立する前の話がむしろ興味深く読めました。
 就任後に大幅に見解を変更した裁判官についての研究で、連邦の行政機関に勤務していた者は立場を変えず、行政機関での勤務経験のない判事だけがリベラル化した(47ページ)というのは示唆的です。やはり、役人は変わらない、ですね。


原題:THE U.S. SUPREME COURT : A VERY SHORT INTRODUCTION
リンダ・グリーンハウス 訳:高畑英一郎
勁草書房 2024年7月20日発行(原書の初版は2012年、第2版は2020年、第3版は2023年)
 
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