アスベストによる被害とその救済の歴史と今後を解説した本。
耐火性・絶縁性・耐腐食性が強く安価な材料だったアスベスト(石綿)はかつて広範な製品や建材に使用されていたが、ごく少量吸引しただけでも中皮腫・石綿肺・肺がん等を引き起こす危険な物質であることがわかり、日本では2004年に輸入・使用が原則禁止となり次第に規制が強化され、2011年3月には許容品目は実質的に1品目のみになっている(24ページ)。しかし、中皮腫はアスベストの吸引から平均40年の潜伏期間を経て発症し、いったん発症するとごくわずかな期間で死に至る。潜伏期間が長く、ごく少量の吸引でも発症するためどこでアスベストを吸引したか本人も遺族もわからなかったり記憶がなかったりして労災申請ができなかったり時効(死後5年)にかかったりする。その悲惨さから石綿健康被害救済法が制定されたが、給付金は死者1人につき300万円にとどまり、労災で時効救済の時限立法ができたりしたがそれも今は打ち切りになっている。行政は加害企業側を向いて、労災等の情報を公開せず秘匿して、被害者が自分がアスベスト被害者と気付くのを遅らせてきた。
そういったアスベスト被害とその救済をめぐるこれまでの情報を整理しつつ、これまでにアスベストを吸引した人々が中皮腫を発症するのはむしろこれからがピークであり、現在の建築物に使われているアスベストが建物の違法(手抜き)解体や大地震で飛散してこれからもアスベスト吸引被害が続きうることを指摘しています。
アスベストの場合、中皮腫・石綿肺という因果関係の明確な疾病(特異性疾患)があり、しかもその症状が重篤だということが、加害企業の中でもクボタのように早期に素直に謝罪して賠償制度を作る企業が出てきたり、不十分とはいえ救済法が比較的早期にできたことにつながっていると思います。放射性物質の被曝のように非特異性疾患(他の原因でも生じる疾患)がほとんどであれば、加害企業が因果関係を認めず徹底的に争い居直り、政府も国策優先で被害救済制度など二の次という姿勢になりがちです。その意味では、アスベスト被害者の中でも非特異性疾患の肺がんの場合、なかなか救済されない(それでも遺体を解剖して肺組織からアスベストが相当量検出されれば因果関係は立証されうるだけ、放射線被曝より有利といえますが、生きているうちは救われない)問題も残されていることになります。
子どもの頃、理科の実験でいつも使っていた石綿網の材料のアスベストがそんなに危険な物だったなんてことを聞くと、人間の科学知識なんてまだまだだねと実感します。そして、危険性を知らず、あるいは危険性を知った後も安いからと使い続けたために、始末に困るアスベストが国中にあふれてしまったということを見ても、人間の危険物をコントロールする知恵と力の頼りなさを実感します。

大島秀利 岩波新書 2011年7月20日発行
耐火性・絶縁性・耐腐食性が強く安価な材料だったアスベスト(石綿)はかつて広範な製品や建材に使用されていたが、ごく少量吸引しただけでも中皮腫・石綿肺・肺がん等を引き起こす危険な物質であることがわかり、日本では2004年に輸入・使用が原則禁止となり次第に規制が強化され、2011年3月には許容品目は実質的に1品目のみになっている(24ページ)。しかし、中皮腫はアスベストの吸引から平均40年の潜伏期間を経て発症し、いったん発症するとごくわずかな期間で死に至る。潜伏期間が長く、ごく少量の吸引でも発症するためどこでアスベストを吸引したか本人も遺族もわからなかったり記憶がなかったりして労災申請ができなかったり時効(死後5年)にかかったりする。その悲惨さから石綿健康被害救済法が制定されたが、給付金は死者1人につき300万円にとどまり、労災で時効救済の時限立法ができたりしたがそれも今は打ち切りになっている。行政は加害企業側を向いて、労災等の情報を公開せず秘匿して、被害者が自分がアスベスト被害者と気付くのを遅らせてきた。
そういったアスベスト被害とその救済をめぐるこれまでの情報を整理しつつ、これまでにアスベストを吸引した人々が中皮腫を発症するのはむしろこれからがピークであり、現在の建築物に使われているアスベストが建物の違法(手抜き)解体や大地震で飛散してこれからもアスベスト吸引被害が続きうることを指摘しています。
アスベストの場合、中皮腫・石綿肺という因果関係の明確な疾病(特異性疾患)があり、しかもその症状が重篤だということが、加害企業の中でもクボタのように早期に素直に謝罪して賠償制度を作る企業が出てきたり、不十分とはいえ救済法が比較的早期にできたことにつながっていると思います。放射性物質の被曝のように非特異性疾患(他の原因でも生じる疾患)がほとんどであれば、加害企業が因果関係を認めず徹底的に争い居直り、政府も国策優先で被害救済制度など二の次という姿勢になりがちです。その意味では、アスベスト被害者の中でも非特異性疾患の肺がんの場合、なかなか救済されない(それでも遺体を解剖して肺組織からアスベストが相当量検出されれば因果関係は立証されうるだけ、放射線被曝より有利といえますが、生きているうちは救われない)問題も残されていることになります。
子どもの頃、理科の実験でいつも使っていた石綿網の材料のアスベストがそんなに危険な物だったなんてことを聞くと、人間の科学知識なんてまだまだだねと実感します。そして、危険性を知らず、あるいは危険性を知った後も安いからと使い続けたために、始末に困るアスベストが国中にあふれてしまったということを見ても、人間の危険物をコントロールする知恵と力の頼りなさを実感します。

大島秀利 岩波新書 2011年7月20日発行