中国での労働事件の裁判事例を元に、中国の労働法の内容とその実務を解説する本。
使用者側弁護士の手になるものですが、使用者側の利害をギラつかせず、淡々と書かれているように思えます(中国の労働法、私はまったく知らないので、どの程度公平に紹介されているのかまではわかりませんけど)。
紹介されている内容によれば、中国では、労働契約書を作成しないまま雇用すると、1か月経過後は賃金を2倍支払わなければならない(契約書作成義務を履行しないことへの制裁。日本の労働基準法になぞらえれば、残業代や解雇予告手当の不払いに対する付加金のようなものでしょうか)、1年経過しても労働契約書が作成されない場合は無期雇用(期間の定めのない労働契約:日本ではいわゆる正社員)と見なされ、有期契約を更新すると無期契約になり(基本的に1回更新で。上海では2回更新で初めて無期になると解釈運用してるとか)、派遣労働者については派遣先労働者(正社員)と同一労働・同一賃金が適用されるとのこと。非正規雇用に対する法のあり方を考える上で、参考になります。私傷病の場合の休職制度が法律上定められていて(日本では法規制なし、休職制度を作るかどうかも使用者の自由)、有期契約の場合も休職期間(それと別に産前産後・育児休業期間も)中に雇用期間の末日が到来するときは雇用期間が延長され、しかも休職期間は使用者が一定割合の賃金を支払い続ける必要がある(日本では賃金を支払うかどうかも使用者の自由で大半の企業は支払わない)、休職期間満了時に業務に堪えない場合でも使用者が別途手配した他の業務もできない場合でないと解雇できない(日本では、規定がなく裁判所の判例で補われている部分)というのも、労働者保護あるいは労働者への福利厚生の考え方について考えさせられます。
残業は、労働者及び労働組合と協議をした上で、原則として1日1時間まで、特別な原因により必要なときでも1日あたり3時間まで、1か月あたり36時間までしか認められない(割増賃金は時間外150%、休日200%、法定祝日300%だとか)そうです。「働き方改革」と称して長時間労働を抑制するなどと言いながら、残業制限のラインは月100時間(未満)とゆるゆる(というか、過労死ライン)の上、残業代不払いで働かせ放題となる「裁量労働制」「高度プロフェッショナル」なんとやらを拡大しようと画策している此方の政府のありようと比べると頭がクラクラします。
解雇は法律で定めた事由がないとできず、労働者に責任がある一定の事由(試用期間中に採用条件を満たしていないことが証明された場合、使用者の規則制度に著しく違反した場合、著しい職務怠慢・不正行為により使用者に重大な損害を与えた場合、労働者が同時に他の使用者との労働関係を確立し本使用者の業務任務の完成に甚だしい影響を与えたかまたは使用者が指摘しても是正を拒否した場合、詐欺・脅迫の手段または危機に乗じて真意に背く状況下において使用者に労働契約を締結または変更させ労働契約が無効とされた場合、法により刑事責任を追及された場合)による解雇以外の解雇や雇い止め、退職勧奨による合意退職、使用者側の責任がある自由による労働者側からの退職に際して、使用者は経済補償金(勤続1年あたり賃金1か月分。最大12か月分)を支払わなければならず、解雇が違法の場合経済補償金は2倍になるのそうです。言ってみれば退職金が、日本と異なり(日本は退職金制度を作るかどうか自体使用者の自由)法律上義務づけられていて、違法解雇の場合はそれが倍になるということです。
使用者が、退職した労働者に対して競業避止義務(同業他社に就職しない)を課す場合、それができる労働者が限定され、期間が最大2年と制限されている上、使用者はその期間中賃金の30%をめどとする補償金を支払う義務があるというのも、1つのあり方として興味深く思えます。
外国の法制度は、私のような国内専業の弁護士にとって直接には業務に関係なく勉強する機会もないのですが、日本の現行制度が唯一のまた動かしがたい制度ではないことを再認識させてくれ、こういう本の読書はよい刺激になります。
五十嵐充、包香玉 日本法令 2017年10月10日発行
使用者側弁護士の手になるものですが、使用者側の利害をギラつかせず、淡々と書かれているように思えます(中国の労働法、私はまったく知らないので、どの程度公平に紹介されているのかまではわかりませんけど)。
紹介されている内容によれば、中国では、労働契約書を作成しないまま雇用すると、1か月経過後は賃金を2倍支払わなければならない(契約書作成義務を履行しないことへの制裁。日本の労働基準法になぞらえれば、残業代や解雇予告手当の不払いに対する付加金のようなものでしょうか)、1年経過しても労働契約書が作成されない場合は無期雇用(期間の定めのない労働契約:日本ではいわゆる正社員)と見なされ、有期契約を更新すると無期契約になり(基本的に1回更新で。上海では2回更新で初めて無期になると解釈運用してるとか)、派遣労働者については派遣先労働者(正社員)と同一労働・同一賃金が適用されるとのこと。非正規雇用に対する法のあり方を考える上で、参考になります。私傷病の場合の休職制度が法律上定められていて(日本では法規制なし、休職制度を作るかどうかも使用者の自由)、有期契約の場合も休職期間(それと別に産前産後・育児休業期間も)中に雇用期間の末日が到来するときは雇用期間が延長され、しかも休職期間は使用者が一定割合の賃金を支払い続ける必要がある(日本では賃金を支払うかどうかも使用者の自由で大半の企業は支払わない)、休職期間満了時に業務に堪えない場合でも使用者が別途手配した他の業務もできない場合でないと解雇できない(日本では、規定がなく裁判所の判例で補われている部分)というのも、労働者保護あるいは労働者への福利厚生の考え方について考えさせられます。
残業は、労働者及び労働組合と協議をした上で、原則として1日1時間まで、特別な原因により必要なときでも1日あたり3時間まで、1か月あたり36時間までしか認められない(割増賃金は時間外150%、休日200%、法定祝日300%だとか)そうです。「働き方改革」と称して長時間労働を抑制するなどと言いながら、残業制限のラインは月100時間(未満)とゆるゆる(というか、過労死ライン)の上、残業代不払いで働かせ放題となる「裁量労働制」「高度プロフェッショナル」なんとやらを拡大しようと画策している此方の政府のありようと比べると頭がクラクラします。
解雇は法律で定めた事由がないとできず、労働者に責任がある一定の事由(試用期間中に採用条件を満たしていないことが証明された場合、使用者の規則制度に著しく違反した場合、著しい職務怠慢・不正行為により使用者に重大な損害を与えた場合、労働者が同時に他の使用者との労働関係を確立し本使用者の業務任務の完成に甚だしい影響を与えたかまたは使用者が指摘しても是正を拒否した場合、詐欺・脅迫の手段または危機に乗じて真意に背く状況下において使用者に労働契約を締結または変更させ労働契約が無効とされた場合、法により刑事責任を追及された場合)による解雇以外の解雇や雇い止め、退職勧奨による合意退職、使用者側の責任がある自由による労働者側からの退職に際して、使用者は経済補償金(勤続1年あたり賃金1か月分。最大12か月分)を支払わなければならず、解雇が違法の場合経済補償金は2倍になるのそうです。言ってみれば退職金が、日本と異なり(日本は退職金制度を作るかどうか自体使用者の自由)法律上義務づけられていて、違法解雇の場合はそれが倍になるということです。
使用者が、退職した労働者に対して競業避止義務(同業他社に就職しない)を課す場合、それができる労働者が限定され、期間が最大2年と制限されている上、使用者はその期間中賃金の30%をめどとする補償金を支払う義務があるというのも、1つのあり方として興味深く思えます。
外国の法制度は、私のような国内専業の弁護士にとって直接には業務に関係なく勉強する機会もないのですが、日本の現行制度が唯一のまた動かしがたい制度ではないことを再認識させてくれ、こういう本の読書はよい刺激になります。
五十嵐充、包香玉 日本法令 2017年10月10日発行