伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

交換ウソ日記3 ふたりのノート

2024-04-30 22:26:34 | 小説
 実は一人でいるのが好きだが断るのが面倒なので誘いを断らない高校2年生理系コースの有埜景が、図書館の窓際に置かれていたノートに自分を名指しできらいだと書かれているのに匿名で返事をしたことから、幼なじみの文系コース2年瀬戸山美久と交換日記をすることになり…という展開の青春恋愛小説。
 2巻が1巻の主人公黒田の親友松本を主人公にしたので、次はもう一人の親友優子かと思いきや、1巻の主役男子瀬戸山の7歳下の妹に振ってきました。やっぱり続けるというのはなかなか難しいのでしょうねぇ。3巻続けて、偶然から相手に正体を知らせないままに交換日記を始めるという困難な設定(まぁそうしないとこのシリーズタイトルが維持できないから仕方ないですが)、お約束のようになった多数人の前での告白のクライマックスを書き切っただけでも賞賛ものですね。
 設定は近鉄奈良線沿線の高校なのですが、関西弁がほとんど出ません。関西人!と思わせるのは実に2巻で二ノ宮が着ているものを(ワイシャツではなく)「カッターシャツ」と書いている(29ページ)ところくらいです。読者層を拡げるのに標準語で会話させるのなら、設定を関西にしなくてもいいように思えますが。


櫻いいよ スターツ出版文庫 2021年10月28日発行
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交換ウソ日記2 Erino’s Note

2024-04-30 19:27:00 | 小説
 「交換ウソ日記」(1巻)で脇役だった生徒会副会長の松本江里乃が、早朝の昇降口で拾ったノートに書かれていたポエムに誤字と言葉の用法の誤りを指摘する付箋をつけ、使用されていない靴箱に返したことから、人騒がせな行動で目に付く3年生二ノ宮静と匿名で交換日記をすることになり…という展開の青春恋愛小説。
 1巻で自分の主張を堂々と言えると黒田にうらやましがらせていた松本に、劣等感や嫉妬、自己卑下を繰り返し語らせているのは、誰にも悩みはあるとか、他人のことはよく見えるものということを言いたいのだと思いますが、作者が自立した強い女性を賞賛することを好んでいないのかなぁという気もします。
 二ノ宮が友人から「ボーリング」に誘われています(324ページ)。娯楽の方は「ボウリング」で、「ボーリング」は地盤調査のための掘削。間違えやすいところです。3巻では「ボウリング」になっていて(23ページ等)気がついたんじゃないかと思うのですが、3巻が出た後の刷り(2023年6月6日発行の13刷)でも2巻の方は直されてません。


櫻いいよ スターツ出版文庫 2020年12月28日発行
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交換ウソ日記

2024-04-29 23:29:54 | 小説
 文系コース2年の黒田希美が水曜4限の数学Bの授業のときだけ座る席に入っていた、その机の主2年E組理系コースの人気者男子瀬戸山潤からの宛先のないラブレターに、黒田が匿名で返事を書いたことから交換日記が始まったものの、黒田がわたしの名前、知ってる?と聞くと、瀬戸山は黒田の親友松本江里乃の名を挙げ…という展開の恋愛小説。
 インパクトのある書き出しから最終盤(ラスト直前)の瀬戸山の叫びまで巧みに引き込んでくれます。裏表紙の紹介で「予想外の結末は圧巻!」と書いていますが、私には、ふつうこの展開は予測するでしょ、むしろ予測できる展開をきちんと書き切れる、予想していても/予想しているからこそ共感/感動できると思える作品でした。
 自分の主張を堂々と伝える(と黒田に評価されている)生徒会副会長の松本と何か聞かれると自分の意見を言わずどっちでもいいが口癖で周りの空気を読む「頭ポンポン」にときめく黒田を対比しながら、松本に卑下させ、黒田をメインに据える点、読者層としては黒田に自己投影する者が多数派なのだろうけど、それでいいのかと思いました。私は松本の方に好感しますので。


櫻いいよ スターツ出版文庫 2017年8月28日発行
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恋愛中毒

2024-04-28 23:02:09 | 小説
 小さな編集プロダクションの事務職員の中年女性水無月が、うまく別れ損ねた女から執念深く追われている新人編集者に、問わず語りに過去の話をするという体で、有名作家の愛人として過ごしつつ離婚した夫への執着を断ち切れない日々を語る小説。
 裏表紙の紹介で「恋愛小説の最高傑作」と書かれているのですが、恋愛小説というイメージよりも嫉妬、執着心を描く、ノワールというのかほの暗い心情に満ちた作品で、最初は「恋愛中毒」というタイトルに馴染めなかったのが終盤でそこはあぁなるほどと思います。
 初めての男として見離せない(284ページ)という荻原の付き合いのよさというか、義理堅さ、責任感に淡い感動を覚えました。


山本文緒 角川文庫 2002年6月25日発行(単行本は1998年11月)
吉川英治文学新人賞受賞作
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函館グルメ開発課の草壁君 お弁当は鮭のおにぎらず

2024-04-27 22:55:45 | 小説
 新卒早々に一人暮らしをすることになった山谷水産開発課に配属された下戸の新入社員草壁佑樹が、2年先輩の優しい笑い上戸の中濱直に勧められて料理SNSアカウント「イチイさんのお弁当箱」を見ながら毎日自炊してお弁当を作るようになり…という青春お仕事お料理恋愛小説。
 終始幸福感に満ちた職場と私生活の描写が続き、基本的に穏やかで暖かい、あるいは羨ましい心情と、少しのうるうる感・胸キュン感を持ちます。
 裏表紙の紹介でも「草壁は“ある疑問”を抱き…」とされているように、イチイさんの正体をめぐりミステリーっぽい扱いがされていますが、そこはちょっとどうかなと思いました。


森崎緩 宝島社文庫 2023年7月20日発行
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生命はゲルでできている

2024-04-26 20:34:33 | 自然科学・工学系
 生物の体が細胞から細胞外マトリックス、血管、腱、靱帯、軟骨、筋肉、皮膚など様々な階層でゲル状の組織でできていること、その性質、利点などを説明した本。
 ゲル(ドイツ語読み:英語読みではジェル)の例にゼリーやこんにゃくの他に豆腐やゆで卵、炊いたご飯やゆでた麺などが挙げられ(2ページ)驚きます。物理では、物質の3態として気体、液体、固体の分類がなされ、物質はその3つに分けられると思っていましたが、考えてみると生物の世界ではそう分類できないものが大半だと気づきます。通常は柔らかい流動性のあるものでも変形し流動する間もないほどのごく短時間にことが起こると硬いもののように振る舞う(外力を跳ね返す)、極めて速く足を動かせば水上を駆け抜けることもできるもので、時間スケールの取り方で固体のような性質も液体のような性質も持ちうるという説明があり(11~14ページ)、ちょっと目からウロコの気分がしました。そういう原理で水上を走るトカゲが表紙に採用されています。
 さまざまな生物組織やそれを構成する化学物質、構造の説明は、かみ砕いてなされているようで、でもわかったようなわからないような感じのところが多くありました。ゲルについての研究はまだ日が浅く、わかっていないことがとても多いというのですが。
 いろいろと視野を広げてくれる刺激に満ちた本でした。


長田義仁 岩波科学ライブラリー 2024年3月14日発行

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絲的ココロエ 「気の持ちよう」では治せない

2024-04-25 21:23:59 | エッセイ
 双極性障害(現在は双極症と呼ぶらしい)に罹患し、主治医からASD(自閉症スペクトラム)の特徴を強く持っていると言われている著者が、症状が悪化したり緩和されているときの心理や病状・生活のこと、周囲の人との関係などについて綴ったエッセイ。
 冒頭の2文が「大事なことを初めに記しておきたい。双極性障害でも、うつ病でも、一番問題となるのは『判断に支障をきたすこと』だと思う」(11ページ)というのが印象的でした。罹患の事実も発症の経緯も執筆の動機とかの説明もなく、いきなり入るのは、作家の企みなのか。専門雑誌の連載でそのあたりはもう本文の前に紹介されているということなのかも知れませんが。
 大人になりたいと思っていたので今大人になってよかったと思っている、神様や魔女があらわれて「若い頃に戻してあげる」と言われたとしてもまっぴらごめんだ、おばちゃんはプレッシャーが少ない、おばちゃんは完璧を目指す必要がなく自分に対しても他人に対しても受容できることが増えてくる、これも新たに得た自由だと思う(106ページ)という意見にはしみじみそうだよねぇと思う。そして50歳にもなればさまざまな病気や体質と上手に付き合っている人々はたくさんいる、その中で双極性障害の再発が出ないようにコントロールすることは特別でも何でもないし苦労しているとも思えない(107ぺーじ)というのも、強がりというか自分に言い聞かせているという面もあるかも知れませんが、実感だと思う。心身の不調との付き合い方というか慣れということはあり、特別だという意識や被害意識・悲壮感を持ち続けていてもそれで状況がよくなるものでもないですし。
 病気のことだけじゃなくて、他人との付き合い方も含めて、いろいろ気づきのある本でした。


絲山秋子 日本評論社 2019年3月10日発行
「こころの科学」連載
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こんなときどうする? 部活動の地域移行に伴う法律相談

2024-04-24 21:44:26 | 実用書・ビジネス書
 教員の負担軽減を目的として進められている部活動の地域移行に伴い、それを担う団体の創設等の準備や事故発生時の被害者への補償、被害者に対する法的責任がどうなるかなどを解説した本。
 書かれていることは基本的にごく常識的なというか、少なくとも法律業界ではある種当然のことで、学校が主体でそこに指導員やボランティアが関与するという形であれば事故時に被害者には災害共済給付(独立行政法人スポーツ振興センター)がなされ、公立学校(国立も含む)の場合教師(従業員)個人は被害者に対する損害賠償責任を負わない(私立学校の場合は、民間企業なので教師個人も責任を負う)けれども、学校が委託するなどして民間団体が主体となって部活動を行う場合は事故があっても災害共済給付はなく、指導員やボランティア個人も被害者に対する損害賠償責任を負い、巨額の損害もあり得るので賠償責任保険に加入して対応するしかないということになります。
 企業が事業として引き受けるのであれば、そういったリスクも十分見込んでやることになります(その分会費等の費用も当然に高くなるでしょう)が、PTAとかボランティアが引き受けるとなると割に合わないとんでもない責任を負うことになります。
 教師の負担軽減の美名の下で、責任や出費を免れたい学校が、PTAや地域の気のいいおじさん・おばさんに安易なアウトソーシングをするというか、押しつけるという構図のように、私には見えてしまいます。それはほとんど借金の保証人を頼まれて断れずに引き受けてしまう親族や知人のようで、お人好しが馬鹿を見るという典型のように思えるのですが。


山本翔 日本法令 2024年1月1日発行
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放課後ミステリクラブ2 雪のミステリーサークル事件

2024-04-23 22:54:37 | 小説
 夏に「金魚の泳ぐプール事件」を解決した神山美鈴(ミスず)、辻堂天馬(テんま)、柚木陸(リく)のミステリトリオが、冬に雪の積もった校庭に描かれたミステリーサークルの謎を解明することを真理子先生に頼まれる、放課後ミステリクラブシリーズ第2弾。
 雪が積もる中、周囲にまったく足跡がなく、ミステリーサークルを描いた者はどのようにして描き、どのようにそこから立ち去ったのか、ある意味、ありがちなトリックのパターンですが、そこそこ楽しめます。しかし、雪に描かれたミステリーサークルの白(雪)と黒ないし茶色(地面)が、真理子先生が見た11ページのイラストと美鈴がポラロイドカメラで撮影した25ページで逆になっているのはちょっと…これ、謎解きにも絡むと思うのですが。
 人物紹介ページのイラストで、1巻ではなかった辻堂天馬のシャツのズボンからのはみ出しを指摘しています(153ページ)。キレすぎて可愛げがないので少しボケさせないといけないと思ったのでしょうか。


知念実希人 ライツ社 2023年10月30日発行
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放課後ミステリクラブ1 金魚の泳ぐプール事件

2024-04-22 21:53:33 | 小説
 小学4年生の神山美鈴(ミスず)、辻堂天馬(テんま)、柚木陸(リく)の通称「ミステリトリオ」は、名探偵辻堂天馬が真理子先生が困っていた事件を解決したことから、校舎の4階奥のかつて倉庫だった部屋を部室として使えるようになり「ミステリクラブ」と称して放課後を過ごしていた。そこに夜間に学校のプールにたくさんの金魚が放たれる事件が起こり…という児童向けミステリー小説。
 深刻・悲惨な事件を起こさずに楽しめるミステリーというコンセプトの作品です。小学4年生にして大人向けのミステリを読み、シャーロックホームズ張りのコートを着た名探偵辻堂天馬が左手を挙げて指さし「僕は読者に挑戦する」と言って謎を解く姿は、名探偵コナンのイメージ。浴衣のままで木登りをして枝から枝に飛びうつるという天真爛漫な美鈴のキャラが、引き立て役ながら微笑ましく生きているように感じました。


知念実希人 ライツ社 2023年6月28日発行
2024年本屋大賞9位(児童書としては初めてのノミネート作品)
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