伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

君のクイズ

2025-02-12 23:49:23 | 小説
 賞金1000万円の生放送クイズ「Q-1グランプリ」のファイナルで対戦した本庄絆が、最終問で問題文が1文字も読まれないうちに正解したことに疑問を持った三島玲央が、本庄が過去に出場したクイズ大会の資料を集め、それを検討しながら番組の録画を再生し、推理をして行く展開のミステリー小説。
 クイズの1問1問を再現しながら、そのときの解答に至る思考プロセスと回答者の人生経験を語る構成・構想は、いかにも「ぼくと1ルピーの神様」を思い起こさせ、好みの問題でしょうけど、同じような趣向であれば先に読んだ(って18年前ですが)「ぼくと1ルピーの神様」のときの方が新鮮味もあり、明るさもあってよかったように、私は思いました。
 終盤、ひねりを入れるなどしてミステリーらしくしているところで印象が変わりますが、そちらのテイストが好きな人には評価されるのでしょうけれど、私はちょっと馴染めませんでした。最初の段階で「ぼくと1ルピーの神様」との対比にこだわってしまったためかと思いますが。


小川哲 朝日新聞出版 2022年10月30日発行
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ふたりの窓の外

2025-02-11 01:56:57 | 小説
 広い人脈でのコネによる細切れの頼まれ仕事を器用にこなして生活する売れない芸能人塔野壮平こと鳴宮庄吾が不仲だった父の葬儀の日、恋人だった渋井正則が交通事故で死んだ葬儀の席で渋井が大学の後輩と二股をかけ続けていたことを知らされ当の相手から詰られていたたまれなくなって抜け出してきたふつうの事務職藤間紗奈と、火葬場の喫煙室で出会い、渋井が予約していた1泊2日のキャンセルできない温泉旅行に同行することになって…という設定で始まる恋愛小説。
 4つのパートを鳴宮視点と藤間視点で交互に展開し、距離を置いた2人の心理を相互に観察する読み物になっています。すれ違いではなく、相対しつつの焦らしというか、あるいは気長さ、ゆっくりした時間の流れへの志向を味わう作品というべきかも知れません。


深沢仁 東京創元社 2024年11月29日発行
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地図と拳

2025-02-02 22:48:13 | 小説
 1899年から1955年にかけての中国東北部の架空の邑→都市・李家鎮→仙桃城を舞台に、さまざまな人・グループ・部隊・軍・国がさまざまな思惑で交錯する様子を描いた群像劇。
 時期が飛び飛びでいろいろな人が新登場して視点も変わるので、流し読みでは理解しにくいし、大部(600ページ余り)を読み通しても充実感よりも疲労感が先に立ちました。
 冒頭ではスパイ行為のために潜入した軍人高木の通訳として登場したひ弱な学生だったがそのまま住み着いて頭角を現す細川、細川に見出されて満鉄のために調査に従事するようになった須野と寡婦となった高木の妻の間の子須野明男が全体を通して軸となり、そのまわりで多数の人が失意のうちに斃れ去って行くという構造です。中盤から比較的重用された中国人丞琳(作者はインタビューで戦う女性を描きたかったとも言っているようですが)も、初期には昏い輝きがあるものの後半では輝きを失いいまひとつに感じます。
 共産党の細胞/キャップだったが特高に捉えられて仲間を売り、徴兵されて自分は人を殺すまい殺されるくらいなら撃たれて死ぬと思い定めていたにもかかわらず死の恐怖に敵を撃ち殺し、志と心を折られ続ける中川が、作者にとっては捨て石のひとつくらいの位置づけなんでしょうけど、実に哀しい。中川の「転向」をではなく、それを強いる権力、そのような権力がのさばる社会と時代をこそ許してはならないと思う。


小川哲 集英社 2022年6月30日発行

 
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サンセット・サンライズ

2025-01-31 01:02:38 | 小説
 趣味の釣を満喫するためコロナ禍でのテレワーク導入を機に宮城県のひなびた町宇田濱の築9年未入居家具・家電完備の空き家家賃月8万円也に移住した従業員3万人の大企業シンバルの資産管理課課長代理36歳の西尾晋作が、家主の宇田濱町役場勤務で空き家対策を担当する39歳の関野百香と絡んでゆく小説。
 映画を先に観て、原作を読みましたが、原作では、映画の盛り上がったシーンの健ちゃんの芋煮会も、熊も、乱闘もなし。淡々と落ちついて進行し、しかしラストは映画ではモヤモヤしたところが原作では一般読者の期待にあっさりと応えています。原作の方がすんなり入りますが、ストーリーの起伏に乏しく地味な感じ。映画はだいぶ盛ったかなという感じです。
 映画では家賃6万円にしていたのは、都内在住以外の人が観ることを考えると家賃8万円で安いとは感じてもらえないというところでしょうか。


楡周平 講談社文庫 2024年10月16日発行(単行本は2022年1月)
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六人の嘘つきな大学生

2025-01-29 00:47:12 | 小説
 人気新興IT企業の新人採用で5000人以上の応募者から勝ち残った6人が、最終選考のグループディスカッションの場にそれぞれの秘密を暴露する謎の封筒が置かれていることに困惑し戦々恐々としながら進めた選考と、その8年後に真相を解明しようとする試みを描いたミステリー小説。
 映画を先に観てその原作を読んだのですが、映画で描かれなかった終盤の存在が、映画を観て「犯人」と「真相」を知っていてもなお、読ませてくれると思いました。映画では、浜辺美波のイメージを守ることが優先されたのか後ろ暗さや悪い感情を見せなかった嶌衣織にも陰の部分が見られてむしろ人間味を感じましたし、何よりも就活や大企業、人事部について相対化するというかそんな大したものじゃないという描きぶりが爽快に思えます。
 総じて映画はわかりやすくまたミステリーとしての見せ方はうまくできていたと思いますが、原作の方が深みというか考えどころが多々あるなと思いました。


浅倉秋成 角川文庫 2023年6月25日発行(単行本は2021年3月)
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私にふさわしいホテル

2025-01-28 00:15:43 | 小説
 文学新人賞を受賞したものの同時受賞したアイドルの陰で出版もできずにいる作家相田大樹こと中島加代子が、大手出版社「文鋭社」の編集者となっている大学のサークルの先輩遠藤道雄を頼り、大作家東十条宗典を蹴落とし張り合い利用しながら、手段を選ばず売れっ子になろうと奮闘する姿を描いた小説。
 映画を先に観て、その原作を読んだのですが、映画ではさすがにエグいと見てか採用されなかった第6話が、評価が分かれそうですが、したたかさと哀しさに溢れ、読みどころかも。
 映画を観たとき、相田大樹改め有森樹李のペンネームで小説ばるす新人賞を受賞した中島が、翌年圧倒的な力量でその新人賞を受賞した新人の名前が有森光来なのを非難したとき、遠藤が「仕方ねえだろ。本名なんだから」と答えたシーン。さすがにこれは映画の主役がのん(本名=旧芸名能年玲奈)だということにあわせた映画オリジナルの設定と台詞と思ったのですが、なんと原作でもそうなってる(111ページ)。のんがまだ能年玲奈を芸名として使っていた2012年にもうこの事態を予期していたのか、柚木麻子恐るべし。
 作中で朝井リョウが登場してキレてわめいたり(113~118ページ)してるのは、作者の友だちなんでしょうか(宮木あや子とか南綾子とかも:106~117ページ)。


柚木麻子 扶桑社 2012年10月30日発行
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僕が死んだあの森

2025-01-19 20:42:01 | 小説
 フランスの小さな村で、なついていた犬が車にはねられ目の前で飼い主に撃ち殺されたのを見て衝撃を受けた12歳の少年アントワーヌが、事情を知らずにやってきた隣人の6歳の少年レミに手にした木の枝を振り下ろして殺害してしまい、その後行方不明のレミを捜索する騒動に怯えつつ過ごす日々を描いたサスペンス小説。
 主人公の視点から周囲の人の視線や捜索の手が近づかず遠ざかることにどこかホッとしつつ、しかし第三者の視点からそれでいいのかという思いに駆られる、その不安定な心情を読む作品かと思います。そういう点で、それにふさわしいラストだと私は思いましたが、納得できない思いを持つ読者もいるだろうなとも思います。
 舞台は最初が1999年で次が2011年。日本ならJCOの臨界事故と福島原発事故の年ですが、もちろんそういう話題は出てきません。日本の小説ならお約束のノストラダムスも…


原題:TROIS JOURS ET UNE VIE
ピエール・ルメートル 訳:橘明美
創元推理文庫 2023年10月10日発行(原書は2016年)
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受験生は謎解きに向かない

2025-01-05 21:45:07 | 小説
 「卒業生には向かない真実」で完結した「自由研究には向かない殺人」以下3冊シリーズのエピソード0です。
 1作目が明るく始まったもののどんどん暗くなっていったシリーズの前日譚が、ちゃんと明るいトーンに戻っているところはさすがと思いました。1作目で不自然というか唐突に思えたピップが5年前に起きて誰も不審に思っていない殺人事件の真実を疑いその解明を自由研究の目的にする動機もうまく説明していて、エピソード0としては出色のできといってよいと思いました。
 友人が作成した殺人事件ミステリーゲームの登場人物に友人たちがそれぞれなりきってプレイヤーとして推理するという設定については、それぞれが指示に従うゲームのため、自分が扮している人物の真実を知らないので、登場人物の内心を描いてもゲーム上の人物の内心はわからないということになって、ある意味で巧妙なというか斬新さがあります。事件の捜査/調査を自由研究のテーマにするという第1作の設定も合わせ、こういう思いつきの巧みさに感心しました。
 他方で、殺人事件自体が所詮はゲーム(絵空事)ということが、読者のみならず登場人物もそう思っているというのが二重に真剣味を欠いてしまうこと、各人がゲーム上の登場人物の名前と作品中の登場人物の名前で呼ばれ、名前を覚えるのが苦手な私はシーンごとに人物の同定に苦しみ混乱して読みにかったことが、残念に思えました。


原題:KILL JOY
ホリー・ジャクソン 訳:服部京子
創元推理文庫 2024年1月12日発行(原書は2021年)

「自由研究には向かない殺人」は2023年9月12日の記事で紹介しています。
「優等生は探偵に向かない」は2023年9月13日の記事で紹介しています。
「卒業生には向かない真実」は2023年11月20日の記事で紹介しています。
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黄色い家

2024-12-28 23:21:41 | 小説
 1990年代後半の東京で行き場のない女4人がともに暮らしていた封印していた記憶をコロナ禍のときに振り返り、辛く忘れたい過去だったのか真実は違ったのかを思い惑う小説。
 語り手の伊藤花が、自分がただ仲のよい相手とともに暮らしたいと思って始めた共同生活なのに、いつの間にか自分ばかりが犠牲になっているという思いを募らせる流れが、切なく思えます。その思いも、花が、何も考えていない、楽していると見ている相手方からは別のように見え、それを指摘されて花がたじろぎつつさらに対立が深まるのも、端から見ているとやはり悲しい。世に好きで結婚した相手との離婚がつきないことからして、人間関係の宿命かも知れませんが。
 責任感が強いというか、周りの人が負った負債や生活能力の喪失を自分が解決しないといけないという気持ちになってしまう(もちろんなぜ自分がという被害者意識も持っているのですが)花が、真っ先に犯罪に手を染めてしまうという展開が、問題提起なのでしょうけれども哀しいところです。
 できごとについての報道、世間の目が、当事者ないし近しい人から見た「真実」と違うことが1つのテーマとなっている作品です。それが読売新聞に連載されていたというのも興味深いところです。


川上未映子 中央公論新社 2023年2月25日発行
2024年本屋大賞第6位
読売新聞連載
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ミーナの行進

2024-12-27 23:07:41 | 小説
 岡山で母と暮らしていた朋子が中学生となる1972年に芦屋に住む裕福な伯母夫婦に預けられ、1つ年下の従妹ミーナやコビトカバのポチ子らと過ごした1年をまばゆく懐かしい想い出として語る小説。
 それまでの人生と隔絶した裕福な暮らしを夢のような楽しい日々として思い返す、ノスタルジー小説の王道を行く作品で、暗さや辛さとは無縁なものですから、読後感は軽く清々しい。
 朋子と同学年となり、1972年を関西で過ごした私には、触れられるできごとや世相も懐かしく、物語世界に入りやすかったという点からも基本的には読みやすいものでした。
 TIMEが「2024年の必読書100冊」に選んだ(日本人作家の作品としてはこの1冊だけだとか)という記事を見て、読んでみたのですが、そういった明るい青春ノスタルジー小説ということが評価されたのでしょうね。「ラジウム飲料」が体にいいということに何の疑問も呈されず、ミュンヘンオリンピックでのイスラエル選手団殺害事件について、もちろん選手たちが被害者であることはそのとおりですが、「イスラエルは迫害を生き延びたユダヤ人が作った国」としてイスラエルが100%正しいみたいなことを無邪気に言えるセンスがアメリカ人に評判がいいのかなと勘ぐってみたりもしますが。


小川洋子 中公文庫 2009年6月25日発行(単行本は2006年4月)
読売新聞連載
谷崎潤一郎賞受賞作
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