伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

ピナ・バウシュ タンツテアターとともに

2011-06-30 08:47:15 | 人文・社会科学系
 現代ドイツの舞踏演出家ピナ・バウシュをめぐって評論、インタビュー、リハーサルのレポート、関係者へのインタビューなどを取り混ぜて構成した本。
 1986年原書発行、1999年日本語版発行の本を、2009年のピナ・バウシュの死後、新装版として出版したもの。
 インタビューとリハーサルメモに見られる、新作ダンスの創作過程、ピナ・バウシュが課するキーワードやイメージでダンサーがパフォーマンスを繰り返し、その試行錯誤を数十回、数百回繰り返した後に、そのいくつかを組み合わせて再現し、固めていってはご破算にして組み直すさま。「開幕まで10日を切っても完結した作品はできあがらない。いまだに未完の草稿、ただの断片でしかなく、やっとできたいくつかの小さなシーンの束と、おびただしい一連のキーワードの集合にすぎず、それらにはまだ何の脈絡も付けられていない。」(133~134ページ)、「総稽古の2、3時間前に、この新作にはまだタイトルがないわね、とピナ・バウシュがほほえみながら言う。」(135ページ)、。「どんな展開になるかは前もって言えるものではないのよ。ほかの作品のときだって、わたしたち大いに笑ったり楽しんだりしたけど、でもおしまいの頃にはまったく別ものができあがったのよ。」(66ページ)って、革命児・天才のなせる技とは言えましょうが、まわりはたいへんだったでしょうね。


原題:Pina Bausch : Tanztheatergeschichten
ライムント・ホーゲ 訳:五十嵐蕗子
三元社 2011年1月31日発行 (初版1999年、原書は1986年)
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裁判長!桃太郎は「強盗致傷」です!

2011-06-29 22:36:17 | 人文・社会科学系
 昔話のエピソードを現在の日本の法律で裁いたら、という設定で法律の解説をした本。
 法律や裁判の話を親しみやすくわかりやすく解説するために、こういった手法を使うことはよくわかります。私も、自分のサイトで、「レ・ミゼラブル」のジャン=バルジャンのケースとかを使って説明したりしてますし。
 でも、昔話を使うことで、裁判の争点の立て方に無理が出る感じがするし、大前提として裁判が成り立たないでしょってケースも少なからず。そもそも「かちかち山」のウサギや「さるカニ合戦」のカニのような動物が被告人になり得るのか(あぁ、オオヒシクイやアマミノクロウサギを原告にして裁判やってた環境権裁判の関係者の方ごめんなさい)、タヌキやサルを殺したら「殺人罪」なのか(コラムでは金太郎の動物相手の格闘は動物愛護法違反とか:67ページ、欲張りじいさんがシロを殺すのは器物損壊罪:107ページとも書いているのに)、月に帰ったかぐや姫や消えていった雪女を相手に裁判ができるのか・・・
 それをおくとしても、弁護士の考えでもいろいろだなぁと感じます。私の感覚では、かなり違和感を感じるところが少なからずありました。「かちかち山」でおばあさんを殺されたおじいさんのために仇討ちをした裏山のウサギが懲役15年って。義憤に駆られた殺人といえば思い起こしやすい豊田商事会長刺殺事件の主犯は懲役10年だったことを考えても、どうかなと。まぁ最近は重罰傾向ですからそんな古い事例は当てはまらないということでしょうか。姫君が一寸法師に騙されたことは時効(32ページ)というのに雪女の脅迫は数年後に結婚して10人もの子をもうけた後でも時効・除斥期間が検討もされない(111、116ページ)のはどうして。耳なし芳一で「芳一が危険にさらされる可能性をわかっていながら、和尚が寺を空けた行為は、刑法の重過失傷害に当たる可能性が高い」(131ページ)って本当ですか。加害は第三者(幽霊ですが・・・)なのに不作為で重過失傷害ですか。王様は裸だと指摘した子どもは名誉毀損罪で有罪って、子どもが14歳未満かどうかの検討もなく有罪にしちゃうのもすごいし、公務員に関する事実の場合は公益目的の要件は不要で真実なら処罰されないという明文の規定があります(刑法230条の2第3項)が、公益目的があったとは考えられないから有罪(220ページ)ってどういうことでしょう。王様は公務員じゃないってか。


小林剛監修 永岡書店 2010年9月10日発行
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面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと

2011-06-29 07:48:13 | 実用書・ビジネス書
 就活のための面接に臨む姿勢、話すべき内容、情報収集方法などについて解説した本。
 面接まで10分しかないときには、面接の姿勢として、面接は商取引と心得よ、自分の希望だけいくら言っても相手に響かない、相手に利益があるか、相手にどういう好影響を与えられるかを意識して語る必要がある、無理して自分を飾るな、無理をして入っても後々苦しむだけだし経験豊富な面接官にはなりすましは見抜かれるということを、自分が選ぶ側ならどの人を選ぶかという事例を付けて説明しています。面接まで1日あるときは、自分が語るエピソードを具体的な事例で、また日常のちょっといい話を検討することを、1週間あるときは面接相手の企業の調査とそれに合わせた志望動機の検討を語っています。
 転職の際の前の会社の退職理由の語り方とかも含めて後半はだんだんマニュアルっぽくなる感じですが、最初の面接まで10分しかないときの心得的な部分(第1章)と、最後の就職・転職の常識を疑ってかかれ(第6章)というところが、目からウロコっぽくておもしろく読めました。
 ただこの第6章だけ、「である」調なのは、なんか変な感じがします。


海老原嗣生 プレジデント社 2010年3月19日発行
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からだ上手 こころ上手

2011-06-28 19:37:09 | 実用書・ビジネス書
 コミュニケーション能力を高めるために心と体を整えることが大事ということを論じた本。
 心と体は切り離せず、心の危機を回避するためには、落ち込んだときは体を動かす、食う・寝る・休むが大事、悩み事は書き出して「考えても仕方がない」こと「やっても意味がない」ことを割り切っていく、もっとたいへんな人がいることを考えるというような具体的な対処が、例えば脳の短期記憶のメモリー容量は決まっているので新しい情報を入れていけばいやなことは忘れてしまう(22ページ)とかの説明を交えて書かれているので何となく納得しやすい。あれもこれもと持って行かずに鞄の中身を減らすことでやるべきことをはっきりさせて集中する(48~50ページ)とかも耳が痛いけどごもっとも。人間の才能は遺伝子のスイッチがオンになることで開花するが、そのためには飢餓状態にするか、遺伝子がオンになっている人の近くにいることで細胞のミラーニューロンが反応する、朱に交われば赤くなるというのは立派な科学的根拠があった(55~56ページ)とまで言われると、おいおい本当かよと思いますが。
 コミュニケーションは体が開いていることが必要で、体の構えを察することが必要、そういう体の反応(一種のボディランゲージ)に目配りできる人がコミュニケーション上手で、そのために相手と視線を合わせ、相手のテンポに合わせること、場を温めるためにリアクションをし、テンションを上げていくことが必要と説いています。
 心の危機に陥ったときの対処から入っていますが、基本的にポジティブシンキングの本ですから、明るい気持ちでふんふんと読むのがよさそうです。


齋藤孝 ちくまプリマー新書 2011年2月10日発行
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死刑

2011-06-27 23:36:10 | 人文・社会科学系
 2008年10月~2009年6月に読売新聞に掲載された死刑についての連載をまとめた本。
 執行を命じる法務大臣、執行に立ち会う刑務官、教誨師、死刑囚、弁護人、被害者の遺族、死刑囚の家族、死刑判決を言い渡した裁判官等の死刑に関わる人々の発言が、重みと問題の難しさを感じさせます。
 一般予防効果を期待する死刑存続派の意見と、反省の色を見せない死刑になりたかったという動機の無差別殺人犯の発言の噛み合わなさ加減にはやるせない思いをします。
 死刑事件に関与した弁護士の立場からは、死刑執行に当たってどれだけの検討がなされるのかは強い関心を持ちますが、記録を直接検討するのは局付き検事(若手エリート検事)だけ。それ自体は知っていますが、「裁判に出された証拠の評価は裁判所がすでにやったことだから、改めては行わない。」(66ページ)って。そう言われると、本当に裁判記録全部をきちんと精査してるのか疑問に思えてしまいます。ましてや、ベルトコンベア発言の鳩山法相の下りで「裁判記録のすべてに目を通した」(18ページ)って、誤解を招く記事を書くのはどんなものかと思います。大臣に渡されるのは判決文と説明資料で厚さ5~6cm程度のもの(67~69ページ)。1冊で厚さ10cm程度のものが200~300冊になることも珍しくない死刑事件の裁判記録のほんの一部に過ぎません。それを裁判記録のすべてに目を通したなんて記述は誇大表現もいいところ。


読売新聞社会部 中央公論新社 2009年10月10日発行
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福島原発事故はなぜ起きたか

2011-06-26 19:02:49 | 自然科学・工学系
 福島原発事故の経緯や原子炉で起こったと考えられること、放射能汚染とその危険性などについて、解説した本。
 4月16日と4月26日に行われた講演会をベースにしています。
 元になった講演会からさらに2か月が過ぎた今でも、事故が未だに収束に至らず、いつ収束するかではなく「果たして収束するのか」(41ページ)という編者の問いかけをはじめ、汚染水対策を真剣に取らず海洋放出させる東京電力と政府の無責任、チェルノブイリ原発事故での強制避難地域レベルの汚染地域でさえ遠くない時期に帰還できるかのように言い続けて帰還できないときの対策を怠り義務的移住地域レベルの汚染地域でも移住のための公的な費用負担や支援もなされない政府の怠慢ぶり、事故原因調査はまったく手も付いていない(そもそも事故が収束していない)のに安全宣言をして他の原発を起動させることに躍起の政府の無責任無節操ぶりなど、事態が実はほとんど変わっていないことに驚かされます。労働者被曝や汚染水、避難住民たちの被害などその後も悪化の一途をたどっている問題も含め、基本的な問題のありかを比較的手軽に理解するのに適した本だと思います。


井野博満編 藤原書店 2011年6月30日発行
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きみ、ひとりじゃない

2011-06-25 23:47:41 | 小説
 イラクで米兵に父と兄を殺されイスラム原理主義者に母と妹と親友を殺されたアブドゥル、父母が死に兄は出稼ぎに出ていなくなりおじに売られたロマの少女ロザリア、父が炭鉱事故で死に母に捨てられ孤児院で持て余されてロシアの軍隊に入隊しトランペットの才能を発揮したが妬まれ先輩にいじめられ共にジャズに打ち込んだ親友たちを激戦地に送られて失ったチェスラブの3人の孤児が、自由の国イギリスに憧れてフランスのカレーにたどり着きイギリスに密入国を図って、密輸業者にこき使われていた少年ヨナも含め4人で嵐のドーバー海峡を漂流するうちに反発し合いながら協力するようになり、何とかイギリスに流れ着いたが・・・というストーリーの小説。
 4人の孤児たちの境遇の過酷さ、それも外部の敵のみならず、原理主義者・拝外主義者たちのいびつで卑劣な暴力によって、アブドゥルは母と妹と親友を殺され、ロザリアはレイプされる、そして自由の国と憧れたイギリスでも些細なことで外国人に暴力をふるう連中がいるという具合に、どこにでも卑劣な暴力をふるういやなやつはいるという現実をこれでもかというほど突きつけられます。児童文学でここまでと思うほどの容赦のなさが、今の世界の現実を再認識させてくれます。
 過酷な境遇の中で家族を失い、親友を失い、人間への信頼を失った子どもたちが、甘い期待を持たずにそれでも仲間意識を培っていくところに救いと感動を覚えます。
 “NO SAFE PLACE”という原題と「きみ、ひとりじゃない」という邦題はほぼ真逆ですが、どちらも成り立ちうるところにこの作品の深さがあるといえるでしょう。


原題:NO SAFE PLACE
デボラ・エリス 訳:森内寿美子
さ・え・ら書房 2011年4月発行 (原書は2010年)
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ラプソディ・イン・ラブ

2011-06-20 08:44:27 | 小説
 多数の女性と浮き名を流し続けた往年の名優と元妻の元名女優とその息子の売れっ子俳優、後妻の息子の新進俳優とその婚約者の女優が、1つの家で家族として過去を振り返りながら日常を過ごすという内容の映画を撮影するという設定の家族ドラマ。
 現実の家族が現実の過去のエピソードを振り返りながら、同時にそれが演技でもあるという構造が少しややこしいですが、それを5人の視点から代わる代わる語ることで、各人の思いと事実を膨らませています。
 俳優家族ということで、ドラマティックなエピソードも飛び交いますが、同時に何気ない普通の家族間でもありそうな部分も多くあり、そちらの方がかえって読ませるかもしれません。全員が俳優だという設定のために、それぞれが他の4人の発言を演技として評価する部分が挟まれることで、家族生活での発言や態度が他者からどう評価されるかという意識が入るのが、ちょっと新しい感覚で、自分の日常での態度を振り返ると、少し緊張感を持てたりしそうです。


小路幸也 PHP研究所 2010年11月4日発行
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自鳴琴

2011-06-20 00:09:51 | 小説
 11日の金曜日の放課後に音楽室でオルゴールの音を聞いた女子生徒が消えるという怪談が伝わる初森中学校で、その通りの失踪事件が起き、初森中学で秘密裏にオカルト研究部を結成している主人公不入斗ら4人の男女生徒が、その怪談の元になった32年前の女生徒の自殺と30年前の失踪事件の真相を調査するうちに失踪事件の謎に近づいていくという学園ミステリー小説。
 昔の事件の真相調査の方に焦点があり、そちらは一応の解決を見ていますが、不入斗が夜の学校で出くわした「幽霊」の件は結局謎解きがなされずに終わっていたりするのはミステリーとしては消化不良感があります。
 学園もの、友情・家族ものとしては、軽いタッチで読めますので、そういう位置づけで読んだ方がいいかも。


池田美代子 光文社 2011年3月25日発行
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ユーラシアの双子 上下

2011-06-19 20:42:48 | 小説
 19歳の娘香織に自殺され妻とも離婚して50歳で早期退職した51歳の元システムエンジニア石井隆平が、ウラジオストックからリスボンまでユーラシア大陸の端から端まで列車で旅をするという思いつきを実行するうちに、同じ行程を5日早く進んでいる自殺予定の19歳女性エリカの存在を知り、思い惑いながらその自殺を食い止めるべく試行錯誤する小説。
 パパッ子だった娘が友人との関係から鬱になり、父親との交流を続けていったんは回復しながら、恋人との関係でまた鬱になったあげく父親の不倫を知った後首つり自殺という設定は、同年齢の父親には切ないというより胸を突き刺される思い(あ・あの・・・娘の年齢は違いますし、不倫もしてませんけど)。その設定の巧みさというか、ちょうどターゲットに当たったせいで、隆平の思い、戸惑い、ためらい、後悔が身に染みます。同時に姉の自殺、両親の離婚に翻弄された次女里子の思いと成長にもしんみりとさせられます。
 ストーリーは、エリカの隆平に対する感情の揺れと、シベリア鉄道と各国の交通・通信環境の下でのインターネットと携帯電話を駆使した情報収集と説得とその限界が交錯して展開していきます。
 作者自身がその行程を体験しているとのことで、紀行文としても、特にシベリア鉄道とロシアへの怨嗟の念と各国のアルコール事情が味わえます。


大崎善生 講談社 2010年11月15日発行
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