伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

マスカレードホテル

2020-07-31 21:59:18 | 小説
 殺人現場に次の犯行場所を示唆する紙が残された事件が続き、4件目の殺人事件予定場所と目されるホテルに警察官が潜入し、ホテル側の協力、戸惑い、軋轢の中、いくつかの怪しい人物、できごとが続き…というサスペンス小説。
 ホテル側のサービス業のあり方、客との関係・間合いの取り方、現在であれば「カスハラ」(カスタマー・ハラスメント)と呼ばれるであろう客側の無理無体なクレームの存在、そしてプロ意識とやりがい・達成感。他のサービス業にも通じるものと思いますが、いろいろと考えさせられます。
 この作品では、女性のフロントクラーク山岸尚美を中心として描いていますが、ホテルの従業員を何の疑問も示さずに「ホテルマン」と書き表し続けています。ホテル業界では、そこ、疑問とされないのでしょうか。
 末尾に「取材協力 ロイヤルパークホテル」と記載されていますが、作中の「ホテル・コルテシア東京」の所在地は、現実のロイヤルパークホテル東京の300mほど南の隅田川の中になっています。ここまでするのならロイヤルパークホテルの場所にしてもよさそうに思えますが、このあたりが落とし所なんでしょうかね。


東野圭吾 集英社 2011年9月10日発行
「小説すばる」連載
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世界でいちばん素敵な大和言葉の教室

2020-07-30 00:14:37 | 人文・社会科学系
 季節に応じたものを中心に大和言葉を紹介し、言葉の意味、語源、使用例等を説明する本。
 多数の写真が掲載され、美しくイメージしやすくなっていて読みやすい形になっています。写真については、クリアで色鮮やかなところが明るく感じられますが、大和言葉のもやっとしたぼんやりとした言葉の印象に合わせるには、より淡い色彩感のソフトフォーカスのものや場合によってはイラストにするという試みがあった方がよかったかも知れません。
 心の中でのみ恋しく思うさまを「心恋」(「うらごい」と読むのですね。予想どおりATOKでも変換されませんでした)という(43ページ)とか、「おくゆかし」は「心が惹かれ、そこに行ってみたい」の意で「心の奥を知りたい」「距離を縮めたい」と思うほど心惹かれることを表している(149ページ:私の世代では「あなたを・もっと・知りたくて」薬師丸ひろ子のイメージですね)とか、ちょっと使ってみたくなります(あとがきで、「三度使えば、その言葉はあなたのものになります」と書かれていますが)。


吉田裕子監修 三才ブックス 2020年7月1日発行
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追いつめられる海

2020-07-28 20:09:30 | ノンフィクション
 地球温暖化に伴い海水温が上昇し海の熱波(以上高温域)の発生頻度が高くなってサンゴ等の生態系に影響し、海面上昇によって高潮・台風被害が深刻化する、二酸化炭素濃度の上昇により海水に溶け込む二酸化炭素が増えて海水が酸性化して生態系に影響が生じる、プラスチックゴミが海洋や海岸を汚染し、マイクロプラスチックが多くの魚介類に取り込まれて海産物を汚染し最終的には人体に取り込まれる、生活排水や農業廃水による富栄養化で大量発生するプランクトンの死骸の分解過程で酸素が大量消費されて低酸素水塊が増えてこれが海水表面の温度上昇により表層と深部の海水が混ざりにくくなる成層化が相まって低酸素領域が増えて生態系に影響し、さらに乱獲により漁業資源が枯渇するなどの問題点を指摘しつつ、洋上風力発電や潮力発電による再生可能エネルギー活用、藻場やマングローブ林、湿地などの保全拡大による二酸化炭素吸収量の増加、養殖の拡大と肉食から魚食への移行など「ブルーエコノミー」を推進すべきことを論じた本。
 様々な点で絶望的な状況が語られ、私の感傷で言えば慶良間ブルーで知られる座間味島(42年前に行ったきりですが…)の海岸で採取した貝類からも大量のマイクロプラスチックが発見された(72ページ)など、悲しくなる話が多いのですが、最終段階での著者の提言は、危機感を煽るよりは、より建設的なというかある意味で楽観的なもので、ちょっと救われます。
 ただ著者自身は記者で科学者ではないこともあり、書かれていることがどの程度の検証を経たものかには注意を要するかも知れません。私が気になったところでは、クマノミのふ化直後の稚魚を二酸化炭素濃度が高い環境下で4日間飼育した後に捕食者のいる通常環境下に戻したときの生存率を調べた実験に基づいて、二酸化炭素濃度が高くなると敵を警戒したり避ける能力に影響するという研究チームの見解を紹介しています(45~46ページ)。元になった研究を私は見ていませんけど、クマノミの稚魚だけを突然二酸化炭素濃度が倍前後の環境に入れてその後また戻しているという環境の激変がクマノミを弱らせている可能性があり(二酸化炭素濃度以外のものでも環境が激変すれば同様の影響が生じる可能性は検討検証されたのか?)、ここで紹介されている限りでは、二酸化炭素濃度が低い環境に置いた場合の比較がなく、また捕食者も同様に二酸化炭素濃度が高い環境に入れたらどうなるのかの比較もなく、さらには二酸化炭素濃度を長期間かけて徐々に高くした場合の比較もありません。私には、ここで触れられている実験だけで二酸化炭素濃度の悪影響を言い、このままのペースで二酸化炭素濃度が上昇すれば(海洋の酸性化が進めば)ニモ(カクレクマノミ)がいなくなるかも知れないなんて言ってしまうのは、科学的な態度とは思えません。


井田徹治 岩波科学ライブラリー 2020年4月9日発行
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写真の撮影・利用をめぐる紛争と法理

2020-07-27 21:05:36 | 実用書・ビジネス書
 写真の撮影と公表等の利用に関して、肖像権、プライバシー、名誉毀損、著作権(複製権、翻案権等)・著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権、公表権)、パブリシティ等との関係で判断を示した裁判例を整理紹介する本。
 私の業務的な関心(プライバシー関係は一応私も詳しい弁護士と評価されていますし)から裁判例の知識のアップデート目的で読みました。知らなかった裁判例もいくつかありましたし、まとめて読むと新たな発見もあり、勉強になりましたが、最近の裁判例の紹介はちょっと手薄に思えました。
 分野分けはされているのですが、特に肖像権(第Ⅰ章)とプライバシー(第Ⅱ章)と名誉毀損(第Ⅲ章)と写真の撮影等をめぐる裁判例(第Ⅵ章1)は、多くの裁判例が重複していて、判旨(判決文抜粋)は省略されて、それでも「事案の概要」と「実務上の意義」(判示事項の整理抜粋と著者のコメント)はほとんど同じ内容のもの(分野に合わせて省略されたり加筆されている文もないではないですが、たいていはその分野以外の点もそのまま繰り返されています)が繰り返し掲載されています。分野分けするのであれば、判決文のその分野に関する判示を抜き出してメリハリを付けた紹介をしていただいた方が読みやすいですし、それがなされていないためにいたずらに分厚い本になっているように思えます。
 判決文の引用紹介(判旨)の範囲が精選されておらず、「事案の概要」や「実務上の意義」で取り上げられている事項に関する部分が出ていないことも少なくなくて、読んでいて気になりました。例えば告別式で盗み撮りした遺影を写真週刊誌に掲載したことの違法性が争われた事件の判決(33~35ページ)で、肖像権等の人格権は死亡により消滅したが遺族の死者に対する敬愛追慕の情が著しく侵害されたとして損害賠償請求が認容されたことを紹介していながら、判決文は死者の人格権を認めることはできないという判示で終わっているとか、警察による監視カメラ設置の違法性が争われた事件の判決(55~57ページ)で監視カメラのうち1台はプライバシー侵害とされて撤去請求が認容されたことを紹介しておきながら(その判決の紹介が「警察が街頭にカメラを設置し、運用したことが肖像権の侵害にあたらないとされた事例」とされているのも不思議な気がしますが)判決文は原告らの容貌等を録画していると認めるに足りる証拠はないというところで終わっていて監視カメラのうち1台の違法性に関する判示はまったく引用されていないとか、読んでいる側には欲求不満が募ります。逆に、撮影した写真を勝手にアダルトサイトの広告に使用したことの違法性が争われた事件の判決(127~129ページ)では被告の1人である広告制作会社社長が写真入手時には社長ではなかったことから責任を負わないと判示した部分を紹介していますが、それは肖像権侵害の有無には特段の意味もなく著者も「実務上の意義」でまったく触れておらず、紹介している理由がわかりません。
 判決文を紹介する際、判例雑誌からそのまま抜き出しているのでしょうけれども、2006年前後までの判決文では関係者の固有名詞がそのまま紹介されています。出版済の紙媒体は直しようがないのでしかたがないと思いますが、この時期に出版する本で、かつて出版された判例雑誌に実名が掲載されているということで、現在の感覚では仮名(記号)化されるのがふつうになっている関係者の実名をそのまま記載していいのか、プライバシーもテーマとなっているこの本でそれでいいのかという疑問が残ります。
 なお、ロックバンド黒夢の写真集出版に関する判決の紹介で、ロックバンド名を「悪夢」としている(96ページ、427ページ)とか、ごく単純なミス・誤植も目に付きます。
 テーマは興味深く、多数の判決が掲載されていることはありがたいのですが、様々な点で雑さが目に付くのが残念です。


升田純 民事法研究会 2020年3月26日発行
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3.11後の社会運動 8万人のデータから分かったこと

2020-07-26 10:02:57 | 人文・社会科学系
 2017年に「楽天リサーチ」(現楽天インサイト)モニターに登録している東京・埼玉・千葉・神奈川在住者に対して行ったインターネットアンケート(回収数8万3732:有効回答7万7084。うち3.11後に反原発デモか反安保法制デモに1度でも参加したという回答1412)を分析して、過去(60年代、70年代)のデモ参加経験者と未経験の新規参加者、年齢、性別、支持政党、思想傾向等により参加の度合い、参加の動機・経緯、参加による本人の変化等を論じた本。
 デモ参加経験が次の新たなデモへの参加のハールを下げ、また参加者自身のデモや社会・政治問題への意識を変えていくこと、現在3.11後のデモは沈静化し風化したように見えるがデモ参加経験が情勢の変化が生じたときにはまた新たな運動の基盤となり得ることが、ある意味で当たり前のこととも言えますが、読み取れました。
 より支持者の多い反原発デモの高揚後、参加者の相当部分が退出したが、反安保法制デモではその退出分に相当する新規参加者が加わってピーク時にほぼ同規模となったことについて、より支持者が少ない反安保法制運動では運動支持者中のデモ参加者の割合が多かったことの理由がこの本の中ではうまく説明されていないように思えます。私には、反安保法制デモのときはSEALD'sなどの学生/若年層が注目され報道が多くなされまた好意的なニュアンスの報道が相当数あったことが未経験者の参加を誘った(好奇心を持たせた、参加しやすい印象を与えた)ものと、ごく単純に見えるのですが。
 デモ参加者の社会意識(ナショナリズム、経済的自由主義、権威主義、文化的自由主義の4指標)の関係を論じているところ(60~63ページ)のグラフ(図2-5)で、凡例の記載が間違っていると思います。本文の記述に照らすと、凡例で「反権威主義」とされている細い実線が正しくは「反経済的自由主義」、凡例で「反経済的自由主義」とされている点線が正しくは「反権威主義」であるはずです。図が正しい前提で読むと、このデータでこういう分析をするのはあまりにも強引な解釈と感じてしまいます(最初そう感じて繰り返して見直して、図が間違っているのだと認識しました)。アンケート結果の分析、数値の評価が肝の本で、こういうミスは痛いと思います。


樋口直人、松谷満編著 筑摩選書 2020年6月15日発行
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ラストライン2 割れた誇り

2020-07-25 12:33:17 | 小説
 「ラストライン」の1年半後、南大田署配属の警部補岩倉剛が、北大田署が立件して無罪判決を受けた元被告人田岡勇太が周囲から嫌がらせを受け、殺害された女学生の恋人光山翔也に押しかけられたりするのを防止し保護する側で対応するうちに、河川敷で光山翔也の遺体が発見され、田岡勇太も襲われるという展開の警察小説。
 主人公岩倉剛の設定は、「ラストライン」の当初は驚異的な記憶力という点がいちばんの特徴だったはずですが、そこはもう忘れ去られたようで、むしろ暴走する刑事にストップをかけて恨まれる役という点と、20歳年下の女優の愛人を持つ50歳のオヤジ刑事という点だけが特徴の小説になっています。
 若い女性に惚れられる高齢男性主人公というのは、高齢男性である書き手にとっては自らの持つ幻想(妄想)の反映と読者ニーズへの媚びなんでしょうね。私も自分が書いている小説の設定からして他人のこと言えませんから (*^_^*)


堂場瞬一 文春文庫 2019年3月10日発行
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ラストライン

2020-07-24 00:56:04 | 小説
 驚異的な記憶力を持ち、それ故にサイバー犯罪対策課から脳の分析をしたいと求められ、しかもそれが別居中の妻が教授を務める大学と連携しているのに嫌気がさして断って、それ故に本庁の捜査1課から所轄への異動を希望して南大田署配属となった50歳の警部補岩倉剛が、初日から70歳の独居老人の殺人事件の捜査と新聞記者の自殺の調査に取り組む警察小説。
 設定上、岩倉剛については驚異的な記憶力ということが強調されているのですが、それが事件の解決やメインのストーリーに持つ重みは必ずしも大きくはなくて、別居中の妻と高校生の娘を持ち20歳年下の劇団女優の愛人を持つ50歳のオヤジ刑事を主人公とする警察ものという位置づけで読んだ方がいいかなと思いました。
 人の心とか行動の動機なんてものはきれいに説明できず理解できないところは残るとは思うのですが、私には結局新聞記者の動機・心情の説明はしっくりこないところがあり、読後感がスッキリしませんでした。


堂場瞬一 文春文庫 2018年11月10日発行
「週刊文春」連載
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人はなぜ税を払うのか 超借金政府の命運

2020-07-23 14:22:32 | 人文・社会科学系
 税金の目的・趣旨を、ただ強い者が弱い者から収奪していた古代・中世から権利保障の対価という考えに変化した近代(フランス人権宣言、代表なくして課税なし)に至る歴史を解説し、現代では、課税は税金を払えない貧困層も含めた人々に対する公的サービスを実施する財源を確保するとともに所得の再分配を行うためのものであり、納税者は自分に対する見返りを求める「会費」的な思考ではなく「無償の愛」により納税すべきとした上で、ふるさと納税と日本版消費税を例に挙げて日本の税制の欠陥を指摘する本。
 タイトルを見ると、納税者の社会心理的な問題がテーマのように見えますが、この本の内容からすれば、「人はなぜ税を払うべきなのか」とか「税制はどうあるべきか」などの方が適切に思えます。その観点からは、古代からの税制の解説に相当な紙幅を割いていることが、著者が主張している現在の税制のあり方が正しいという論証にうまくつながっているのか、やや疑問に思えます。
 そして、この本の後半がほとんど日本版消費税批判に充てられていることを見ると、税制のあり方自体よりも、日本版消費税がいかにおかしいか、税の本来あるべき姿からいかにかけ離れているかが著者のいいたかったことなのかなと思います。著者の主張自体は、納得できますが、より正面から日本版消費税を論じ、税制のあり方も歴史の説明を延々とやらずに近現代政治・民主主義等から説いてまっすぐに斬り込んだ方がわかりやすく読みやすくなると思います。


浜矩子 東洋経済新報社 2020年5月28日発行
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労働法 [ 第6版 ]

2020-07-21 21:15:52 | 実用書・ビジネス書
 労働法の教科書。
 自分の専門分野について、全般的なおさらいと最近の動向等について見落としていることがないかという、自分の知識のアップデート・ブラッシュアップ目的で、この手の本を見つけて時間があるときに読むのですが、法改正、制度改正関係は、特に裁判ではあまり使わない行政規制的な法令制度の改正や新設関係は、勉強になり、他方で新しい判例のフォローはあまりなされてない印象を持ちました。そのあたりは、学者の関心と弁護士の関心の違いなんでしょうね。新しい裁判例は、労働契約法第20条(現在はパート・有期法第8条)と残業代関係に注目してそこはフォローしたという感じで、その他分野はあまり見てないかなと思いました。労災保険から療養給付・休業給付受給中の労働者について打切補償をして解雇できるかという問題について、解雇制限(労働基準法第19条)の説明では、できないとした専修大学事件の東京高裁判決を紹介している(257ページ)のですが、この東京高裁判決が最高裁で覆されたことに気がつかなかったようです(判例索引でも専修大学事件の最高裁判決は漏れています:514ページ)。執筆担当者が違う労災保険の説明では最高裁判決の方を紹介している(368ページ)のですからクロスチェックが足りなかったということなんでしょうけど。
 労働事件を日常的に取り扱う弁護士の意識からは、解雇の記述が、えっこれだけ?と思ってしまいますし、休職とか労災とかもずいぶんとあっさりしたものだなと思います。それは、労働法という法体系の中で、弁護士のと言うか、私自身の興味・感心が本当にごく一部に偏っているのだなという自己認識・発見でもあるわけですが。


浅倉むつ子、島田陽一、盛誠吾 有斐閣 2020年4月10日発行(初版は2002年4月)
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ステップ

2020-07-19 18:13:20 | 小説
 髄膜炎で急死した妻朋子の1周忌を終え、2歳半の娘美紀を抱えて、トップセールスマンの過去を振り切って総務部に異動してもらい復職した武田健一が、美紀を引き取ろうかという義父母の申し出を断り、周囲の人々に助けられながら美紀と2人で暮らす様子を描いた短編連作小説。
 幼い娘を育てる奮闘記的な部分は必ずしも多くなくて(この種の作品ではほぼ必ずある子どもが病気になるシーンがないのが象徴的です)、子どもとの心理的な交流、すれ違いの方に重点が置かれ、また再婚を巡る本人の心の揺れや義父母の心情、義父母との関係にも紙幅が割かれ、妻の死を起点とした人間関係・親族関係を描く小説という色彩も強くあります。
 私自身、娘を持つ父親として、子どもの頃の娘に投影してしまうのですが、健一が再婚を考える相手奈々恵を引き合わせた時に美紀がハイテンションで奈々恵と接していたのにうちに帰ると食べたものを吐いてしまうことを繰り返し、もう奈々恵とは会わない、2人で会ってくれと言い出した後、健一が日曜日の朝奈々恵を自宅に呼んで美紀と朝食をとらせる場面があり、その後は度々自宅を訪れる奈々恵に美紀もこだわりなく接し馴染んでいるような描写になります。健一の視点で書かれている関係上、美紀がどう奈々恵を受け容れどう折り合っていったのかは描かれていないように思え、私には読み取れませんでした。人間関係は理屈ではないし、折り合いを付けていくものでしょうけれども、これでいいのかとちょっと納得できないものを感じました。


重松清 中央公論新社 2009年3月25日発行
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