伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

知的文章術入門

2022-04-29 20:59:24 | 実用書・ビジネス書
 報告書・論文を想定して、文章の書き方、プレゼンの仕方、英語の学習と表現等について論じた本。
 文章術に関しては、「私は『簡潔・明快・論理的』を『知的三原則』と呼んでいる」(20ページ)等の名言もありますが、基本的にはあちこちで言われていることで、あまり新鮮味は感じませんでした。
 むしろ情報収集のところで、これも特に目新しい話ではないのかもしれませんが、ウィキペディアも日本語版は英語版に比べるとかなり貧弱(103ページ)という説明に、なるほどと思いました。誰でもが書き込め変更できるウィキペディアは良心的な多数の人々に支えられその信頼性を依存しているものですから、それぞれの言語ごとのネット民の質にそのレベルが左右されることにならざるを得ませんからね。「スマホ脳」にならないようにスマホを見る時間を短くする手段として「スマホの画面を白黒にする」(111ページ)というのがありました。目からうろこかも。
 終盤3章は英語の学習や表現なのですが、英語の「聞き(hearing)」(160ページ)、「ヒアリングの勉強」(167ページ)と、英語で/を聞くことを「ヒアリング」で統一しています。私たちやより年長の世代は、学生の頃、ヒアリングで習いましたが、今どきは「リスニング」が通常の用語法だと思います。英語を学習しようという本でそう書かれていると、大丈夫かと思ってしまうのですが。


黒木登志夫 岩波新書 2021年9月17日発行
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イラスト図解 カラダの不思議としくみ入門

2022-04-28 22:29:18 | 実用書・ビジネス書
 人体のしくみについて、細胞、運動器、神経系、感覚器、循環器系、呼吸器系、消化器系、腎・泌尿器、内分泌系、生殖器に分けて簡単に解説し、ありがちな疑問について簡単に回答する本。
 人体や健康について広く浅く知るための本。回答は、まだわかっていませんというものも少なくないので、欲求不満が残るところがあります。「視力低下を防ぎ、目がよくなる方法はある?」(60~61ページ)とかいう問いを立てて「いったん近視になってしまうと、元に戻る方法はほぼないといわれており」と言われると、期待させるような問いを作るなよとも思えますが、できないということも含めて、とりあえずはそういうことなのねと思えばというところでしょう。
 しかし、血液型の解説で、AB型とO型の両親からはA型かB型の子どもしか生まれない(174~175ページ)と今頃書いているのはいかがなものかと思います。昔はそう言われていて、その両親からAB型やO型の子どもが生まれると不貞が疑われましたが、AB型の中にシスAB型というタイプがあり(0.012%程度ということですが)AB型とO型の両親からでもAB型、O型の子どもが生まれうることが今では明らかになっています。少ないとは言え、日本でも4桁程度の該当者がいると考えられ、過去にそういう説明で不幸な目に遭った人がいる問題で、わりと知られたことだと思います。こういう説明を見ると、大丈夫かなぁと心配してしまいます。


中島雅美監修 朝日新聞出版 2021年6月30日発行
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私たちはいつまで危険な場所に住み続けるのか 自然災害が突き付けるニッポンの超難問

2022-04-27 22:08:31 | ノンフィクション
 近年増加・激化している大雨が排水能力を超えて生じる内水氾濫や河川の堤防が決壊するなどの外水氾濫、高潮・高波などによる水害、土砂災害の災害リスクに対し、防災・減災のための試みや技術を紹介し、災害危険地域からの撤退・移住を勧める本。
 水害・土砂災害の危険を広め、災害危険地域からの移住を勧めるという問題意識は理解できますが、まず日本では人口の約50%が洪水氾濫区域に居住している(241ページ)、日本の人口は2008年をピークに減少しているにもかかわらず浸水想定区域内の人口は年々増加している(242ページ、243ページグラフ)という現実に絶望的な思いを持ちます。そのような状況の下で、危険地域の情報を広めれば危険な場所から移住を進めることができるという発想はとてもナイーブなもので、裕福な人々は危険を回避できるでしょうけれども、危険を知らされても経済的事情から移住できない人が多いだろうと思います。そこでは、「自己責任」よりも行政の出番でしょう。
 災害の防止、減災のための様々な試みを紹介することは、展望を得るためにも有意義だと思いますが、どうも企業の宣伝臭を強く感じてしまうのは、私の「日経」ブランドへの偏見故でしょうか。


木村駿、真鍋政彦、荒川尚美 日経BP 2021年10月25日発行
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落花流水

2022-04-26 22:21:52 | 小説
 6歳年上の近所の名家の息子に恋い焦がれ、その息子が自分の高校の生物の教師となったのを見て自分も教師になって妻になりたいと思い詰める高校3年生の佐藤水咲が、その憧れのお兄ちゃんが下着泥棒で逮捕されてうろたえ冤罪と信じようとし悶え苦しむ日々を描いた小説。
 作者は中学2年生で作家デビューし、この作品は高3で書いたというのですが、これが高校生の感覚なのでしょうか。憧れの人が盗んだパンツ800枚が並べられたテレビ映像がトラウマになり「決めたっ、私、もうパンツは穿かないっ」って(86ページ)。みずみずしいセンス!なのでしょうか…そして驚いたことに、それを聞いた同級生が「『もう頬づえはつかない』、もうパンツは穿かない、ってか?」と突っ込んでいます(同)。いや、それ、私が学生の時の小説と映画ですよ。今の高校生が知ってますか? 海を愛する男が加山雄三だったり(74ページ)。
 この作品の問題じゃないんですが、「凜として」という表現が、この作品でも(12ページ)、この前に読んだ「世界は『 』で沈んでいく」(2022年4月25日の記事で紹介)でも(244ページ)、立て続けに出てきて驚きました。さらに前に読んだ「凜として弓を引く」(2022年4月4日の記事で紹介)ではタイトルでは使われていても作品中では一度も出てこなかった(私が見落としていなければ、ですが)のに。


鈴木るりか 小学館 2022年2月9日発行
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世界は「 」で沈んでいく

2022-04-25 20:59:25 | 小説
 海沿いのひなびた町に引っ越してきた人付き合いが苦手な中学2年生の緒沢凛子が、なれなれしく話しかけてくる薄いオレンジに髪を染めたいつも笑顔の同級生和久井将暉に反発を感じながら、周囲との関係に悩み疲れ、本音をぶつけられる和久井に気を許していき…という青春小説。
 友達とは何か、1人でいることの意味などを考える作品ですが、自らが未熟で視野が狭く相手のことを考える余裕も力量もなく相手を傷つけているのに、自分が考える友達という定義・内容にピタリと当てはまらないものは友達ではなく価値がなく、100か0か的な見方で、周囲の者が完璧でないこと、さまざまな側面を持つことを許せず拒絶して孤立していく緒沢の姿があまりに息苦しい。この緒沢の行動パターンが、スタート地点は違っても、シリーズ初巻の「世界は『 』で満ちている」の間宮由加とほぼ同じで、ちょっと苦笑します。
 「世界は『 』で満ちている」では、不良グループ男子も「ふはは」(33ページ)、「っはは」(101ページ)、「はは」(88ページ、135ページ)、「ふは」(149ページ、234ページ)と少し力の抜けた笑い声を出していましたが、今作では笑い声が「ぶはは」(128ページ、148ページ)、「ぶははは」(135ページ)とパワーアップしています。不良男子グループのみならず、凛子のお友達だった香江子さえも「ぶはは」と笑っています(107ページ)。似たようなコンセプトと展開の2作でそこが違いだったのかも… (^^;)


櫻いいよ PHP研究所 2022年2月22日発行
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世界は「 」で満ちている

2022-04-24 19:15:41 | 小説
 噂がすぐに広まる海が近い地方都市に住む、学校が楽しみで仕方がない「明日が来るのをいつも楽しみにしていた」中学1年生の間宮由加が、学級委員の優等生涼子といつも一緒に過ごし、涼子が疎ましく見る由加の幼なじみの今は髪をロイヤルミルクティー色に染めだらしない格好で歩き学校にもろくに出てこない宇賀田悠真とは距離を置いていたが、ある日涼子が由加が一目惚れしていたサッカー部の御笠と付き合い始めそれを機に涼子の取り巻きから疎まれるようになって孤立し、世界が大きく変わり…という青春小説。
 周りから見る像と、その人が抱えている問題や内実・性格、伝わる噂と近くにいて感じ取れるもののギャップとか、友情、人間関係というようなことを考えさせる作品です。友達とは何か、1人でいることの意味などを考える作品ですが、自らが未熟で視野が狭く相手のことを考える余裕も力量もなく相手を傷つけているのに、自分が考える友達という定義・内容にピタリと当てはまらないものは友達ではなく価値がなく、100か0か的な見方で、周囲の者が完璧でないこと、さまざまな側面を持つことを許せず拒絶して孤立していく由加の姿が、好意的に見れば切なく、好意的に見なければあまりに息苦しい。


櫻いいよ PHP研究所 2019年5月10日発行
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まこつの古今判例集

2022-04-23 19:39:55 | 実用書・ビジネス書
 著者が、たぶん好みで、選んだ大審院・最高裁の著名ないしは割と知られた判例について、その事案を漫画と文章で説明した上で、1審、控訴審、上告審の判断を解説して著者のコメントをつけた本。
 法律実務家と法学部出身者・学生が、授業で習ったり聞いたことはあるけど、その判決ってこういう事案だったんだとか、実際の裁判ではそういうことが議論になったのねと思う、蘊蓄本という位置づけでしょう。選ばれた判例が特定の分野ということでもなく、現在の裁判実務上よく使われるとも限らないこともあり、実際に裁判実務をしていて、これは使えるという印象がないので、実質的には「趣味の本」だと思います。
 「古今」の名を用いていることからか、判決日を基準に春夏秋冬に分類された上、事案紹介末尾に歌が詠まれていますが、事件発生日と関係がないため、「春判例」で秋の歌が詠まれていたり(33ページ)、「夏判例」で弥生(3月)が詠まれ(71ページ:事件も2月29日から3月上旬)と、季節感を醸し出そうとした試みが滑っているように思えます。
 「今はただ反対。そんな気分だっただけ」「いつものように事前通告のない質問を」という「左派野党の党首」のヒロイン「瑞希」(235ページ、237ページ)って、私の同僚のことですか?


中村真 清文社 2022年1月11日発行
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ヒカリ文集

2022-04-22 20:43:28 | 小説
 劇作家兼演出家の破月悠高が主催していた学生劇団NTRで女優として活躍し、当時高い評価を得た「マノン・レスコー」で主役を演じ、多数の劇団関係者と次々関係を持ち去って行った「いい顔で笑う子」のバイセクシュアルのヒカリについて、十数年が経った今、2年前に死んだ破月悠高が残した戯曲にこと寄せるかたちで他の元劇団員たちが、今はどこでどうしているかわからないヒカリとの想い出、ヒカリへの追憶・賛歌を記した文集という形式の連作小説。
 寄稿者それぞれが、バイセクシュアルのヒカリと性的な関係を持ち、それが劇団の狭く濃密な人間関係の下で残した嫉妬、羨望、軋轢、諦念を今となっては甘酸っぱい想い出化して語る様子が、また複数の者からの語りを合わせることで事実にも人物にも別の側面が次第に見えてくるところが、読みどころとなっています。
 レズビアンの雪美と劇団の看板男優の裕がそれぞれにヒカリと関係を持ち、その間・その後に2人の間に生じる友だち以上恋人未満的な関係など、ほろ苦くも甘酸っぱくもある様々な人間関係に、魅力を感じますが、それもヒカリ不在の状況だからともいえ、ヒカリがそこに現れた場合には緊張が走ることになるでしょう。そういうことを考えると、ヒカリが行方不明という設定は巧妙なものと言えましょう。


松浦理英子 講談社 2022年2月22日発行
「群像」連載
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わたつみ

2022-04-21 23:33:26 | 小説
 東京の芸術系大学の映像学科を出て映画を1本撮り映画監督として生きていくことを志したが失敗して京都駅から特急に乗り2時間半の日本海に近い故郷の田舎町に戻り株式会社わたつみの海産物加工工場に勤める33歳の田嶋京子が、同僚の女たち、両親と3歳年下の妹らと間合いを計りながら暮らす日常を描いた小説。
 第1章から第4章では、前半(1)で田嶋京子の失意と諦めと煩悶の日々を、後半(2)でいずれも工場での同僚の、中学の同級生だったシングルマザーの青山美津香、東京の専門学校から夫と戻ってきて自然食カフェを経営している4歳年下の甲斐くるみ、管理者木下順平に淡い思いを持つ30歳過ぎの処女沼田千里、夫と3人子どもがあるが出会い系サイトで男を漁り続ける45歳の大久保幸子の嫉妬と鬱屈にまみれた性生活を描き、第5章以降、田嶋京子の話に集中していくという構成です。
 田嶋京子が東京から故郷に戻ることとなった原因が、私が悪い、全部、私が悪い、だからこれから罰を受けに行く(10ページ)、本当のことなどいえない(23ページ)、事故を起こして怪我をした(65ページ)、親を悲しませ、負担をかけ、自分自身も傷つき落ち込んで周りに対しても理由を明かせない(100ページ)…と抽象的なほのめかしを続けていて、謎として先送りされ続けますが…そうされると何かすごい種明かしを期待してしまいます。しかし、実際のところは、単に、明かすタイミングを失ってしまったという感じがします。
 主人公の田嶋京子よりも脇役の同僚たち、特に青山美津香の屈折した思いやたくましさの方が読みどころかもしれません。そういうところも含めて平凡に見える名もなき女たちの嫉妬とセックスをめぐるエネルギーを感じさせる作品です。


花房観音 コスミック文庫 2021年12月25日発行(単行本は2017年2月:中央公論新社)
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6Bの鉛筆で書く

2022-04-20 23:29:32 | エッセイ
 1945年生まれの著名な絵本作家の著者によるエッセイ集。
 統一的なテーマはなく、思いつくところを書き綴ったという風情です。著者の得意のイラストはなく(イラストだと絵本になってしまうからでしょうね)、著者が海外で撮影したモノクロ写真が、文章の内容とはあまり関係なく配されていて、そこが渋い味わいです。
 ゴッホの「カラスのいる麦畑」が著者にとっては重要な絵で、その原画を初めて、それも所蔵しているアムステルダムのファン・ゴッホ美術館ではなくニューヨークの美術館で見たことに、「何でお前ここに居るんだ?」とものすごく混乱したというエピソードが書かれています(60~62ページ)。私はゴッホなら「夜のカフェテラス」の方が好みですが、まぁそういうきれいな絵よりも「カラスのいる麦畑」とか「星月夜」なんかの方がゴッホらしいですもんね。
 東南アジアの屋台で自分はサッパリ・フォーが好きだから定番調味料はあえて遠慮してかけずに食べていたら運んできたおばさんが見かねて戻ってきて塩や砂糖や酢やたぶんナンプラーを勝手にかけ、パクチーも山盛りにしたり、小さな女の子が著者が作った絵本をしたり顔でめくって仕掛けを教えてくれたりするのに、何も言えずににっこりする(41~43ページ)のも、外国での話がたくさん書かれていても、やはりいかにも日本人らしいよなと思ってしまいます。


五味太郎 ブロンズ新社 2022年2月25日発行
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