伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

余命1年のスタリオン

2013-11-27 01:50:44 | 小説
 2枚目半の種馬王子を看板にして実生活でも3人の女性と交際中の35歳バツイチの俳優小早川当馬が、肺の小細胞癌で余命1年と宣告され、その間に念願だった主演映画を撮影することになり、さらに子どもも生みたいと欲を出し…という余命宣告期限付き恋愛・人生論小説。
 ひとまわり年上47歳の清純派女優で実生活では激しいセックスを好む都留寿美子と当馬の癌宣告・抗癌剤治療後初めてのセックスの場面のやりとり(184~193ページ)が思いやりと2人の関係のよさを感じさせて、いいなぁと思う。私だったら、この展開だと寿美子に惹かれていくと思ってしまう。同い年のおじさん作家が描く男からの理想像にうまく踊らされているようにも思えますが。
 同時に、並みいる美人たちを差し置いて、美人とはいえない平凡な女性が当馬と結ばれ、当馬がそれに幸せを感じ続けるという展開は、いかにも女性読者層の受けを狙った感があります。新聞連載小説ということで、作者が読者層を考えて書いているということなんでしょうね。
 ストーリーとは関係ないですが、「女子ども向けの作品ばかりだと、良識ある男たちは日本の芸能を馬鹿にする。だが、金もつかわず観にきてもくれずに文句ばかりいう者など、誰が相手にするだろうか。大人の男がきちんと遊ばない国の文化が、いびつで幼いものになるのは、それなりの理由があるのだった」(32ページ)という指摘は、ちょっと耳が痛い。
 当馬は何か月も咳が続き風邪だろうと思っていたのが血痰が出て慌てて検査すると肺癌で余命1年と宣告されます。私も今年の前半何か月も咳が続いていて風邪がなかなか治らないなぁと思っていました(その頃電話をいただいた方には、ちょっと喉の調子が悪くて途中で咳き込むかもしれませんのでご了解くださいなどと言って電話を受けていました)ので、この本を読んでどっきりしたのですが、そこで改めて、そういえばいつの間にかあの咳治ってるなぁと気がついた次第。長期的な症状って、いつの間にか慣れてしまうし、なくなってもあまり気がつかないものですね。


石田衣良 文藝春秋 2013年5月15日発行
熊本日日新聞、秋田魁新報、高知新聞、北國新聞、中国新聞、神戸新聞、信濃毎日新聞連載
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十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞

2013-11-25 23:17:57 | 小説
 京大医学部現役合格・水泳国体選手・女にもてまくりのできすぎた弟を持つ二流大学カタカナ学部・就活59社不採用内定ゼロ・フリーターと聞いた彼女に振られたばかりのダメ兄貴伊藤雷22歳が源氏物語の世界にタイムスリップし、陰陽師と称して手持ちの薬品や源氏物語の知識を用いて宮中で重用されるという設定で、主に弘徽殿の女御に取り立てられ、源氏物語を弘徽殿の女御サイドから眺めた形で展開させる小説。
 弘徽殿の女御を自立心の強い決断力・胆力のある女性政治家と位置づけ、積極的に評価するとともに、男に取り入って自己と子どもの安泰を確保しようとする女たちを批判的に捉え、源氏物語の中での人物評価と異なる見方を示しています。その点がこの作品の読みどころなのですが、現代の若い男の語りになっているのがちょっとしっくりこない感じがします。源氏物語の登場人物、特に女性たちへの評価の視点が、やっぱり中高年女性の視点からの評価だなぁと思います。それを女性から語らせると若い女性への僻みとか嫉妬、意地悪な見方と受け取られやすいので、若い男性を話者にしたんじゃないかと思えるのですが、読んでいて度々若い男がこういう評価するかなぁと違和感を持ってしまいました。もっとも、女性の視点からの評価、男性の視点からの評価という感覚自体がステレオタイプの異性観でもあり、もっと自由な発想をすべきだと読み手の自分が反省しなきゃとも思うのですが。
 語り手自身が、弘徽殿の女御の息子一宮(後の朱雀帝)と同様にできすぎた弟を持つという設定で、コンプレックスと弟への微妙な少しひねた愛情が常に意識され、他方で恵まれたように見える者もどこかにコンプレックスを持つということにも言及され、他者への視点とコンプレックスがもう一つのテーマになっています。
 異性間・同性間の人間関係の機微やコンプレックスについてあれこれ考えさせられる作品でした。


内館牧子 幻冬舎 2012年5月10日発行
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贖罪

2013-11-24 18:08:34 | 小説
 「空気がきれい」が売りの田舎町の小学校で、東京から転校してきた小学4年生の少女エミリが、同級生の紗英、真紀、晶子、由佳と校庭でバレーボールをしていたところをプールの更衣室の換気扇の点検に来た作業員と名乗る男に手伝いを頼まれてプールの更衣室に連れて行かれそのままレイプされ絞殺されたという事件が起こり、犯人が逮捕されずに3年が経過したときにエミリの母親麻子が中学1年になっていた4人を呼び出し、エミリが殺されたのはあんたたちのせいだ、あんたたちは人殺しよ、わたしはあんたたちを絶対に許さない、時効までに犯人を見つけなさい、それができないのなら私が納得できるような償いをしなさい、そのどちらもできなかった場合私はあんたたちに復讐するわと怒鳴りつけ、その言葉に縛られて生き続けた4人が結局人の命を奪うに至るという因果因縁話の短編連作。
 成人した4人が順次自分の来歴を語る語りの中で、少しずつ事件に至る経緯や事件当日の状況、その後の麻子の行動と犯人像が明らかにされ、全体としてミステリー仕立てになっていますが、おそらくはそこよりは、心ないジコチュウの大人が鬱憤晴らしに怒鳴った1つの発言が相手の人生を縛り付け破壊するに至るという重苦しい宿命劇としての部分が読みどころの作品なのだと思います。
 4人の少女たちのエピソードに続き最後に麻子のエピソードが登場します。ここで麻子には麻子の事情があり、4人のエピソードであまりにもジコチュウで性悪と描かれてきた麻子が実は善意だったというところまでひっくり返せれば、さらに欲張れば最後に「犯人」のエピソードを置いて実は犯人も悪人ではなかったという大どんでん返しがあれば、不条理劇としての深さが生じたのでしょうけれど、さすがに麻子の行為の設定が酷すぎて麻子への共感を呼ぶには至りません。
 それにしても衝撃的な事件に遭遇した人がその後の人生を大きく規定され長い間事件を引きずり続ける宿命の重さの描写を読むにつけ、そういうことになりかねない事件に度々関与することになる自分の仕事の重さを改めて感じてしまいました。


湊かなえ 双葉文庫 2012年6月6日発行 (単行本は2009年6月)
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ニュートリノでわかる宇宙・素粒子の謎

2013-11-23 19:15:57 | 自然科学・工学系
 カミオカンデとその後継機スーパーカミオカンデ、カムランドでのニュートリノ検出実験の経過とニュートリノを巡る理論状況を解説した本。
 私が子どもの頃には素粒子というと陽子、中性子、電子だけで済んでいたのですが、その後、素粒子が陽子や中性子も最小単位ではなく陽子も中性子も「アップクオーク」と「ダウンクオーク」が結合してできているとか、中性子が電子を放出して陽子になる(β崩壊)ときにニュートリノが出るとかいう話になり何となくついて行けなくなっているのを挽回できるかなと思いながら読みました。
 前半は、ニュートリノは人体から通常毎秒3000個も放出されている(38~39ページ)とか、地球内部から地表に向けて放出されるニュートリノは1平方センチメートル当たり毎秒20万個以上(40~41ページ)、太陽から地球に降り注ぐニュートリノに至っては1平方センチメートル当たり毎秒660億個(42~43ページ)とか、ビッグバン時に放出された「宇宙背景ニュートリノ」は宇宙全体に存在し「いまあなたの目の前にも、1立方センチメートルあたり300個の宇宙背景ニュートリノが浮いているはずです。」(203ページ)などイメージしやすい説明が続き、何となくするすると読めます。ただ、最初の方の易しげな説明でも、中性子が陽子になるβ崩壊で電子とニュートリノが放出される(30~31ページ)というのと恒星が重力収縮して中性子星になる過程の「重力崩壊」で陽子が電子と結合して中性子になる際にもニュートリノが出てくる(78ページ)のが、ちょっとストンと落ちない気がしました。β崩壊も不安定な状態からより安定した状態への変化で、重力崩壊でも電子が結合によってエネルギーが低い状態になることからエネルギーが放出されるであろうことはまぁ理解できますが、中性子→陽子+電子と陽子+電子→中性子でどちらの反応でも同じ物が放出されるというのは直感的に納得しがたく思えます。易しく説明しようとするからかもしれませんが、読んでいてイメージはできるのだけど首をひねる部分がところどころあった感じです。
 第4章で17種類の素粒子が登場する素粒子の「標準理論」の説明が始まってから後は、一気に難しくなり、ほとんどついて行けなくなりました。前半で少しニュートリノの話もわかったような気になったのが、気持ちがしぼみ、あ…やっぱり難しいわとあきらめてしまいました。


鈴木厚人 集英社新書 2013年9月18日発行
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巨大彗星-アイソン彗星がやってくる

2013-11-22 23:52:07 | 自然科学・工学系
 2013年11月29日に0.012494天文単位(天文単位=地球-太陽間距離)まで太陽に近づき、その前後の夜明けの東南東ないし東の空を飾ることになる巨大彗星アイソンについて、それ以前の彗星のエピソード、国立天文台副台長の著者のこれまでと合わせて説明した本。
 彗星や流星群の予測は天文学者でもわからないという驚きも動機の1つとなって天文学者になった著者が、これまで天文ファンの話題に上る彗星が近づいた際にその彗星の見え方(明るさ、尾の長さなど)について予測を繰り返しては外し、2013年3月に接近したパンスターズ彗星について「大彗星にならない」と予想した際には朝日新聞に「彗星の予測をよく外すといわれている渡部潤一・国立天文台教授は最近、あえて『春がすみもあって、パンスターズ彗星は肉眼では見えないだろう』と繰り返しており、天文ファンに『歓迎』されている。」と書かれた(82~83ページ)という経緯など、これまでの主な彗星の見え方やその予想の外れぶり、著者のこれまでなどが大部分を占め、アイソン彗星のことが書かれているのは全体の3分の1くらいです。その過程で、彗星の構造やどういう条件があると彗星がよく見えるのか、尾の仕組みや尾が明るく長く見える条件などが説明されているので、それなりに読み応えはあるのですが。
 アイソン彗星自体については、当初希望的に予測された満月を超えるほどの彗星にはならない、太陽の潮汐力で核が分裂する可能性が高いので近日点通過後の12月上旬から中旬には長さ10°を超えるようなかなり直線的な尾の出現が予想される、観察は12月上旬の夜明けがよく、東京では午前4時半頃から東の地平線付近を眺めているのがよい、小さな双眼鏡があればベストだが肉眼でも充分だそうです。


【追記】
 11月29日、NASAが太陽に接近したアイソン彗星が崩壊し蒸発して消滅したと一旦発表し、その後まだ残っているがどの程度残っているか地球から見えるようになるかはまだ判断できないと改めて発表しています。さて無事に観測できますか…(12月1日追記)
 NASAも国立天文台も肉眼での観測は無理って。「彗星の予測をよく外すといわれている」は伝説・定説となりますか…(12月3日追記)

渡部潤一 誠文堂新光社 2013年10月30日発行
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教科書を飛び出した数学

2013-11-21 23:27:08 | 自然科学・工学系
 数学を日常生活やそれを支える技術との関連で説明し、数学への興味を誘う本。
 著者の「授業実践開発研究室」で研究し、千葉大学附属中学3年生の授業に用いたプログラムから、8つのテーマを紹介しています。
 今どきの本では、一番のエピソードを最初に持ってくるということもあると思いますが、私には最初の音律とハーモニーの話が、私が音楽分野は少し苦手なこともあり、勉強になりました。和音では振動数が整数倍だときれいに響くということは感覚的に理解できますが、音律でそれを優先して、1オクターブは2倍、5度の関係(ドとソ、ラとミなど)では3/2倍という2つのことだけで決めた音律をピタゴラス音律というのだそうです。最初の音(例えばド)から5度ずつ上げて1オクターブを超えたら1オクターブ戻し、また5度上げていくという順序で各音の振動数を決めていくことになりますが、この作業を1巡すると、最初の音の1オクターブ上の音は結局2.02729倍になってしまうとか(4~10ページ)。このように音の振動数を整数比で決める音律を「純正律」と言い、ピタゴラス音律も純正律の1つですが、一般に用いる純正律では、ドの振動数を1とするとレは9/8倍、ミは5/4倍、ファは4/3倍、ソは3/2倍、ラは5/3倍、シは15/8倍とされ、これは長3度(半音4つ)が5/4倍、短3度(半音3つ)が6/5倍で3度のハーモニーがきれいになるそうです。それでドミソ、ソシレなどの長調の和音がきれいというわけ。ところが、純正律では全音1つ(半音2つ)違うと基本的に9/8倍、短音1つ違うと16/15倍になるけれど、ソとラの間だけ10/9倍となるため、曲の途中で転調が困難という問題があり、これを避けるために1オクターブを2倍として半音12を均等(半音違うと2の12乗根倍)に配分した「平均律」が鍵盤楽器で広く使われるようになったけれども今度は和音がやや濁ってしまうのだそうです(10~17ページ)。音律にいくつも種類があることも知らなかった私にはビックリの世界でした。
 その他の点では、素因数分解と暗号鍵の話、複素平面の話が、これまで読んでも難しいなぁという印象しか残らなかった分野で、少しイメージしやすく書かれているなと感じました。


藤川大祐 丸善出版 2013年7月30日発行
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ぼくはこうして出張ホストになった

2013-11-20 20:31:35 | ノンフィクション
 親が多額の借金を抱え貧しかった学生時代の著者が、アルバイト先の店長の妻が関与するホスト派遣業にスカウトされ、ナンバー1ホストになり転落して廃業するまでを描いたノンフィクション。
 プロローグで語られる初めての顧客と会うときの心境に、いきなり冷水をかけられる思いをします。「初対面の女性が待つ部屋のインターフォンを押す瞬間だけは、今でも期待に胸が膨らむ。美人か、金持ちであればアタリ。両方だったら、大アタリ。それ以外は、たとえどんなに性格が良くてもハズレだ。」(2ページ)、「ブランドのロゴがデカデカとついたバッグ、ネックレスや腕時計も安物だろう。典型的な庶民のスタイル……完全にハズレだ。会社からは、客の希望はマッサージだと聞いていた。冗談じゃない、どうしてこんなに金にならない相手に僕がサービスしなければならないんだ。」(3~4ページ)、「いくら指名を入れてくれようが、彼女のようなハズレ客は存在価値がない。」(4ページ)。う~ん、ホストって、あるいはナンバー1ホストって、内心ではこういう目で客を見てるんだ。
 最初のころの試行錯誤の段階の話では、相手の女性の視点に立って考えてみる(81ページ)、掲示板に集う人々は皆もっと自分のことを理解してもらいたいと強く思っている(82ページ)、ホストを利用する人は寂しさや孤独を抱えている人が多い、心にも触れる接客を心がけるようにした(89ページ)、僕には相手の気持ちを100%理解することはできない、だが「理解しようとする努力をする」ことが大切なのだ(90ページ)、ホストを利用する人は「ホストなんて利用して、私は一体何をしているのだろう……」という自己嫌悪に陥っている、自己嫌悪を感じさせないためにはどうすればよいか、考え抜いた末お客様と別れる際には「次回も是非ご指名ください」ではなく「今日は楽しい時間をありがとうございました。明日からもまたお互い頑張りましょうね」と言うようにした(95~96ページ)など、謙虚というか、顧客のことを考える言葉が並んでいます。これ自体は、サービス業に関わる者として共感できるところですが、こういう姿勢でいた人がみるみるうちにプロローグのような感覚になっていくのは怖いことです。初心忘るるべからず、でしょうか。
 その自信を深めたナンバー1ホストの著者が、「経験を積む中で、女性はたった3つのポイントさえ抑えておけば満足させることができるということに気がついた。ポイントとは、『性器の位置と形状』『刺激する場所』『快感に慣れているかいないか』だ。」(164ページ)と断言していますが、さてそういうものなんでしょうか。


宮田和重 彩図社文庫 2012年2月20日発行
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ヴァンパイレーツ13 予言の刻

2013-11-19 21:08:47 | 物語・ファンタジー・SF
 海賊船(ディアブロ号・タイガー号など)とその属する「海賊連盟」、血を吸う相手を殺さないようルール化している吸血海賊船(ヴァンパイレーツ)ノクターン号の「ノクターナルズ」と、ノクターン号に反旗を翻して独立したヴァンパイレーツのシドリオたち、ディアブロ号とノクターン号に命を救われた双子の兄弟コナーとグレースの運命で展開するファンタジー。
 13巻では、海賊船への襲撃を重ね100隻を奪ったシドリオたちヴァンパイレーツ軍団に対抗するために同盟を組んだ海賊連盟とノクターナルズが、グレースのいるサンクチュアリを野戦病院化して重傷者を回復させて戦列に戻すとともに、ヴァンパイレーツへの逆襲を計画し訓練を重ね、ヴァンパイレーツ軍団に奪われたディアブロ号の奪還を企て、シドリオたちは海賊側の戦闘員が減らないことを訝しんでサンクチュアリにスパイを送り込み、シドリオの子を孕んだローラはますます残虐に襲撃を続け…という展開になります。
 プロローグで、500年前にモッシュ・ズーが戦乱の時代の訪れと「戦をもたらす者の子どもとして生まれ」た双子の登場、ノクターナルズに勝利をもたらすことができるのはこの双子だけで、戦乱を終わらせ調和をもたらすためにはこの双子のどちらかが死ななければならないことを予言したことが紹介され、原書の前作で不死のダンピール(ヴァンパイアと人間のハーフ)だとわかったコナーとグレースが死ぬ運命を示して読者に緊張感を与えています。
 13巻の最大の驚きは、これまでジコチュウのわがまま坊やだったムーンシャインがヴァンパイレーツの餌食となったモロッコ・レイスの遺言で奪われたディアブロ号の船長に指名され成長を見せるところでしょう。母親のトロフィー・レイスだけは相変わらずですが、この成長で海賊連盟の結束が深まり安定感が出て来ます。
 日本語版13巻は、原書第6巻(原題:IMMORTAL WAR)の前半部分にあたり、原書のほぼ半分を翻訳したところで、ぶっつり切れて終わっています。ストーリーの区切りに思えるところはなく、本としての終わりの体裁もついていません。前から繰り返し言っていますが、日本語版を販売政策上分冊にしたいのなら、最初から上下とかにして分冊であることを明確に表示した上で同時に発売すべきだと思います。それもしないでこういう中途半端な途切れ方をした本を発売するの、出版社は恥ずかしくないんでしょうかね。


原題:IMMORTAL WAR
ジャスティン・ソンパー 訳:海後礼子
岩崎書店 2013年10月31日発行 (原書は2011年)

12巻は2013年7月29日の記事で紹介しています。
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デンマークの歴史教科書 【古代から現代の国際社会まで】

2013-11-18 21:58:29 | 人文・社会科学系
 デンマークの国民学校高学年(日本の中学生に相当するそうな)で使用されている歴史教材。日本語タイトルでは「教科書」と紹介し、「世界の教科書シリーズ」の1冊なのですが、訳者あとがきによれば、デンマークでは1冊の教科書で授業を行うというスタイルではなく教師がさまざまな教材を利用するので、実態としては教材の1つのようです。本の原書タイトルも日本語訳すると「歴史概観」のようです。
 日本の歴史教科書と比較して、経済面や庶民の暮らしへの影響への言及が多く、他方、文化史の紹介はほとんどないことが目につきました。歴史教科書で「偉業」と讃えられがちな大規模建築物の建設や対外戦争の記述に度々それに伴い支配者が農民らからの徴税を厳しくして農民らが苦しんだことが付け加えられています。エーリク6世が新しい砦を築きドイツ北部を征服したが、その費用の捻出のために追加の税を徴収して農民反乱が起き、さらには各地の領主らに借金をして国土を抵当に入れ、1332年にエーリク6世を継いだ弟のクリストファ2世が死ぬと新たな国王は選ばれず王国が解体した(86ページ)というエピソードは象徴的です。
 デンマークらしい視点としては、イギリス側ではもちろん蛮行と描かれるバイキングの略奪について否定的な表現はされず、「イングランド人がデーンゲルドと呼ばれる大金を支払ってはじめて略奪は止んだ」(70ページ)などやや勝利感の漂う記述がなされています。985年頃バイキングがグリーンランドを発見し、その約15年後にはニューファンドランド島にも到達し、「バイキングはコロンブスよりほぼ500年前にアメリカへ到達していた。」(68ページ)とも述べています。1807年にナポレオン戦争の過程で当時イギリスに次ぐ艦隊を持っていたデンマークに対してデンマークがフランス・ロシアに奪われることを恐れたイギリスがデンマークに艦隊を引き渡すことを求め、デンマークがこれを拒否するとコペンハーゲンを包囲して5昼夜にわたって砲撃したそうです。私は知りませんでしたが、「これは、世界最初の一般市民への大型テロ砲撃だった。」(172ページ)とされています。他方、ナチスのノルウェー侵攻時には抵抗せずにナチスの要求に応じて共産党を禁止する法律を制定したり約1万2000人のデンマーク人がSS(武装親衛隊)に加わったなど事実上ナチスへの協力を続けていたことについては商業上のメリットや独立を維持するために必要だったなど肯定的な評価をしています。
 ヨーロッパ中心、近現代史中心の記述ですが、イスラムについてほとんど紹介がないのは残念な気がします。近年では、ギリシャ・ローマの科学技術や文化を継承したのはイスラム諸国で、そのイスラム諸国からそれを学んだことが近代ヨーロッパの隆盛につながったとみる見解が主流だと思います。そういうことを学んでおくことが、ことさらにイスラムへの敵対心を煽る風潮の下でとても大切に思えるのですが。
 日本は、第2次世界大戦でドイツ・イタリアとともに防共協定の当事者だったこと(223ページ)と、広島・長崎への原爆投下(232ページ)以外はまったく登場しません。中国でさえ本の印刷技術をグーテンベルグより500年以上前に開発していたこと(120ページ)と中華人民共和国の成立・朝鮮戦争(240~241ページ)だけですし、インドもバスコ・ダ・ガマらの到達先、コロンブスの目的地として以外はイギリスの植民地だったと紹介される(205ページ)だけということを考えると、そして日本の中学の歴史教科書に「デンマーク」の紹介は1行もないと思われることを考えれば、しかたないとも思えますが。
 歴史や外国についての知識・見方が、どの地域から見るかで相当程度違うということを認識でき、勉強になりました。


原題:DET HISTORISKE OVERBLIK
イェンス・オーイェ・ポールセン 訳:銭本隆行
明石書店 2013年9月20日発行 (原書は2010年)
世界の教科書シリーズ38
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ジ、エクストリーム、スキヤキ

2013-11-17 21:08:53 | 小説
 会社を辞めて無職になった洞口が、大学の映画研究会の後輩大川を12年ぶりに呼び出してあてどもなく歩いているうちに衝動的に2万8500円のすき焼き鍋を買ってしまい、同じく映画研究会の同級生で元カノの村田京子を呼び出して「凄いスキヤキ」をしようと誘い、行きがかりで京子の同僚の遠藤楓も混じって4人で小田原にドライブに出かけたという展開で大学時代の想い出が呼び覚まされるくたびれ社会人ノスタルジー小説。
 うじうじした性格の男2人と大学時代の関係もあり迷い戸惑う京子、さっぱりした対応ながら友達ができないことを後ろめたく思う楓の組み合わせで、不器用に優柔不断にけだるく進み、まぁ社会人の人生なんてドラマみたいに派手だったりうまく行ったりはしないけど、そこそこうれしい日もあるかもというくらいの読後感でした。
 作者自身が監督して映画化され、2013年11月23日にその映画が封切りというタイミングで発売され、表紙カバーは映画のスキヤキのシーンのスチール写真で構成されているのですが、小説の中のスキヤキとかなりイメージが違います。作者自身が監督だから映画でどう変えてもいいんでしょうけど、小説の表紙カバーはそういう小説の中身と違う写真はやめて欲しいなぁ。
 しかし、封切り直前の映画の原作本って、ふつう図書館では全部貸出中で予約多数だと思うんですが、書架にあってそのまま借りられました。それで東京23区の区立図書館の貸出・予約状況をチェックしてみたら、所蔵が21館で、うち予約者ありは4館、全部貸出中だけど予約者なしが4館。6割の区立図書館で、予約しなくても図書館の開架に在庫中ですぐ借りられる状態。この状況からすると、映画の興行成績はかなり厳しそう。


前田司郎 集英社 2013年10月10日発行
「すばる」2012年9月号~2013年5月号
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