航海士としては一流、総督・政治家としては無能だったコロンブスの経歴、航海の謎を追うノンフィクション。
コロンブスの航海に使われた船は発見されていなくて、大航海時代に多用された「キャラベル船」は現物はもちろん図面も残されていなくて、古代ギリシャやローマの船よりも情報がないそうです(20頁)。最近パナマのノンブレデディオスで発見された沈没船がコロンブスの「ビスカイナ号」かもしれないが証明はできないだろう(340頁)と言われているそうです。
コロンブスの出自も謎で、この本では1451年ジェノバ生まれと結論づけていますが、「エスニック・グループの名前を1つ、ランダムに挙げてみてください。コロンブスがその少数民族の出身だという本が必ず図書館で見つかります」(241頁)だそうです。
そのコロンブスの謎を、沈没船と文書保管所の記録から追いかける人々の物語とコロンブスの航海日誌と手紙、同行者の手記などの物語を交えながら解き明かしていくという趣向の本です。
死後数世紀は英雄として、最近数十年は虐殺者・侵略者として語られるコロンブスをどう評価するかについて、著者と訳者は中立を意識しているようですが、現地の住民と話が通じていたら太平洋も発見できていたのに(264~274頁)というあたりの記述にも、「場合によっては、現在のアメリカ大陸がコロンビア大陸と呼ばれたかもしれないのである。」(231頁)というあたりにもコロンブスへの同情がありありです。多くの人に語らせる形で中立を装いつつ、結局は記者の視点を語っているのは、ジャーナリズムの常套手段で、全体としては私にはなお美化の側に振れていると感じられましたが、それを意識した上で読めば、知らないことが多く読み物としては楽しめました。

原題:Die letzte Reise:Der Fall Christoph Columbus
クラウス・ブリンクボイマー、クレメンス・ヘーゲス
訳:シドラ房子
ランダムハウス講談社 2006年5月24日発行 (原書は2004年)
コロンブスの航海に使われた船は発見されていなくて、大航海時代に多用された「キャラベル船」は現物はもちろん図面も残されていなくて、古代ギリシャやローマの船よりも情報がないそうです(20頁)。最近パナマのノンブレデディオスで発見された沈没船がコロンブスの「ビスカイナ号」かもしれないが証明はできないだろう(340頁)と言われているそうです。
コロンブスの出自も謎で、この本では1451年ジェノバ生まれと結論づけていますが、「エスニック・グループの名前を1つ、ランダムに挙げてみてください。コロンブスがその少数民族の出身だという本が必ず図書館で見つかります」(241頁)だそうです。
そのコロンブスの謎を、沈没船と文書保管所の記録から追いかける人々の物語とコロンブスの航海日誌と手紙、同行者の手記などの物語を交えながら解き明かしていくという趣向の本です。
死後数世紀は英雄として、最近数十年は虐殺者・侵略者として語られるコロンブスをどう評価するかについて、著者と訳者は中立を意識しているようですが、現地の住民と話が通じていたら太平洋も発見できていたのに(264~274頁)というあたりの記述にも、「場合によっては、現在のアメリカ大陸がコロンビア大陸と呼ばれたかもしれないのである。」(231頁)というあたりにもコロンブスへの同情がありありです。多くの人に語らせる形で中立を装いつつ、結局は記者の視点を語っているのは、ジャーナリズムの常套手段で、全体としては私にはなお美化の側に振れていると感じられましたが、それを意識した上で読めば、知らないことが多く読み物としては楽しめました。

原題:Die letzte Reise:Der Fall Christoph Columbus
クラウス・ブリンクボイマー、クレメンス・ヘーゲス
訳:シドラ房子
ランダムハウス講談社 2006年5月24日発行 (原書は2004年)