伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

民主主義という不思議な仕組み

2007-08-31 20:03:22 | 人文・社会科学系
 民主主義が様々な批判があるにもかかわらず現実に行われた他の代案(ファシズムや共産主義)と比べると捨てがたく、是か非かではなくより良くしていくためにはどうすべきかという視点を示しつつ民主政治について解説した本。
 引用されるのがアリストテレスだったり福沢諭吉だったりというのはちょっと議論が古すぎると感じますけど(民主主義をめぐる議論と実践がその頃から前進していないと言いたいのかも)。
 民主主義が理想の政治体制ではないことを度々述べつつ、結局民主主義しかないという著者の論拠は「人間の持っている基本的人権に適合する政治の仕組みは民主政治しかない」(59頁)と意外に理念的なもの。圧力団体や宣伝とテロリズムによる独裁への大衆操作など、政治と歴史の現実を多々論じているところからはちょっと驚きました。
 市民的不服従を積極的評価している(130~143頁)あたりも、意外にも革新的な感じで好感を持ちました。


佐々木毅 ちくまプリマー新書 2007年8月10日発行
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インターネットは誰のものか

2007-08-31 08:18:13 | 実用書・ビジネス書
 インターネットの混雑によるスピード低下に対する対策とインフラ整備のコスト等について総務省官僚が解説した本。
 日本は光ファイバーの普及もあり世界で最も速く最も安いブロードバンドサービスを利用できる状態(176頁)だがネットの混雑の進展は世界で最も厳しい状況(181頁)だと紹介し、その原因はユーチューブの視聴と、それ以上にファイル交換ソフトの一部のヘビーユーザーによる大量のファイル交換にあるとしています(181~189頁)。
 インターネットのインフラ整備については、利用状況やコストを厳密には把握できないインターネットの特徴と各事業者の利害、定額制が普及しかつ競争が厳しい現状ではインフラ整備のコストを負担すると事業者の収益が悪化することから、難しい状況を説明しています。
 対策としてはいくつかのパターンを説明していますが、結局は帯域制限(実質的には特定のソフト:ファイル交換ソフトの利用に通信会社やプロバイダーレベルで制限をかけること)への理解を求めています(145~150頁等)。
 中立性等の方針は必要としており、社会のコンセンサスが必要、インターネットでは試行錯誤が必要などと当たり障りなく論じ、こうあるべきという結論をはっきりさせないようにしつつ、方向としては帯域制限に行くように誘導していて、いろいろな意味で役人らしい解説になっています。


谷脇康彦 日経BP社 2007年7月17日発行
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夏の光

2007-08-28 08:24:39 | 小説
 アナリストとしての良心と所属金融機関の利害・官僚の思惑の狭間で揺れる証券会社の債券部門のチーフアナリスト宮本修一が、新聞社の財務省クラブキャップとなった高校時代の親友有賀新太郎と再会し、高校時代の苦渋に満ちた記憶に翻弄されつつ、自分の進む道を定めて行く、サラリーマンもの+青春グラフィティの小説。
 現在の修一をめぐる問題点を、財務省の国債発行政策の選択とそれをめぐる金融機関の利害と財政上の利益及び長期金利の動向の読みと一般投資家への影響などの関係者の利害調整の1点のみに絞り、過去についても高校時代の恋人の不可解な言動と自殺及びそれと有賀の関係の疑惑に始まる2人の決別に絞って、かなりシンプルな構成にしているため、話としては大変わかりやすくなっています。修一の選択も、悩んだ末ではありますが、スッキリとしていますし、過去の疑惑もだいたい読者の希望しそうな方向に解決していき、少し哀しいですが爽やかな読後感を持ちました。ちょっとひねりが少なく素直すぎるかなという感じもありますが、人生に疲れてきた中年世代へのエールとしては重苦しくならない方がいいでしょう(現実がすでに重苦しい)から、これくらいがちょうどいいかも。
 「人の幸せにダイレクトに結びつくための成長のメカニズムを見つける」ために経済学部に行くという修一(33頁あたり)、それを覚えていて考えている有賀(139頁)、「二十歳の原点」を読んで感動して京都に行きたいという高校生(88頁)・・・作者の生まれを見たら私の1年後。まあ、そういう世代ですよね・・・


田村優之 ポプラ社 2007年7月6日発行
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土の褥に眠る者 ヴェヌスの秘録3

2007-08-27 08:05:56 | 物語・ファンタジー・SF
 墓地の所有権をめぐる争いを契機に長らく敵対を続けるヴェニスの貴族スコルピア家とバルバロン家の間で愛し合う2組の(亡霊の乗り移り的な話があるので正確には何組というべきか判断に苦しみますが)男女とその周囲の人々の思惑・決意・運命を描いた物語。
 終盤間際まで、他の貴族と婚約したスコルピア家の娘メラルダが出入りの画工の甥ロレンツォにたぶらかされて肉体関係を結んだ上駆け落ちしようとしたところを侍女の裏切りによりバルバロン家の者に捕まって婚約者に引き渡され、ロレンツォは殺されてメラルダはそれと知らされないままロレンツォの男根を食べた後そのことを知らされて投身自殺したことから、メラルダの身ごもっていた子どもの霊が関係者に復讐するという形でストーリーが展開していきます。このあたりがどうも読んでいて居心地がよくありません。やり過ぎではありますが、ロレンツォは婚約中の娘と知りながらしかも騙して自宅に誘い込んで関係を持ったわけですし、メラルダも悪いと知りつつ関係を持っています。メラルダ自身は暴力を受けず自ら死を選んだわけです。そして、この2人、婚約者に引き渡されなくても、生活力のない男と家事能力ゼロの女の組み合わせですぐに生活が破綻することが明らかですし、いずれスコルピア家に探し出されてロレンツォは似たような結末になることが予想されます。それで復讐って言われてもなぁという思いがどこか残りながら読みました。そこはむしろ、復讐というもののむなしさを感じさせます。
 たぶん、このままの展開でもこういった違和感から、両家の確執や復讐への無意味さを感じ取れると思います。しかし、ラストで、あえて、それまでメインストーリーに組み込まれながらサイド的な位置づけだったもう1組の男女の素性・運命を絡めることで、物語の主軸が復讐でなかったことが明らかにされ、よりわかりやすい結末への流れとなります。このあたり、なるほどとも思いますし、そうしなくてもそれは感じ取れるんじゃないかとも思います。
 亡霊の絡みがあったりするので、登場人物の関係について時々錯綜する(特にラストでより複雑になります)のが、ちょっと読みにくいなと感じました。
 ヴェヌスの秘録シリーズとされていますが、1巻とは舞台がヴェニスということ以外関係なく、2巻のエピソードは伝説として何度か出てきますが、2巻を読んでなくても支障はありません。


原題:A Bed of Earth - the gravedigger’s tale : The secret books of Venus;3
タニス・リー 訳:柿沼瑛子
産業編集センター 2007年5月31日発行 (原書は2002年)


1巻については2007年6月11日の記事で紹介
2巻については2007年7月6日の記事で紹介
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「やり直し」のホームページ集客術

2007-08-26 08:07:39 | 実用書・ビジネス書
 営業用のサイトの作り方についての解説本。
 著者は、今時は検索エンジン対策の観点やYahoo!ニュースなどからのリンク、更新情報の送信などで顧客を引き込むためには、ブログ形式で作成することが圧倒的に有利と述べています。
 サイトを訪れた人の連絡先を入手することに目標を置くべきとか、サイトのどの場所がクリックされやすいかチェックしてレイアウトを考えろとか、業者さんはそういうことまで考えてサイトを作っているんですね。素人としては、感心したり考えさせられたり・・・。
 基調色が大事で「ホームページのコンテンツと同じくらい、色がイメージに与える影響は大きなものです」(136頁)って。私のサイトの基調色はどうして決めたかっていうと・・・基調色も、タイトルロゴのパターンも、ホームページ・ビルダーのデフォルトの設定のままですから・・・


飯野貴行 ダイヤモンド社 2007年7月12日発行
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電子マネーのすべてがわかる本

2007-08-25 08:04:00 | 実用書・ビジネス書
 Suica、PASMOなどのICカードや「お財布ケータイ」の電子マネーについての解説本というか、各カード類のカタログ本。
 タイトルはずいぶん大げさで、確かにたくさんのカードを説明していますが、それぞれのカードの特徴と特典を並べているだけという感じ。電子マネーのしくみや、セキュリティの問題、個人情報の問題など読者が疑問を持ちそうな点についての解説はあまりなく、業者サイドの視点から利用者にほぼ利点だけをアピールする内容に思えます。
 各カードの利点のアピールという位置づけで見ても、各カード別に同じようなことをバラバラに書いてあるので、はっきりいって、どう違うのかわかりにくい。この内容なら、こういう1ページの字数の少ないモノクロの本ではなくて、大判のカラー雑誌(日経トレンディとか)の特集で見開き2ページあたりの文字数・情報量を多くして図表を駆使した方が、よっぽどわかりやすくなると思いました。


竹内一正 ぱる出版 2007年6月22日発行
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ローザの微笑

2007-08-24 20:08:02 | 小説
 現役女子大生AV女優でメディアの寵児だった千石ローザが同棲していた監督から捨てられ、雇われマダム、ストリッパー、売春婦、ホームレスと落ちぶれていく様子を描いた小説。
 ローザを食い物にする男たちやマスコミの醜さを淡々と描いたという読み方もできないではないですが、ローザは、子どもの頃の母親からの虐待を除けば、自ら進んでやっているという書きぶりですから、まわりの者から都合のいい物語にも思えます。
 ただ何よりもいやらしいのは、現役女子大生AV女優で大仰なほど丁寧な言葉づかいで「私と、セックスしていただけませんか」が流行語になったとか、男優兼監督で「グローバル映像」の社長とか、お笑い芸人の「クラークしんじ」とか、誰をモデルにしているのか見え見えなこと。私はまじめに調べる気もないからどこまでが事実かわかりませんが、こういうモデル小説は、書いてあることが本当ならプライヴァシー侵害だし、事実と違うなら名誉毀損。モデルにされた方にとっては、どちらにしても迷惑この上ない。最後にフィクションだと断れば、何でもアリだと思っているのでしょうか。それに加えて、この種の有名人をモデルにした小説は、作家が腕で勝負しないで/できないで、モデルのネームバリューで読ませようというさもしい根性が見えて、私は嫌いです。


海月ルイ 文藝春秋 2007年6月30日発行
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ゲドを読む。

2007-08-23 09:32:47 | 趣味の本・暇つぶし本
 ゲド戦記の本とアニメについての岩波書店とジブリによる無料配布の販促本。
 冒頭の中沢新一の語りだけがオリジナルで、後はこれまでに岩波書店とジブリ関係のメディアに掲載されたゲド戦記についての論評類をまとめたもの。中沢新一の語りと河合隼雄の1978年の評論が長くて重めで後は軽めの感想。
 中沢新一の語りはかなり観念的で感傷的。学者さんはむりやりにでも観念的抽象的に語りたいんでしょうけど、ゲド戦記はWの言葉(Water、Wizard)で彩られている(24頁)、Wではじまる言葉には暗いイメージがつきまといます、WはマリアのMと反転関係にありますからねって・・・。その少し前でゲド戦記は非白人(White)の物語だって言ったところですが、そっちのWはどうするんでしょ。
 河合隼雄がその後におかれている論評で「ユングが好きになりますと、どんな本を読んでもユングの言葉でいえるような気がしてきます。たとえば主人公が男性で、もう一人男性が出てきた、ア、これは影だっ。女性が出てきたらアニマだ、少年が出てきたら自己だっていっていれば全部わかったような気がするのですが、ほんとは何もわかっていないんじゃないかと私は思うのです。」(86頁)って言っているのが印象的です。
 最近ジブリ系のメディアに掲載された文章の方を見ると、アニメについてほめるのにずいぶん苦慮しているなという跡がうかがえるのが楽しい(私はアニメは見ていませんので論評できません/する気もないけど)。


編集協力 岩波書店、スタジオジブリ
ブエナビスタホームエンターテイメント
2007年6月15日発行
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ガリレオ・ガリレイ

2007-08-23 09:27:39 | 自然科学・工学系
 ガリレオ・ガリレイの伝記。
 ガリレオの活躍が印刷技術の発達と望遠鏡(レンズの研磨技術)の発達を背景とし、大学よりも宮廷科学者の方が収入があるという時代の影響があったことがわかります。
 ガリレオに地動説を放棄させた異端審問に至る経緯を見ていると、他の哲学者との争いでガリレオ側にも相当程度挑発的な態度があったことやガリレオと親しかった教皇の態度がキリスト教社会での力関係の変化を背景に大きく変わったこと、ガリレオの有罪の決め手が地動説を論じたことそのものではなく教皇からコペルニクスの説を擁護してはいけないと命じられていたことに違反したことだったことなどがわかります。最後の点は実質的には同じなのですが、理由のつけ方が今でもいかにもありがちな官僚的なものであることに苦笑してしまいます。役人のやり方はいつの時代も共通していますね。


原題:GALILEO GALILEI
ジェームズ・マクラクラン 訳:野本陽代
オックスフォード科学の肖像シリーズ
大月書店 2007年5月18日発行 (原書は1997年)
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人は想い出にのみ嫉妬する

2007-08-20 08:13:46 | 小説
 恋人に死なれてその想い出を忘れられない大学准教授戸田とそれを知りつつ交際を始めたはずのその恋人の友人の30歳女性栞が、その想い出に嫉妬し続け、ついには上海に逃亡して年下の愛人との関係を持ったが、そこへ戸田が現れ迎えに来たのを、栞が拒否し、戸田が交通事故で植物状態になると、栞が想い出を語りながら看病を続けるという小説。
 二人の間の想い出の量と重さがその関係を規定することは、その通りだと思います。でも、この2人の生き方は、大人たちが不器用さ故に相手を苦しめた/失ったその自責の念から後ろ向きの人生に囚われるというようなやるせなさを感じさせます。最後は、回り道をしたハッピーエンドのような、ほろ苦さを感じるような流れで、単純には行かないところが深みを感じさせています。
 戸田の研究テーマが水質なのに栞は水アレルギーという設定で、栞の水アレルギーが戸田と別れた後改善されるというのも、象徴的/アイロニカルです。栞には別の人生の方がよかったという暗示とも、力みが抜けたところで障害がなくなり戻る流れとも読め、ちょっと考えさせられます。


辻仁成 光文社 2007年7月25日発行
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