生活保護に関する行政の処分に対する審査請求(行政不服審査)についてなされた裁決例を分析し解説した本。
著者(学者)が、情報公開請求によって入手した2006年度以降の裁決を整理して公開した「生活保護裁決データベース」に掲載されている裁決例を、分析検討し、保護の申請段階の取扱(事実上の追い返し、「水際作戦」等の問題)、自動車の保有をめぐる問題、稼働能力(求職活動をしないとかその頻度・程度を理由とする保護の停止・廃止等)、扶養(資力のある扶養義務者の存在、現実的に扶養を受けられるか等の判断等)、世帯単位(高校就学者が出たり就労者が出た場合や人員の移動があるときの扱い等)、指導指示(行政側の指導の可否・適否:保護の停止や廃止の前段)、費用返還(法63条)(収入があったときや過誤払いのときの保護費返還請求)、不正受給(法78条)の各問題に分類して解説しています。
このような裁決例の収集・整理・公開が一私人の手によりなされていること自体が素晴らしい(本来は行政が自らやるべきことなのになされていないということでもありますが)。
多数の裁決例が説明されており、基本的には請求が認められた(行政の処分が取り消された)裁決例が解説されていますので、こういう理由や事情があれば請求が認められる余地があるのだと、弁護士としては大変参考になりました。
他方において、多数の裁決例を紹介したいからではありましょうけれども、今ひとつ事案の説明と裁決の理由部分の説明が省略されて簡単に過ぎ、どこがポイントになって認められたのか、判然としないものも多く、やや消化不良気味です。29~49ページで3例詳しく紹介されている裁決があり、弁護士としてはこれくらい詳しく(もう少し省略してもいいけど)それぞれの裁決を解説してくれるとありがたいと思うのですが。
全体としては、生活保護法令、通達、生活保護行政の実務がある程度わかっていることを前提にして、そこの説明はさらっと流して、すぐに裁決の解説に入っている印象があり、業界外の人にはなかなか通読は難しいでしょう。専門家向けの解説書と位置づけた方がいいかと思います。
吉永純 明石書店 2020年12月30日発行
著者(学者)が、情報公開請求によって入手した2006年度以降の裁決を整理して公開した「生活保護裁決データベース」に掲載されている裁決例を、分析検討し、保護の申請段階の取扱(事実上の追い返し、「水際作戦」等の問題)、自動車の保有をめぐる問題、稼働能力(求職活動をしないとかその頻度・程度を理由とする保護の停止・廃止等)、扶養(資力のある扶養義務者の存在、現実的に扶養を受けられるか等の判断等)、世帯単位(高校就学者が出たり就労者が出た場合や人員の移動があるときの扱い等)、指導指示(行政側の指導の可否・適否:保護の停止や廃止の前段)、費用返還(法63条)(収入があったときや過誤払いのときの保護費返還請求)、不正受給(法78条)の各問題に分類して解説しています。
このような裁決例の収集・整理・公開が一私人の手によりなされていること自体が素晴らしい(本来は行政が自らやるべきことなのになされていないということでもありますが)。
多数の裁決例が説明されており、基本的には請求が認められた(行政の処分が取り消された)裁決例が解説されていますので、こういう理由や事情があれば請求が認められる余地があるのだと、弁護士としては大変参考になりました。
他方において、多数の裁決例を紹介したいからではありましょうけれども、今ひとつ事案の説明と裁決の理由部分の説明が省略されて簡単に過ぎ、どこがポイントになって認められたのか、判然としないものも多く、やや消化不良気味です。29~49ページで3例詳しく紹介されている裁決があり、弁護士としてはこれくらい詳しく(もう少し省略してもいいけど)それぞれの裁決を解説してくれるとありがたいと思うのですが。
全体としては、生活保護法令、通達、生活保護行政の実務がある程度わかっていることを前提にして、そこの説明はさらっと流して、すぐに裁決の解説に入っている印象があり、業界外の人にはなかなか通読は難しいでしょう。専門家向けの解説書と位置づけた方がいいかと思います。
吉永純 明石書店 2020年12月30日発行