伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

数式のない数学の本

2024-11-19 23:36:03 | 自然科学・工学系
 数学にまつわる歴史や確率、統計について解説した本。
 前書で、数式なしに数学の知識を得るという目的に合う「そのような本は世界のどこにも存在せず、それはいま読者が手にしている本書だけということになります」(8ページ)と力んでいるのですが、書かれている内容は、数学者の人物に焦点を当てた数学の歴史と、統計や確率について著者が語りたいエピソードというところで、現代社会で数学が果たしている役割とか、その未来像とかがあまり語られていないように思えました。
 後半では、AIは人間の脳を超えられない人工無能だ(112~119ページ)とか、地震学・地震予知に対する罵倒(152~159ページ)とか、著者が「非常に好戦的人物で、誰とでもトラブルを起こしたらしい」と紹介している(178ページ)ロナルド・フィッシャーもどきの書きぶりが目につき、そこを好むかどうかで読後感が大きく分かれそうです。


矢沢サイエンスオフィス編著 ワン・パブリッシング 2024年9月30日発行
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AIを封じ込めよ DeepMind創業者の警告

2024-11-17 22:12:59 | 自然科学・工学系
 テクノロジー開発、特に自律学習型のAIと合成生物学のリスクの巨大さを指摘し、その開発の封じ込めの必要性を訴える本。
 最初の3章約350ページは、テクノロジーの発展の歴史、その恩恵とそれ故にその開発や利用を押しとどめることの困難さが、手を替え品を替え語られています。著者の危機感の共有と実行の困難さを説得力を持って語るためではありましょうが、本題に入る前が長すぎるように思えます。これを50ページくらいにしてくれると、ずいぶんと読みやすい本になると思うのですが。
 自由な開発の結果誰もが容易に利用できることで悪意ある者による破壊的な行為や善意者でもミスによる取り返しのつかない行為がなされるリスクと、それを禁止するための全面的な監視社会の間で、どうやって行けばよいのかという困難な問題について、著者はいくつかの提言をしています。技術的な安全性確保・制約、現在のコピー機やプリンターに紙幣の複写や印刷を禁ずる技術が取り入れられている(381ページ)とか、すべてのDNA合成機を安全で暗号化された集中型システムに接続し病原性配列の有無を検査するプログラム(386ページ)などはなるほどと思います。開発者の許認可制とか現代版「ヒポクラテスの誓い」を作るなどさまざまなことがいわれ、前向きに検討すべきと思いますが、前半でテロリストの脅威が強調されたことをみるとそれで対応できるのかとも思います。
 今後の10年間で「数十億の誰もが平等に、最高の弁護士、医師、戦略家、デザイナー、コーチ、経営アシスタント、交渉人として頼れるACIにアクセスできる」(256~257ページ)って、AIに真っ先に代替・駆逐されるのは弁護士なのか…


原題:THE COMING WAVE
ムスタファ・スレイマン、マイケル・バスカー 訳:上杉隼人
日本経済新聞出版 2024年9月25日発行(原書は2023年)
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老いをみつめる脳科学

2024-10-27 21:24:37 | 自然科学・工学系
 脳、神経の老化を研究してきた著者の研究史の形で脳の老化について解説した本。
 最初の方のやさしめの語り口や紹介されているさまざまなエピソードから読みやすいかと思ったのですが、第3章から第10章にかけて、私が成人後とみに苦手になった生化学系のカタカナ・アルファベットの化学物質とゲノム関係の見慣れぬ/馴染めない用語が飛び交う専門的記述が続き、苦しみました。
 「おわりに」で、2021年に出した講談社ブルーバックス『寿命遺伝子:なぜ老いるのか 何が長寿を導くのか』が「一般向けとしては少し難しいと思われたかもしれない」と述べています(312ページ)。その本は読んでいませんけど、この本がブルーバックスより易しいというのでしょうか。わたしが知らないうちにブルーバックスはそんなにも難しい本になっているのでしょうか。
 脳科学領域の本で高齢者には希望を与えてくれる脳の神経の再生(増殖)に関する最近の話題については、第9章で触れられていますが、著者の立場は慎重というか懐疑的なニュアンスです。いくつになってもまだ伸びしろがある、というわけにはいかないんでしょうか。


森望 メディカル・サイエンス・インターナショナル 2023年12月6日発行
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70歳までに脳とからだを健康にする科学

2024-10-07 20:44:05 | 自然科学・工学系
 認知症/アルツハイマー病やダイエットなどを取り上げて生命科学の立場から解説した本。
 健康になるためにどうすればいいかを述べる本ではなく、人間の体のしくみやなぜそうなるのかの説明をする本です。
 他人の腸内細菌を移植する(便を濾過して肛門から注射するかカプセル化して飲む)ことで、潰瘍性大腸炎が治ったとか癌が治った、自閉症やうつにも効くとかいう報告がある(136~138ページ)と書かれていてビックリです。
「脳科学の専門家または自称“脳科学者”、脳科学の第一人者などとしてマスコミに出ている人は、そうでない人が多い」(170ページ)、「市販のサプリメントはほぼ効かず、生命科学関係のベンチャーなどはほぼすべて役に立たないかそれに近いものを扱っているにもかかわらず、それが一般の皆さんには素晴らしいもののように思われている」(242~243ページ)などのはっきりした記述が目を引き、参考になります。


石浦章一 ちくま新書 2024年2月10日発行
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老化は予防できる、治療できる テロメアをムダ使いしない生き方

2024-10-02 22:06:28 | 自然科学・工学系
 染色体の末端にあり細胞分裂の度に減少して細胞分裂できる回数を規定しているテロメアの研究の現状を紹介し、老化と老化を遅らせる試みについて解説した本。
 細胞分裂の度に減少し短くなるテロメアを再生することができれば細胞分裂が可能な回数が増えて若返りなり老化を遅らせるなりの可能性が出てくる、そしてテロメアを修復するテロメラーゼという酵素が発見されたというのですが、テロメアとテロメラーゼの関係はまだまだわからないことが多いとか、そもそもテロメアを長くしたら不老不死と言うより癌細胞になるリスクがあるのではなど、「予防できる、治療できる」というタイトルは、あまりに希望を持たせすぎに思えます。せいぜい「将来は予防できるようになるかも」くらいじゃないでしょうか。


根来秀行 ワニ・プラス 2022年9月5日発行

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熟睡者:新版 Sleep,Sleep,Sleep

2024-09-30 07:21:34 | 自然科学・工学系
 睡眠不足の弊害を指摘し、朝太陽光を浴び午前中に運動し夕食は軽めにし夜のパソコン・スマホ使用を止めるなどして熟睡することを推奨する本。
 覚醒中脳が記憶した雑多な情報から重要なもの(繰り返し記憶したり記憶時に重要と意識したもの等)を長期記憶に移し、不要な情報を捨てる、言わば脳の空き容量を増やす/確保する作業が深い睡眠時になされ(142~151ページ、41~42ページ等)、体を動かすスキル(手続記憶)は浅い睡眠時に定着する(151~152ページ)、レム睡眠時は海馬が統制しないため通常は同時に活性化しない新鮮な記憶と過去の記録がランダムな組み合わせで活性化して、支離滅裂な夢となり、合理的な思考からは生まれえない創造性に結びつくこともある(174~176ページ)などの指摘が、なるほどと思いました。やっぱり睡眠は大切だ。
 個別事情なので、だからどうしたとも言えますが、アインシュタインはロングスリーパーで1晩に10時間眠った(177ページ:さらに昼寝もした)というのも、近年いくら寝ても眠い私(ふつう、年をとったら睡眠時間減るっつうに)には心強いです。


原題:SOMN,SOMN,SOMN(スウェーデン語)
クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル 訳:鈴木ファストアーベント理恵
サンマーク出版 2023年7月25日発行(初版は2020年12月、原書は記載はないですが2018年11月のもよう)
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人生がラクになる脳の練習

2024-08-27 23:52:24 | 自然科学・工学系
 脳内科医の著者が提唱する、脳の場所ごとに「思考系」「感情系」「伝達系」「理解系」「運動系」「聴覚系」「視覚系」「記憶系」の8つの「脳番地」があり、それぞれ右脳と左脳で役割分担があって、人によりその発達度(得手不得手)が違うが、それらの脳の機能を使うことで訓練できるということを論じた本。
 著者の言う脳番地については今ひとつ納得できるような納得できないような気分ですが、リアルの会議では伝わるその場の空気や相手の動きや表情がオンラインの会議ではそぎ落とされ人の感情を受け取る脳の働きが弱まる(4ページ)とか、空を見るよりネットで確認しないと天気が予想できなくなっている(200~201ページ)とか、なるほどなぁと思いました。最近は、「雨雲レーダー」でこれから先6時間雨が降らないとされていても、どうも雲行きが怪しい感じがして洗濯物取り込んで出たら案の定雨が降ったということも多いですし。
 満員電車で座っている人たちの顔つきやしぐさで次の駅で降りそうな人を判別することを訓練として勧めています(174~176ページ)。私の経験上は、中には、こちらが観察していることを察してあえて降りそうなしぐさをして降りないという強者もいますけどね。


加藤俊徳 日経ビジネス人文庫 2023年2月1日発行(単行本は2016年11月)

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新潟から問いかける原発問題 福島事故の検証と柏崎刈羽原発の再稼働

2024-08-13 22:40:01 | 自然科学・工学系
 新潟県原子力発電所事故に関する検証総括委員会の委員長であったがその後就任した原発推進知事から意見が合わないとして検証総括委員会の開催もできないまま、もちろん検証総括委員会報告書も作成に至らないままに任期満了として放逐された著者が、5年間の在任中及びその後に見聞し検討したことをとりまとめた本。
 新潟県の技術委員会、健康と生活への影響に関する検証委員会、避難方法に関する検証委員会の議論の経過や報告書の内容、それらの報告書で不足している論点も含めた福島原発事故と柏崎刈羽原発や東電・原子力規制委員会等の問題点がわかりやすく整理して書かれています。著者の専門分野は宇宙物理のはずですが、専門外の文献等を理解し整理する力に驚きました。率直に言って、私は、新潟県が3つの委員会に加えて「検証総括委員会」を設置したとき、屋上屋を重ねるというか、そんなの必要ないんじゃない?と思ったのですが、3つの委員会の報告書の検討で他の問題との総合・連携の必要性についてさまざまな指摘がなされていて、なるほどと思い、不明を恥じました。こういった視点は貴重というか必要なもので、検証総括委員会はやはり必要であり、また著者の委員長就任は適切なものだった、新潟県知事が政治的思惑によらずに報告を全うさせていれば、という思いが募ります。


池内了 明石書店 2024年4月20日発行
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そうだったのか!身のまわりの流れ

2024-08-06 19:15:03 | 自然科学・工学系
 流体(気体・液体)にまつわる日常でのさまざまな現象について流体力学の観点から解説する本。
 流体力学の本でありながら、ナビエ・ストークス方程式が(名称は紹介されているけど)書かれていない、流体力学の基礎とか体系とかを説明しようとせず、現象の説明に徹しているところが、初心者に取っ付きやすい本となっていて好感します。
 マグロが海中で高速(最大時速80kmとか)で泳げる理由を体型の流線型だけでなく体表からぬめり物質を分泌していることが水流の乱れ(渦の発生や成長)を抑えて水の抵抗を低くしていることで説明しています(25~28ページ)。どれくらいの分泌物をどれくらいの頻度で放出しているのかわかりませんが、それ自体けっこうな体力を使うだろうなと同情してしまいます。マグロがそうしてすいすい泳いでいるイメージを膨らませればマグロがよりおいしく感じられるかもしれない(28ページ)という執筆者の感性は私にはとても理解できません。
 カルマン渦(流体中に固定された物体の下流にできる渦)による有名な事故の例として1940年のアメリカのタコマ橋の崩壊が紹介されています(41ページ)。歴史的にはそれも有名なのでしょうけれども、日本の現代の読者にはより近い有名な事故として高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故があるのですが、そちらが紹介されていないのは、「忖度」なんでしょうか。


井口学、植田芳昭、植村知正編著 電気書院 2024年6月7日発行
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顔に取り憑かれた脳

2024-06-26 23:57:23 | 自然科学・工学系
 顔についての識別や自己認識について検討し解説した本。
 自分と近い者の顔はわずかな差異でも識別できるが、そうでないものは容易に見分けがつかないもの(外国人の顔ってみんな一緒に見えたりしますし、私など、若いタレントグループなんかもう誰が誰だか判別できません)ですが、生後6か月の赤ちゃんは人間の顔も、サルの顔も見分けられる、でも生後9か月くらいになると人間の顔は見分けられるがサルの顔は見分けられなくなるそうです(79ページ)。聴覚の方でも、日本人の生後6か月の赤ちゃんはLとRを聞き分けられるけど生後10か月くらいになると聞き分けられなくなるとか(79ページ)。日常生活でよく使うことの方に能力資源が振り分けられて行くということなのでしょうけれども、人体の神秘を感じます。
 鏡に映った自分の姿を自分だと認識できることが確認されているのは、人間以外に、チンパンジー、オランウータン、ボノボ、イルカ、ゾウ、カササギ、ホンソウワケベラ(魚)くらいなのだそうです(90ページ)。もちろん、そういう実験をやった動物がそれほど多くないのでしょうけれども、サルや犬は認識できない(同種の別個体だと思っている)というのも不思議に思えます。
 犬は切なそうな表情をする(猫やウサギはそういう表情はしない)ことがよく見られますが、犬には眉毛の内側を上に引き上げる表情筋があるのだそうです(204~206ページ)。犬がそのように「進化」したというよりは、そういう人間に好かれる特性を持った犬が増殖された結果そういう犬が満ち満ちているということでしょうけど。でも、そういう表情筋が発達しているとして、犬がその表情筋を使ったとき、犬の内心でそれに見合った(人間がそうだと評価する)感情が生じているのかは、より緻密な実験・検証が必要に思えるのですが。


中野珠実 講談社現代新書 2023年12月20日発行
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