伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

学び直し高校物理 挫折者のための超入門

2025-03-06 23:13:42 | 自然科学・工学系
 物理学について、力学、電磁気学、熱力学、波動、分子・原子の各分野に分けて解説した本。
 「はじめに」で「この本は、高校物理の挫折者や、履修はしなかったが、あらためて学び直したいという初学者を想定して書かれたものだ」とされ、サブタイトルは「挫折者のための超入門」とされています。確かに、日常目にするものや経験することを例に挙げ、何故そうなるのかについて少し踏み込んで説明しようという姿勢は見られますが、その説明は必ずしもやさしく理解できるとも言い切れず、高校生のときに挫折した人がこれを読んでよくわかる、帯に書かれているような「なーんだ、そうだったのか!」と思えるかには疑問を感じます。
 摩擦力は最新の物理学でもいまだに解明できていない(76ページ)とか、いまでも雲の生成過程は完全には理解されていない(179ページ)とか、熱力学第二法則についても「氷が溶けてできた水から、また氷に戻ることは絶対に起きないと、すべての場合に証明できた人は残念ながらいない」(202ページ)など、身の回りのことでもまだわかっていない、基本的な法則も完全に証明されたわけではないというあたりに、挫折者・初学者が、要するにわからなくても仕方ないんだ、専門家だってわかってないんじゃないかと溜飲を下げるという価値があるかもと思いました。


田口善弘 講談社現代新書 2024年2月20日発行
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日本列島はすごい 水・森林・黄金を生んだ大地

2025-03-03 23:05:42 | 自然科学・工学系
 日本列島の成り立ちを地学的に解説し、その気象や資源などの特徴を説明した本。
 プレート境界に位置することから地震が多く、プレートの沈み込み帯上にあるために火山が多いことに加え、太平洋の西端の北側に位置するがために台風が集中し、同様の事情で強力な暖流の黒潮が通り、かつそれが日本海側にも分岐するという絶妙の条件で日本海側が世界屈指の豪雪地帯になるなどの、日本列島の世界での特異性が語られ、認識を新たにしました。
 理系の学者さんなのに何故か松尾芭蕉好きの著者が、数百万年から1千数百万年前の日本列島の状態や動きと奥の細道の芭蕉の行程をダブらせて説明していますが、親しみやすさを狙っているとしても、芭蕉が見た景色と違うはずのことを何か関係づけられるのはただうさんくさく感じるだけだと思います。
 激動を経た日本列島と世界が、この7000年間ほどは海水準が安定し巨大噴火もないことは特別なことで僥倖であった(30ページ、217ページ)ということは胸に刻んでおきたいと思います。


伊藤孝 中公新書 2024年4月25日発行
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遺伝子はなぜ不公平なのか?

2025-01-18 23:36:15 | 自然科学・工学系
 適者生存・自然淘汰されるはずなのに、なぜ個体の生存に不利なはずの遺伝子を持つ者が生き残っているか(著者の問題提起では、なぜ自分のように「足の遅い」遺伝子がこの世にあるのか)を、論じた本。
 仮説としてですが、弱い存在である故に集団で助け合ったホモ・サピエンスがより強者のネアンデルタール人よりも生き延びた、障害者や老人がいる集団が知恵を集めて生き延びた、障害者が一定割合いることにはきっと意味があるはずという主張には、論として魅力を感じます。
 ただ、本としては、著者が植物学者にしては、自然科学的な知識なり研究成果の記述に乏しく、哲学者の本かと思いますし、同じことの繰り返しがあまりにも多い。いつしか繰り返しのリズムで読ませる「童話」かもと思ってしまうほど。そして、今どきの本はつかみが命のはずですが、最初の方の書きぶりのスネ方あるいは開き直り方が、かなり印象が悪く、スルスル読める(ビジネス書っぽい内容の薄さということですが)にもかかわらず初期に投げたくなりました。


稲垣栄洋 朝日新書 2024年11月30日発行
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ダーウィン 「進化論の父」の大いなる遺産

2024-12-21 18:02:23 | 自然科学・工学系
 ダーウィンがビーグル号の航海後、進化論、性淘汰の考察を深める一方で、フジツボ時代、ハト時代を経て、ランの研究、ミミズの研究などさまざまな分野で新たな発見をしていく様子を紹介した本。
 ダーウィンが生物学者というよりは博物学者であり、組織に縛られず(そもそも組織に属せず)興味の赴くままに学問研究を進めていった様子、その人となりがよくわかります。その旺盛な好奇心と、組織の背景なくさまざまなものにアクセスし研究・実験を重ね実現していった実行力に驚嘆します。
 ダーウィンの研究成果を紹介している本ですが、業績や知識よりもその人間力に魅せられました。


鈴木紀之 中公新書 2024年7月25日発行
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数式のない数学の本

2024-11-19 23:36:03 | 自然科学・工学系
 数学にまつわる歴史や確率、統計について解説した本。
 前書で、数式なしに数学の知識を得るという目的に合う「そのような本は世界のどこにも存在せず、それはいま読者が手にしている本書だけということになります」(8ページ)と力んでいるのですが、書かれている内容は、数学者の人物に焦点を当てた数学の歴史と、統計や確率について著者が語りたいエピソードというところで、現代社会で数学が果たしている役割とか、その未来像とかがあまり語られていないように思えました。
 後半では、AIは人間の脳を超えられない人工無能だ(112~119ページ)とか、地震学・地震予知に対する罵倒(152~159ページ)とか、著者が「非常に好戦的人物で、誰とでもトラブルを起こしたらしい」と紹介している(178ページ)ロナルド・フィッシャーもどきの書きぶりが目につき、そこを好むかどうかで読後感が大きく分かれそうです。


矢沢サイエンスオフィス編著 ワン・パブリッシング 2024年9月30日発行
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AIを封じ込めよ DeepMind創業者の警告

2024-11-17 22:12:59 | 自然科学・工学系
 テクノロジー開発、特に自律学習型のAIと合成生物学のリスクの巨大さを指摘し、その開発の封じ込めの必要性を訴える本。
 最初の3章約350ページは、テクノロジーの発展の歴史、その恩恵とそれ故にその開発や利用を押しとどめることの困難さが、手を替え品を替え語られています。著者の危機感の共有と実行の困難さを説得力を持って語るためではありましょうが、本題に入る前が長すぎるように思えます。これを50ページくらいにしてくれると、ずいぶんと読みやすい本になると思うのですが。
 自由な開発の結果誰もが容易に利用できることで悪意ある者による破壊的な行為や善意者でもミスによる取り返しのつかない行為がなされるリスクと、それを禁止するための全面的な監視社会の間で、どうやって行けばよいのかという困難な問題について、著者はいくつかの提言をしています。技術的な安全性確保・制約、現在のコピー機やプリンターに紙幣の複写や印刷を禁ずる技術が取り入れられている(381ページ)とか、すべてのDNA合成機を安全で暗号化された集中型システムに接続し病原性配列の有無を検査するプログラム(386ページ)などはなるほどと思います。開発者の許認可制とか現代版「ヒポクラテスの誓い」を作るなどさまざまなことがいわれ、前向きに検討すべきと思いますが、前半でテロリストの脅威が強調されたことをみるとそれで対応できるのかとも思います。
 今後の10年間で「数十億の誰もが平等に、最高の弁護士、医師、戦略家、デザイナー、コーチ、経営アシスタント、交渉人として頼れるACIにアクセスできる」(256~257ページ)って、AIに真っ先に代替・駆逐されるのは弁護士なのか…


原題:THE COMING WAVE
ムスタファ・スレイマン、マイケル・バスカー 訳:上杉隼人
日本経済新聞出版 2024年9月25日発行(原書は2023年)
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老いをみつめる脳科学

2024-10-27 21:24:37 | 自然科学・工学系
 脳、神経の老化を研究してきた著者の研究史の形で脳の老化について解説した本。
 最初の方のやさしめの語り口や紹介されているさまざまなエピソードから読みやすいかと思ったのですが、第3章から第10章にかけて、私が成人後とみに苦手になった生化学系のカタカナ・アルファベットの化学物質とゲノム関係の見慣れぬ/馴染めない用語が飛び交う専門的記述が続き、苦しみました。
 「おわりに」で、2021年に出した講談社ブルーバックス『寿命遺伝子:なぜ老いるのか 何が長寿を導くのか』が「一般向けとしては少し難しいと思われたかもしれない」と述べています(312ページ)。その本は読んでいませんけど、この本がブルーバックスより易しいというのでしょうか。わたしが知らないうちにブルーバックスはそんなにも難しい本になっているのでしょうか。
 脳科学領域の本で高齢者には希望を与えてくれる脳の神経の再生(増殖)に関する最近の話題については、第9章で触れられていますが、著者の立場は慎重というか懐疑的なニュアンスです。いくつになってもまだ伸びしろがある、というわけにはいかないんでしょうか。


森望 メディカル・サイエンス・インターナショナル 2023年12月6日発行
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70歳までに脳とからだを健康にする科学

2024-10-07 20:44:05 | 自然科学・工学系
 認知症/アルツハイマー病やダイエットなどを取り上げて生命科学の立場から解説した本。
 健康になるためにどうすればいいかを述べる本ではなく、人間の体のしくみやなぜそうなるのかの説明をする本です。
 他人の腸内細菌を移植する(便を濾過して肛門から注射するかカプセル化して飲む)ことで、潰瘍性大腸炎が治ったとか癌が治った、自閉症やうつにも効くとかいう報告がある(136~138ページ)と書かれていてビックリです。
「脳科学の専門家または自称“脳科学者”、脳科学の第一人者などとしてマスコミに出ている人は、そうでない人が多い」(170ページ)、「市販のサプリメントはほぼ効かず、生命科学関係のベンチャーなどはほぼすべて役に立たないかそれに近いものを扱っているにもかかわらず、それが一般の皆さんには素晴らしいもののように思われている」(242~243ページ)などのはっきりした記述が目を引き、参考になります。


石浦章一 ちくま新書 2024年2月10日発行
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老化は予防できる、治療できる テロメアをムダ使いしない生き方

2024-10-02 22:06:28 | 自然科学・工学系
 染色体の末端にあり細胞分裂の度に減少して細胞分裂できる回数を規定しているテロメアの研究の現状を紹介し、老化と老化を遅らせる試みについて解説した本。
 細胞分裂の度に減少し短くなるテロメアを再生することができれば細胞分裂が可能な回数が増えて若返りなり老化を遅らせるなりの可能性が出てくる、そしてテロメアを修復するテロメラーゼという酵素が発見されたというのですが、テロメアとテロメラーゼの関係はまだまだわからないことが多いとか、そもそもテロメアを長くしたら不老不死と言うより癌細胞になるリスクがあるのではなど、「予防できる、治療できる」というタイトルは、あまりに希望を持たせすぎに思えます。せいぜい「将来は予防できるようになるかも」くらいじゃないでしょうか。


根来秀行 ワニ・プラス 2022年9月5日発行

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熟睡者:新版 Sleep,Sleep,Sleep

2024-09-30 07:21:34 | 自然科学・工学系
 睡眠不足の弊害を指摘し、朝太陽光を浴び午前中に運動し夕食は軽めにし夜のパソコン・スマホ使用を止めるなどして熟睡することを推奨する本。
 覚醒中脳が記憶した雑多な情報から重要なもの(繰り返し記憶したり記憶時に重要と意識したもの等)を長期記憶に移し、不要な情報を捨てる、言わば脳の空き容量を増やす/確保する作業が深い睡眠時になされ(142~151ページ、41~42ページ等)、体を動かすスキル(手続記憶)は浅い睡眠時に定着する(151~152ページ)、レム睡眠時は海馬が統制しないため通常は同時に活性化しない新鮮な記憶と過去の記録がランダムな組み合わせで活性化して、支離滅裂な夢となり、合理的な思考からは生まれえない創造性に結びつくこともある(174~176ページ)などの指摘が、なるほどと思いました。やっぱり睡眠は大切だ。
 個別事情なので、だからどうしたとも言えますが、アインシュタインはロングスリーパーで1晩に10時間眠った(177ページ:さらに昼寝もした)というのも、近年いくら寝ても眠い私(ふつう、年をとったら睡眠時間減るっつうに)には心強いです。


原題:SOMN,SOMN,SOMN(スウェーデン語)
クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル 訳:鈴木ファストアーベント理恵
サンマーク出版 2023年7月25日発行(初版は2020年12月、原書は記載はないですが2018年11月のもよう)
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