伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

FISH IN THE SKY

2008-03-31 07:57:11 | 小説
 中学生の時に好奇心から団地の7階から飛び降り奇跡的に助かった「フィッシュ」のあだ名で呼ばれた主人公が、それと知らずに中学時代「嘘つきさっちゃん」と呼ばれていた同窓生佐倉とお見合いして再会、昔話に花咲かせながら心惹かれていくラブストーリー。
 わりとシンプルに佐倉に惹かれていくフィッシュと、フィッシュが知らない(聞きもしない)過去に引きづられ楽しそうにふるまいつつも影のある佐倉の隔たりが次第に露わになりますが、事実を知っても希望を持つフィッシュの姿が爽やかです。2人のつなぎ役になる、フィッシュ宅に居候することになった同窓生野宮のおっとり感というかのほほんとした様子がほどほどの落ち着きを持たせて味わい深くしています。
 同窓生再会青春グラフィティとも読めますが、野宮はメインストーリーには絡んでこないので、ラブストーリーとして読むべきでしょうね。


岡本蒼 メディアファクトリー 2008年2月14日発行
ダ・ヴィンチ文学賞編集長特別賞
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あなたはそっとやってくる

2008-03-30 08:16:46 | 小説
 ニューヨークの私立高校での医者の娘のユダヤ人少女エリーと映画監督と作家の息子の黒人少年マイヤのラブストーリー。
 ラブストーリーとしては流れはかなり単純で、学校でぶつかった際にお互いに一目惚れして好意を持ち告白してつきあっていく様子がエリーの語りとマイヤの語りを交互に繰り返す形で続いていきます。
 ラブストーリー自体の展開は最後の悲劇以外はごくシンプルで、ラブストーリーそのものよりも、白人と黒人の交際への周囲の目とそれを自分たちの気持ちの中でどう折り合っていくかというようなところが主要なテーマとされています。
 作者のポイントは明らかにそこですが、むしろ、かつて家出した母親としっくりいかず複雑な思いを抱くエリーの姿や、別居した両親の間を揺れ動くマイヤの姿、こういった親の諍いと自立過程の微妙な関係を描いたティーンエイジャーものと読んだ方が、私はいいかなと思いました。
 訳で、母親がこだわり続けるエリーの名前Elishaを「イライシャ」としているのが、最初「依頼者」の抽象概念かと思い、ちょっと混乱しました。Elishaは「イライシャ」とも読みますが「エリシャ」読みも少なくないようですし、日本語訳としてはどうでしょうか。マイヤの語りは「である」調、エリーの語りは「ですます」調に訳されているのも、わかりやすいとは言えますが、差別問題をテーマにした作品だし、エリーがそれなりに自立志向が強く設定されていることからすればどうなんでしょうか。


原題:IF YOU COME SOFTLY
ジャクリーン・ウッドソン 訳:さくまゆみこ
あすなろ書房 2008年3月20日発行 (原書は1998年)
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写真が語る地球激変

2008-03-29 08:40:51 | 自然科学・工学系
 様々な場所のある時期とその後の写真を並べてその変化を語る本。
 地球温暖化による氷河や南極の棚氷、北極海の氷の減少、開発による自然破壊とともに自然災害や戦争による破壊後の復旧も扱っています。
 開発では、砂漠緑化運動によるスプリンクラーが届く範囲の正円形の農地がまるでシールでも貼り付けたように並ぶ衛星写真(131頁など)の痛々しさに驚きました。子どもの頃、夢のプロジェクトと教えられた記憶があるのですが。ビニールハウスで真っ白に埋め尽くされた衛星写真(135頁)も、ちょっとショックでした。衛星写真ではダムを造ることの環境への影響もひしひしと感じられました。
 悪くなる話ばかりじゃなくて、自然の回復や、ソウルで高速道路を撤去して川を復活させたこと(108~109頁)なんかも紹介されていて、いろいろと考えさせられました。


原題:EARTH THEN AND NOW
フレッド・ピアス 訳:鈴木南日子
ゆまに書房 2008年1月25日発行 (原書は2007年)
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中国労働契約法の実務

2008-03-29 00:04:08 | 実用書・ビジネス書
 中国で2008年1月1日施行の労働契約法の解説書。
 中国は社会主義市場経済とかいっていますが、基本は労働者と農民の国であるはず。それなのに労働者の解雇が簡単と聞いていました。そういう興味で読んでみました。
 中国では日本で少なくとも以前は主流だった期限の定めのない労働契約は少なく、有期雇用が大部分だそうです。それはかつて終身雇用が完全に保証され労働者の勤労意欲が失われたことへの反動だそうです(2~3頁)が、そうなると労働者の地位は不安定になります。しかし、新法の労働契約法では、雇用契約書を1年以内に作らない場合期限の定めのない労働契約とみなす(14条3項)とか、有期労働契約を2回連続して締結して更新するときに労働者が希望すれば期限の定めのない労働契約を締結しなければならない(14条2項3号)とか、期限の定めのない契約への誘導を図っています。また、雇い止めをする場合も労働者に賃金の勤続年数ヵ月分(日本の正社員の退職金の相場程度)の経済補償を義務づけています(46条)。整理解雇も日本で認められるより要件が厳しいようですし中高年者や老人・子どもを扶養する大黒柱のリストラは避けるように規定されています(41条)。就業規則も労働組合と協議して決めることとされている上、労働組合が「不適当」と認める場合には協議を通じて修正・完全化する権利があるとされています(4条2項、3項)。労働契約法以外の法制でも休日の時間外賃金は通常賃金の300%(128頁。参考までに日本は135%)、単身赴任の労働者は通常の有給休暇の他に配偶者を訪問するために年1回30日(!)の休暇が取れるそうです(154~155頁)。法律の規定は中国の方がよさそうですね。
 この本のスタンスは、従来の中国の労働法を知っていることを前提に新しい労働契約法を解説したもので、各章のはじめの「ポイント」も労働契約法自体の内容をわかりやすくは書いていないので、専門家以外にはかなり読みにくい。後の方を読んだり、最後についている労働契約法の条文を見てようやく内容がわかる部分が多く、労働法制の解説書としては不親切な感じがします。
 日本の弁護士としては、法律用語や概念の違いがあって、なかなか読み進むのに骨が折れました。渉外事務所の弁護士(国際弁護士)ってこういうの日常的に勉強しているんですよね。大変だなと思いました。


萩野敦司、馬場久佳 中央経済社 2008年2月25日発行
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労働契約法入門

2008-03-26 08:13:03 | 実用書・ビジネス書
 労働者の採用、人事、退職・解雇、労働条件などの労働関係をめぐる法律の規定について広く浅く解説した本。
 タイトルは労働契約法入門で、今年3月1日施行の「労働契約法」についての解説書のように見えますが、半分以上は労働基準法など他の法律の話です。「労働契約法」が現実には労働契約のうちごく一部しか規定していないことを実感させます。
 突っ込んだ説明はほとんどありませんが、かなり広い分野についてコンパクトにまとめていて、全体像を把握するための軽い教科書という感じです。弁護士には読みやすくなっていますが、条文や判例の引用がわりと多いので、法律分野になじんでいない読者には取っつきにくいかも知れません。
 休日労働についての割増賃金率を5割と書いている(153頁)のは3割5分の間違い(参考までに休日労働は深夜以外は35%増、深夜は60%増です)。


山川隆一 日経文庫 2008年2月15日発行
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無実(上下)

2008-03-24 08:27:22 | ノンフィクション
 オクラホマ州の地方都市で1982年に起こったレイプ殺人事件で4年半後に逮捕され有罪となり死刑判決を受けた2人が、冤罪とわかり釈放されるまでとその後を描いたノンフィクション。
 実在の事件で実名で書いたもので、2人を訴追した検察官から名誉毀損の裁判を起こされ係争中(訳者あとがき)とのことです。
 ノンフィクションのため、謎解きもなく、スリリングな展開ともいえず、読み物として見たときには被告人の生い立ちや言動にページを割きすぎの感があり、リーガルサスペンスとしては読みにくい。でもグリシャムとしては久しぶりの法廷ものと言えます(イメージとしては「処刑室」に近いかも)から、その意味ではグリシャムファンには待望のというべきかも知れません。
 私としては、メインストーリーとは別の冤罪事件の関係ですが、無実の者が警察からさんざん騙され脅かされて嘘の自白をさせられてそれを繰り返した後に取調の録画をされ(上巻153~172頁)、物証なしでそのビデオ自白で死刑判決を受けた(上巻196~199頁、下巻98~99頁)という話がとても興味深く思えました。日本でも今裁判員裁判の開始を前に取調のビデオ録画が話題となっており、検察庁は全部録画を拒否し一部のみ(検察官が録画したい部分だけ)録画する方針を出しています。捜査側が録画対象を自由に選べるならばこういうことが繰り返されることになるでしょうね。
 それと、1審の弁護人も批判対象になっていますが、後から見れば(他人事として言うならば)十分でなかったと言えるでしょうけど、弁護士の感覚として言えば、通常期待されるレベル以上に努力しているように見え、これだけやっても批判されるのは可哀想に思えます。


ジョン・グリシャム 訳:白石朗
ゴマ文庫 2008年3月10日発行 (原書は2006年)
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印象派[新版]

2008-03-21 09:23:18 | 人文・社会科学系
 美術史において19世紀後半に起こった絵画の改革運動として位置づけられる印象主義の主だった画家たちについての解説本。
 印象派は、ルノワール、モネ、セザンヌなどの日本で人気の高い画家たちを代表とし、現代(当時)の生活場面を主な主題として、ほとんどの場合屋外の光の下の構図でその光を意識した明るい色彩を用いた作品で知られます。普通の人が、絵画として思い浮かべるときに最初に想起されるのがこういうタイプの絵というか、ストレートにルノワール作品だったりしますから、改革運動といってもピンと来ないでしょう。当時の絵がサロンを中心として発表され、歴史画、宗教画が主流で当然に荘厳な重々しいタッチで描かれていたからこそ、「印象派」の絵が改革的で既存の画壇から軽蔑されたわけですね。
 印象派とされる画家たちの絵には、実はそれほどの共通点はありません。著者も「要するに、印象派と呼ばれる画家たちをひとつに結びつけていたのは、因習にはまりこんでいた絵画技法を革新したいという熱望と、世界をまったく新しい目で見たいという強い意志であった。」(13~14頁)としています。ある意味で改革派であるが故に一緒くたにされた感じ。その改革に意味がなくなった現代からはまとめて扱うこと自体ちょっと苦しい感じです。
 本としては運動の流れと各画家の動き・去就の解説ですので、超有名な作品を除き絵の解説はほとんどありません。美術史的な興味がないと薄いわりに読むのがつらいかも。


マリナ・フェレッティ 訳:武藤剛史
文庫クセジュ 2008年2月5日発行 (原書は2004年)
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ワンダー・ドッグ

2008-03-19 08:34:00 | 小説
 1人の高校生に拾われた捨て犬が高校のワンダーフォーゲル部で飼われることになり、その犬と高校の人たちの10年を描いた小説。
 「ワンダー・ドッグ」は驚くべき・不思議な犬ではなくて、ワンダーフォーゲル部にちなんで「ワンダー」と名付けられた犬のことなんですね。
 各章ごとに3年がたって、高校としては3世代登場する形で、犬との関わりで生徒たちが励まされたり悩まされたりしながら成長していく姿が描かれています。最後にワンダーフォーゲル部の同窓会で全世代が集い、思いと想い出が手堅くとりまとめられます。
 登場人物は、概ねいい人で、悪役もどこか憎めないし最初気にくわないヤツでも結局犬のおかげで角が取れていき、ほんわかした気分で読めます。明るい気分で軽く読みたい気分の時に向いてると思います。


竹内真 新潮社 2008年1月20日発行
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エビと日本人Ⅱ

2008-03-19 07:52:47 | ノンフィクション
 バブル華やかなりし頃、日本人がエビを買い漁り、エビ養殖池のために東南アジアのマングローブ林が伐採され、現地の人々の低賃金の過酷な労働で日本のグルメが支えられていることを告発した前著から20年が過ぎ、その後のエビ事情をレポートした本。
 エビ飽食とマングローブ木炭のためにマングローブの伐採が進み、海岸線を守るマングローブがなくなったところへスマトラ島沖地震津波が襲い被害を大幅に拡大したことを語る書き出しは、迫力を感じますし考えさせられます。ただその後はどうも歯切れが悪い。この20年間に日本人のエビ消費量は減少し、エビ輸入No.1はアメリカになっているし、マングローブ林の伐採も、南アメリカの方がさらに酷くなっているとか。著者も、日本がエビ輸入No.1から転落したことを寂しく思っているようですし。エビ養殖についても悪いと言っているわけでもなくてきちんと考えてやる業者はむしろ持ち上げていますし、安全性についても、危険とも安全とも断言できないって言ってますし。
 むしろ著者の立場は、スッキリとした論旨で割り切るのではなくて、日本人が食べているエビの背景には東南アジアの人々の低賃金労働やマングローブ林伐採など多くの問題があることを自分で考えてみなさいね、それは簡単には結論が出ませんよということと見えます。


村井吉敬 岩波新書 2007年12月20日発行
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佳人の奇遇

2008-03-18 07:32:45 | 小説
 オペラ「ドン・ジョバンニ」の公演に、出演者として、興行側として、観客として集まる人々のそれぞれの愛の形を描いた小説。
 様々な人の、放埒だったり純情だったりする恋愛の進行のエピソードが、並行して、細切れだったりしばらく続いて語られたりして進んでいくので、最初のうち戸惑います。特に最初に登場した可南子とおじいちゃんは、主人公かと思ったらその後出て来ないし、序盤で初めて2章にわたって登場する春香と太田も長らく放置されるし。連載で書いているうちに計画が変わったのかなとも思いますけど。
 群像劇なんだと捉えて読んでいくと、後半の公演に関係者が収斂していって、公演が終わってそこを通り過ぎていく形が危なげなく押さえられているのがわかります。それぞれの行く末も、含みがあっていいなと思いました。


島田雅彦 講談社 2007年10月22日発行
「婦人画報」2006年1月号~2006年12月号
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