CT、PETなどの放射線による検査・診断と癌治療での放射線療法を中心に、放射線による医療の現状をレポートした本。
前半は、CT大国となり「とりあえずCT」といった検査漬け状態となっている日本のCT検査の実情に、批判的な検討を加えています。設備は世界一多数あるけれども、低性能の古い機種が多かったり、きちんと読影できる専門医が不足していて専門外の医師が読影しているとか、本来CTなど撮らなくても診断できなければならない疾病までCT検査頼りになり医師の診察能力が落ちているなど、お寒い実情が書かれています。MRIについても放射線ではないけれども強い磁場をかけるために体内に金属が埋め込まれている患者(ペースメーカーはもちろんカラーコンタクトレンズに含まれる鉄分も)の死亡や失明事故などが起こっていると指摘されています。
そしてCT検査については、診断用のエックス線被曝による発癌リスクは日本が世界で群を抜いて高いと推定されるという「ランセット」の論文は、著者の古巣の「読売新聞」がスクープしたためか、無用な被曝への警鐘として肯定的に取りあげています。しかし、後半の放射線治療の場面では、低線量被曝の危険性については、忘れた頃に抽象的に言及するものの、存在しないかのような扱いです。放射線が五感の作用で感知できず、またその影響が他の原因による疾病と区別できないために、副作用・障害の確認は極めて困難です。それを確認されていないからないと扱うのは、科学としてもジャーナリズムとしても問題だと思うのですが。特に人体への影響が強い粒子線による治療を紹介するページで副作用がないかのように書くことには強い疑問を感じました。
後半の放射線による治療の場面では、手術、抗癌剤に対して、放射線治療では臓器等の機能と形態が温存できる、末期癌の疼痛の緩和に有効など、ほぼ手放しの賛美が続きます。前述のように低線量被曝の危険性はここでは忘れられたようですし、専門医の不足以外には、放射線治療の問題はないかのようです。治療装置の初期設定を業者任せにして誤った数字が入力されていたために過剰照射を続けていても長期間わからなかった事故例なども紹介されていますが、それも専門医不足などの態勢の問題と位置づけられているようですし。確かに、手術至上で患者のQOL(クォリティ・オブ・ライフ)など軽視し、また高い抗癌剤を研究・実績づくりそして商業目的で大量投与してきたこれまでの医療に反省を迫ることの意義は理解できますし、末期癌患者についていえば被曝によって発癌などの副作用があってももともとそこまで生きられないのだから疼痛緩和に有効ならその方がいいと言えるとは思いますが。
大西正夫 中公新書 2009年9月25日発行
前半は、CT大国となり「とりあえずCT」といった検査漬け状態となっている日本のCT検査の実情に、批判的な検討を加えています。設備は世界一多数あるけれども、低性能の古い機種が多かったり、きちんと読影できる専門医が不足していて専門外の医師が読影しているとか、本来CTなど撮らなくても診断できなければならない疾病までCT検査頼りになり医師の診察能力が落ちているなど、お寒い実情が書かれています。MRIについても放射線ではないけれども強い磁場をかけるために体内に金属が埋め込まれている患者(ペースメーカーはもちろんカラーコンタクトレンズに含まれる鉄分も)の死亡や失明事故などが起こっていると指摘されています。
そしてCT検査については、診断用のエックス線被曝による発癌リスクは日本が世界で群を抜いて高いと推定されるという「ランセット」の論文は、著者の古巣の「読売新聞」がスクープしたためか、無用な被曝への警鐘として肯定的に取りあげています。しかし、後半の放射線治療の場面では、低線量被曝の危険性については、忘れた頃に抽象的に言及するものの、存在しないかのような扱いです。放射線が五感の作用で感知できず、またその影響が他の原因による疾病と区別できないために、副作用・障害の確認は極めて困難です。それを確認されていないからないと扱うのは、科学としてもジャーナリズムとしても問題だと思うのですが。特に人体への影響が強い粒子線による治療を紹介するページで副作用がないかのように書くことには強い疑問を感じました。
後半の放射線による治療の場面では、手術、抗癌剤に対して、放射線治療では臓器等の機能と形態が温存できる、末期癌の疼痛の緩和に有効など、ほぼ手放しの賛美が続きます。前述のように低線量被曝の危険性はここでは忘れられたようですし、専門医の不足以外には、放射線治療の問題はないかのようです。治療装置の初期設定を業者任せにして誤った数字が入力されていたために過剰照射を続けていても長期間わからなかった事故例なども紹介されていますが、それも専門医不足などの態勢の問題と位置づけられているようですし。確かに、手術至上で患者のQOL(クォリティ・オブ・ライフ)など軽視し、また高い抗癌剤を研究・実績づくりそして商業目的で大量投与してきたこれまでの医療に反省を迫ることの意義は理解できますし、末期癌患者についていえば被曝によって発癌などの副作用があってももともとそこまで生きられないのだから疼痛緩和に有効ならその方がいいと言えるとは思いますが。
大西正夫 中公新書 2009年9月25日発行